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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
320/368

NW.浮遊試験

「これは何だ?」


これが宰相のお祖父様の第一声だった。


うん、うん。分るよ。

造幣局から外に出たら最初に目に入るはずだからね。

多分、研究所から造幣局に移動している時は、倉庫の陰に隠れていたんじゃないかな。

造幣局に向って歩いている時は、後ろを振り返りでもしないと見えなかった筈だ。

造幣局の中に入ると高い塀に囲まれているから、そもそも外は見えないよね。

そうなると、突然巨大なものがメーテスの敷地に現われたように思うだろうな。


巨大なタンクとそれを上回って巨大な飛行船なんて、見たことの無い人にとっては、得体の知れない巨大なものでしかないだろうし。


「これが、飛行船というものなのか?」


義父おとう様は一番端にある長くて高いくて銀色に輝いている物を指差して聞いてきた。

ガスタンクは、マリムの人にはお馴染だからね。消去法でガスタンクを除外して飛行船を同定したみたいだ。


「はい。そうです。今はアイルが中で電気系統の設置をしていますけれど、もうお昼の時間ですから食事しましょうか?」


「こ、これが、飛行船か?もう出来ているのか?これが空中に浮んで移動するのか?こっちの球状のものは何だ?その脇にある複雑な道具は?」


宰相のお祖父様は驚きすぎて、自分で何に驚いているのか分らなくなっていないかな?


「大きい。本当に大きい。それに、金属で出来ているのか?これが浮くのか?」


私のお祖父様も興奮気味だな。


うちの両親達は、何時もの事だと静観だけど……。

食事を摂って少しでもクールダウンしてもらった方が良いんじゃないかな。


「アイルの作業もまだ時間が掛かりそうですから、お昼ご飯を食べに行きませんか?とりあえず、お祖父様達も少し落ち着かれた方が良くありません?」


義父おとう様にそう伝えたら、詳しい話は食事をしながらという事になった。


キャビンの中で作業をしていたアイルも誘って研究所の側にある食堂へ移動した。


食堂は、複数のメニューから選択する方式で、前世の学食とか社員食堂みたいになっている。この方式は、私とアイルに馴染があったため採用した。

興奮状態のお祖父さんズは何だか機能不全に陥っているみたいで、お祖母様達に介護されながらの注文になった。


皆で席に着いて、お爺様達にはお冷やを飲んでいただいた。

少しは落ち着いたかな?どうだろ?


このガラスのコップで水をサービスするっているのは、この世界ではかなり特殊なサービスらしい。

安全な飲料水を無料で配給しているマリムならではの事の様だ。他の街では水も有料だ。なんか日本と諸外国みたいな感じだね。


水を飲んで、少し落ち着いたのかな?先刻よりは幾分落ち着いた声音で宰相お祖父様が質問をしてきた。


「あの場所にあった巨大なものは一体何なのだ?」


あの場所には、巨大な飛行船と巨大なヘリウムタンク、ガス導入するための巨大なピストンポンプ、さらに巨大な油圧装置(使わなかったけどね)がある。

それぞれがどういったものなのかをアイルが説明していった。相変らず分りにくい説明は何時ものことだ。補足して私も度々説明に加わった。


昨日、ゴム風船とヘリウムで浮上するのを見せていたこともあって、それらが何なのかは理解してもらえた。


「すると、先刻アイルが中にいた金属の塊が飛行船なのか。あんな巨大な金属の塊が本当に空中に浮くのか?」


あの飛行船はチタンの隔壁があるだけで、中身は全て巨大な空間だと伝えると納得したみたいだ。

ただ、チタンという軽い金属についての話をしたのだけど、それについては良く分らなかったみたいだ。金属と言えば、金、銀、銅、青銅などなど重いものというイメージがある。アルミニウムなんて知らないだろうし……。

