158:再演の号砲
汗を拭いながら、俺の職人・グリムが告げる。
「魔王殿よ。全プレイヤーの装備点検、終わったぞ」
「よしっ!」
隠密部隊長・クルッテルオからの連絡より少しして。いよいよ魔王軍の準備は整った。
さぁ、ここからが本番だ。傷一つなくなった和風ドレスを纏いなおし、プレイヤーたちに呼びかける。
「お前たち、四方を見てみろ。いよいよダメージエリアが見えてきたぞ」
街を取り囲む城壁の先。そこには空間を侵食していく、禍々しい赤い霧が迫っていた。
まだまだかなりの距離はあるが、それでもゆっくりと着実に、この場所目掛けて近づいている。
あと一時間もすれば、周囲一帯はアレに飲まれてしまうだろう。
「ダメージエリアの接近に伴い、敵の軍勢も動き始めるはずだ。全員いつでも動けるように、今から気合を入れなおせッ!」
『応ッ!』
力強く頷くプレイヤーたち。
全員、言われるまでもなくやる気いっぱいって感じだ。これなら心配なさそうだな。
「よし。それじゃあこれから、敵軍の戦術予報を伝えるぞ。
クルッテルオの最後の連絡から、敵は複数の個所に拠点を設けているのが分かった。その数が四つ以上だとしたら、おそらく……」
――と、その時だった。
街壁の上に構えた者たちが、「プレイヤーたちが迫ってくるぞ!」と吼え叫んだ。
しかも、四方の壁にいる者全員がだ。その報告に俺は苦笑する。
「……聞いての通りだ。女神軍は、全方角から攻め込んでくるぞッ! 各自迎撃準備に急げーッ!」
『オォオオオオオーーーーーッ!』
戦友たちの雄叫びが街に響く。
俺は後の細かな指示をザンソードに任せると、街の中心部にある時計台を駆け上がった。
その頂点から四方を睨めば、そこには土煙を上げながら迫る敵プレイヤーたちの大軍勢が。
さらに、
「……地上の連中よりも、まずはアッチをどうにかしないとなぁ」
呆れ半分に空を見つめる。そこには、闇色の炎に燃える地獄鳥『キメラティック・ジェノサイドバード』の群れが羽ばたいていた。
ハイサモナーの特殊能力【禁断召喚】によって俺が生み出した人工モンスターだ。
「アレの召喚者は間違いなく、俺の偽物軍団だな。人の使い魔までパクりやがって……」
だけど良い手だ、最高だと褒めてやる。
あの地獄鳥のコンセプトは自爆特攻。敵に当たって爆ぜて死ぬ……その用途のみを追求した、文字通りの生物兵器だ。それゆえに爆破ダメージは極大だ。
そんな恐ろしいモンスターを群れでぶつけに来るとか、極上に殺意が滾ってやがる……っ!
「楽しくなってきたなぁオイッ! いいぜ、だったら逆に焼き尽くすのみだッ!」
俺は天へと腕を掲げ、巨大召喚陣を出現させた。
「出し惜しみはなしだ! 【巨獣召喚】ッ、現れろ――『ギガンティック・ドラゴンプラント』ォ!」
『グガァアアアアアアーーーーーーーーッ!』
瞬間、時計塔へと絡まりながら巨大な蔦が生え伸びた。
次いで咲き誇る七つの花と、その中央に生まれる竜の顔。体長百メートルを超える異形の生物が、世界の中心に降臨する。
こいつこそが『ギガ太郎』。こう見えて甘えん坊で最高に可愛い、俺のとっておきの使い魔だ。
「さぁギガ太郎。お前のすごさ、改めてみんなに見せつけてやれっ!」
『グガァーッ!』
七つの花弁に光が集う。超特大の魔力光が輝き、空より迫る地獄鳥の群れへと向けられた。
そしてッ、
「破滅の光でぶっ殺してやれぇッ! ジェノサイド――セブンスレーザァアアアアーーーーーーーーッ!」
ついに放たれる極大邪光。七つの烈閃は一瞬にして空を駆け、敵の使い魔たちを飲み込んでいった……!