53章Side:愛歌 後編 愛の果てに
紫炎を辺りに飛び散らしながら飛んでくるダーバラを目の当たりにし、愛歌とトワマリーはさっき見たビジョンを一旦忘れ、急いで共に横に跳んだ。通り過ぎたダーバラは羽を畳んで回転しながらそのまま上昇し、下にいる愛歌とトワマリーを見下ろして羽を開く。
「どうしたんだい!?さぁ、空に上がって来なぁっ!あたいが一緒に舞ってやるさね!」
「…トワマリー、さっき見たビジョンは気になるけど…今考えてもしょうがない!先にダーバラの相手する方が優先だよ!」
「…そ、そうだネ!行くヨ、愛歌!」
「よし、ディサイドヘッドで行くよ!」
愛歌はカードを実体化し、右手で掴んでデバイスに読み込ませた。
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
トワマリーはエタニティアトワマリーに姿を変え、∞リングの一つを手に取って光の刃を出現させて剣にし、上空に飛んでダーバラと相対する。
「出たねぇっ!エタニティアトワマリー!喰らいなぁっ、あたいの紫炎を!」
ダーバラは羽を思いっきり前に羽ばたかせ、紫炎をエタニティアトワマリー目掛けて飛ばす。エタニティアトワマリーは急下降して避けるが、ダーバラが両手の剣を交差して飛んでくる。
「トワマリーを斬るつもりだ!させない!」
愛歌はデバイスを操作し、∞リングから二十ものビームを照射するが、ダーバラは必ずトワマリーを斬るためにビームを避けずに突っ込んで来る。
「くっ、ビームをまともニ…!?」
ダーバラはエタニティアトワマリーの前で交差した両手剣を勢いよく下に下ろして罰の字斬りを繰り出す。エタニティアトワマリーは自分の足の近くの∞リングを咄嗟に足場にして、後ろにバックする。隙を見せたダーバラに対し、エタニティアトワマリーは弓を出現させ、光の矢を放つ。が、ダーバラは急上昇して避けた。
「くっ、素早イ…!それにあの紫炎、なかなか消えなイ…!」
ダーバラが撒いた紫炎は宙に残り続けている。完全に消えるまで数分かかるようだ。
「その紫炎はあたいの怒りそのもの!美しき者を完膚なきまでに焼き尽くす執着の炎よ!」
ダーバラは周りを高速で飛び回って紫炎を辺りに撒きまくる。
「このまま紫炎が広がったら、トワマリーの動きが制限されていく…!」
「そうなる前に撃ち落とすヨ、愛歌!」
エタニティアトワマリーは弓を構え、光の矢を装填する。
「いつもとは違ウ、大サービスヨ…!」
弓に光の矢が十五本出現し、束になる。
「光の矢の束ね撃ちヨ!行っけェッ!」
「あたしたちのコンビネーション、舐めないでよね!」
十五本の矢が広域に発射され、愛歌も∞リングをデバイスで操作して二十ものビームを発射する。
「まだまだァーッ!」
エタニティアトワマリーはもう一度光の矢を束ね撃ちする。
「雑な攻撃だねぇっ!あたいはそんな美しくない攻撃には当たってやれないさね!」
ダーバラは高速で飛び回って矢もビームも全て避けた後、空高く急上昇する。
「喰らいなぁっ、あたいの飛び蹴りをぉっ!」
ダーバラは右足を伸ばし、鋼鉄の爪でエタニティアトワマリーの腹部に蹴りを入れた。
「しまッ…!?まともニ…!?」
ダーバラは羽を前に羽ばたかせてエタニティアトワマリーに紫炎を浴びせた後、戦島の近く、御頭街の船乗り場付近の地面に叩き付けた。
「トワマリー!?」
愛歌はデバイスを操作して近くにある∞リング五つを足場にし、擬似的に階段を作る。踏み終わった後の∞リングを即座に移動させて次々と道を作る。トワマリーの落下地点まで近づいて着地し、走った。
「来ちゃ駄目だヨ、愛歌!」
エタニティアトワマリーの言葉を聞いて立ち止まる愛歌。エタニティアトワマリーはよろけながらも立ち上がる。身体には所々、紫炎が纏わりついている。
「人間の愛歌ガ、この紫炎ニ当たったらいけないかラ…!」
「トワマリー…。」
ダーバラはエタニティアトワマリーの前に着地する。
「あんた、自分の身も気にせず、ボロボロになってまで主君を気遣うなんて…美しい姿じゃないか…!敵ながら感服するよ…!」
『トワマリー、お前は群衆の希望となる存在だ。民が求めるのは何事も恐れず、常に堂々と振る舞う女王の姿だ。』
『はい、お父様…。』
「っ…!? また…!?」
「あっ、トワマリー…!?」
またダーバラの発言をきっかけにトワマリーと愛歌にビジョンが見えた。書斎で父親に教えを乞うているドレスを着た少女の姿が見えた。愛歌は右手を額に当てる。
(何なの、この映像は…?今の少女は…トワマリー…?トワマリーが、人間だった…?それに女王って、どういう事…?)