あとで現物を見せることになった。


食事が進むにつれて、お祖父様ズは段々と落ち着いてきたみたいだ。


実質的な質問が出てくるようになった。

あの乗り物で、何人ぐらいを運べるのかとか、荷物はどの程度運搬できるのか、どのぐらいの速度で移動できるのか。


「まだ、正確には何とも言えませんね。これから検討していく事になります。まずは、移動性能を確認していくことからですね。」


アイルの話では、今やっている作業が終れば実際に浮べてみる事が出来るようだ。

全てはそれからという事になる。


食事が終ったところで、即座に飛行船のあるところに移動した。

移動している時に造幣局の見学はどうだったかをお祖父様に聞いたら、衆人の目や耳があるところで、その話は出来ないと言われた。


まあ、そうだね。秘密だった。それで食事の時にも話題にはならなかったんだ。納得だ。


アイルは、昼食前に実施していた作業を再開した。


その作業の間に、チタンやアルミニウムのインゴットをお祖父様達に見せた。

手に持ってみて、その軽さに驚いていた。

不思議がっていた。

お祖父様達が知っている金属と種類が違うんだけど、そもそも、そんな金属は見たことが無いだろう。

色々聞かれて、説明をしたのだけど、どこまで理解してくれたのかは不明だな。


そうこうしている間にアイルの船内での作業は終った様だ。今は外で作業している。

飛行船の脇に設置した操縦パネルのようなものやコークス発電装置と飛行船をかなり長いケーブルで繋いでいる。

ん?あれって、超伝導ケーブルじゃない?

こうやって普段使いをしないで欲しいんだけどな……。


作業が終ったので、飛行船にステンレス管のフレキシブルパイプを使って、何箇所もあるガス導入口カラヘリウムを充填していく。

気嚢は繋ぎ目の無いチタンの壁で区分けされた部屋が沢山あって、それらの中にゴムの袋がある。それぞれの袋にヘリウムを充填していった。


「ねえ、アイル。あの電線。超伝導ケーブルじゃない?」


ヘリウムを充填するのには時間が必要そうだったので、聞いてみた。

思っていたよりちょっと口調がキツくなったかもしれない。


「あっ。言わなかったね。飛行船はなるべく軽い方が良いと思って使ったんだけど……何か怒っている?」


あっ。そうなんだ。それなりに理由はあるって訳か。でも、外から繋いでいるケーブルまで超伝導を使う必要があるのか?


「超伝導ケーブルを使う理由は分ったけど、外で繋いでいるのも超伝導ケーブルなのは何故?」


「あっ。これは、これから飛行船を浮かべて試験するんだけど、飛行船が浮くとケーブルも持ち上げていくから、これも軽い方が良いんだよ。」


むむむ。一応合理的な説明になっている……。


「分ったわ。ロッサとゼオンにコンビナートを建設したあとに、超伝導材料を作っておいたから、まだ余裕があるのよね。」


何となくアイルの目が泳いだような気がする……。

絶対、これ、ムダに使いまくっているんじゃないか?

お祖父様達が居るから、ここで騒ぐと説明しなきゃならなくなるな……。チタンの説明だけでも大変だった。ましてや超伝導材料の説明は……無理だよな。

今は見逃しておくけど、後できっちり何に使ったか白状させよう。


「おっ。浮いたな。」


飛行船が地面から離れたのをお父さんが最初に気付いた。

お父さんは、ずっと飛行船を凝視めていたみたいだ。


お父さんの声で、皆が飛行船に注目する。


私のお祖父様が透かさずに聞いてきた。


「これは、魔法で浮いているのでは無いのだな?」


どうも騎士職の人達に注目度が高いような気がするけど、気の所為じゃないよね。これは。


「これは、昨日見てもらったヘリウムでゴムの容器が浮いたのと同じ理由で浮いてます。昨日見たゴムの容器が大きくなっているだけです。

流石にこの重量と大きさのものを魔法で浮かべることは難しいです。」


うーん。出来無いとは言わないのがアイルらしいな。本気で浮かべようと思ったら浮かべられるんじゃないかな。巨大な岩を浮かべるところを何度も見たし……。


アイルは、飛行船が少しだけ浮き上がったところでヘリウムの充填を停止した。


飛行船はゆっくり上昇していって、今は高さd100デシ(=10m)ぐらいのところに浮いている。それ以上浮かないように地面に太いロープで繋ぎ止められている。


アイルは操縦パネルのところでレバーを動かして飛行船の様子を確認していた。


この操作パネルは船内にも同じものがあるのだそうだ。


飛行船を実際に浮かべてみて、設計通りに動くのかを確認するまでは船内ではなく、地上からリモコン操作をする。

それにしても、大量のボタンやレバー、メーターが操作盤に付いている。何だか、かなり複雑な構造みたいだな。


アイルの操作で、飛行船はゆっくりと上昇したり、下降したりした。


あれ?何で上下しているんだ?

