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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
314/369

N5.金精錬

デニスさんが王都から戻ってきた。


紙幣を本格生産することになった。

試作した紙幣はそのままの形で採用になった。

とりあえず、一安心だ。


デニスさんと一緒にd40(=48)人ほどの文官の人達もやってきた。

デニスさん曰く、造幣局の人達は、財務省から宰相府に組織替えになった。補充の人員は宰相閣下が宰相府から出してくれたんだそうだ。


宰相府って、バールさんのところも組織替えで異動したところだよね。

紙幣関係は、宰相府が実施するって事なのかな?


現行の貨幣と紙幣の交換を3ヶ月後に開始するのだそうだ。

それまでに必要な紙幣を生産しないとならない。


詳細を聞いてみると必要な紙幣の枚数がとんでもなく多い。

特に低額の紙幣は大量に必要になる。

2ヶ月後までに、1ガント紙幣とd10ガント紙幣をd1ボロ枚生産するのが目標だ。


紙幣の試作に使った装置だと生産量が全然足りない。


紙幣の試作装置は1枚ずつ印刷していた。

アイルがd20デシ(=2m)角の紙を使ってd200(=288)枚を一度に印刷できるように、印刷機を改造した。


大量の印刷用の凹版が必要になった。既にネガは出来ているから、それからポジイメージを作成した。フォトリソして、ステンレス板をエッチングして、大量の凹版を作成した。


巨大な印刷装置が出来上がった。


物凄い枚数の印刷をしなきゃならないので、私は魔法で大量のインクを作った。


当座の目標枚数が賄えるだけの量を準備した。バールさんの話では、その後も低額紙幣の印刷は続けていくそうだ。

造幣局の人達の手でインクが生産できるように指導しておいた。


巨大な裁断器や紙幣をd100枚ずつ帯封する装置も作った。


紙幣の本格的な生産が始まった。


デニスさんから、こっそりと蛍光インクや炎色反応のことを聞かれた。


黙ってたからね。申し訳無い。


本格的に生産することになったのであれば、蛍光インクや硫酸ストロンチウムは、造幣局で調合してもらわないとならない。


デニスさんと、誰に伝えるかなど、どこまで秘匿しておくか相談した。

残念ながら、この世界にはストロンチウムやレアアースを分離精製する方法が無い。仕方が無いので、必要な蛍光塗料の原料は、私が魔法で大量にストックしておく。

デニスさんのところで、その原料を調合して紙に混ぜたりインクを作ったりしてもらうことにした。


どこかのタイミングで、様々なエレメントを分離精製できるようにしたいな。そうしないと、何時までも私の手が必要になるんだよね。

ただ、人手が無いから少しずつやってく他無いんだけど……。


本格生産が始まってしばらくの間は、化学研究所の准教授達に、安全に生産する為の指導をお願いした。

安全に操業するため、安全教育だけはしっかりと実施した。


私達は、紙幣生産からは少しずつ手を引いていく。


二週間ほどで宰相府の文官さん達におまかせになった。


あんまり私達も、関わっていられないんだよね。

そろそろメーテスで物理と化学の授業が始まる。


数学の授業で怪我をするということは無いけど、化学の実験ではちゃんと監督しておかないとマズいからね。


月が替わる前の週に、ジオニギさんがメーテスに戻って来た。

金の鉱山周辺はかなり雪が深かったそうだ。雪を掘って鉱石を採る際に、幾度なく魔物に襲われたらしい。


ノアール川周辺では、魔物が大量発生している。


原因は、戦争で大量の戦死者が発生したこと。

戦争の時は凍り付くような気候だった。戦死者は雪に埋めておいて、本格的な埋葬は雪解けを待って行なう予定だった。ところが雪解けを前にして遺体は消えていった……。

うっ。考えたくない……。


再三ジオニギさん達は魔物に襲われたけれど、同行した騎士さん達が守ってくれたと言っていた。


「それじゃあ、金の採掘をするのも大変なんじゃないの?」


ジオニギさんの武勇伝を聞いたキキさんが、ジオニギさんに話し掛けた。


「どうだろう?本格的に採掘する場合には、魔物が入り込まないように堀や塀を作るんじゃないかな?」


この話は終りにしたかったので、調査結果を聞くことにした。


「それで、金の埋蔵量はどんな感じだったのかしら?」


「ノアール川の比較的大きな支流の源流になっている山に大きな鉱床があった。今回は周辺の山も調べてみて、周辺の山にも同じ地層があって、金を含んでいそうだった。」


「それじゃあ、以前調査した時より、埋蔵量は多いのね。」


戦争の後に騎士さん達が一度調査をしている。この場所には大きめの天然の金塊があって、主にそれを調べていた。

金を含んだ鉱石までは調べていない。


「山の傾斜しているところを順に見ていって、標高差でd2,000デシ(=345.6m)ぐらいの範囲は金を含んでいる地層が連なっていた。実際には掘ってみないと、地中がどうなっているのか判らないけれど、可成の量が採れると思う。

