130:最凶ッッッ!!! 覚醒の魔王軍!
――曇天の空より光が差し始める。
降りしきる雪が陽光を受けてキラキラと輝き、世界がとても美しく感じられた。
あぁそうだ……凍てつくような寒さの雪も、きっかけや見方一つで宝石よりも尊い光を放つんだよ。
「俺は、絶望が大好きだ。窮地や危機が大好きだ……!」
集まってくれたみんなに告白する。
ありがとうみんな……みんなのおかげで俺はようやく自覚できたよ。
「策略も謀略も上等だ。多勢に無勢も望むところだ。
大集団に刺して殴られて嬲られて晒されて踏みつけられそうになっているんだと思うと――心が滾るッ!」
拳を強く強く握り、湧き上がる喜びを噛み締める。
――大軍勢の大将という、負けてはいけない立場に据えられて。それから始まる数多の策に翻弄されて……。
そこでまともな大将だったら、悲しまなければいけなかったんだ。怒って、悔やんで、どうにか仲間たちを支えようと苦心しなければいけなかったんだ。
……でもダメだったよ……。
俺、今ッ、この状況がめちゃくちゃ楽しいんだ――ッ!
「俺は不幸が大嫌いだ。何の理由もなく降りかかる理不尽が嫌いだ。
――だけどッ、お前たち『敵』は違うだろうッ!? お前たちはみんなが全力で俺を見据え、俺のために苦労して時間をかけて追い詰めようとしてくれている!
あぁっ、こんな幸せがあるかよ! たくさんの人たちが真心を込めて紡ぎあげてくれた絶望を、楽しまなくてどうしろっつーんだよッ!」
だからみんな、本当にありがとう。
俺はみんなと出会えてよかった。感謝の思いがさっきから湧き上がって止まらないよ。
「ペンドラゴンには特にお礼を言わなきゃだよな。お前の謀略は最高だよ」
「なっ……いや……えぇ……?」
溢れる涙をそのままに、今一度、精一杯の笑顔を作る。
俺、ちゃんと笑えているかな? 目が死んでるとかよく言われるけど、今なら人を幸せにできるような笑みを浮かべられているはずだよな?
「本当に本当に、お前たちのことが大好きで仕方ないんだ」
ああ、だから――。
「――今から全員、ぶっ殺すからな?」
そして俺は、ペンドラゴンの背後にいた量産型ユーリの一人に近づいた。
その頬を撫でてやったところで、ようやくそいつは俺の存在に気が付いたようだ。
「はッ――えッ!? なっ、いつの間に!?」
「モンスタースキル【瞬動】ってやつだ。発声せずとも、モンスターの意思で発動できる」
ブーツに宿った使い魔・マーくんとは心を通わせているからな。
それに今やマーくんは特殊進化を果たしたことで、敏捷値を大きく向上させていた。
スキルを合わせれば瞬間移動じみたことも出来る。
「じゃあ偽者ども。まずはお前たちに死に方をレクチャーしてやるよ――ッ!」
驚愕する量産型の口に手を突っ込み、虚空の存在に呼びかける――!
「巨獣召喚ッ!」
次の瞬間、手を突っ込んでいた量産型の肉体がブクブクブクブクブクッッッッッッと風船のごとく一気に膨らみ、丸く巨大な球状となった。
そして響く断末魔。一瞬で人間ではなくなったそいつは、白目を剥いて狂い叫ぶ。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!?!?!?」
それが最期の一声だった。
伸びきった皮はついに破裂。ミンチとなった肉体は、呆然とする敵軍に雨となって降り注ぎ――、
「さぁ、産声を上げろ! 『死滅凱虫アトラク・ナクア』ーーーッ!」
『ギッシャァアアアアアアアーーーーーーーーーーーッ!!!』
かくして降臨する怪異。
全身から何千体ものヒト型鎧を蛆虫のごとく湧かせた、超巨大蜘蛛が咆哮を上げたのだった――!
「アハハハハハハハハハハハハッ! レッスン1だ! いくら食いしばりスキル【執念】を持っていようが、原型がなくなるくらい肉体が弾ければ死んじまうんだよォッ! そしてぇ!」
新たな仲間であるアーちゃんが、その巨体を戦慄かせた。
すると全身に生えた『アーマーナイト』が粘液を散らしながら飛び出し、量産型ユーリ軍団を襲い始めたのだ――!
『キェエエエエエエエーーーーーーーーーッッッ!』
「うわッ、鎧の大軍が攻めてきたぞーーーッ!?」
純白にまみれていた戦場を、一瞬にして漆黒が染め上げていく。
このアーマーナイト大量召喚は一時的なものだ。巨獣召喚は10秒しか出来ない縛りがあるように、アーちゃんから出てきたアーマーナイトたちも1分ほどで消え失せる。
だが。
『アーツ発動ォオオッ! 「魔剣招来」ッ!』
『キシャァアアアアーーーーーーーーーーーーッ!!!』
1分もあれば、戦場を支配するには十分だった……!
現れた何千体の黒鎧から、さらに何千体もの『リビング・ウェポン』が現れ、虐殺の限りを尽くす……!
