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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
324/368

W3,飛行船

引き続いて、宰相夫妻二人、アイルの両親の二人、そしてお祖母様とお母さんと私の三人の順で小型飛行船に試乗した。


高度は大体d1,000デシ(≒170m)ぐらい。

確かに速いね。新幹線並のスピードだ。ただ、新幹線の車窓のイメージとは違うな。

前世で飛行機が着陸するために地面に近付いているときの風景と似ているかもしれない。


キャビンは、昨日の飛行船と比べると遥かに狭い。

側面の窓ガラス?は斜めに付いていて席に座ったまま下が良く見える。

無線機は流石に置いてないか。


ただ、街から外れると、街道沿いでもなければ、森と草原しか見えない。遠くにアトラス山脈の山並みが見えるだけかな。


お母さんのリクエストで、グラナラ領の方に足を延ばした。


アイルが言うには、宰相夫妻の時にはアトラス鉄道に沿って西に行って戻ってきて、アイルの両親の時にはアトラス山脈に行ってきたのだそうだ。


南に向かった飛行船の眼下には、お茶の原料のレペの木の畑が連なっているのが見えた。作業をしている人もちらほら見える。

その後はひたすら森が続いた。

鬱蒼と茂っている森を過ぎたら、ゴムの木が沢山見え始めた。

まだ、それほど大きくなってはいないみたいだけど、何本も何本も植えられている。

お母さんは、レペの木の畑やゴムの木の林についてお祖母様に説明していた。

レペの木にしても、ゴムの木にしても、植林はお母さんの指示で実施したことだ。自慢気にお祖母様に話をしている。


ゴムは今のこの世界では唯一と言ってよい人工樹脂?だ。様々なところで使われている。

劣化が速いので、直ぐに交換が必要になるのが難点だけど、特に耐久性を上げるための処置はしていない。

劣化したゴムは回収廃棄している。燃やすだけだけどね。燃やした時に硫黄を回収して次のゴム生産に利用している。


「そういえば、火を着ける道具にもゴムが使われていたわね。」


とゴムの木を見ながらお祖母様が話した。


「ええ。あれはニケの考案品なんですよ。」


圧気発火器のことだな。ヤシネさんの話では、あれは大ヒット商品になったらしい。

価格を低めに抑えてもらったのも良かったみたいだ。どの家庭でも欲しい商品のナンバーワンになっていたらしい。

私は販売ににノータッチなので、伝え聞いただけだけどね。


「あれは便利ね。ウチは主人も私も含めて魔法を使える人が居ないでしょ。ずっと熾火を管理していたのだけど、その必要も無くなったわ。」


あれ?近衛騎士団長の家だったら、魔法が使える侍女さんが居ても良くないか?


「お祖母様のところで、侍女さん達も魔法が使えないんですか?」


「ええ。魔法が使えるは居ないわね。魔法が使えるむすめは引く手数多で、我が家に来ても結婚して直ぐに辞めてしまうから、居ない方が普通なのよ。

それに魔法が使える娘さんは、魔法使いが居ない騎士のところに態々やってきて勤めたりはしないものよ。」


そう言えば、グラナラ家の侍女さん達にも魔法が使える人は居なかったな。それで生れて1年経ってアイルの家に行くまで魔法の事を知らなかった。


お祖母様が、若い女性が侍女さんとして働く理由の説明をしてくれた。

若い女性にとって、侍女という職業は家政学を学ぶ場であり、人脈を作るための場なのだそうだ。

侍女仕事を通して家事全般に加えて、家計のやりくりの方法を学ぶ。そしてその家やその家に出入りする人を通じて人脈作りができる。


その学ぶ事の中には魔法の使い方というのもある。生活魔法と言うようなもので、料理のために火を着けたり、洗濯物を乾燥させたり、風を上手く利用して掃除をしたりする。それは、使い熟している人の元で習うのが一番だから、魔法が使える人は魔法が使える領主貴族の元に働きに行く。

