71章Side:潤奈③ 電脳に潜むデュラハン
通信してきた虎城にすぐに向かうと返事をした後、司令室まで急ぎ足で向かう潤奈と大樹。通路のライトは何度も点滅し、室内モニターも画面が乱れている。研究員たちも原因究明のために走り回っていた。
「…大樹、その…聞いてくれる?私がマーシャルと何を会話してたのか…。」
「ん?」
潤奈は仲間には言うべきだと思って大樹に話そうとする。
「いや、いいぞい、別に。潤奈ちゃんがスパイだとか、裏切るとかありえんし。マーシャルは潤奈ちゃんの妹なんじゃろう?なら、積もる話もあるだろうしな。だから、今は聞かんでいいよ。」
「…そ、そう?…うん、そっか…。わかった。ありがとう、信じてくれて…。」
「仲間なら当然さぁ。」
「あっ、カサエル!俺の台詞を取るんじゃない!」
「…ふふっ、急ごう…!」
大樹はそう言ってくれたが、潤奈はマーシャルを姉として止めたい、救いたいと思い始めている事はいつかみんなに伝えないといけない、と思いながら前に進んだ。潤奈と大樹は少し息切れしつつも何とか司令室に辿り着いた。さすがに司令室のセキュリティは頑丈でまだ異変は起きていないようだった。問題なく、フリーパスとパスワードで自動ドアが開いた。
「おぉっ、潤奈君!大樹君!よく来てくれた!」
司令が振り向いて潤奈と大樹の方を見た。
「一体何が起きているんじゃい、司令?」
「あぁ、実はデュラハン・パーク内に強力なウィルスが侵入したようなんだ。」
「…ウィルス…?」
虎城がモニターにデュラハン・パークのマップを映す。
「現在、他のエリアには異常は見られません。会社エリアのネットワーク内に潜んでいるようです。」
「普通のウィルスではないな…。何かを探すようにうろうろしていて、まるで意思があるかのようじゃ…。」
博士が開発エリアの研究室から通信を送ってくる。
「…司令、実はお話が…。」
「ん?何かね?」
潤奈はさっきまでマーシャルが食堂にいた事やデストロイ・デュラハンがこの騒ぎの原因だという事を報告した。
「…なるほど、わかった。この事態はバドスン・アータスのマーシャルが引き起こした出来事で、新型のデストロイ・デュラハンによるハッキング攻撃によるもの…という事か。」
「…はい、そうです。」
潤奈は申し訳なさそうに下を向く。
「幸い、デュラハン・パークのサイバーセキュリティは強固なものじゃ。そう簡単には幾重ものファイヤーウォールは突破できんはずじゃ。」
「だが、マーシャルは一体何が目的で会社エリアにサイバー攻撃を仕掛けたのかがわからない以上、直ちに対処するに越した事はない。」
「じゃが、デストロイ・デュラハンがどこから攻撃してきているのかがわからん。虎城君、街中に三機のドローンを飛ばしてデストロイ・デュラハンとそのパートナーらしき不審な人物を捜すんじゃ!調査員も手配するんじゃ!」
「了解です!」
虎城は右耳につけた片耳通話イヤホンでスタッフに連絡をしながら、ドローン三機を飛ばす手配もする。
「…あの、司令。フォンフェルなら、ネットワークに侵入してデストロイ・デュラハンと戦えるかもしれません。」
「何?潤奈君、何か考えがあるのかね?」
「…はい、サイバーヘッドならネットワーク内で戦闘が可能です。」
そう、潤奈が持つサイバーヘッド。道人と初めて会った時に道人を実験エリアまで導いたヘッド。外部からパーク内の自動ドアを開けたり、監視カメラの映像を誤魔化したりできるヘッドだ。ディサイド・デュラハンは電子ゲームへのインストールは不可能だが、サイバーヘッドを使ったフォンフェルなら例外だ。
「そうか、確かにそのヘッドなら…。しかし、それだと…。」
「…はい、サイバーヘッドの制限時間三分以内で敵を倒さないといけない…。」
「まず捜索から始めないといけない上にその後、見つけてすぐに戦闘して倒す…。三分では難しいかもしれないな…。だが、サイバーヘッドを使うというのは良い着眼点だ。ふむ…。」
司令と潤奈は何とかサイバーヘッドを活かせないかと思考する。
「なぁっ、潤奈ちゃん。見つけた後、誘い出すというのはどうじゃろう?」
「…えっ?誘い出す?」
潤奈と司令はほぼ同時に大樹を見る。
「そう、サイバーフォンフェルがデストロイ・デュラハンを見つけた後、挑発し、誘い込むんじゃ。戦闘するのは…こっちに任せればいい。」
大樹はスマホに映る自分のデュエル・デュラハン「ルートタス」を潤奈と司令に見せる。
「…デュエル・デュラハン…?」
「司令、会社エリアにはデュエル・デュラハンを遊ぶ設備はあるんですか?」
「あ、あぁ、デュエル・デュラハンはこの街では大流行ゲームだ。会社エリアに限らず、色んなエリアの休憩室でも遊べるようになっているよ。」
「よしっ!」
大樹はそれを聞いてガッツポーズを取った。
