57章 開戦 DULLAHAN WAR
「…かっ…。」
「…か、勝った…。」
愛歌と潤奈がお互いに見つめ合う。
「み…道人と!」
「…ジークヴァルと!」
「ハーライムが!」
「「…勝ったぁぁぁぁぁ〜っ…!」」
二人で抱き合い、何度も飛び跳ねる。その様子を見て微笑むグルーナ、ルレンデス、トワマリー、フォンフェル。
「か、勝てた…。ははっ…。」
道人はダジーラクに勝った途端に緊張の糸が途切れたのか、騎士甲冑が消える。右腕のガントレットと両足の追加装甲はそのままで人間の姿に戻り、地面に尻餅をついた。ハーライムもスマホに戻り、ジークヴァルは通常形態に戻り、座った。
「ああ、私たちはダジーラクに勝ったんだ、道人…!」
「うん…!」
「み、ちとぉ〜っ…!」
「うおぉっ!?愛歌!?」
「…てぃっ!」
「じゅ、潤奈まで…!」
愛歌、潤奈が走ってきて道人に抱きついた。
「道人、やったね!何か鎧を着込んだ時はどうなる事かと思ったけど…!」
「…道人、平気?何ともない?」
「な、何ともないって…。ははっ…!」
道人は身体の異常とかよりも愛歌と潤奈が抱きついている現状の方がどうにかなりそうだった。愛歌と潤奈は道人の頬や胸板などをぺたぺたと触って確認する。ジークヴァルの周りにもトワマリーとフォンフェル、ルレンデスが駆け寄る。
「あ〜っ、おほん。諸君、戯れは後、後。まだ終わってないでしょう?」
「そ…そうだよ、ダジーラク…!」
グルーナの指摘で道人は浮かれ気分を正し、倒れたダジーラクを見る。
「ダジーラク様、しっかり!」
マーシャルが両腕を失ったダジーラクの元へ飛んできて抱える。ライガも遅れて着地する。
「マ、マーシャルか…。すまぬな、ジェネラルとして情けない姿を…。不甲斐ない…。」
「いえ、ダジーラク様はよく、よく闘いました…!」
「あぁ、見応えのある良い闘いぶりだったぜ、旦那。」
マーシャルとライガは激戦を繰り広げたダジーラクを称賛する。
「ライガ、奴らと戦ってわかった…。お前が関心を抱く理由が…。」
「おう!俺があの合体を相手にする時、どう立ち向かうのか、考えが止まらなくて仕方ねぇぜ!」
「ふっ…。ぐっ…!」
ライガの気持ちがわかってダジーラクは笑むが、両肩に電流が走る。
「さぁ、ダジーラク様。お身体に障ります。早く帰還を…。」
「おや、もうご帰還なさるのか。それは勿体無い。」
この場に聞こえるはずのない聞き覚えのない声が突然聞こえた。
「せっかくだ、もう少しおられよぉっ!!」
「何奴!?」
黄色の鎧武者がダジーラクとマーシャルの頭上に槍の穂先を下に向けて落下してくる。
「何だ、てめぇっ!?」
ライガが落下してきた黄色の鎧武者の槍の穂先を両手の鉤爪を交差して防御。そのまま引っ掻いて青の鎧武者からダジーラクを守った。黄色の鎧武者は着地する。
「ん?何だ、とは?」
「な、何なんだ、お前は!?」
道人も黄色の鎧武者に叫んで問う。
「…ははっ、こいつは驚きだ!まさか、我らの事も知らずに十糸の森を攻撃してくれたとはのぉっ…!感謝、感謝!おかげで久々の地上に我らは高揚しておるわ!」
黄色の鎧武者がそう言うと光の板の階段から首無しカラクリ武者軍団がぞろぞろとやって来る。
「な、何よ、こいつら…!?」
愛歌は青ざめて後ろに下がる。
「…道人、あれって…?」
「うん、十糸の森の洞窟にあったカラクリデュラハン…?」
「道人君たち、聞こえますかっ!?」
道人たちの片耳通話イヤホンから虎城の声が聞こえた。
