66章 決心のスラン
「まさか、またこのクラーケンと相対する時が来るなんて…!?」
海音は動揺しながらも、襲い来る触手を槍と盾で捌いて避ける。アンカーシーラも共に避けていたが、三分経過したため、光の玉になって海音のスマホに帰った。
「シーラ、ありがとう…!くっ…!」
キャルベンクラーケンは吸盤から赤い無数のレーザーを放ち、海上が荒れ、海音を更に追い詰める。
「海音!」
深也が海音の身を案じて叫ぶ。
「みおん、まってて!いま、たすけにいくから!」
「俺らも行くぞ、オルカダイバー!」
「えぇ、参りましょう!」
スランは海音の元へ駆ける。 LFランドレイクは両手に装飾銃を出現させ、オルカダイバーは海上で両手のバブルランチャーでスランを援護するが、巨大なキャルベンクラーケンには全く効き目がない。
「ど、どうなってんだぁっ…!?こりゃぁっ…!?俺のクラーケンがぁっ…!?」
木倉下の持っていたデバイスが粉になって地面に落ちる。木倉下の周りを浮いていた自己防衛のための矢尻も粉になった。
「もうお前の役目は終わりさ。理解してさっさと消えな。」
グゲンダルは左手のハサミ内部の砲門を木倉下に向ける。
「う、うわあぁ〜っ…!?」
「あっ、待て!木倉下!」
道人は逃げる木倉下を目で追った。
「うっ!?」
木倉下の逃げる先にディアスが着地し、木倉下の後頭部を軽くチョップし、気絶させて受け止めた。
「道人ぉ〜っ!」
愛歌がBWトワマリーと一緒に箒に乗って飛んできた。道人の隣に着地する。
「お待たせ、道人!何か大変な事になってるね…!」
「愛歌、兵士たちは?」
「大丈夫!もう片付けたよ!」
愛歌は右目でウインクして右手でピースサインをした。
「大神さんが分析してくれてネ、あの分身体たちには頭部にコアがあるっテ事を教えてくれたノ。」
「そう。姿を維持するコア、要は動力部だね。数の多さで困惑しちゃったけど、結構シンプルな仕組みでね。頭を集中的に狙えばいいって事がわかって、トワマリーと加勢に来てくれたディアスで何とか一掃したんだ。とは言っても、コアとか関係なしにほとんどディアスが倒してくれたんだけどね。」
道人と愛歌はディアスを見る。トワマリーはまだBWヘッドが時間切れになっていない。つまり、ディアスはほんの僅かな時間でキャルベンの兵士たちを一掃した事になる。敵としてならぞっとする強さだが、今この場面では頼もしい。
「こいつは戦いの邪魔だ。私が神殿内にいるニンゲンたちに引き渡して来よう。渡し次第、私もクラーケン退治に加わる。」
「あ、ありがとう。助かるよ。」
道人の言葉を聞いた後、ディアスは木倉下の首部分のシャツを後ろから掴んで神殿に向かって飛んだ。
「さて、僕らも海音さんの加勢に行きたいところだけど…!」
道人たちはグゲンダルの防衛をしているラクベスを見て、改めて戦闘体勢を取る。グゲンダルは防戦一方のミオンを見て楽しそうにしている。
「いいねぇっ、いいねぇっ…!もっと苦しめ、ミオン…!もっとだ、もっと苦しむミオンが見たい…!更に圧倒的な力でねじ伏せたい…!」
グゲンダルはジークヴァルたちを見た。
「そうだ、良い事を思いついた…!よし、クラーケン!こいつも、ラクベスも食せ!」
「なっ…!?」
クラーケンはグゲンダルの命令を聞き、ラクベスに向かって触手を伸ばす。
「させるかっ!」
道人とジークヴァルとランスハーライムはラクベスに向かってくる触手に対抗しようと走る。
「おっと!邪魔立て無用!」
グゲンダルは宙に大きなボルトを八つ出現させ、道人とジークヴァルとランスハーライムに向かって飛ばした。
「何だ、このネジは!?」
ボルトが高速回転してジークヴァルたちの周りを飛び回る。ランスハーライムがランスで弾こうとするが、ランスがボルトの高速回転で削れて折れてしまう。
「何っ!?」
「道人、ハーライム、触れるのは危険だ!私のヴァルムンクなら…!」