「作戦はこうじゃ!サイバーフォンフェルがデストロイ・デュラハンを挑発し、デュエル・デュラハンのオンラインバトル場に誘い込むんじゃ!オンラインバトル場に連れて来たら、すぐにオフラインにしてデストロイ・デュラハンを閉じ込める!そこを俺のルートタスが叩き潰すという戦法じゃぁっ!」
「何て、ビューティフルな作戦なんだぁ〜っ…!」
グルーナがロックが解除された自動ドアを手動で開いて監視役と共に司令室に入る。
「…グ、グルーナさん?」
「あぁ、私が呼んだんだ。早速力を貸してもらおうと思ってね。」
グルーナは大樹に近づいてハグし、頭をごしごしと撫でた。
「私は頭が良い子が大好きさぁ〜っ!もちろん、悪い子も大好き!どっちも私のインスピレーションを刺激してくれるからねぇ〜っ…!」
「グ、グルーナさん…む、胸が…!?」
「一生もんの経験さぁっ、大樹〜っ。良かったさぁっ、大樹の考えが褒められて。」
司令が咳払いするとグルーナは大樹から離れて立った。
「OH、ソーリー!つい昂ってしまった…。」
グルーナは右手を額に当てて顔を左右に振り、やれやれとポーズを取る。解放された大樹は顔が真っ赤になって頭から煙を出してフラフラする。
「デュエル・デュラハンで戦うんだったら、私のキャロルナちゃんも手伝うわ!戦闘向きじゃないけど、サポート能力は豊富なんだから!」
「ふむ…。このデストロイ・デュラハンの性質がわからない以上、多人数で早期決着をして次の相手の動きにも即時対応できた方がいいな…。よし、私も行こう!」
「えっ!?司令自らがっ!?」
大樹が正気を取り戻し、驚いた。
「何、私も休日は息子や妻と一緒にデュエル・デュラハンを遊んでいてね。カスタマイズには自信がある。任せたまえ。」
「潤奈さん、ちょっといいですか?そちらに行こうにも手が離せなくて…。」
虎城に呼ばれたので潤奈は走って虎城の隣に立った。
「…何ですか、虎城さん?」
「良かったら、私のデュエル・デュラハンを使って下さい。」
虎城は机に自分のデュエル・デュラハン「エリンツ」が映ったスマホを置いた。
「…えっ?いいんですか…?」
虎城はモニターに視線を向けながら、キーボードを叩いて潤奈と会話する。
「えぇ、私はここから動けませんから…。
大丈夫!私が水縹星海岸の町内大会に出られると思うくらいには実力があって、頼れる子です!きっとお役に立てるはずですから!」
「…虎城さん…。わかりました、大切にお借りします…!」
潤奈はお辞儀した後、司令たちの元へ戻る。虎城は潤奈のお辞儀を少し横目で見た後、笑んだ。
「よし、善は急げじゃ!俺ら、留守番組の防衛力を道人たちに見せてやるぞい!」
「「おぉーっ!!」」
潤奈たちは司令室から出て、同じ階にある休憩室まで走る。休憩室にはデュエル・デュラハンの筐体が確かにあった。大樹はスマホ接続用コントローラーを見つけ、潤奈たちに手渡した。
「バトルロイヤルモードでセット!よし、筐体にデュラハンをインストールじゃ!」
スマホから電波を飛ばし、筐体の映像にルートタスたち四人のデュエル・デュラハンが集結する。
「これで配置完了って訳ね!腕が鳴るわ!」
「なぁっ、大樹。あっしは何かする事ないさぁっ?」
カサエルがデバイスから声を上げた。
「すまんな、カサエル。お前をボディにインストールして外回りさせてもいいんじゃが、今から格納庫行くのは時間が掛かるし…。今回は俺らを応援しててくれ!」
「わかったさぁっ、一生懸命応援するさぁっ!」
カサエルはデバイス内の画面で張り切った。
「ねぇ、私のルレンデスは外に行かせてもいいんじゃない?ルレンデスはデバイスには戻らない仕様だし。」
「まぁ、そうだな。わかった。博士に連絡しておこう。」
潤奈はみんなの頑張りようを見て、このメンバーならやれるという気がどんどんしてきた。
「…よし、フォンフェル!」
潤奈が右手の指を鳴らすと即座にフォンフェルが出現する。
「はい、主。何時でも行けます。」
「ワオッ!?何っ!?今の登場方法!?まさにジャパニーズニンジャ、ネッ!!」
「ど、どうも…。」
フォンフェルは近くのルーターに手を当てる。潤奈はディサイドネックレスを出現させ、カードを実体化させる。
「…じゃあ、行くよ!ヘッドチェンジ!サイバーヘッド!」
潤奈はカードをデバイスに読み込ませる。
『あなたは危険が伴う電子の海に友を送り出す覚悟はありますか?』
「…フォンフェルの事、信じてる!」
『信頼確認。』
フォンフェルに銀色の近未来的なレドームがついた頭がつき、肩にレーダーアンテナがついた姿になる。触れている右手を伝ってルーターに自分の電子分身体を送り込む。空には色んな電波線が飛び交い、パソコンの基盤のような青と緑の地面に着地した。潤奈のデバイスにもフォンフェルの見ているものが映し出される。
「さぁ、まずは三分以内にデストロイ・デュラハンを見つけなければ話にならない…!いざ、参る!」
サイバーフォンフェルは電脳空間を物凄い速さで駆けた。