「やられるかクソッ! スキル発動【執念】ッ! スキル発動【執念】ッ! スキッ、ぎゃぁぁあああっ!?」
「か、数が多すぎるッ!」
「くそぉっ、一体一体は雑魚なのにーーーっ!」
黒鎧と魔剣の群れに殲滅されていく量産型たち。
これがお前たちの――そして俺自身の弱点だよ。
「元々、アーマーナイトもウェポンたちも、序盤で出るような低レベルモンスターだ。それに加えて巨獣召喚の二次産物であるコイツらは、全員1分で消えるしレベルも1まで落とされている」
こいつらを使った初心者狩りをさせづらくするためだろう。よってステータスも最低値だ。
「だがしかし。一撃喰らえば死ぬような俺たちにとっては、それで充分脅威だよなぁ? 今の内から手数押しに慣れておきやがれ……ッ!」
戦場を満たす断末魔。黒に飲まれていく純白。
そんな凄惨で愉快すぎる光景の中、俺は呆然としている魔王軍へと呼びかける。
「なぁお前ら――俺のことを信じているかァッ!?」
『ッ――!?』
ピクリと、全員の肩がわずかに跳ねた。
全員が俺を一斉に見る。
「ペンドラゴンは言ってたよなぁ!? お前らの多くは俺の強さを奉じて集まった者たちだ、ゆえに量産型を見せつけられたら堪えるだろうってよ。
――だけど見ろよッ! その量産型は死にまくってるぜぇッ!? 常に最高の装備と最強の使い魔と最新の技を集め続けるオリジナルの俺には、及ぶわけがねぇだろうがよォオオオッ!」
舞い散る血潮と絶叫を前に、霧散していく絶望の空気。
心折れていた野郎どものツラに、再び気合いが漲り始める……!
「ペンドラゴンの策を打ち破るのは簡単だッ! お前らが、さらにこの俺を信じればいいッ! 量産型の山なんざハリボテくらいにしか感じられないくらいッ、俺のことを愛しやがれッ!
ならば俺も応えてやるさ。俺の強さの全てを魅せてなァーーーッ!」
複数の矢を手に出現させ、さらにはスキル【武装結界】により闇色の武具を出現させる。
そして、それらを天に向かって一斉射出。
空へと翔ける殺意の群れは、無数に分裂し、拡散し、やがて暴風と爆炎を纏い始め――!
「アーツ発動! 『暴龍撃』三十連打ーーーーーーーーッ!」
『ガァアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッッッ!!!』
そして現れる魔龍の軍勢――!
風と炎のドラゴンたちが量産型共を一気に斬り裂き焼き尽くし、この世から消し去っていくのだった……!
これが俺の新技。
烈風の使い魔『巫装憑神ハストゥーラ・ウェポン』と烈火の使い魔『巫装憑神クトゥグア・ウェポン』に進化したポン太郎たちを用いた、スキル【分身】盛りスペシャル『暴龍撃』だ。
斬撃特性と爆発特性を得た龍の軍勢に殺されやがれ。
「さぁどうだ、『魔王側』のプレイヤーどもッ! まだ足りないか!? まだこの俺を信じられないかッ!? 『魔王』を有する我が軍は最強だと、胸を張って言えないかッ!?」
『いッ――否ッ! 否ッ! 否ァァアアアーーッ!』
沈み込んでいた顔を上げ、仲間たちは武器を握る。
あぁそうだ、気張れよお前ら。翻弄されっぱなしなんて悔しいだろう? このままモブで終わりたくないだろう!?
俺の強さに憧れを持って集まった以上は、お前らだって強者になりたいはずだよなぁッ!?
「ならばお前らッ、暴れ狂えッ! もう後先なんて知ったことかよォオオオッ! どうせ劣勢の悪役なんだッ、だったら敵を地獄に堕として笑いながら爆散しようやァアアーーーーーーッ!!!」
『オオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーッッッ!!!』
ハイな叫びが戦場に満ちる!
全軍が一斉に飛び散ると、まだ生きていた俺の偽者や量産型ザンソードどもに斬りかかっていく!
もはや全員が破れかぶれだ。「死ね死ね死ね死ねぇえええええ!!!」と叫びながら、防御も考えずに武器を振るって振るいまくるッ!
