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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
317/372

N8.ヘリウム

「ねえ、アイル。『ヘリウム』があったら『飛行船』作れるよね?」


「えっ?へりうむ?ひこーせん?何だそれ?

あっ、『ヘリウム』と『飛行船』か。

そうだな。ガスが漏れないようにすれば良いだけだから……ゴムもあるし何とかなるかな。」


「じゃあ、飛行船を作ろう。そうすれば問題無いよね?」


「だけど、鹵獲されたら鉄道と同じ事になるだろ?」


「敵に捕られそうになったら、ヘリウムを抜いちゃえば良いのよ。そうしたら飛行船は金属の塊に成り果てちゃうわ。」


「ん?ああ、そうだな。穴を開ければ良いだけか。良いかもしれない。いや、かなり良いアイディアだよ。やっぱりニケは天才だな。

でも、飛行船に必要な量のヘリウムは手に入れられるのか?」


「それがね。大丈夫なのよ。専用の工場を建てなきゃならないけどね。」


不思議な事に、この惑星には大量のヘリウムが有る。

惑星が生まれてから長い年月が経つと、軽いガスのヘリウムは惑星から失なわれていくものなんだけどね。

同じ軽いガスの水素は、水や有機物として固定化されるてガスじゃない水素は残るんだけどヘリウムは反応性のないガスだ。

地球で使っていたヘリウムは放射性同位体がα崩壊する時に発生したものだったんじゃなかったかな?

この惑星に大量のヘリウムが有るのはノバ君の所為だね。大量のα線でも降り注いだんだろう。


アイルがガイガーカウンターを使った時に空気中からヘリウムを集めたと聞いたので調べてみたんだ。


分離魔法は便利なんだけど、最初からその元素が有ると思って調べないと有るのか無いのか分らない。まあ、これはどんな分析の方法でもそうなんだけど……。

有ると思って調べないとダメなんだよね。


その所為で大気中に大量にヘリウムが有るというのを見逃していた。

だって、ヘリウムが大気中に有るなんて思ってもみなかったからね。


そんな訳で、改めて大気の成分を分析してみた。


この惑星の大気は、水を除くと、体積ベースで、

・窒素がd91.N d%(=76.3%)

・酸素がd26.6 d%(=21.2%)

・ヘリウムがd2.0 d%(=1.4%)

・アルゴンがd1.6 d%(=1.0%)

・その他、二酸化炭素、ネオン、メタンなんかを合わせてで0.2 d%(=0.1%)

だった。

(注 d%(パークアト)=1/144)


ヘリウムが有るのが違っているだけで、地球の大気の成分と殆ど違わない。

ちなみに、水蒸気が大気に溶ける量が2-4d%(1-3%)なので、ヘリウムの量が異常に多いことが分る。


結露や魔法で大気から水が得られる事を考えたら、ヘリウムを大気から得るのも簡単だ。特に魔法だとね。


魔法ではなく、普通にヘリウムを分離精製しようと思ったら、他の成分ガスのガス分圧が低下するまで冷すしかない。かなり低温だよな。空気中に含まれているネオンの融点まで下げようと思ったら−246℃だから本当に極低温だ。


「一体どこからヘリウムを持ってくるんだ?