この山の頂上付近で白い湯気が上っていたから、この山自体は火山じゃないかな。」


「サンプルは持って帰ってきたのよね?」


「一応、金を含んでいそうな地層だけじゃなく、その周辺も含めて、d1,000(=1,728)個ほどの鉱石を持ち帰ってきたんだ。

これが、鉱石を採取した場所を表わした地図になる。」


この山のあたりは、戦争の前に測量をしていたため正確な地図がある。

ジオニギさんの判断で、金を含んでいると思われる鉱石を採取した場所には○印が、金を含んでいないと思われる鉱石を採取した場所には×印が書かれてあった。


地図を見ると、d100,000デシ(≒24km)ぐらいの範囲に○印が付いている。

詳細に見てみると、○印が完全に×印で囲われていない。


「この場所の先はどうなっているの?金の鉱脈が続いているんじゃない?」


「そうなんだけど、月が変わるだろ。来月から化学の授業をすることになっていたから戻って来たんだ。」


真面目というか、不真面目というか……。まだ、調査は途中ってことなのか。それでも広範に調査した事は無かったから最初の調査としては良いのかな。


持ち込まれた鉱石に金がどの程度含まれているかの確認をした。

鉱石を適当なサイズに割り取って重さを量る。私がそこから魔法で金を取り出して、金の重さを量る。

かなり簡単な作業だ。

サクっと終らせた。


ジオニギさんの見立ては、まあまあ合っていた。ただ×印が付いていた鉱石にもかなりの量の金が含まれているものがあった。


「この鉱石も金を含んでいるのか……そうすると、隣の山にも大量に金が有るかもしれないのか。調査はなかなか終わりそうにないな。」


かなり有望な鉱床のようで、まだまだ調査が必要そうだ。それでも金塊がころがっている山はあらかた調べられたから、まあまあの成果だ。


「仕方が無いわよ。出来ることを順にやっていくしかないんだから。それに、鉱石の探索については、人を派遣してもらえる事になっているわ。人が増えたらまた調査すれば良いんじゃないかな。」


紙幣の作成と金の精錬はワンセットの依頼らしいので、紙幣関連の作業が落ち着いたあたりから、金の精錬方法の検討も進めていた。

工場を作るのに必要なデータは揃っている。

そんな時にジオニギが大量の金を含んだ鉱石を持ってきてくれた。


今は未だ、メーテスでは数学の授業をしている。ようやく関数の授業が始まったところだ。しばらく、数学の授業を先に進めても問題は無さそうだ。


アイルや准教授達と相談をして、メーテスのカリキュラムを少し変更して、金の精錬工場を先に作ってしまうことにした。


既に電解精製工場がコンビナートに有るので、必要なのは、金の選鉱方法と王水によって出来る塩化金の電解精製だ。


金の選鉱は、細かく砕いた鉱石を流水で洗浄して、金を含んでいて比重の高いものを選び取った。

砂金取りで、金属の薄皿で水を掛けながら揺って金を選びとるのと、まあ、似たような手法だ。


王水を作るのには、塩酸が必要だ。

これまで、塩酸は工場では生産していなかった。

塩酸を生産しても用途が無かったのと、保管にステンレスのタンクが使えないというのもあって、敢て作らなかったんだ。


塩酸を作るのには色々な方法がある。簡単なのは塩水を電気分解して、発生する水素と塩素を反応させる事なんだけど……。

爆発的に反応するんだよね。これ。

それに、塩素ガスは猛毒だ。万一反応の勢いで容器が破裂すると大惨事になる。


結局、海水から得られた塩に硫酸を加えて加熱することで、塩化水素ガスを作製することにした。

出来るかぎり安全な方法を採った。


生産した塩化水素はそのまま硝酸と混ぜて王水にする。

必要な量だけを作ることにした。

反応容器は、肉厚の石英容器で構成した。アイルの魔法を使えば簡単に作れる。

前世だと、こんな巨大な石英の容器や配管は使わなかっただろうな……。

塩ビの配管や容器を使っていたかな……。


どのぐらい金を生産することになるのか不明だったので、小規模の反応ユニットを作って、必要に応じて増やすことにした。


一連の生産プロセスを組み立てて、金の精製工場を立ち上げたのは3月になる直前だった。

やれやれ、これで、メーテスに集中できるな。

そう思っていたんだけど、そういう訳にも行かなくなってしまった。

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