夢と現実 1
あれは幼き頃の記憶。
「お父さん! あのオウマさんカッコいい!」
テレビに映る一頭の馬。
晩秋、寒さ感じる日。
父と私はテレビに夢中だった。
「三コーナーから四コーナー。先頭ノースブラック!」
黒帽子の騎手が乗るその巨大な馬は、颯爽と駆けていた。
私と父はその馬に魅了されていた。しかし―。
「さあ、直線。まだ粘る、まだ逃げるぞ。ノースブラック!十分な手ごたえがありそうです!」
四百のハロン棒を通過して、ノースブラックは必死に逃げていた。
「シュヴァルグロースは外に持ち出した! 残り四百を切り、一体このレースにはどんな結果が待っているのか!」
父は必死になって逃げ馬の名を叫んでいた。
「大外からはイルレドラート! 白い帽子がニ頭来た!」
小刻みに震えて明らかに緊張した様子の父。
嫌な予感がする。これは―。
「しかし 内ではノースブラック粘ってる!」
「一番のシュヴァルグロース! 並びかけた! 金色の馬体が府中の直線で輝く!」
「シュヴァルグロース!シュヴァルグロース!シュヴァルグロースだああ!」
地鳴りのような悲鳴と声援がテレビから流れる。
父は画面を見てガクッと膝から崩れ落ちていた。
「一番人気ノースブラック三着と敗れる! 二着には三歳馬のイルレドラート!」
「やりました! 数々の強豪を退けて、悲願のGI初制覇! Rナウマンとシュヴァルグロース!」
―あーあ。また負けちゃった……。
父は2万使うも無残に散った。
―賭けなければいいのに……
そんな記憶。
ーーーーー競走馬と人間が逆転した世界で、わたしはレースをする?!ーーーーー
「競馬の世界に行きたいよ!お父さん!」
「ダメだ、優菜。諦めなさい」
掠れた声で父は言った。
本当は私だってわかってる。
私の今の体力じゃ厩務員になれないことなんて。
でも、自分の夢を諦めきれないでいた。
「お父さんなんて、大嫌いだ!!」
「待ちなさい優菜!」
私は飛ぶように家から出た。
外はどしゃ降り。
激しい雨粒が体中に叩きつけた。
「……わがままなんて知ってるよ。私が一番」
どうすればいいんだろ。
わたし。
身体の病気で体力が無い私。
そんな自分が高校卒業後、激務な職など出来るはずないのに。
ただ歩いた。私は歩き続けた。
目的地なんてものはない。
もし、私が―。
いやそんなタラれば言ってもな。
現実から目を背けてはいけない。
自分が今するべきことは何だ?
色々なことが頭から離れない。そんな中ただ歩き続けるだけだった……。