あっ、ひょっとしたら大気中に沢山あったのか?。」


「そうなの。アイルに聞いて調べてみたら、大気中にヘリウムがd2.0d%もあったのよ。だから、低温工場を建てれば大量のヘリウムを得られるわ。」


「アイル、ニケ。二人で一体何の話をしているのだ?」


アイルのお爺様が声を掛けてきた。


アイデアに夢中になっていてお祖父さん達が居るのを忘れてた。

今回は日本語で話してはいないけど……。

何の話をしているのかは解らないかったんだろう。


それから飛行船の説明をしてみた。

空中を移動する乗り物だという事。

空気中にとても軽いガスのヘリウムというものがあって、それを集めると空中に浮くことができる。

浮いたら空気を後方に押し出せば容易に移動ができる。


一応丁寧に説明してみたんだけど、例によって全く理解できなかったみたい。

特に二人のお祖父様とお祖母様にとっては聞き覚えの無い話なので尚更だった。


先ず空気というものが解らなかった。

息を吸ったり吐いたりしているのが空気だというところまでは理解してもらったんだけど、そもそも目に見えないものだからそれが何なのか理解が進まない。


空気そのものがちゃんと理解できないので、空気には窒素や酸素やヘリウムが……なんて言われても、何の事だか解らない。


水が蒸発するのは、空気に水が溶け込んでいるという説明をしたのだけど、これは失敗だった。

更に理解を困難にしたみたいだ。

水は時間が経つと消えるものだというのが普通の感覚らしい。

水というものは、空から降ってきて海に流れ込むか消えて無くなるものなんだそうだ。


そして、魔法を使わない限り、全ての物は必ず地面に落ちるものだと思っているので、空中に物が浮かぶなんて有り得ない。

鳥や虫もはばたかなければ地面に落ちる。


空気に重さが有るということも理解できない。

嵐が来るときに気圧の説明をしたことが有ったな。あのときと同じだな。


水に軽いものが浮かぶという説明で少し理解してもらえるかと思ったのだけど、比重の話で完全に理解出来なくなってしまった。

この世界では、そもそも重さと比重の区別が付いていない。


比重と言えば、前世でアイル元い、恭平に教えらてもらった事がある。アリストテレスは重いものと軽いものでは重いものが早く地面に落ちると言っていた。

真偽は不明だけど、ガリレオのピサの斜塔での実験で、それが覆されたという事になっているらしい。

でも、アリストテレスの頃には比重という概念が無かった。

比重の概念は、アリストテレスより遥かに後の時代に生まれたアルキメデスが見付けるまで知られていない。

だから、アリストテレスの頃は、重量と比重の区別が付いていない。

そんな世界観で、重い(=比重が大きい)ものは、軽い(=比重が小さい)ものより早く地面に落るというのは至極当然の話で、空気抵抗などを考えると、現在でもそれ自体は正しい。

細かな式の話になると、かなり奇しいみたいだけど、それは重さの話に留まらない。

碌に実験なんかしなかったんだろう。


今のこの世界は、まだアリストテレスの頃にも到達していないんじゃないかな。ソクラテスやプラトンが居るかどうかは知らないけれど……。

残念ながら、沢山面接した求道師には居なかったみたいだ。


この世界はそんな状況だ。アルキメデスさんはまだ登場してない。

だから、比重は説明しても理解してもらえない。


最早、どう説明すれば理解してもらえるのか解らなくなってきた。

私もアイルも理解してもらうのが無理だと分り、理解してもらう為の説明を諦めた。


ダメだな。これは。

実際に見せた方が早いな。


定期運航船を就航させた時も大騒ぎだった。船の運航スタッフは、沢山のお客さんから、魔法を使うのでなければ、こんなものが水に浮かぶ訳が無い、本当に大丈夫なのかと言われた。

