71章Side:潤奈② シスターズ・トーク
マーシャルと気まずい雰囲気になる潤奈はどう接するべきか考えていた。聞くべき事、問い詰める事、たくさんあるはずなのに急な遭遇でうまく言葉が思いつかない。とりあえず、フォンフェルにはいつでも行動できるように控えてもらっている。何となくお好み焼きを一口食べるとマーシャルがお好み焼きが気になっているのに潤奈は気づく。
「…一口、食べてみる?」
「えっ?いや、別に…。」
マーシャルは視線を逸らす。マーシャルは本当は興味があるのに本を読んだり、視線を逸らしたりして誤魔化す癖がある。そこは子供の頃と変わっていないようで少し安心する。
「…いいよ、待ってて。」
潤奈は箸で少し切り分け、空いている小皿にお好み焼きを乗せて差し出した。使っていないフォークも渡す。
「…はい、どうぞ。」
「…じ…じゃあ、一口だけ…。」
マーシャルはフォークでお好み焼きを刺し、口に入れる。
「…! 美味しい…。」
「…! そう?良かった! …よし、待ってて!」
「あっ、ちょっと…!」
潤奈は立ち上がって食券売機の前に立つ。再びお好み焼きを店員に頼み、マーシャルのいる席に戻った。
「…お待たせ、新しく頼んだよ。少し待ってて。」
「いや、一口だけって…。私は別に姉さんと食事をしに来た訳では…。」
「…せっかくだから、色々話し合おうよ。普段は戦いの場所でしか会えなくて、こんな機会滅多にないから。」
「…わかりました。まぁ、いいでしょう。」
マーシャルも覚悟が決まったのか潤奈を真っ直ぐ見る。
「…じゃあ、早速聞くけど…。」
マーシャルは潤奈が何を聞いてくるか警戒し、身構えている。
「…その服、どこで買ったの?」
マーシャルは無言で椅子から転がり落ちた。
「…だ、大丈夫?」
「それっ!?初めに聞く事がそれですかっ!?あなたは!?」
「…う、うん。マーシャルが綺麗な服、着てるの初めてみたから…。何だか、嬉しくって、気になって…。」
「もう…。」
マーシャルは立ち上がり、椅子に座り直す。
「…御頭デパートで君も変装しないかとグルーナから渡されていたものですよ。似合わないでしょ、私にこれは。」
「…ううん、そんな事ないよ。すごくよく似合ってる。そっか、グルーナさんがコーディネートしたんだ、なるほどね…。」
そんな話をしていると店員さんが気遣って新たに頼んだお好み焼きをマーシャルの前に運んでくれた。
「あ、ありがとうございます…。では、いただきます…。」
マーシャルは割り箸を二つに割って黙々と食べ始める。
「…美味しいでしょ?稲穂っていう私の友達がね、この食べ物を教えてくれたんだ…。お姉ちゃんのおすすめなんだから。」
「そうなんですか?後、姉ヅラは禁止です。不快です。私たち、敵同士なんですよ?」
「…えぇーっ、そんな事言っても私はあなたのお姉ちゃんだもん…。そこは永遠不変だよ?」
「…まぁ、それは…そうなんですけど…。」
マーシャルとの食事はもっとギスギスするものかと思ったら、以外にも和やかだった。潤奈は久々にマーシャルと二人で話してみてわかった。マーシャルは変わってなんかいない。子供の頃に一緒に遊んでいた自分の妹だ、と潤奈は確信した。別に豹変して私たちを裏切った訳じゃなかったんだ、きっと訳があったんだ、と考えるようになった。
「…そういえば、姉さん。」
「…ん?」
潤奈はストローでウーロン茶を飲んでいる。
「姉さんは道人が好きなんですか?」
「…!? げほっ、こほっ…!」
潤奈が急に頬を染めたかと思ったら、咳き込み出した。昨日も同じ目に遭ったような、と潤奈は思う。
「…ひゃ、ひゃんでそんな事を…?」
「ふふっ、服の話のお返しです。その反応を見るとやはり…。」
マーシャルは右肘を机に置き、右頬に右手を当てて、少しにやけて潤奈を見る。
「…ち、ちが…う、と…は…い…?」
「ふふっ…。姉さん、道人と会って変わりましたからね…。勇気や自信がついた、というべきか…。何度こやつめ、と思わされた事か…。特に御頭デパートでグルーナを説得する姉さんは私には輝いて見えた…。まさか、この私が忘れていたなみ…。」
そう言い掛けてマーシャルは言うのをやめる。何か思い出したのか、頬を染めて恥ずかしがっている。
「…なみ?」
「いえ、何でもありません…。」
マーシャルは誤魔化すようにお好み焼きを食べる。しばらく沈黙が続いた。
「…ねぇ、今からでも遅くないよ。バドスン・アータスなんかやめなよ。私と一緒にまた暮らそう?」
マーシャルはお好み焼きを挟もうとする割り箸を宙で止める。
