69章 安らぎのデュラハンたち
水縹星海岸でのキャルベンとの戦いが終わり、道人たちは神殿で待っていた大神と合流し、スランが海音のディサイド・デュラハンになった事などを報告した。大神は急いで博士にも連絡を取ったが、博士たちもそれを聞いて驚いたと言う。捕らえた木倉下は警察に連絡し、連行してもらう事になった。道人たちも警官に連れられる木倉下を見送る。
「ぴぃ〜っ…!」
「あっ、クラちゃん!」
クラーケン改め、クラちゃん(海音&スラン&愛歌&トワマリー名称)は海音の両手から飛び跳ね、木倉下の前に移動する。涙目で木倉下を見る。
「ん…?何だ、お前…?」
「クラちゃん、駄目ですよ?邪魔しちゃ。」
「ぴぃ〜っ…!」
海音はクラちゃんを持ち上げ、再び両手で持つ。
「…そうか、お前か…。そうか…。俺なんかを惜しんでくれるのか?変わった奴だな…。何があったのかは知らねぇが、達者でな…。短い間だったけど、楽しかったぜ…。ケケッ…。」
木倉下はそう言うと警官に連れられてパトカーに乗り、発車した。
「さて、まずは大片付けです!それからお昼ご飯を食べてから、大事なお話をしましょう!」
そう言うと海音たちはキャルベンに荒らされた部屋を片付けていく。
「みおん、これはどこにおいたらいいの?」
「それはですね、そこのタンスの上に…。」
「そこって、どこ〜?」
「ぴぃ、ぴぃっ!」
クラちゃんがタンスの上に乗って何度も飛び跳ねる。
「そう、クラちゃんが今いる場所です。」
「うん、わかった。ありがとね、クラちゃん。」
「よし、僕たちも手伝おう!」
道人たちも片付けの手伝いに入り、すぐに片付いた。現場検証も終えていて、盗まれたものは何もなかったという。片付けの後、海音はすぐに張り切って昼ご飯作りに勤しんだ。スタッフを含め、かなりの数を作るので愛歌たちも手伝った。
「みおん、これでいいかな?」
エプロンをつけたスランはカットを任された野菜を全て綺麗に切り終えて海音に見せる。
「そうです、そうです!器用ですね、スランは!」
「えへへっ…!」
「もう周りと馴染んでるね、スラン。」
「うん、何だかずっと前からいたみたい…。」
道人と愛歌はスランの適応力の高さに感心を抱いた。
「おい、見ろよ、道人…。」
深也は切られた大根を両手に取った後、切断面をくっつけた。すると、元の一本の大根に戻る。
「こ、これは…!?あの…!?」
「あぁ、これが『戻し切り』ってやつだ…!初めて見たぜ…!」
道人と深也はスランの繊細な包丁捌きに感心のキラキラした眼差しを向ける。
「な、なに?どうしたの、道人、深也?」
そうこう戯れながら調理していると料理は完成し、大きなテーブルを用意して出来上がった料理を並べた。
「それでは皆さん、お召し上がり下さい!」
「「「「頂きます!!」」」」
道人たちもスタッフたちも海音たちが作ったご飯を美味しそうに会話をしながら食事を楽しんだ。ジークヴァルたちは道人たちの近くにいて、デュラハン同士でオイルを飲んでいる。ジークヴァルとトワマリーはスランと友好を深めるためにデバイスには戻らずにいた。ジークヴァルたちが食事の席にいるのは珍しくて道人には新鮮に見えた。
「かぁ〜っ…!戦いの後のオイルは格別だぜ…!」
「パークから持ってきたオイルだシ、味はいつも飲んでるのト変わらないじゃン?」
「わかってねぇな、トワマリー!こういうのは大勢で飲むからうめぇんだよ!味も変わんの!なぁ、ジークヴァル!」
ランドレイクはジークヴァルの肩に手を置いて胸の顔でオイルを飲む。
「ははっ!まぁ、そうだな…。」
「もうランドレイク!ジークヴァルに絡みオイルしなイ!ジークヴァル、困ってるでショ?」
「いいんだ。気にしてくれてありがとう、トワマリー。」
ジークヴァルもオイルを一気に飲み干す。
「おっ!いつ見ても良い飲みっぷりだぜ、ジークヴァル!やっぱ、オイルは注入口より口で飲むのが最高だぜ!」
「そんなにおいしいの、おいるって?わたしものめる?」
「あーっ…、どうだロ?調理中に人間の食べ物は何か食べてみタ?」
「うん、みおんもわたしがなにをたべるのか、きになったみたいで、いろいろたべてみたけど、ちょっとわたしには、りょうがおおいね…。すぐおなかいっぱいになっちゃった…。こまかくきった、とうふとかはおいしかったよ?」
「そうなノ…。というカ、シチゴウセンって普段何食べてるノ?」
「んとね、ちっちゃい、こなのかたまりみたいなのとか…。あと、きのみみたいなものとかかな。」