そういった理由わけで魔法が使える人の働き口として、騎士の家というのは普通は無い。

近衛騎士団長の家は人脈の点では有望なので、時々魔法の使える娘が来たりする。ただ、勤める目的が魔法使いの伴侶を見付けるために特化しているので、居着くこと無く、結婚相手を見付けて辞めてしまうんだそうだ。


そんな話をしていたら、大きなグラナラ城が見えてきた。そして海に出た。


「そろそろ戻りますね。」


アイルがそう言うと、機体が傾き始めた。

速度をほとんど落すことなく方向転換を始めて、来た方向に向った。

この飛行船は主翼にある舵で速度を落さずに方向を変えることができると説明してくれた。


「そう言えば、お父さん達を乗せた時には、どこへ行ったの?」


「ああ、あの時は、どこかに行くという事は無かったな。急減速させられたり、急旋回したり、急浮上したり、性能試験をしているみたいだった。」


ふーん。着々と高速で移動できる飛行船の利用方法を考えているって訳だ。

まあ、役に立つんだったら良いのか?


小型飛行船はメーテスに戻った。空中で停止してゆっくりと下降して着地した。

飛行船の形が飛行機に似ているから滑走して着陸するのを思い描いてしまった。そう言えば飛行船だったね、これは。


私達が戻った時には、昨日改造した大型の運搬飛行船が戻ってきていた。


私達全員が揃ったので、アイルは大型の運搬飛行船の中や仕組みを説明してくれた。

既にキャビンは、乗客用の区画と貨物用の区画が出来ていた。

貨物の場所には、ダミーの貨物として鉄のインゴットが積み込まれていた。

客室にも、人員のダミーのために人の重量に相当する鉄のインゴットが乗っていた。


「この飛行船に積み込める重量はd190サンドキロ(=430トン)で設計してあります。今は定員でd100(=144)人を上限にしてます。

人数や、貨物の容積などの都合で、客室と貨物室の壁の位置を変えることも出来ます。壁の位置で搭乗できる人員を増減したり、貨物を乗せる場所の面積を増やしたり出来るようになってます。」


客室と貨物室の壁は可動式になっていた。客室の椅子は折り畳んで床に収納すると貨物を乗せられる床になる。アイルは、またオタッキーなガジェットを作っているよ。


飛行船をその場で上昇させたり下降させたりする仕組は、昨日は熱空気の浮力調整で行なっていると言っていたのだけれど、この改造した飛行船では、全てヘリウムガスの量の調整で行なっている。


昨日、飛行試験をしている時には、浮力調整の方法をアイルは二種類準備していた。

空気溜りの気体の温度を変える事で浮力を調整する方式と空気溜りの中にゴムの風船を設置して風船の中のヘリウム量を変える事で浮力を調整する方式だ。


大気温度を調整する方式は構造が簡単なので軽い。

一方のヘリウム導入量を変える方式だと、コンプレッサーを積み込んで、ヘリウムを回収するための高圧ボンベや空気溜りの気圧調整の為の弁が必要になる。結果的に重量が大きくなる。


アイルとしては、出来れば重量負荷が小さくて構造が簡単な温度調整だけの方式を選びたかったのだが、応答速度が全然違っていた。

空気の温度を上げるのに時間が掛ることと、浮力がヘリウムと比べて全然足りない事が理由だ。

空気の温度だけでヘリウム並の浮力を得ようと思ったら、温度を1,700℃以上にしなきゃならない。無理だね。


昨日の飛行船が立ち上がったり逆立ちしたりしていたのは、その二つの方式の性能試験だった。


余計な構造によって重量が増えたた為に飛行船の気嚢が大きくなったけれど、浮上や降下、バランスの制御の応答速度が遥かに良くなったのだそうだ。


アイルが一通り運搬用の飛行船の説明を終えたところで、説明を黙って聞いていた宰相お祖父様が堰を切ったように話し始めた。


「それで、この飛行船は何台ぐらい作れるのだ?何時から運航することができる?建造の費用はどのぐらい掛るのだ?」


アイルが説明している間中、今後のことで頭が一杯だったのかな。


「とりあえず、どんな物なのか理解してもらうために飛行船を魔法で作りました。

だけど、先程ニケがニケのお祖父様達に説明した通り、本格的に運用するのには、ヘリウムの生産工場が必要になります。

それに、金額については、ヘリウムにしても、使っている金属のチタンにしても、そもそも市場が無いために金額が分りません。今回は、全て魔法で作ったので原価はゼロですね。