ジークヴァルはヴァルムンクを振り、何とかボルトを二つぶった斬れた。
「ほう、オレのボルトを斬るとはやるな。だが、足止めは成功だ。」
ラクベスはキャルベンクラーケンの触手に捕まり、そのまま食われた。
「ラクベス!?」
スランがクラーケンに食べられたラクベスを見て思わず叫ぶ。キャルベンクラーケンは更に見た目が変化。ラクベスの巨大な腕が生え、巨大な甲羅を二つ出現させ、宙に浮かせる。
「うわぁっ…!?何よ、あれ…!?」
愛歌がキャルベンクラーケンのあまりの禍々しさに思わず声を上げる。
「これは…!?」
「驚いたか、ミオン!このクラーケンは昔お前が戦ったクラーケンとは違う!お前に復讐するために我がキャルベンの技術力により、吸収・進化能力を得て生まれ変わったのだ!さぁ、次だ!クラーケン!」
グゲンダルの命令を聞き、キャルベンクラーケンは触手を LFランドレイクとオルカダイバーに伸ばす。
「おっと!冗談じゃねぇぞ…!」
「うわぁっ!?」
LFランドレイクは何とか触手に捕まらないようにバックステップを踏むが、オルカダイバーは捕まってしまう。オルカダイバーを掴んだ触手が引っ込み、クラーケンは食べようとする。
「やべぇっ…!?戻れ、オルカダイバー!」
深也はこれ以上、キャルベンクラーケンをパワーアップさせる訳にはいかないと判断し、オルカダイバーを光の玉にしてスマホに戻した。
「チッ、一人消えたか。まぁ、いい!ミオン、お前の目の前で仲間をどんどん取り込んでやる!そして、最後に残ったお前を殺せばクラーケンの復讐も完遂って訳よ!オレは高みの見物させてもらおうか。」
グゲンダルは自己防衛のために浮かせたボルトと共に高くジャンプし、近くの木の上に座った。道人たちはグゲンダルを相手にするのはやめ、キャルベンクラーケンを見る。
「愛歌、ブルームウィッチヘッドが時間切れヨ!新しいヘッドで海音の加勢を!」
「わかった!ディサイドヘッドで行くよ!」
愛歌はエタニティアヘッドのカードを実体化し、デバイスに読み込ませた。
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
トワマリーはエタニティアトワマリーに姿を変え、空を飛んだ。
「トワマリー、クラーケンの周りを飛び回りながら気を逸らしてヒット&アウェイ!みんなを触手から守って!」
「わかっタ、任せテ!」
エタニティアトワマリーはキャルベンクラーケンの元へ飛んでいき、∞リングから無数のビームを撃って翻弄する。
「道人、私たちもクラーケンの元へ向かうが、そろそろヘッドの時間切れが近い…!次のヘッドの交換タイミングに気をつけるんだ!」
「私もそろそろ消える!ドラグーンとして呼び出すタイミングを見極めてくれ!」
「わかった!気をつけて、二人とも!」
ジークヴァルとランスハーライムは頷いた後、キャルベンクラーケンの元へ駆けた。
「すまない。今、合流した。私も加勢しよう。」
ディアスも道人と愛歌のとなりまで飛んできた後、クラーケンの元へ飛んでエタニティアトワマリーと共にキャルベンクラーケンの注意を逸らす。
「ふん!」
ジークヴァルはヴァルムンクの強化された斬撃でキャルベンクラーケンの触手を斬る事に成功するが、すぐに再生した。
「くっ、何という再生速度だ…!?このままでは…!?」
エタニティアトワマリーの弓やディアスのビームのコウモリも固い甲羅で守られてしまい、砂浜にいるジークヴァルたちも触手と巨大な両拳でキャルベンクラーケンに近寄れずにいた。
「くっ、このままでは本当に皆さんがクラーケンに…!くっ…!」
海音は顔を曇らせた後、眉を強めてクラーケンを見て、前に跳ぶ。
「あっ、みおん!うかつにちかづいちゃ…!」
海音は目を見開いて触手と巨大な両拳をあっという間に掻い潜る。
