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モラハラ夫と義母に娘を奪われ死んだ私、転生先でも政略結婚させられましたが、辺境伯の愛で救われました  作者: はなたろう


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3/3

episode2

日が暮れ始めた頃、ようやく目的地であるマルゼンダ家に到着した。


馬車を降りて見上げた屋敷は、想像したよりずっと大きくて立派だった。だけど、手入れの行き届いた庭園とは裏腹に、建物全体から冷たい拒絶の気配が漂っている。



「歓迎するわ、アリアンディ」



義理の母となるマルゼンダ伯爵夫人の、甲高い声が食堂に響いた。



マルゼンダ家の食堂は、来客を意識した“見せるための豪奢さ”に満ちていた。


壁には名画、棚には高価な銀細工の食器。荘厳ではあるけれど、家族の気配はまるでない。実家との違いに、胸が少しだけ重くなる。



「ありがとうございます。皆様、どうぞよろしくお願いいたします」



そう言ったものの、テーブルにいるのは伯爵夫人と、その息子――私の夫となるオリフタンだけ。



チラリと結婚相手を窺う。



オリフタン・マルゼンダ。伯爵令息、25歳。



グレーアッシュの髪、品の良い佇まい、身長は170cmほどで平均的。綺麗な顔立ちだけど、切れ長の目はなんだか神経質そう。



彼は黙って料理を口に運びワインを飲み、時折、母親の言葉に短く相槌を返すだけ。



私を一度たりとも見ようとしない。彼には歓迎されていない。それは明らかだった。



「寒くはないかしら?ポーラディアとは気候が違うから、花嫁に風邪をひかせては大変よ。大事な身体ですからね」


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」



この家の全てを仕切っているのは、どう見てもマルゼンダ伯爵夫人だった。



「明後日の結婚式には、ご両親もいらっしゃるのよね?」


「はい。両親も兄も参列いたします」


「それはよかったわ。これからは家族同然ですもの、良いお付き合いがしたいわ」


「伯爵様のご参列は、難しいのでしょうか?」



マルゼンダ伯爵は病でほとんど自室から出てこないと聞いている。この家の実権が伯爵夫人にあるのは、そういう事情だ。



「ええ、体調がよくないのです」



マルゼンダ伯爵夫人は裕福ではない子爵家の生まれで、伯爵に見初められ妾から正妻になったという。計算高くプライドが高い。社交界での評判はあくまで噂。真偽は分からないが、彼女の威圧感は本物だった。



「では、ご挨拶だけでも」


「お気になさらないで」



声には、明らかな拒絶があった。



「安心なさって。伯爵もこの結婚をとても喜んでいるのよ」


「では、オリフタン様のご兄弟は、ご参列されないのでしょうか?」



私の質問に、伯爵夫人とオリフタンの眉がピクリと動く。



「ええ、参列はしないと思います。幼い頃に遠縁に婿養子として出されましたから」


「そうでしたか。よく存じ上げず、申し訳ございません」


「お気にならず。そろそろお開きにしましょう」



ようやく休める――そう思った矢先。



「夫婦の寝室に、アリアンディをお連れしなさい」



伯爵夫人が側にいたメイドへ命じた。



「え?」



私より先に、モズリンが驚きの声を上げた。



「奥様、2人はまだ結婚式前ですわ」


「あら、夫婦も同然だわ。少し早くてもいいじゃないの。あなたもそう思うでしょう、オリフタン?」



伯爵夫人の視線に促され、オリフタンと初めて目が合っ た。



無表情の瞳が一瞬だけ私を捉えたが、すぐ逸らされた。



「母上がそう言うなら、構いません」



冷たい声。



私が困惑しているのは分かっているはずなのに。



「お言葉ですが、アリアンディ様は長旅でお疲れです」


「モズリン……」



ああ、本当に頼もしい。



『嫁ぎ先にも同行します』と彼女が言ってくれた時の安心感を思い出した。



だが伯爵夫人は、モズリンを鋭く見下ろし、冷たく言い放った。



「この家も、この領地も、すべて私に一任されているの。新参者が口を出す問題ではありません」


「失礼しました。ですが、大事なお嬢様をお守りするよう、侯爵家から強く――」


「いやだわ。初夜が数日早まるくらい、侯爵様は何とも思わないでしょう?」



……確かに、お父様はそうかもしれない。お母様は激怒するだろうけれど。



「あまり口うるさいようなら、オランジ子爵のもとへお帰りいただくことになりますわよ?」



さすがに黙っていられない。



「マルゼンダ伯爵夫人、お言葉ですが――!」


「お嬢様、お止めください」



反論しようとした私の腕を、モズリンが強く握る。



ここは敵陣――私たちは弱者だ。



「……分かりました。オリフタン様のお部屋に伺います」



逃げ場はない。



「賢いお嫁さんで良かったわ。ねぇ、オリフタン。あなたもそう思うでしょう?これなら早く孫にも会えそうね」



伯爵夫人は値踏みするように私を見て、高らかに笑う。



オリフタンは、どこか小馬鹿にしたように片唇だけで笑った。



――あれ?



どこかで見たような、嫌な笑い方。



「母上、俺は先に失礼します」



関心もなさそうに席を立ち、オリフタンは部屋を出て行った。



「愛想のない息子でごめんなさいね」



これ以上話す気はない――そう言うように、伯爵夫人はメイドに命じた。



覚悟を決めるしかない。



それが明後日であろうと、今夜であろうと、来るべき日は来るのだ。



心配そうなモズリンに笑みを見せ、私はメイドに付き従って部屋を出た。

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