160:亡者の一刀
『ウガガァァアアーーーーッ!』
咆哮を上げる敵のギガンティック・ドラゴンプラント軍団。再度花弁を輝かせ、破壊の光を放たんとした。
とっくに十秒は超えているが、敵もサモンテイマーの支援で顕現時間を伸ばしているのだろう。今度こそは滅ぼしてやろうと、樹龍の上に立つ偽ユーリ軍団が再び支援魔法を唱えた。
通常ならば非常にまずい状況なのだが……しかし、
『キーヒッヒッヒィーッ! 無駄無駄無駄無駄ぁぁあああーっ!』
どんな火力の軍勢も、無敵の人形兵たちを操る魔導王の前には無力だ。
ハイテンションで指先を動かすヴォーティガン。それに合わせて無敵の筋肉バキバキ人形たちが地獄鳥の群れをブン殴り、さらにはそいつらを足場としてギガンティック・ドラゴンプラントたちにまで迫った。
慌てふためく俺の偽物たち。そんな彼らに見せつけるように、ヴォーティガンは人形を動かすと、破壊の光が収束した花弁を鷲掴みさせた。
そのまま、花占いのようにビリビリと破り散らす。巨大樹龍たちの悲鳴が上がった。
『ギヒャヒャヒャヒャヒヒハァァぁ! 今どんな気持ちですかぁ~サモナーのみなさーんっ! 使い魔なんて所詮はイキモノッ! 最硬度魔法鉱石と強靭極まる魔獣の筋繊維をブレンドしたワタクシ特製の魔法人形には敵わないのですよォオオッ! だって臓器や脳髄の部分まで筋肉が詰まってますからね! 最強ーッ!』
ヴォーティガンの無双は止まらない。自身の周囲に魔法陣を出現させると、そこから水弾や炎弾や雷弾を放ち、打ち漏らされていた地獄鳥たちを墜としていった。
もはややりたい放題だ。流石はEXボスモンスター。巨大獣でもないくせに、3分間しか顕現できない制限があるわけだぜ。
『見てくださいよマスタぁー。相手方のサモナーたちの慌てっぷりを!』
「ああ」
俺の偽物軍団は混乱していた。
地獄鳥の群れは全て墜とされ、そして自分たちの目の前には不死の人形兵団が迫っているのだ。これでビビらないわけがない。
そう……彼らは本気で慌てていた。
『それでは、フィニッシュでございまぁーすッ!』
ヴォーティガンが指を振り下ろす。
それによって人形の群れは一斉にドラゴンプラントを殴り倒し、巨大樹龍を足場としていた偽物たちは、悲鳴を上げながら地に落ちていった。
「これで大半は死んだだろうな」
食いしばりスキルでしぶとく生きるのが『ユーリ』のスタイルだが、肉体がグッチャグチャになったら一撃死だからな。
一応俺は落下ダメージ無効な【魔王の肉体】というスキルを持っているが、コレはバグモンスターみたいな教皇との戦いで得たものだ。後追いの偽物軍団が所持している可能性は低い。
『いぇーいっ、ワタクシつよーいー! マスターもそう言ってくださいなぁ~っ!』
「あぁ、お前は強いよヴォーティガン。……だが、それゆえに使わされたって感じだな」
『って、ふぇ? 使わされた?』
俺の言葉に首を捻るヴォーティガン。中身は男で一国の王だったくせに「ふぇ?」はないと思うが、まぁそこは置いといて推察を話す。
「俺の偽物軍団。あいつらは本気でお前に驚いてやがった。つまり、マーリンやアリスから情報を渡されていなかったわけだ」
そう。無敵の人形を操る『魔導王ヴォーティガン』の存在は、女神側のあの二人も知るところだった。
それを知らされてない辺り……間違いなく、総大将であるペンドラゴンの指示だろうな。
「要するにあの偽物軍団は、ヴォーティガンを使わせるための誘い駒だったんだよ。そう動かすために、あいつらは情報を渡されていなかったんだ」
ネットゲーマーも所詮は人だ。『ちょっと犠牲になってくれ』と言われて、ハイそうですかと素直に頷く奴は少ない。
特に今回のイベントは、一度死んだらドロップアウトだからな。
もしもヴォーティガンの存在を知らされていたら、偽物軍団も慎重に動いていただろう。
「それこそ奴らには、無敵人形じゃないと対処が難しいほどのバ火力を発揮してもらう必要があった。余力なんて残さず全力で動いてもらう……それでこそ俺は、お前を出さざるを得なくなり……」
『……そしてワタクシは、召喚制限で今後一時間は出れなくなるってわけですかァ。実質退場ですねぇ、ぷく~』
頬を膨らませるヴォーティガン。中身は男で一国の王だったくせに「ぷく~」はないと以下省略。
ともかくそういうことだ。そして、ここに来てもう一つペンドラゴンの策に気付いた。
「見てみろよ、敵の地上部隊の顔を」
空を舞台にモンスター合戦を繰り広げている内に、地上を駆ける女神側プレイヤーたちも近づいていた。
彼らの表情はこの上なく必死だ。全方位にいる者、満遍なく油断なかった。
「兵数だけなら向こうは倍近くあるのに、この気迫だ。あれは間違いなく、背後からダメージエリアが迫ってきているからだな」
背水の陣ってやつか。プレイヤーたちを無理やり追い詰めて死力を出させるために、ペンドラゴンは時間を置いてから攻めてきたのだろう。
「俺の推測だが、この作戦も部下たちには伝えていないはずだ。
というか偽ユーリ軍団を使い捨てにした件はもちろん、中央の街をあえて譲ったことも絶対にアイツは話してない気がする」
顔を見ればわかるさ。
たぶん、地上を走るプレイヤーたちは本気で、『始まりの街を奪われた』『サモナー部隊もやられた』『自分たちは劣勢だ』『だから頑張らなきゃ』と、健気に思っていることだろう。
ああ――だからこそ、自分こそが逆境を救う英雄にならんと、ゲーマーたちは死ぬ気になるのだ。
その心理をペンドラゴンは上手く利用していた。
「酷いヤツだぜペンドラゴン。本当に最悪で、最高の敵だ……!」
まだ見ぬ宿敵に思いを馳せる。
よくぞ全力の作戦をぶつけて来てくれたぜ。だったらこっちは、全力でソレを打ち破るのがマナーってもんだ。
「ヴォーティガン、次は地上の部隊を蹴散らしてくれ。そしてギガ太郎も……って、言うまでもないか」
俺の愛する最強使い魔が、これまでずっと呆けているわけがなかった。
すでにギガ太郎の七枚の花弁は爆発しそうなほど輝いていた。ヴォーティガンが暴れている間、ずっとエネルギーを溜め続けていたのだ。
『グガガァ~!』
「よし。お前も地上のやつらを殲滅しろ。一匹残らず、ぶっ殺してやれッ!」
『グガーッ!』
吼え叫ぶギガ太郎。限界を超えて輝く花弁が、こちらに迫る女神軍を捉えた。
加えて俺は支援魔法『ハイパーマジックバースト』を唱え、その火力をさらに高める。
さぁ、ブチかましてやろうぜッ!
「いけぇギガ太郎ッ! ジェノサイド・セブンスレーザーーーーッ!」
『グッッガァァアアアアアアアアアーーーーーッ!』
そして、空前絶後の破壊光が敵軍に向かった――その瞬間。
「修羅道呪法『斬魔の太刀』」
一刀の前に、光が散った。
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