愛歌は目を瞑って首を横に振って今の映像を忘れ、ダーバラを見る。
「ん?どうした?顔色が悪いねぇっ、もうダウンかい?」
「…まだまだァっ!私は必ずあなたを倒して愛歌を、この街を守ってみせル!」
「なら、もっとあたいに見せてみな!お前の美しさをねぇっ!」
エタニティアトワマリーとダーバラはまた空を飛び、空中で静止。両手に∞リングを持って光の刃を出現させ、構える。
「ほう?あたいと同じ二刀流でやる気かい?その挑発、乗ってやるよぉっ!」
エタニティアトワマリーとダーバラは空中で鍔迫り合いを始める。エタニティアトワマリーは紫炎に蝕まれているため、身体に電流が走り、動きが鈍くなっている。
「あたいの紫炎がかなり効いているみたいだねぇっ…!闘っていてつらいだろう?すぐに終わりにしてやるさね!」
ダーバラはエタニティアトワマリーから離れて周りを飛び回り、両手の剣や鋼鉄の足、紫炎の翼で連続攻撃を喰らってしまう。愛歌は何とか∞リングでダーバラの動きを制限しようとするが、全ての攻撃を捌き切れないでいた。
「もう終わりにするよ!最期まで美しく散れ、トワマリィーッ!」
ダーバラは天高く急上昇し、全身に紫炎を纏って急降下する。
「させないから!ヘッドチェンジ!クローズゲート!」
『あなたは固く閉ざされた扉の中に何があったとしても開く事はできますか?』
「当然でしょ…!」
『承認。』
『本当?約束だよ?』
「…!?」
愛歌とトワマリーの脳裏にまたドレスの少女がフラッシュバックする。ダーバラの目の前にトワマリーの姿はなく、多くの薔薇が巻かれた固い扉を蹴っていた。
「何だい、この扉は!?」
ダーバラの周りに十五もの薔薇の扉が出現する。
「どこへ行った、トワマリー!?」
「こっちヨ!」
扉がダーバラの後ろに移動し、開かれる。トゲの鞭が伸び、ダーバラは縛られた。
「な、何だい、こりゃっ!?こんなもの、紫炎で焼いて…!」
「させない!ローズストーム!」
扉の中からカラフルな薔薇の花びらが竜巻の中で舞いながらダーバラに向かっていく。薔薇の花びらは切れ味が良く、ダーバラの全身を傷だらけにする。
「な、何ぃぃぃぃぃーっ!?」
扉の中からクローズゲートトワマリーが姿を現す。薔薇の形をした頭をつけ、身体には葉っぱの意匠が施された肩パーツを新たに装着。右手にトゲの鞭、左手にサーベルを持っている。
「クローズゲートトワマリー!これが最後のヘッドチェンジ!これで決めるよ?」
「見せてあげル!私たちの新たなコンビネーションヲ!」
「そうかい!残念だけど、披露する前に全てを焼かせてもらう!」
ダーバラは羽を羽ばたかせて紫炎を飛ばすが、クローズゲートトワマリーは別の扉に移動し、中に入った。前に入っていた扉は消滅する。
「くっ…!?どこに行った!?」
「あなたは高速デ移動して私たちヲ翻弄していたけド、今度はこちらの番!私は扉に隠れながらあなたヲ翻弄すル!」
「くっ、こう扉が多くては自由に飛び回れない…!?考えたねぇっ…!」
ダーバラの後ろに扉が一つ移動する。
「同じ手が通用するかい!そこだ!」
ダーバラは振り返って両手の剣で扉を攻撃したが、扉は開く気配を見せない。
