67章 リズムで想いを確かめて
アクアアイドルスランはアクアギターに五本の水の弦を張り、音を鳴らした。
「さぁ、みんな!わたしのうたではずんじゃえ!クラーケン、あなたもね!」
アクアアイドルスランは赤・青・黄・緑・紫のヒトデを飛ばしてジークヴァル、ランドレイク、トワマリー、ディアス、海音の右肩に装着する。マイクを宙に浮かせて、アクアギターを弾いて歌い始めるとジークヴァルたちが青く光り始める。
「な…何だ、これは…?」
ディアスは事態が未だ把握できずに自分の両手を何度も見る。
「不思議だ、何故か力が漲る…!」
PBジークヴァルは右手で握り拳を作って自分の力が上がっている実感を得る。
「ちっ、何か理解…!何か良くない流れを理解…!クラーケン、さっさと全員食しちまえ!オレも加勢する!」
グゲンダルは高みの見物をやめ、木から降りてミオンの元へ駆ける。
「くたばれ、ミオン!」
グゲンダルは八つのボルトを宙に出現させ、海音に向かって飛ばす。アクアアイドルスランは海音に対応した弦をメインに弾き、緑のヒトデが発光する。
「スラン、ありがとう!」
海音が目にも止まらぬ速さで八つのボルトを避けて進み、グゲンダルに迫る。
「なっ…!?は、速い…!?」
海音が巻き貝の槍をグゲンダルに向かって突き出すが、グゲンダルはわざと先に地面に倒れて避ける。床をゴロゴロ転がって、海音と距離を取ってから起き上がる。
「行くぞ、ディアス!」
「ふん…。」
PBジークヴァルは右肩のプロペラを外し、ディアスはウイングを外して共にブーメランにして投げる。キャルベンクラーケンは固い甲羅で防ぐが、甲羅にヒビが入る。
「や、やった!あの固い甲羅にヒビが!ジークヴァルたちのパワーが確かに上がってる…!」
道人は愛歌と共にこの戦いの勝利の兆しが見え、喜んだ。グゲンダルは甲羅にヒビが入る音を聞いてクラーケンの方を見る。
「何だと…!?あいつの音楽のせいかっ!?クラーケン!」
キャルベンクラーケンが触手の吸盤から
無数のレーザーを発射しようとした瞬間、アクアアイドルスランはジークヴァルたちに対応した弦をメインに弾き、それぞれのヒトデが発光する。ジークヴァルたちに青い光の壁のようなバリアが付与され、レーザーを防いだ。
「えぇい、鬱陶しい!」
「へぇっ、いいじゃんか!上がって来たぜ!ぶっ放せ、ランドレイク!」
「おうよ!」
パイレーツランドレイクは左手に装飾銃を持ち、地面に四つの大砲を出現させ、キャルベンクラーケンの甲羅に向かって放つ。
「ははぁっ!火力もかなり上がってるぜ!これならぁっ!」
パイレーツランドレイクの激しい砲撃を宙に浮かぶ固い甲羅のヒビに向かって撃つ。甲羅がヒビから砕け、真っ二つになって消滅した。
「甲羅がっ!?てめぇっ…!その音楽は耳障りで目障りだぁっ!」
「スランの邪魔はさせません!」
グゲンダルはアクアアイドルスランの元へ飛ぼうとするが、海音が槍を突き出し、妨害する。
「ちぃっ!クラーケン、そいつだ!今勢いに乗ってるそいつを真っ先に食っちまえ!」
キャルベンクラーケンは両拳を振りまくって周りを飛び回るプロペラジークヴァルたちを散らし、吸盤の無数のレーザーでパイレーツランドレイクも妨害し、アクアアイドルスランに目標を定める。
「クラーケン、あなたはグゲンダルの命令を何で聞くのですかっ!?そこにあなたの意思はあるのですかっ!?」
「黙れぇっ!」
グゲンダルは海音に向かって左手のハサミからビームを放つ。
「いいえ、黙りません!」
海音は貝殻の盾でビームを防ぎ、光の粒子を周りに飛ばす。
「クラーケン、私とあなたが海底都市で初めて会った時もそう!あなたは自分の意思で海底都市を襲ったのではない!」
道人たちは以前、水縹星海岸に来る際に調べた人魚騎士伝説を思い出す。
「あなたは実験兵器として改造されたから、命令に従って海底都市を襲った!違いますかっ!?」
「奴はただの兵器だ!意思など無用の長物!それを理解!」
「実験兵器に改造したのはキャルベンの都合!捕獲されて、改造される前はこの星にただ生きる魚の生命でしょうに!」
「…あぁ〜っ、思い出した、思い出したぁ〜っ…!お前はあの時もそうやって同じ事で怒り、我らに歯向かったんだったなぁっ!」
グゲンダルは右手で握り拳を作って海音を殴りに行くが、貝殻の盾で防いだ。
「そうだ、お前は変わってない!あの時から何も変わってねぇんだ…!」
「変わってなくて結構!」
『みおん、クラーケンのきもち、いまのわたしたちなら、しることができるよ。』