「そうなんダ…。結構、少食なのネ…。オイル、どうだロ?飲めるのかナ…?」
「食べられた物を聞くとスランの味覚は生き物寄りなのかもしれない。よした方がいいんじゃないか?」
「うん。じゃあ、やめとくね。」
スランは大人しく海音たちの食事風景を眺めていた。
「船長たち、うまそうに食ってんなぁっ…!なぁ、俺たち、ディサイド・デュラハンになる前、前世は人間だったって話だろ?生まれ変わる前は料理食べてたんだよな?」
「えっ?ジークヴァルたちの前世…?」
「あ、そっカ。スランは知らないよネ。実はネ…。」
ジークヴァルたちは仲間になったスランに昨日の謎のドラゴンが語った出来事を話した。
「…す…!」
「「「す?」」」
下を向いて身体を震わせるスランを見て
ジークヴァルたちはスランに心配の視線を集める。
「…すっごくかっこいいね…!ぜんせのえいゆう?うまれかわり?すごい、すごい…!」
「そ、そウ?私たち、初めて聞いた時ハ戸惑ったんだけド…。そう感じてもらえたなラ、嬉しいわネ…!」
目を輝かせて喜ぶスランを見てジークヴァルたちは微笑ましかった。
「しかし、そうだな…。詳しくは思い出せないが、私たちの前世にもこんな風に仲間たちと一緒に食事を楽しんでいた事があったのかもしれないな…。」
「わりぃっ!シケた話を振っちまったな!俺らは俺らなりの食べ方で楽しもうや!」
「あぁ。」
道人は近くでジークヴァルたちの会話を聞いていた。自分たちが家やパークで御飯を食べていた時、ジークヴァルたちはどう思いながら見ていたんだろう?どんな味がするのか、気になったりしたのだろうか?前世の記憶が完全に戻ったら、味が恋しくなったりするのだろうか?と色々考えが巡っていた。
(今度、博士にお願いしてみよう。ジークヴァルたちでも食べられる料理ができるかもしれないし…。)
いつか、ジークヴァルたちとも一緒に会話をしながら食事ができたらいいな、と道人は思った。
全員が食事を終え、スタッフたちは外の戦後処理作業に入った。海音たちは大人数分の食器を手分けして片付けて洗った。
「おい、海音。お前も戦った後なんだから、あんまり無理すんなよ?吹っ飛ばされたりしただろ?」
「ご安心を。こう見えて頑丈なんですから、私!」
深也の心配も何のその、あっという間に食器を洗い終えた後、道人たちは床に座った。ジークヴァルたちも床に座る。
「さて、どこから話しましょうか…。」
海音は自分の椅子に座って前に座っている道人たちを見る。
「よいしょ、っと。」
スランは海音の近くの柱に寄っ掛かる。右肩にクラちゃんを乗っけている。
「スラン、あなたも座ってもいいんですよ?」
「あ、ごめん。ばどすん・あーたすのごう=かいだと、こうやって、しちごうせんせんようのはしらによっかかって、ダジーラクのはなしをきくんだ。ついくせで。」
「そうなのですか。なら、スランの慣れてる方で構いません。」
「よし!わたしもすわろう!それが、ちきゅうのきまりなんだね!こうかな?」
スランは柱から離れ、床に座った。その姿を見て海音は微笑んだ。
「早速だけど、海音さん。今朝、この神殿はキャルベンに荒らされていた…。奴らは何かを探していたようだけど、あなたは心当たりがあるの?」
大神はパソコンを起動し、質問を聞く役を担った。
「はい、あります。キャルベンは間違いなく、私が『隠している物』と『常に持っている物』を探していたんだと思います。」
「『隠している物』と『常に持っている物』…?」
「はい。隠しているものはここにはありません。私が日課の禊に行っている場所があって、そこに隠してあります。もう一つは…これです。」
海音はポケットからハーモニカを取り出した。
「ハーモニカ…?」
道人たちは海音のハーモニカをじっと見つめる。
「はい。これはただのハーモニカではありません。これはキャルベンが探し求める場所に必要な鍵の一つ…。私がかつて、キャルベンから助けた者たちから託された者です…。これと禊の場所に隠してある物の二つがないとそこへは辿り着けません。」
「キャルベンが狙う、その場所って一体…?」
愛歌が海音に質問した。
「これは…海底都市アトランティスに行くための鍵です。」
道人たちは一旦沈黙し、
「「「「「え…えぇっ…!?」」」」」
全員揃って驚いた。
「あとらんてぃす…?って、なに?」
スランはみんなが驚いている理由がわからなかった。
「キャルベンはそこにある高度な科学力と封印されている伝説のデュラハンを目覚めさせるのが目的なのです…!」