「…私はかつて!地球の生命を守るために、同胞たちを敵と見定め、何人も倒して来ました…!でも、私は後悔した…!だから!キャルベンが目覚め、また敵対する時は倒すのではなく、救いたい、和解したいと…!そう思っていたんです…!」
「みおん…。」
スランは海音の悲痛な叫びを聞いて胸を痛めた。道人たちも以前、愛歌がディフィカルトクラーケンの触手に捕まってしまった時に海音が同じ事を言っていた事を思い出す。
「クラーケン、私はまたあなたを手に掛けようとしています…!私がキャルベンへの決別の証として倒してしまったあなたを…!大事な人たちを守るために…!私はまた、この選択肢しか選べない…!」
海音は涙を流しながら、高く跳び、クラーケンの顔の前で巻き貝の槍を構え、槍に水の竜巻を発生させる。
「ごめんなさい、クラーケン…!私はまた、あなたを手に掛け…あっ…。」
海音はキャルベンクラーケンが両目から涙を流しているのに気づいてしまう。海水で濡れているのではない。間違いなく、クラーケンの目から涙が溢れている。
「…クラーケン、あなたは…。」
海音は右手に持っている巻き貝の槍から力を抜いてしまい、水の竜巻が消滅する。
「…!? みおん、だめ!!」
海音はクラーケンの巨大な拳に殴られる。咄嗟に貝殻の盾で防御するが、海音は砂浜に叩きつけられた。
「海音!?」「海音さん!?」「みおん!!」
スランは血相を変えて海音の元へ駆け寄った。道人たちも駆けつけようとするが、海音が砂浜に叩きつけられたと同時にジークヴァルとランドレイクのヘッドが消え、ハーライムが消えたため、その場を動けなかった。
「くっ…!ジークヴァル!プロペラブーメランで行くよ!」
「ランドレイク、ディサイドヘッドだ!」
道人と深也はお互いカードを実体化し、デバイスに読み込ませる。
『あなたは例えどんな悪天候でも真っ直ぐに飛び続けられますか?』
「どんな困難も乗り越えてみせるさ!」
『承認。』
ジークヴァルにサングラスがついたヘッドが装着され、背中に浮遊ユニット、両肩にプロペラがつく。町内大会で深也と闘った時にハーライムに使ったヘッドだ。PBジークヴァルは空を飛び、エタニティアトワマリーとディアスと共に空からクラーケンを攻める。
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
ランドレイクはパイレーツランドレイクになり、大砲を出現させてキャルベンクラーケンを撃つ。
「みおん、だいじょうぶ?しっかり…!」
「…ん…?スラン…?」
「よかった…!いしきはあるね…!どこかいたいところはある?」
「海音さん!」
道人と愛歌が海音の元へ駆けつける。道人は着いた後、後ろを向いてクラーケンから三人を守りながらジークヴァルに指示する。スランに手を貸してもらい、海音は上半身を起こした。
「…私は、見てしまいました…。クラーケンの涙を…。」
「えっ?なみだ…?」
スランたちはここからは確認できないが、クラーケンの方を見た。
「クラーケンは喋る事ができないし、何を考えているのか…。それは私にも、グゲンダルにもわかりません…。でも、私にはクラーケンが私への復讐のために戦っているようには見えなくなりました…。あの涙を見たら…。」
「うん…。」
「もちろん、これも私の勝手な推測です…。何が原因で泣いているのか、それは本人にしかわかりません…。私は自分の行動に迷いを抱いてしまいました…。」
「みおん…。」
スランは海音の右手をぎゅっと右手で握り締めた。
「スラン…?」
「…みおん、わたしね。ダジーラクさまにいわれたんだ。おまえにはせんしのかくごがたりない、なんでもいいから、いのちをかりとってこいって…。」
「はい…。」
海音は静かにスランの言う事に耳を傾ける。