「…! スランなのですか?」
スランが海音に念話を送ってくる。ディサイド・デュラハンになった事で可能になったのだ。
『わたしたちのねがいがかたちになった、でぃさいどへっどなら、いまのわたしたちなら、できる…!』
「スラン…。わかりました!お願いします!」
海音は盾を横に振り、グゲンダルの拳をどけた後、蹴りを入れる。
「ぐっ…!?」
海音は後ろに下がり、槍と盾を宙に浮かせ、デバイスを取り出してディサイドヘッドのカードを実体化させて読み込ませた。
「ヘッドチェンジ!リズムマーメイド!」
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
スランがマイクとギターを宙に投げると今付けているヘッドと共に消える。新たな魚のヒレのような耳がついた頭が装着される。胸部に貝殻がついた装甲、音符が散りばめられたピンクの肩と膝当てパーツがつき、背中に巨大なウイングがついた。
「みせてあげる!わたしとみおんのでぃさいどのちからを!」
リズムマーメイドスランは複数のカラフルな音符を出現させ飛ばし、クラーケンに当てる。当たってもダメージはなく、ただ綺麗な音が響く。
「みおん、いまならわかるよ!クラーケンのきもちが!たずねてみて!」
「は、はい!」
海音はグゲンダルの相手をやめ、高くジャンプしてクラーケンの前に着地する。
「行かせんぞ、ミオン!!」
グゲンダルが海音を追いかけようとするが、ディアスが飛んできて鎌で襲い掛かった。グゲンダルは辛うじて避ける。
「何だ、貴様はっ!?」
「…悪いが、あのスランがやりたい事をあんなにはっきりと行動で示したのは初めてでな。邪魔はさせん。」
「知るかっ!」
グゲンダルは八つのボルトをディアスに向かって飛ばし、交戦に入った。
「クラーケン!あなたの本当の気持ちを聞かせて下さい!」
海音が聞くと宙にたくさん言葉が浮かぶ。
『戦いたくない』『命令』『聞きたくない』『無理矢理』『連れられ』『機械化』『痛かった』『三回も』『改造された』『今も』『食べたくないもの』『身体』『取り込んでる』『嫌だ』
「クラーケン…!良かった…!あなたの気持ちが知れて…!」
「こ、これって…!?」
道人はこの光景に見覚えがあった。自分が夢の中で地球の意思と会った時と同じ会話方法だと気づく。
「クラーケン!あなたは私を恨んでいますかっ!?」
再び文字が宙に浮かぶ。
『恨んでない』『かつての君』『怖かった』『前の戦い』『怖さで攻撃』『してしまった』『ごめん』
「前の戦い…?」
「ほら、愛歌が触手に捕まった時の…。」
道人は愛歌がクラーケンに捕らえられた時の事を思い出し、話す。
「あの時、海音さんが代わりに人質になるって話の時に攻撃してたね。その事を謝っているんだ…。」
「そっか…。」
道人と愛歌は再び宙に浮かぶ文字を見る。
「クラーケン!私はあなたと…!」
「クラーケン、てめぇは兵器だ!発言権はねぇんだよ!」
ディアスとの交戦中に怒りを抑えられず、グゲンダルが叫んだ。
「もういい、不理解!最後の命令だ!暴走モード、起動ぉっ!」
キャルベンクラーケンの目が赤く光り、苦しみだす。
「な、何だっ!?」
もうヘッドの時間切れでランドレイクの近くに着地したジークヴァルとトワマリーが身構える。キャルベンクラーケンにでかい角が生え、触手の本数が更に増える。失った甲羅シールドも復活し、更に禍々しくなった。
「これは…!?」
「デストロイ・デュラハン、だっけ?あれについてたリミッター解除システムを我らが解析し、キャルベンが更に強化したものをクラーケンに取り付けたのよ!」
「くっ…!やはり、デストロイ・デュラハンは気に入らんな…!」
ディアスはクラーケンの元へ飛ぼうとするが、ボルトに妨害される。
「おっと、オレの相手はお前なんだろ?」
「ちっ…!」
ディアスは鎌を握り直し、グゲンダルに襲い掛かった。
「そんな…。」
更に禍々しくなったクラーケンの姿を見て海音は涙する。
「やっと、クラーケンの気持ちがわかったのに…。このままじゃ、また…。」
『まだだよ、みおん。』
スランが念話で会話をしてくる。
「スラン…?」
『まだあきらめちゃだめ。わたしもまだあきらめない…!ぜったいあきらめたくない…!かならずクラーケンもラクベスもどちらもたすける…!だから…!』
「みんなでいっしょにたすけだそう、みおん!」
「…! はい…!」
海音は両手で涙を拭った後、クラーケンを強い決意を秘めた眼差しで見た。