「…今更、無理でしょう…。私は自分の作った発明で多くの惑星を滅ぼすのに加担した大罪人です…。父…あの男も私が間接的に殺したも同然…。もう以前の暮らしには戻れませんよ…。
「…あの時、何か訳があって、私とお父さんを裏切ったんでしょう?それを聞かせて、マーシャル。」
マーシャルは割り箸を皿に置いた。
「…姉さん、勘違いしないで欲しい。私はダジーラク様の片腕的存在。家族は捨てたんです。」
「…嘘。マーシャルはそんな事できない子だよ。」
「っ…! …なら、この話はどうです?父はディサイド・デュラハンの設計図はバドスン・アータスは知らないと思っていたようですが、私はある日の夜、その設計図を一目見て覚えてしまったんです。」
潤奈は静かにマーシャルの言葉を聞く。
「そして、シユーザー様に教えた…。つまり、姉さん!あなたは必死で設計図を守って逃亡生活を続けていましたが、とっくにディサイド・デュラハンの設計はバドスン・アータスにバレていたんですよ!」
「…だから、デストロイ・デュラハンとディサイド・デュラハンには設計が似通った所がある…。」
潤奈は右手を口に当てて思考する。
「…? 意外と冷静ですね?もっと私を軽蔑するものかと…。」
「…うん、確かに事実なんだと思う。でも、今の話、マーシャルは嘘も混ぜているね。」
「えっ…?」
マーシャルは取り乱さない潤奈を見て唖然とする。そう、潤奈は昨日、名無しのドラゴンとの会話でわかっている。マーシャルも地球の意思によって用意された才能を開花させる導火線を持っているかもしれないと。それが設計図を見た瞬間に開花し、制御できなくなって過ちを犯したのだろうと。
「…仮説だけど、マーシャルは私とお父さんを助けるためにわざとシユーザーに設計図を教えた。そうすれば、もうお父さんを追いかける理由がなくなる。娘の私の方が優秀だから、もう狙う理由はないだろうって。」
「………。」
「…でも、シユーザーは父を殺した。私も追われるハメになった。でも、それはマーシャルにとっては想定外だった…違う?」
「…ははっ!よくもまぁ、そんな理想論を
すらすらと!どうして、こんな私を蔑まない?」
「…だって、私はあなたのお姉ちゃんだもの。他の誰があなたを許すって言うの?」
「なっ…。」
潤奈の優しい微笑みにマーシャルは頬を染め、沈黙する。
「…敵いませんね、姉さんには…。もう正直に言いましょう。私は…別に姉さんを嫌いになった訳じゃない…。」
「…うん、知ってる。」
「嫌いになろうとしただけです。でも、今この時のこの甘えよう…。姉妹の仲というのはなかなか切れないものです…。」
「…私たち、ご近所さんの間でも仲良し姉妹って言われてたもんね…。何だか懐かしくて、誇らしいな…。」
マーシャルは机に置いていた割り箸を強く握る。
「だが、私はそれでも…父を、あの男だけは許す事はできない…!自分でもわかってる…!この感情は逆恨みだ…!それでも…!」
「マーシャル…?」
「お〜い、潤奈ちゃん!」
潤奈は自分の名前が呼ばれたので後ろを向く。大樹が手を振って走ってきた。
「いやぁっ、やっと用事が終わったぞい!ごめんな、遅れて…って、潤奈ちゃん、一緒に座っているのは…!?」
大樹はマーシャルを見て身構える。マーシャルも立ち上がる。
「…すごいべっぴんさんじゃなぁっ!潤奈ちゃんの知り合いか?」
マーシャルは再び地面に転がる。
「…あぁっ、マーシャル!せっかくの服が汚れちゃうよ!」
「心配するのそこですか、姉さん!?」
マーシャルはやれやれと服についた汚れをはたいて立ち上がる。
「よく見たら、お前はマーシャル!?何故こんな所に!?」
大樹が身構えると室内の電気がちかちかし、室内のテレビにノイズが走る。
「…何…?」
「…始まりましたか…。姉さん、私はやはり引き返せませんよ…。私が作った新たな罪、デストロイ・デュラハンが動き始めました…。」
潤奈と大樹のデバイスから通信音が鳴り出す。
「…姉さん、もしあなたが私を止められると言うのなら、このデストロイ・デュラハンを倒して証明して下さい。私に希望があるんならね…。」
「…わかった、私が証明してあげる…!必ず倒してみせるから…!」
「ふっ…。」
マーシャルは潤奈に背を向ける。
「…姉さん…。今日は…楽しかった…。お好み焼き、ありがとう…。」
そう言うとマーシャルは即座にワープした。よく見るとマーシャルにあげたお好み焼きは完食されている。
「…素直じゃないね、もう…。さぁ、大樹!急ごう、司令室へ!」
「お、おう!」
潤奈と大樹は走り、司令室へと向かった。