強いて言えば私達や手伝ってくれた騎士さん達の労働費用ぐらいですけど、そんなものは高が知れてますから。」


アイルがお祖父様の質問に応えた。


「アイルとニケが作ったからそれで済んでますが、王国で普通に作るとなると、金額は想像するのも恐しいものになりますよ。

実際に鉄道や定期運航船も、実際に建造費用は考慮してないのです。

アイルやニケ無しで造った場合に一体どのぐらいの費用になるのかは全く分らない事もありますけれど、それを算出して運賃に組み入れたら、運賃や運送費用はとんでもない額になっているでしょう。

今は、修繕に掛る費用を想定して金額を決めているだけです。」


義父おとう様もアイルの回答を補足した。


「そうだったな。鉄道や船はそうなっていたな。

この飛行船も同じ様に考えないと、とても使うことなど出来ないのだな。

ここまで完成したので、直ぐにでも使えると思ってしまったのだが……確かにその通りだ。

色々と検討しなければならない事があるのだな。

紙幣の時もそうだったのだが、急がせてしまって申し訳ない。ただ、有用性については議論する必要も無いものだ。なるべく早く実用化できるように願えないだろうか。

あっ、陛下への説明が先か……。

ふむ。こうやって見せられてしまうと、どうも気が急いてしまうな。」


「小型の飛行船の方も頼みたい。あれは騎士団にとって、とても有用だ。

あれ程の速度で移動できるのは驚きだった。何か事が起ったときに、あれが有るのの無いのでは、対応が変わってくる。」


私のお祖父様もお願いをしてきた。

まあ、分からないでもない。前世の歴史でもそうだったからね。

ライト兄妹の作ったバラックみたいな不思議な形をしていた空飛ぶ機械が、あっというまに戦闘機になってたからね。


「しばらくの間は、飛行船はボクとニケで作ります。当面、他の誰にも作れないでしょうから。

ただ、どう運用するのかは決めてもらわないとなりません。

この大きさですから、何隻も準備した時にどこに停泊させるのか。

ヘリウムの供給のためにどうするのか等です。

操縦するための工兵さん達の訓練も必要でしょうね。」


「そうか。有り難い。それでは、王都の側に……」


「貴方達。いいかげんになさい。

アイルもニケもまだ子供なんですよ。

あの造幣局の工場も紙幣も二人が作ったのでしょう?

どれだけ子供に無理を強いるんですか?

二人にお願いをするにしても、少し頭を冷してからになさってはどうですか?」


「あっ。しかし……」


「ロゼル。別に私は二人に無理強いしている訳ではないぞ。」


「理由はどうあれ、今、ここで決めるのは感心しません。

二人とも、私達が来てから働き詰めじゃありませんか。

日を空けて、二人の事も考えてから相談なさい。」


私のお祖母様がお祖父様達を叱り付けた。

私のお祖母様は王妹だったね。

ひょっとしたら、このメンバーで一番偉い?


「そうだったな。二日前まで、こんなものは無かったのだ。つい気が急いてしまった。

シアオ。少し落ち着いてから、ゆっくり相談する事にしないか?」


「そ、そうですな。ソド。それで良いか?」


「えっ?舅殿。私は何も言ってませんが……?」


「ん?それで良いかと聞いているのだが?」


「え、ええ。それが良いかと思います。」


これって、何時の間にかお父さんの所為になっている?

そう言えば、このメンバーでは、お父さんが一番格下だったね。

12進数の計算を間違えていましたので、修正します。100ミロキロ→190サンドキロ

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― 新着の感想 ―
やはり王妹殿下は強いw 空気加熱式飛行船だと現実的な100度運用だと山のような大きさの気嚢必要なんですってね ヘリウムすごい チタン精製、加工の時点で既に原住民だと不可能問題 どんどんタスクが溜まって…
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