浮力を変えているんだろうけど、どうやっているんだろう。

もう、ヘリウムガスの供給はしていない。


「ねえ、アイル。何で飛行船が浮いたり沈んだりしているの?もうヘリウムを供給していないよね?」


「この飛行船は、ヘリウムの他に空気を温めているところが有るんだ。ヘリウムが入っているのは全体の半分ぐらいで、前の1/4と後ろの1/4は熱気球みたいになっているんだ。その隔壁内の空気の温度を加熱したり、外気を取り込んで冷したりして浮力が変えられるようになっている。

あとは、ヘリウムの隔壁部分から高圧タンクにヘリウムを移して浮力の調整もできるようにしてある。

一旦浮いてから地上に降りる時にヘリウムガスを放出して降下したら次に浮上することが出来なくなるからね。」


私がアイルに質問したのを見たお父さんと私のお祖父様が質問を始めた。どうやら邪魔にならないように口を開かないで我慢していたんだろうな。二人とも興味津々だ。

飛行船が動く度にアイルに質問している。


アイルは質問に応えながらも一通り動作確認をし終えた。今度はストップウォッチを片手にレバーを動かして飛行船の様子を見ている。


「あなた。アイルの邪魔になりますよ。いい加減にしなさい。」


「そうですよ。孫の邪魔になってます。」


お父さんと私のお祖父様が、アイルに質問し続けているので、お母さんとお祖母様に叱られた。

二人は不満気に口を閉じて飛行船を睨んでいる。


周辺に人が集ってきていた。

この大きさと高さだと、メーテスの中に居る人にはば見えるからね。

多分集まっているのは、メーテスの職員の人達だろう。学生達は、今日のこの時間は数学の演習をしている筈だ。

後ろの方に准教授や、昨日やってきた手助けの人達も居た。


「あんなに大きなものが空中に浮いている。」


「アイテール様とニーケー様が居るから、何かの実験か?」


「大きなタンクがあるけど、何なんだろう?」


「今朝は、こんなものは無かったな。」


「浮いているものの下に鉄道の客車みたいなものがあるから、乗り物じゃないか?」


「えっ、今度は空を移動するのか?」


「でも、どうして空中に浮いているんだ?アイテール様の魔法か?」


色々な声が聞こえてくる。


普段だったら近付いてきて、私達に質問してくるんだけど。この場所には領主一族に加えて、宰相閣下と近衛騎士団長が居る。見に来た人達は、遠巻きにしていて近付いては来ない。


一通りの性能試験が終ったのか、飛行船はゆっくり下降してきて地上に降りた。


アイルの指示で、騎士さん達が飛行船に繋がっていたロープを外した。


「それじゃ、これからもう少し上空で動作試験をしますね。」


アイルが操作して飛行船が上昇していく。船体の長さと同じぐらいの高さに飛行船が上昇して停止した。

大体、飛行船の長さはd2,000デシ(=345.6m)ぐらいなので、かなりの高度に上っている。


アイルがレバーを操作したら、飛行船の前の方が上に後ろの方が下に傾いていく。

ゆっくりとだけれど飛行船は傾きを増していって、前の方を上に後ろの方を下に、垂直に近い角度まで傾いた。


「うぉおぉ!」


ギャラリー達から叫び声なのか唸り声なのか、声が上がった。


その後、アイルの操作で飛行船は少しずつ水平に戻っていった。

そのまま水平を通り過ぎて、今度は逆立ち状態になる。


アイルはストップウォッチを片手にそんな事を何度も繰り返していた。

何度目かの直立の時に、前の方の送風機が上向き、後ろの方の送風機が下向きに動いた。そして送風機が回り始めた。

水平に戻ったところで、送風機が止まると、水平のまま止まった。

そんな事を何度も繰り返した後、飛行船は下降して地面に降りた。


「やっぱり、姿勢制御するのはやっかいだな。制御装置を作った方が良いかもしれない。

やっぱりヘリウムの方が良い結果になるんだな……。」


しばらくアイルはぶつぶつ言っていたけれど、何か納得したみたいだ。そして、私達の方を見た。


「一応、性能の試験は終ったんですけど、多少改造が必要になりそうです。

乗船して、上空に昇って降りてくるだけだったら問題無く動かせますけど、どうします?

乗ってみますか?」


私達は顔を見合わせた。


お父さんが早速声を上げた。


「もう、乗ることが出来るのか?それなら乗ってみたい。上空から見た下界がどう見えるのか興味がある。」


「それは私も同じだ。乗っても危険は無いんだよな?」


私のお祖父様までそんな事を言っている。


「危険は無いです。幸い今日は風も殆ど吹いていません。

飛行船はヘリウムの浮力で浮きますので、上昇と下降だけだったら問題はありません。」


「あら。そうなの?じゃあ私も乗ってみようかしら。」


義母おかあ様のこの一言で、宰相お祖父様夫婦、お祖父様夫婦、私達の両親、そして私達が揃って乗船することになった。


あれ、でも、万が一落ちたりしたら、かなりヤバくないか?

アトラス領だけじゃなく、ガラリア王国にとっても大災害じゃないかな?

まっ、落ちそうになったら、アイルが魔法で何とかするだろ。

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