「わたし、うまれたばかりで、まだせんしのありかたとか、そういうのはわからなかった…。でもね、みおんのさっきのことばをきいて、おもったの。わたしはやっぱり、いのちをかりとることはできないって。だって、さっきクラーケンをたおそうとしたみおん、とてもつらそうだったから…。」
「スラン…。」
海音の両目に涙が溜まりだす。
「わたしはみおんのかこに、なにがあったのかはわからない…。でもね、いのちにたいして、しんけんに、しんしにむきあうみおんのすがたをみて、わたし、おもったんだ…。わたしがなりたいのはみおんみたいな、せんしだって!ほかのわくせいのいのちをかりとる、はかいのせんしにはなりたくない!わたしはみおんのような、やさしさとつよさをかねそなえた、つよいせんしになりたいって!」
「スラン…!」
海音の両目から溜まったら涙が溢れ出す。
「このきもちは、わたしがこのせかいにうまれて、はじめていだいた、あこがれの、なりたいじぶん…!そう、そうだよ…!これがわたしなんだ…!」
スランは海音の影響を受け、なりたい自分を見つける事ができ、目を輝かせる。
「みおん、じぶんじしんをあきらめないで…!わたしもあなたのやりたいことをてつだうから!いまからわたしとあなたのゆめはおなじ!いっしょにおなじけしきをみよう?」
「スラン…!」
その時、海音とスランが強い温かな光を発生させ始める。
「な、何だ…!?あの光は…!?」
高みの見物をしていたグゲンダルも慌てて見る。
「これって…?」
海音の頭上から光の玉が降りてくる。海音が光の玉を両手で掴む。光の玉はディサイドデバイスに変化する。スランと同じ澄んだ青色のデバイスに。
「えっ!?嘘でしょっ…!?」
「シチゴウセンと、ディサイドしちゃった…!?」
道人と愛歌は共に驚く。海音の首にディサイドネックレスも出現する。
「ディサイドって…。私とスランが、道人さんやジークヴァルさんたちと同じ関係に…?」
「わたしと、みおんが…? …やった、うれしい…!すごい、すごい!やったぁっ!あははっ!」
「ちょ、ちょっと!スラン、くすぐったいです…!」
スランはあまりの嬉しさに海音を抱き締めて頬同士をくっつけてすりすりした。
「みおん、たてる?いまから、わたしたちですくおうよ!クラーケンも、ラクベスも!なにいわれたってかんけいない!ふたりでわたしたちのわがままをつらぬきとおそうよ!」
「はい…。はい…!スラン、一緒に!同じ理想を求めて…!」
海音はスランの手を借りて立ち上がり、デバイスを確認する。
「よし!行きますよ、スラン!ここからが私たちの新たなスタートです!」
「みおんとなら、どこまでも!いっしょにかけぬけてみせる!」
海音とスランが放つ光が更に強くなる。
「海音とスランが?マジかよ…。」
深也は遠くで輝いている海音とスランを見て笑みを浮かべる。ジークヴァルたちやクラーケンも光を見て動きを止めている。
「馬鹿な…。バドスン・アータスが、シチゴウセンのスランが…人魚とディサイドだと…?そんな事が…?ディサイドとは一体…?」
ディアスもスランに起こったディサイドを見て驚きを隠せないでいた。
「な、何だ…?何が起こった…?不理解…。」
グゲンダルも周りが驚いている理由がわからず、困惑している。
「早速、行っちゃいましょう!スラン、ヘッドチェンジです!」
「おっけー!やったろうよ、みおん!」
海音はカードを実体化し、デバイスに読み込ませる。
「ヘッドチェンジ!アクアアイドル!」
『あなたはいつまでも透き通った清らかな願いを持ち続けられますか?』
「今日から!」
「ふたりで!」
「「いつまでも!」」
『仲良い。』
スランに大きな青いリボンがついた頭が装着される。青いミニスカートのような装甲が足され、アクアギターを肩から下げ、右手にマイクを持った姿になる。スランはマイクを一旦宙に浮かせた後、横に一回転してマイクを改めて掴む。
「さぁ、わたしとみおんのおんすてーじ、かいまくだよ?」