「今、博士のドローンでそちらの状況を確認しました!彼らは現在、街中で暴れているカラクリ武者軍団です!大樹君が遭遇しましたが、現在損傷しているカサエルを連れて逃走中!」
「大樹とカサエルが?二人は大丈夫なんですか?」
「私が逃走経路をナビゲートしています!なので道人君たちへの報告はこれにて!それでは!」
「ちょっと!道人君たち、聞こえる?」
虎城と入れ替わりで今度は大神が通信してきた。
「現在街中で謎の魚人デュラハンが暴れていて、深也君とランドレイクが交戦しているわ!」
「ぎょ、魚人?」
「ねぇ、道人…。ひょっとして、あれじゃない?」
愛歌が指差す方向を見ると次々と海から魚人デュラハンが戦島に着地してくる。
「おや?挨拶しようと思ったら、たくさんギャラリーがいますねぇ。」
「む?何じゃ、お前らは?」
「そちらこそ、何者です?」
「何、何?一体何のパーティが始まる訳?」
グルーナが周りを何度も見る。
「申し遅れた!我らは『傀魔怪堕』!そして、わしは三大将軍の一人!烈鴉!憎き十糸姫に今まで封印されていたカラクリデュラハンよ!」
「か、傀魔怪堕…?」
「…やっぱり、十糸姫の関係者…。」
道人と潤奈は互いに顔を合わせて驚愕する。
「そう!今朝、そこの奴らが十糸の森に砲撃をしてきただろう?あれのおかげでわしらは封印解除が認められ、こうして大地に立てたという訳よ!感謝するぞ、宇宙人共よ!」
「なっ…!?」
道人たちは今朝のダジーラクの砲撃を思い出した。確かにあの時、十糸の森の方角に光の柱が立っていた。
「認められ、って…。誰に認められたのよ?」
グルーナが烈鴉に疑問を投げる。
「わからぬか?それは…。」
「貴様ら、静まれぇい!これより、我ら『キャルベン』のリーダー!イジャネラ様がお姿をお見せになるぞ!兵たちよ、水鏡を作成せよ!」
キャルベンの多くの兵たちが両手から水風船を上空へ放ち、一つの巨大な水鏡を作り出す。水鏡に映ったのは玉座に座っていて、豪華な王冠や装飾をつけた鎧を着た人魚だった。
「お初にお目にかかる…。妾はイジャネラ。キャルベンを統べるリーダーである!」
「キャルベン…?道人…あたし、思ったんだけど、あの魚のデュラハンも…。」
「うん、海音さんの神殿に置いてあった石像に似てる…。」
「此度、妾たちキャルベンもそこの傀魔怪堕たちと同じく、宇宙人たちが海面に放った砲撃によってコールドスリープから目覚めた!本来はまだ目覚める予定ではなかったが…まぁ、良かろう。傷は十分に癒えた…。」
イジャネラは玉座から立ち上がり、トライデントを上に上げる。
「今、ここに宣言する!我ら、キャルベンは地球人類及び、バドスン・アータス、傀魔怪堕に対し、戦線布告する!」
「なっ!?」「はぁっ!?」「…えぇっ!?」
道人たちはイジャネラの急な宣戦布告に驚きを隠せなかった。
「地球は我ら、キャルベンが先に目をつけた星!他の惑星などに渡しはせぬわ!我が戦力の前にひれ伏すがいい!ホッホッホッ!」
イジャネラは左手を口につけて高らかに笑う。
「かっかっかっ!先を越されてしもうたのう!まぁ、良い!わしら、傀魔怪堕も同じく!地球人類、バドスン・アータス、キャルベンに対し、宣戦布告を申そうではないか!世界は全てわしら、傀魔怪堕の物とする!」
「あっちもこっちも、一体全体どうなってんのぉっ!?」
愛歌は両手で頭を抱えて髪をくしゃくしゃする。
「ただでさえ、バドスン・アータスの相手で手一杯だってのに、敵勢力が二つも増えるなんて…!?」
「…ふっふっふっ、面白いではないか…。」
道人たちが落ち込む間もなく、新たな巨大な影が出現する。
「今度は何っ!?」
愛歌が思わず叫んだ。