「残念!こっちヨ!」
さっきまでダーバラの目の前にあった扉が開き、ローズストームが再びダーバラを傷つける。
「ぐあぁぁぁぁぁーっ!?おのれ、小娘共ぉっ!」
クローズゲートトワマリーはまた別の扉に移動しを繰り返し、ダーバラに鞭、剣撃、ローズストームを次々と喰らわせていく。
(このヘッドは移動し終えた扉は次々と消えていく…。時間内なら、後五つは補充できるけど、なるべく長期戦は避けるべきだ…!)
愛歌は扉を補充しながら、ダーバラの動きを見て扉をデバイスで移動させる。
「これで決めるよ!行って、クローズゲートトワマリー!」
「わかった、愛歌!」
ダーバラは薔薇の鞭にぐるぐる巻きにされ、羽を無理矢理畳まれて落下する。
「しまった!?早く、焼き切って…!」
クローズゲートトワマリーは上空に出現し、自分の前に開かれた扉を五つ配置する。両手を上に上げ、回転し、五つの扉を通過する毎に自らローズストームとなったクローズゲートトワマリーに薔薇がどんどん増えていく。
「これデェッ、おしまいヨォォォォォーッ!!」
ローズストームとなったクローズゲートトワマリーはダーバラに激突。戦島の近くの船乗り場目掛けて落下し、土煙が舞う。
「ぐあぁーっ!?ダ、ダジーラ…ク、様…。」
ダーバラの鳥の頭が壊れ、元の姿に戻った。
「…あたい、負けた…のかい…?はっ、情けないねぇっ…。」
「情けなくなんかないよ。」
愛歌はダーバラの近くまで歩き、しゃがんだ。クローズゲートトワマリーも愛歌の近くに着地する。
「正直ギリ勝ちだったし、次やったら勝てるかどうか怪しいかなぁ〜?あなた、強いんだもん。機会があったらさ、またあたしたちと闘おうよ!あ、今度は平和な形で、ね?」
「また…だって?何言ってるんだい…?」
ダーバラは愛歌のまさかの発言に困惑していた。
「さっきは言いかけたけどさ…。あたしたち、あなたと友達になれるんじゃないかな、って…。」
「は…?友、達…?」
「そ…そりゃ、こんなボロボロに痛めつけた後に何言ってんだ、って思うだろうけどさ…!ごめん!博士に頼んで綺麗に直してもらうから!許して!この通り!」
愛歌は両手を合わせて目を瞑り、ダーバラに謝罪した。
「あんた、また敵のあたいに謝罪を…。…あんた、さっきから何言って…?」
「あなたさ、初めて闘った時も、今日もそうだったけど、一度も私の事を攻撃しなかったでしょ?最初の闘いの時は道人がいたし、周りにも茂みもあって隠れながら闘ってたりしたけど、今回の戦島は柱くらいしかない殺風景なところじゃない?あたし、隙だらけな訳よ?」
「あ、愛歌…。」
愛歌は目を瞑って両手の手の平を上に上げてやれやれとポーズをする。
「なのに、あなたは私を攻撃しなかった…。あたし、思ったんだ。もしかしたら、この人はそんなに悪い人じゃないんじゃないかって。」
「何を甘い事を…!あたいはただ、トワマリーとちゃんと決着をつけたかっただけさ!非力なあんたを殺して決着、なんて美しくない事、あたいはごめんだよ!」
「そっか、あたしはあなたのそういう拘りのおかげで無事だったんだね。」
