彼と彼女と花の名前9
最後の最後で、投稿大っ変遅れまして、申し訳ありません!
私事が少し忙しかったのと...予想以上に話が、長くなってしまったので...本当にすいません!
という訳で、いつもの2倍くらいあるかもしれません...。
少しでも楽しんでいただければ、嬉しいです!
それはある休日のこと。家のものを整理していた俺たちは、棚の奥からアルバムを見つけた。
「これは……なんだ、俺のか。」
「えっ!碧人さんのアルバムですか!?…ちなみに、いつ頃の?」
「これは、中学から高校ぐらいだな。奥のほうに、もっと古いのもあるかもしれないが…もしかして見たいのか?」
澄歌をみると、ウズウズと見たそうな顔をしている。尋ねると、すごい勢いで頷いた。
「ぜ、ぜひ!」
___そうして彼女も自分のアルバムを持ってきて、お互いに見せあう会が始まった
「碧人さんって、桐葉学院に通ってらしたんですか!」
「そうだが……釣書にかいてなかったか?」
不審に思って尋ねると、澄歌はそっと目をそらした。
「すいません…あの頃は、『どうせ…』って気持ちが少しあって…」
「ふーん…」
「お、怒ってますか!?」
「いや…今はそうでないならいい。…それより、こんなもの見ていて楽しいか?」
「はい!とても!」
そういって笑うと、彼女はアルバムにまた視線を落とした。
「あ、この写真は何ですか?琴衣さんと樹さんもいらっしゃいますが…」
「これは、園芸部で撮った時の写真だな。ほら、ここの花壇を耕してたんだ」
「園芸部…?」
「ああ、2年の時から三人で活動してたんだ。俺たちが卒業した後、無くなってしまったが」
「……お見合いの時、花には詳しくないって言ったじゃないですか!」
「別に嘘じゃない。俺は基本イモしか育てなかった」
「イモ…」
そういうと、彼女は少し考え込んだ。
「あの…園芸部じゃなくて、関わってた人とかいらっしゃいましたか?」
「いや、いなかったと思うぞ。ひっそりとした活動だったし…それがどうかしたのか?」
「実は昔、この写真の花壇で高校生のお兄さんにお花をもらったんです」
「え?」
「その時にその人が、確か…『世話してない』みたいなことを言いながら、花をくださったので…もしかして碧人さんたちのお知り合いの方かなと思いまして」
そう言われても、校舎の片隅でのじみな活動だったので、興味を持った人が来るということはなかった。
(誰か通りがかった奴が、適当なことを言っただけか…?)
だが、何かが心に引っかかる。何だろう…?
「…というか、澄歌はずっと恵女だったんじゃないのか?」
「あ、はい。一応、幼稚園から中学までそうです。けど小学校にあがる時に、引っ越しで小学校からは桐葉に通おうということになったんです。結局、そのあとお父様の縛りがきつくなって、共学の桐葉はあきらめたんですが。でもそれで桐葉学院には一度だけ行ったことがあるんです」
そういうと、彼女は昔を懐かしむ目つきをした。
「あの頃はお母様が出ていったばかりで、過去を取り戻そうとしてるみたいに、お母様と関係あるものを必死でなぞってました。あの時も、お父様を待ってる間に、お母様が大好きだった花を見つけて、いてもたってもいられなくて…。あ、そうだ!いいものがあるんですよ!」
そういうと彼女は手をたたいて立ち上がり、自室へ走っていく。
少しして、古い子供向けの本をもって戻ってきた。彼女は本のページを開いて、中に挟まれていたものを取り出した。
「これ、その時にいただいたものなんです。こっちの白い花がお母様が好きな花で…こちらは私が好きな花で、その人が一緒に下さったんです」
彼女が本から取り出したのは、古びた二枚の押し花の栞だった。中にはフチが群青色の白い花と、優しいピンク色の可憐な花が、一輪ずつ入っていた。
(これは、まさか…)
「子供だったので、あまり上手にできなかったのですが…。これをもらった時、本当にうれしくて、胸がドキドキしてました。もう顔も思い出せませんが…もしかしたら、あれが私の初恋なのかもしれません」
軽くほほを染めて言う彼女に、普段なら軽い嫉妬を覚えるところだが、俺はそれどころではなかった。
「澄歌…それは何歳ぐらいの話だ?」
「えっと、六歳ぐらいでしょうか」
あの時見た少女は、5、6歳くらいだった。顔立ちも記憶がおぼろげだが、似ているように思える。なにより、あのしおりに挟まれている花は…あの日、あの少女にあげたものだ。
「澄歌…」
「はい…?」
「それは…もしかしたら俺かもしれない」
「えっ…でも、あの時のお兄さんは世話してないって…」
「その白い花が咲いていた花壇を育ててたのは、樹だったんだ。俺はピンクの花のほうだった」
「えっ!?…じゃあ、まさか…!」
「そのとき着てたのは…確か藍色のワンピースじゃなかったか」
「は、はい。あの頃の一番のお気に入りだったので…うわあ。」
記憶を掘り起こして確かめると、やはり彼女だった。そして納得したとたん、彼女が顔を真っ赤にした。