仕方が無いので、スタッフに鉄の船が浮ぶ理由の説明方法を教えてあげた。

ガラスのコップを水に沈めて見せてから、中の水を取り除いて水に浮かべて見せれば良い。

騒いでいるお客さんは納得出来ない表情をしながらも、それ以上騒ぐ事は無かったと聞いている。


やっぱり、やって見せるのが一番だよ。


「お母さん。ゴムの試料って持ってますよね?」


お母さんは、グラナラ領特産品のゴムをお客さんに見せるために、サンプルを持っていたはずだ。


「えっ。あるけど、何をするの?」


「飛行船の模型を作って、空中に浮かべて見せようかと思ったんです。」


「あら。また模型?それは魔法じゃなくって、本当に空中に浮くの?」


これまで、散々模型を作っては、不思議な事を見せてきたので、お母さんは目が輝いている。

予定では期待を裏切らないと思うよ。


お母さんは、侍女さんに頼んで、ゴムの塊を隣の実家から持ってきてもらう様に頼んだ。

サンプルのゴムは実家にあったんだね。


アイルにお願いして、そのゴムの塊から、直径d20デシ(=2.4m)の風船を作ってもらった。

空気の注入口には、ゴムで弁を作って中の気体が外に漏れないようにした。

この大きさだったら、十分浮き上がるだろう。

風船の端に取っ手を作ってもらって、それに綱を結び付けた。

浮き上がって、部屋の天井にへばり付いたら、後が大変だ。


魔法で空気中からヘリウムを分離して、風船の注入口から中に入れていく。

風船はしだいに膨らんでいって、ある時から空中に浮び出した。

そのままヘリウムを入れ続ける。

まだ萎びているけど空中に浮んだゴム気球の出来上がりだ。

紐で中央にある大テーブルの足に結び付けていたのだが、テーブルが持ち上がって斜めになっていく。

気球がテーブルと一緒に浮び上がる前にヘリウムを入れるのを止めた。


「これは、何故浮いている?魔法で浮いているのでは無いのか?」


「魔法では無いですよ。空気からヘリウムを取り出したのは私の魔法ですけれど。ヘリウムが先程から説明しているように、空気より軽いので浮んでいるんです。」


「そのゴムの容器の中にそのヘリウムとやらを更に入れるとテーブルごと浮いたりするのか?」


「この感じだと、ゴムの容器一杯にヘリウムを詰めると、テーブルと一緒に浮き上がりますね。」


「人が乗れるようになるのか?」


「大きな容器にヘリウムを詰めると人も物も運べるようになります。」


「これは、ゴムで作るものなの?ゴムの使い道になるのかしら?」


「ゴムだと少し弱いかもしれないので、周りを軽い金属で覆うことになると思います。中の気体が漏れないようにゴムを使うかもしれないです。」


コメントは人それぞれだ。

一応、丁寧に回答してあげた。


「それで、この仕組を使って、人やモノを運べるようにするのか?」


「そうです。この仕組を使うと空を移動する乗り物を作ることができます。これからアイルがどんな形にするか考えてくれると思いますけれど、何デイル(=12)人も乗れるようにしたら、鉄道を引かなくても済むかもしれないですよね。」


「ところで、もし、その乗り物を敵が奪いにきたときには、どうするのだ?」


「それは簡単です。容器に穴を開けて中のヘリウムを外に出してしまえば良いんです。こんな具合に。」


私はそう言って、気球の脇に魔法で小さな穴を開けた。中からヘリウムが吹き出てきて気球が萎んでいく。それまで持ち上がっていたテーブルは元の位置に戻った。


「こうやって、穴を開けると中のヘリウムが外に出てしまいます。

穴を塞いで再度ヘリウムを入れてやらない限り、その乗り物で人や物を運ぶことは出来なくなります。

鹵獲したとしても、何の役にも立ちません。

他にも、間に合えば、捕まる前に上空に逃げるというのもあるかもしれないですね。

上空に逃げたら、もう捕まることは無いでしょう。」


「なるほど、穴を開けるか……。しかし、そのヘリウムというものは周りに沢山あるのだろう?

穴を塞いでヘリウムを集めて中に入れれば鹵獲したものを再利用できるのではないか?」


「それはそうなんですけど……先程私が分離魔法でヘリウムを集めてゴムの容器の中に詰め込みました。だけど、分離魔法がかなり得意じゃないとムリじゃないですかね?