「ぐっ…!?それにあたいは既に多くの惑星を滅ぼしてきたバドスン・アータスのシチゴウセン!もう手遅れで、許される事は絶対にあってはならないんだよ!だから、さっさとあたいを殺しな!」
「…あなたってさ、強気なんだけど、どこか自己肯定感が低いとこあるよね。エタニティアトワマリーを見て自分より美しいって認めたり、好きな人と自分が釣り合わないからってどこか諦めてたりさ。」
「うぐっ!」
ダーバラの胸の顔に矢印が刺さる。
「…愛歌、鋭イ…。」
「ごめん、ごめん! …不思議だよね。あなたと闘ってる最中に少し会話しただけであなたの事をもっと知りたいって思っちゃって…。ここで罪を償え!死ねぇっ!なんてやったらもうあなたの事を知る事もできない訳よ。あたしは人と人の繋がりが好きでね。自分からせっかくできた縁を切るなんてあたしにはできないかなぁ〜っ…。そう、これがあたしの拘り、かな?」
愛歌の発言を聞き、きょとんとするダーバラ。
「…ははっ、はっはっはっ…!何言ってんだろうね、この娘は!甘ちゃんもいいとこ!自分で何言ってんのか、わかってんのかね?例えあんたがそういう考えでも周りが許すとは限らないだろうに…!あんたの考えは独りよがりさね…!若い、若いねぇ〜っ…!全然汚れを知らないからこそ言える発言だよ、ったく…。」
「わ、悪かったわね!どうせあたしは頭お花畑ですよぉ〜っ、だ!」
「…でも、あんたのそうやって恥ずかしげもなく、自分を貫こうとする姿勢…。今にも崩れそうな脆い考え方にあたいは美しさを感じちまったよ…。あたいにも昔、そういう真っ直ぐな性格の頃があったっけ…。もう忘れちゃったねぇ…。」
ダーバラは大空を見た後、よろけながらも立ち上がる。
「…わかった、勝負も闘いに対しての姿勢もあたいの敗北さね…。完敗さ!何か不思議と清々しい気分だよ…。」
「ダーバラ、罪を償う事は難しいかもしれないけど、悪い事をしたバドスン・アータスを滅ぼして終わりってのも…うまく言えないけど、あたし、違うって思うんだ…!あたし、手伝うからさ!だから…。」
「わかった、わかった!あんたの若々しさは伝わったから!期待してないけど、がんばりなさいな!」
ダーバラは愛歌に握手を求めた。
「ダーバラ…!うん…!」
愛歌も右手を前に出す。
「…甘過ぎ。侵略者が許されるとでも…?」
「…!? どきなぁっ、愛歌!!」
ダーバラは愛歌を力強く右へ吹っ飛ばした。トワマリーも後ろから迫ってくる巨大ビームに気づき、愛歌を抱えてビームから離れる。咄嗟にダーバラにも手を伸ばすが、間に合わない。
「…!? ダーバラ!!」
愛歌はすぐに起き上がり、巨大ビームを見る。もうダーバラの姿はそこにはなかった。
「何者なノ!?姿を見せなさイ!」
トワマリーは叫ぶが、もう誰もいなかった。
「そんな…。せっかく仲良くなれるかもしれなかったのに…。ダーバラ…。」
愛歌は涙を流し、ダーバラがさっきまでいた場所まで歩く。
「愛歌、今の奴がまだここヲ去ったとハ限らなイ…!今すぐここかラ離れよウ!」
「…うん、そうだね。…行こう…。」
愛歌はトワマリーの元へ戻ろうとするが、足に何かがぶつかる。ダーバラの羽根が落ちていた。愛歌は羽根を拾い、トワマリーに抱えられて戦島の方向へ跳んだ。