「い、いま私…は、初恋って言っちゃいました…!恥ずかしい…!」
熱を冷まそうとしているのか、頬をペチペチと叩いている。俺は慌てて手をつかんで止めて、柔らかく抱きしめた。
「こらこら、たたいても痛いだけだ。…それより、悪かったな。初恋の思い出を壊してしまって」
「い、いえ!全然壊れてなんかないです!…むしろ、碧人さんだったのが嬉しいぐらいで…」
彼女の声がしりすぼみになっていく。腕の中の彼女を見ると、さっきよりも顔が朱に染まっている。
「そ、それにしても!あの花を樹さんが育ててたなんて、ちょっと意外でした!」
「ああ、あれはな…樹が琴衣も、あげるために育ててたんだ。…その乙女思考の犠牲になったというか…」
「え、そうなんですか!?」
それを聞いた澄歌の顔が輝く。そこで、俺はあの時起きた出来事を、掻い摘んで話した。
*
「そうだったんですか…じゃあ私はその直後に、碧人さんに会ったんですね」
「樹はその後も、琴衣を追いかけてたんだ」
「あ、それは琴衣さんに聞いたことがあります。『あんまりうざいから、仕方なく結婚した』って。見るからに照れ隠しでしたが。」
そう言う琴衣の顔が思い浮かんで、吹き出してしまう。樹にも、いつもそう言って顔を背けるのだ。
「でも、憧れではありますね。好きな人にそんなプロポーズされたら…私なら嬉しいです。」
そう言って、10代の少女のように頬を染めて澄歌は笑った。……明日、花を買って来よう。
「そういえば、碧人さんにもらった方の花言葉を知らないんです。碧人さんは知ってますか?」
「…いや、正直名前すらわからない。」
なんせ樹から、適当にもらった種を埋めていただけである。花の色すら、咲いた時に知ったという体たらくだ。
彼女が、本棚から図鑑を探しながら教えてくれる。
「これは、オウトウソウって言うんです。…あ、図鑑ありました!えっと、オウ、オウ…」
「こっちの白い花は…チコリスだったか。」
「はい。でも、確かそれは和名じゃなくて…あ、これです。こっちの方が先にみつかっちゃいました」
そう言って、彼女が開いて見せたページには、あの花が載っていた。
「ふふっ、私、琴衣さんがこの花を好きな理由がわかっちゃいました」
チコリスという名前の下に書いてある和名は…ヨイツキソウ
「漢字だと宵の月みたいです。群青色のところを夜空にみたてて、白いところが月ってことですかね。…どうかしましたか?」
「いや…琴衣がロマンチストなことに少し驚いた」
「それは失礼ですよ。これぐらい誰だって思います」
そう言って澄歌はまたページをめくり始めた。
「あ、ありましたよ。オウトウソウ」
彼女の後ろから、のぞき込む。花言葉は…
『私はあなたの愛の奴隷』
…数秒間沈黙が落ちる。顔をみると、彼女と目があった。
1拍置いて、二人の顔が真っ赤になる。
「うわぁっ!?違うぞ!?意味なんて知らなかった!というか、知ってて6歳児に渡してたら、犯罪だろう!」
「は、はい!わかっております!そもそも欲しがったのは私ですし!」
「.....はぁ。...とりあえずその栞はもらったらだめか?自分の恥が人の手にあると思うと落ち着かない。...嫌だったらいいが」
「いいですよ?」
「え、そんなにあっさりと...いいのか?」
「はい、元々初恋の人が懐かしくて、とっていただけですもの。その方が、近くにいらっしゃるなら、手元になくても大丈夫です」
そう言うと、彼女は少し寂しそうな顔をしながらも、こちらに2枚の栞を渡してきた。
「どうぞ」
「あ、ああ。」
おれは受け取り、少し考えて...チコリスの方を彼女に返した。
「その、これは別に恥ずかしいものじゃないし...それに、こっちに関しては本当にそう思うから...」
後半はだんだん恥ずかしくなり、声が尻すぼみになる。
澄歌は一瞬きょとんとしたが、すぐに意味がわかったらしく、顔を赤くして受け取った。
「ありがとうございます...!」
「いや、元々君のだったんだし...」
一瞬見つめあって、唇を重ねる。離れると、自然と2人とも、笑顔になっていた。
『あなたは私の宝物』
FIN.,
しつこいですが、作中の花、花言葉、栽培方法等々、作者の想像です!
いままで長い間、お読みいただきありがとうございました!
番外編は書きながらの投稿でしたので、更新がゆっくりになってしまいましたが、なんとか終わることが出来て、とても嬉しいです。
この作品は、予想していたよりも本当に多くの方に読んでいただけて、本当にありがたいなぁと思う次第です。
ブックマーク登録してくださった方、評価してくださった方、感想などを送ってくださった方...そして、拙作を読んでくださったすべての方に、心より御礼申し上げます。
また、新しいものを書きましたら、こちらに投稿したいと思っております。まぁ...多分すれ違いは入ると思います...
その時御縁がありまして、また読んでいただけあしたら、幸いです。
それでは、長文失礼致しました。
いままでこの作品を読んでいただき、本当にありがとうございました!
五月絢兎 拝