ねぇ、アイル。以前、アイルがヘリウムを集めたときはどうだった?」


「あの時は……毎日半(とき)ぐらい掛けてヘリウムを集めていたんだけど、半月でやっとこのぐらい集まったかな?」


そう言って、アイルは手を少し広げて人の頭ぐらいの大きさにした。


「だから、先刻ニケがあのゴムの容器に入れたヘリウムを集めようと思ったら、連日何時ときも連続して魔法を使っても何週間も掛ると思うな。ましてや人を運ぶだけのヘリウムを集めようと思ったら、何年も掛るんじゃないかな。」


「それではニケが居ないと、人を運ぶのに必要なヘリウムを集めることが出来ないのではないか?」


「工場を作ってヘリウムを集める事も出来ますよ。

ただ、その方法は、空気が凍ってしまうほど、物凄く冷たい温度にしないとならないので、簡単にはいかないでしょう。

私とアイル以外にそんな工場が作れるとは思えないですね。」


「そうすると、ヘリウムを容易に集めることが出来ないため、鹵獲したその飛行船というものを使うことが出来ないということなのか?」


「遠い未来ではどうなるか分りませんけど、今のところはそうですね。」


「なるほど、理解した。

しかし、空中を浮いて移動するとは……。

あっ、もしも、もしもだが、万が一その飛行船というものが空中に浮いている時に、浮かぶために必要なヘリウムを失なうことになったら、地面に落ちてしまうのではないか?

そうなったら、乗っていた者は命を失なうことになるのではないか?」


「そうならない様に対応する事はある程度出来るとは思います。

空中に浮ぶ乗り物は船ととても似ているんです。

船は水に浮いているもので、飛行船は空気に浮いているんです。

どちらも船体が大きく損傷してしまうと、船だと沈没しますし、飛行船だと落下します。

ただ、部分的に損傷したのであれば、直ぐに沈んだり、直ぐに落下したりしないようにすることが出来ます。

これについては、絶対とは言えませんし、どんな事故が起こるかは分りません。

大型船で来られる時に船をかたどったもので説明をしていたと思うのですけど、ご覧になっていませんか?」


「ああ、船を模ったものが置いてあって、そこに説明があったな。

どこかに穴が開いても一度に水が入ってこないために、直ぐに沈むことが無いと。」


「先刻のゴムの容器のようなものを多数繋げて浮くようにすれば、一つに穴が開いても他の容器が浮んだままにしてくれます。

浮ぶ力が弱くなったとしても、ゆっくり落ちていくのであれば、それほど酷いことにはならないかもしれません。

これは、アイルが工夫してくれると思います。ね。アイル。」


「そうですね。幾つか安全策を取ることができると思います。」


「ニケ。ちょっと思い付いたんだが、その飛行船という物を使えば、魔物の様子とか敵の兵の様子を上から見ることが出来るんじゃないかと思うんだが、どうだろう?」


これまで、話を聞くだけだった私のお祖父様が聞いてきた。

偵察に飛行船を使えることに気付いたんだね。


「それは出来ると思います。だけど、こちらから相手が見えるという事は、相手からもこちらが見えることになりますね。

空中には隠れる場所が無いので、見ていることが丸分りになりますよ。」


「なるほど。それはその通りだな。しかし、こちらが見ている事を知っても、相手は、手も足も出ないのだろう?」


「まあ、そうですね。堅いものを飛ばして、飛行船が浮んでいるところにまで届かなければ、相手は何も出来ないでしょうね。」


「上空から地上の様子を見るれとは……色々使い道が有りそうだな。」


「それで、その乗り物は何時頃出来るのだろうか?

今回は陛下の後押しもあってマリムまでやって来れたが、次に来れるのは何時になるかは分らない。

度々で申し訳無いが、出来れば、マリムに滞在している間にその片鱗だけでも見てみたい。

そうすれば、アスト侯爵、テルソン侯爵、ハロルド侯爵といった者達への説明も出来るのだ。」


わっ。やっぱりこうなった。

これも私の口の所為か?

多分そうだな……。


「ニケが魔法で素材やヘリウムを準備してくれるのであれば、2日ほどあれば作れますよ。」


おいおい。アイルさん。素材は全て私に丸投げじゃないか。日程については私に確認ぐらいしてくれよ。


「おお。それは。では、完成を楽しみにしているぞ。」

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