70章 アトランティスのデュラハン
海音の口から超古代都市アトランティスの名前を聞き、驚愕する道人たち。
「ねぇ?なんでみんな、そんなにおどろいてるの?」
「私たちもそのアトランティスというのが、よくわからないのだが…。」
スランやジークヴァルたちが説明を求め、道人が答える。
「アトランティスっていうのは簡単に言うと、太古の昔に海底に沈んだ幻の大陸って言われている場所なんだ。まさか、実在するなんて…。」
「デュラハンやドラゴンや宇宙人が実在したんだ。アトランティスが実在しても驚く程の事でもねぇのかもしれねぇな。」
確かにこの十一日間、短い間に色んな不思議な現象を目の当たりにしてきた。今更驚く事でもないと言われたらその通りなのだが、それでも驚くと思うけどなぁ、と道人は思う。
「でも、何でアトランティスが日本の水縹星海岸にあるの?」
「アトランティスの場所はジブラルタル海域の外側とか、エーゲ海のキクラゼス諸島とか、地中海と大西洋の間だとか、諸説あるわね。」
愛歌の疑問を大神は即座にノートパソコンで調べて答えた。
「この水縹星海岸にあるのはアトランティスへ通じる異次元トンネルの扉であって、アトランティスの正確な居場所は私にもわかりません…。皆さん、ビーストヘッドの方とは昨日お話したんですよね?」
「えっ?海音さん、ビーストヘッドの事知ってるんですか?」
「えぇ、知り合いがいるんです。道人さんたちは何でも試練を受けられるのだとか。後でお教えしましょう。」
海音の話から早くもビーストヘッドの居場所を一つ知る事ができて道人たちは喜んだ。
「なら、多元分岐の話は聞いていますね。この世界のアトランティスも本来とは違う分岐を辿って誕生した別存在なのです。アトランティスが何故、沈んだのか?皆さんはご存知ですか?」
「噴火、津波、隕石…。人々に病気による耐性がなかった、だとか。発見した未知の鉱物によって人々が魔物に変貌したなど、これも諸説あるわね…。」
大神がわかりやすいようにまた即座にノートパソコンで調べてみんなに教える。
「はい、この世界の分岐結果ではオリハルコンで造られたデュラハンの暴走によってアトランティスは沈んだ事になっています。」
また海音から驚きの事実を聞いて道人たちは驚いた。
「すまねぇ、道人…。前言撤回だ…。やっぱ驚く。」
だよね、いいさと道人は深也に対して笑顔でサムズアップする。
「おりはるこんって?」
「すまない、話の腰を何度も折って…。」
またスランとジークヴァルたちが説明を求めたので道人が簡単に教える。
「アトランティスに存在した、かなり硬度が高い幻の金属の事だよ。」
「そうです。皆さん、申し訳ないんですが…。そのアトランティスのデュラハンは誰が作ったのか、何故暴走したのか、それは私にもわかりません…。私が地球に来る前の話ですから…。」
海音は窓の外の青空を見る。
「私が知っているのは、そのアトランティスから来たデュラハンのパートナーが異次元トンネルから出てきて、死に際にデュラハンの頭とハーモニカをそこに住んでいた魚たちに託した…という事だけなんです。」
「えっ?デュラハンの頭…ですか?」
愛歌が気になった事をすぐに海音に聞いた。
「はい。それが先程私が申していた禊の場所に『隠してある物』…。そこに今でもデュラハンの頭があります。キャルベンはそれとハーモニカを狙っているのです。」
「そんな物がこの水縹星海岸に…。あの、海音さん。あたしたちにその頭を見せてもらえないですか?」
「あの頭は人は愚か、生き物が近寄る事を極端に嫌います…。残念ですが、それは難しいでしょう…。私は毎日、その頭にハーモニカの清めの音を聞かせに行く事を義務付けられています。一日足りとも欠かしてはならないと…。私に扉の門番を任せてくれた魚がそう教えてくれました…。」
海音は両手に持ったハーモニカを強く握る。
「なので、皆さん。申し訳ありませんが、私はここを離れる訳にはいきません…。せっかくスランとディサイドできて、私もデュラハン・ガードナーの一員となりたいところなのですが、私がデュラハン・パークに行く事は難しそうです…。」
「それは…仕方ないですよ、海音さん。」
道人が真っ先に申し訳なさそうな海音に言葉を掛けた。
「キャルベンがアトランティスへの入口を狙っている以上、水縹星海岸を奴らは今後も攻めてくるでしょうから。海音さんとスランはここの守りをお願いします!」
「大丈夫!デュラハン・パークはあたしたちが守りますから!海音さんとスランは滅茶苦茶強かったし!ここの守りは安心して任せられます!」
「海音、困った時は俺らを呼べよ?絶対駆けつけるからな!」
「皆さん…!」
「あ、そうだ。海音さんと連絡先交換する話だったよね?今、やっちゃおう!」
愛歌はそう言うと道人、深也と共に海音に近寄って連絡先交換を始める。
「全く、みんな勝手に決めちゃうんだから…。」
「あ、ごめんなさい、大神さん…。」
「いいのよ、道人君。事情は私も納得できたし。私が司令たちに報告しておくわ。ここが大人の腕の見せどころってね!」
そう言うと大神はノートパソコンのキーボードを素早く指で叩く。その後、海音との連絡先交換が終わった。
「ありがとう、皆さん!ここの守りは私とスランに任せて下さい!」
「うん!がんばろうね、みおん!」
「はい! …皆さん、まだ話すべき事がたくさんあります。続けましょう。」
道人たちはまた床に座り、海音の話を聞く姿勢を取る。
「次に私の正体の話です。もうお気づきでしょうが、私はこの星の人間ではありません…。実年齢も十六歳ではありませんし、末裔でもありません。皆さんを騙す形になって申し訳ありません…。」
海音は頭を下げて謝った。クラちゃんはスランの右肩から飛んで、海音の左肩に移動して頭を撫でる。
「ありがとう、クラちゃん…。」
海音は優しい顔つきでクラちゃんを撫で返した後、道人たちを見る。
「私は歳を取る事がないので、不自然に思われないために末裔という事になっていました…って、無理があるんですけどね!商店街の人たちは気づいているけど、気にしてないみたいで…。良い人たちです。本当に…。」
海音はここからは見えない商店街の方角の方を向いた後、再び道人たちを見る。
「…私はこの水縹星海岸に伝わる人魚騎士伝説の人魚騎士本人であり、キャルベンの科学力で造られた人造生命兵器です。」
「えっ?人魚騎士本人ってのは察してたけど…。人造生命兵器…?」
愛歌はそう口にすると右にいる道人、左にいる深也を何度も見る。
「えぇ、良い機会ですから話しましょうか…。私がキャルベンを裏切った経緯を…。」