「なっ!?ヴァエンペラ!?どうして、こちらに!?」
ダジーラクが疑問を声にし、マーシャルとライガはヴァエンペラに頭を垂れる。
「ヴァエンペラ!?こいつが!?」
「これが、我らの倒すべき最大の敵…!」
道人とジークヴァルたちは黒い巨大な影を見上げる。
「…ダジーラクよ、そなたがそこまでやられるとは…。…ディサイド・デュラハン、やはり危険な存在よ…。…それにこのチキュウという星、これだけのデュラハンを、脅威を秘めているとは実に興味深い…。…良かろう…!…マーシャルよ、チキュウの言葉で勢力同士でお互いの意思をぶつけ合い、武力を用いて殺し合う事を何というのか…?」
マーシャルはまたヴァエンペラに問われたので焦って言葉を探す。
「『戦争』、『WAR』かと…。」
「…良かろう…!ディサイド・デュラハン!バドスン・アータス!傀魔怪堕!キャルベン!これら、四つの勢力が地球を懸けて争い合う大戦争!DULLAHAN WARの開幕をここに宣言しようではないか…!」
「はぁっ!?」
「ちょっと!何勝手に決めてんのよ!?」
道人たちはヴァエンペラの勝手な宣言に怒りを露わにする。
「…ふっふっ、楽しみにしておれ…。」
そう言うとヴァエンペラは姿を消す。
「ふん、何だ?あの偉そうな奴は?気に食わん…。だが、面白い事を申しておったなぁ…。DULLAHAN WAR…。うむ、その言葉は気に入った!ならば、開戦の幕開けは我がキャルベンが務めさせてもらおう!裁きの槍、作成せよ!」
「「「はっ!イジャネラ様の御心のままに!」」」
魚人デュラハンたちは全員ゼリー状になり、上空へ飛んだ。
「…な、何が始まったの…?」
潤奈は嫌な予感を抱きながら頭上を見る。
「わからない…。わからないけど…。ろくでもない事をしようとしているのは確かだ…!」
道人はそう言うとこれから起きようとする事に警戒する。魚人デュラハンたちは巨大な槍の形状になり、ゼリーが固まった。
「妾たちの海に不釣り合いで不快な空の島よ、砕けて落ちよ!!」
「みんな、逃げろぉぉぉぉぉーっ!!」
イジャネラが左手を大きく横に振ると同時に巨大な槍が落下を始める。
「ダジーラク様、ライガ様!」
「くっ…!」
「道人、ジークヴァル!今日は楽しめたぜ!またな!」
ダジーラクとライガはマーシャルに連れられ、ワープした。
「おっと、何と豪快な!まぁ、宣戦布告はできた!わしらも撤収!撤収!」
烈鴉もカラクリ武者軍団と共に去っていく。
「道人!私に掴まれ!」
「わかった!頼んだよ、ジークヴァル!」
ディサイド・デュラハンたちは自分のパートナーをそれぞれ抱えて、戦島から離れてデュラハン・パークに着地した。裁きの槍は戦島に激突し、真っ二つに割れた。その後、裁きの槍はスライムのように横広く展開。ミキサーのような形になり、戦島を粉々にした。さっきまであった巨大な戦島は見る影もなくなった。
「ホッホッ、それではまた…。」
イジャネラが映っていた水鏡と戦島を砕いたミキサーは水に戻り、海に落ちた。さっきまで騒がしかった辺りは嘘みたいに急に静まり返る。
「…何か、色んな事ありすぎて…。」
愛歌は右手を額に当てて首を横に振る。
「世界って広いわ…。」
グルーナも話について行けず、放心していた。
「…バドスン・アータス、傀魔怪堕、キャルベン…。」
潤奈は戦うべき相手の名を言葉で喋って再確認する。
「一体、どうなっちゃうんだ、これから…?」
道人たちは途方に暮れる。しばらくした後、博士たちや大樹、深也も合流し、少なくとも今回のバドスン・アータスとの戦いには幕を閉じた。