――その結果。
「やっ、やめっ、ぐはぁあああッ!?」
「ってアレーッ!? なんか普通に殺せるジャーンッ!!!」
……まるで詰んでいた状況が嘘のように、敵兵を次々と葬り始めたのだ。
そう。別に俺たちは終わっていなかった。さっきのはあくまでも見せ札合戦であり、演出家のペンドラゴンによって負けたような『空気』が生まれていただけなのだ。
「ハハハッ、飲まれていただけなんだよお前たちは。
量産型の俺もザンソードも、仕留め方は簡単だ。どっちも高い攻撃力でテキトーに攻めまくれば死ぬんだよ」
まず俺は手数に弱い。さらにほとんどのステータスはゼロであり、攻撃力は憑依武器に補ってもらっている状況だ。
ゆえに弓矢を放つ間もないくらいに組み付いて、ガシボカ殴りまくれば普通に死ぬ。
そして量産型ザンソードも同じだ。
そいつらの多くは、経験不足をジョブ性能で補っただけの新人だそうだからな。
普通にレベル差で強い攻撃連発してれば死ぬだろ。
「よっしゃぁああああああああーーーーーーーーッ! 殺りまくってたらやる気出てきたぜぇえええええ!!!」
「なんだよなんだよッ、絶望してたのが馬鹿らしいじゃねーかよ!?」
「うぉおおおおおおおお暴れてやるぜぇえええええ!!! 苦い顔してないでリアルじゃ出来ない暴力も殺人も楽しまなきゃッッッ!」
「あ、これって公開決闘だったッ!? オーーーーーイ新人プレイヤーのみんな見てるかァアアアアーーーーッ!? なんかもうオレたち負けても敵を苦しめられたらそれでいいような気がしてきたから、敵になっていいぞー! あとで絶対に絶対にプレイヤーキルしてやるからーッ!」
拳と剣を振るいまくってゴキゲンマックスな魔王軍メンバー。
ふふふ、可愛い奴らだ。運営から悪役認定を受けたことを皮切りに、ずっとずっと追い詰められてきたことで、完全にブレーキが壊れたみたいだな。
魔術師プレイヤーも俺の真似をして敵の体内に杖突っ込んで魔法撃ってやがる。いたずらっ子だぜ。
「――と、いうわけだ。さぁペンドラゴン、気分はどうだ? そして運営ども、望んだとおりに悪を務めるぜ?
もうグダグダしてるのは馬鹿らしいからよぉ、これからは絶望の恩返しだ。お前たちがやってくれたように、俺たちも敵対者を追い詰めて苦しめて嬲り殺してやるから、よろしくな?」
「ッ……!?」
立ち尽くすペンドラゴンにもう一度笑う。
暴力を振るっていた仲間たちも、血の付いた顔で一斉に笑顔を向ける。
生き残った敵兵どもが「ヒッ!?」と可愛い鳴き声を上げた。
そんな俺たちに対し、ペンドラゴンも冷や汗を掻きながら笑顔を浮かべた。
「ハッ――ハハハハハハッ! ぉ、お前たちはアレだな! だいぶおかしいなッ! 運営くんたちも今ごろ震えて泣いてるだろうよ、このままじゃゲームの治安が崩壊するとな!」
「いいじゃねえか別に。みんなで絶望して怒って泣いて恨んでいこうぜ? ――それを楽しく発散するために、四日後の『絶滅大戦』はあるんじゃねーかよ」
俺は思う。
これは所詮ゲームだ。命のやり取りも暴力も絶叫も、リアルに戻れば消えるような仮初のものでしかない。
だからこそ――リアルでは堪えきれないようなマイナス感情も、本気で燃やして本気で相手にぶつけていけばいいんだよッ!
「さぁペンドラゴンッ! もっと俺を追い詰めてくれよッ! どんな苦難も本気で楽しく喰らい尽くしてやるからよぉッ! さぁさぁさぁさぁさぁッッッ!」
「ッ~~~!? ウッハハハハハハハハハッ! あぁもうキミは最高すぎるッ! 必死で立てたハメ殺しの策を全部味わって食い破るとか、敵として最悪で最凶すぎるッ!
なぁ仲間たちよ、まだ生きている者たちよッ! アレがこのゲームのトップだぞ! キミたちの目指す最強の座だぞッ!」
白き剣を指揮棒のごとく差し向けるペンドラゴン。
それに合わせ、倒れ伏していた女神側プレイヤーたちが起き上がってきた。
傷だらけの彼らの瞳には、激しい敵意と強い興奮が。
「つまりッ、ヤツを倒した者こそが最強というわけだッ! さぁ、全員かかれーーーーーーッ!」
『ウォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーッ!』
そして押し寄せる死兵の軍勢。
俺への殺意を全力で燃やし、一斉に飛びかかってくる――!
「いいぜ、やろうか……!」
かくして、俺の眼前が敵兵の群れで埋め尽くされようとした――その時。
「――わりぃなオメェら。『魔王ユーリ』を殺す権利は、オレ様だけのモノなんだよォオオオーーーーーーッ!!!」
次の瞬間、空に舞い散る花火のごとく敵兵たちが全員吹っ飛ぶ――!
彼らの胸に刻まれた『鉄拳』の痕。そして気付けば俺の前には、強く頼もしい男の背中が……!
あぁ、お前は――!
「スキンヘッドッ!」
「よぉユーリ、新しい衣装もエロいなぁまったく!」
そう言ってヤツは、俺のむき出しの片腿をペシペシと叩くのだった。
その分厚い手の感触が酷く懐かしく感じる。
「遅れちまって悪かったなぁ『大将』。――今回のオレ様は、『魔王軍』として参戦するぜぇ……!」
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『こんな展開が見たい!!!』『これなんやねん!』『こんなキャラ出せ!』
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