53章Side:深也 中編 水を差す者たち
「『炎龍』を得り、『氷龍』を経て、『超龍』へと我至る…!我が闘いの道に歴史あり!誇るがいい、小僧共…!わしがこの姿を見せたのはお前らで二人目だ!さぁ、早くヘッドチェンジするがよい!」
レイドルクはそう言うと両手で握り拳を作って全身から波動を出す。深也とランドレイクはレイドルクの波動を感じて身震いをした。
「さぁて、船長。何のヘッドで行く?見るからに今までよりやばくなってるぜ、あの爺さん…!」
「あぁ、まず様子見…なんて、悠長な事はできねぇっ…!攻めねぇと…負ける…!」
こちらは後二回しかヘッドチェンジできない。深也はデバイスで手持ちのヘッドを確認する。その時。
「ぐぅっ…!?がっ…!?」
レイドルクが自分の胸の龍の顔を押さえて苦しみ出す。胸の龍の目が真っ赤になり、身体から煙を出し始め、その場にしゃがんだ。
「なっ…!?爺さん!?」
「どうしたっ!?」
「狼狽えるではないわぁっ!!」
レイドルクは気合いを入れ直し、立ち上がる。
「この頭を使った代償よ…!我が力を極限まで引き出す代わりに、己が命を削る…!わしの受けるダメージ次第ではすぐに解けてしまい、最悪命を落とすだろう…!だが、わしはお前たちを命を懸けて拳をぶつける価値のある『漢』と見た…!この頭を使わせた価値をわしに見せてみよぉっ!!」
「爺さん…。」
深也はデバイスを強く握り締める。
「…なぁ、船長。ディサイド・ヘッドで行こうぜ。俺たちの今の手持ちで一番強いヘッドを。」
「ランドレイク…。」
「あの爺さんが究極の姿で来るんなら、俺たちも現時点で最強のヘッドで迎え打つ…!それが、あの爺さんへの礼儀ってもんだぜ!」
「…わーったよ!出し惜しみなしだ!全力で気が済むままにぶつかって来い、ランドレイク!」
「おうよぉっ!」
深也はパイレーツヘッドのカードを実体化し、デバイスに読み込んだ。
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
ランドレイクに海賊帽の頭がつき、新たな肩パーツに青いマント、右手に三日月クロー、左手に三日月刀を持った姿になる。
「行くぜぇっ、パイレーツランドレイク!喧嘩上等ぉぉぉぉぉーっ!!」
「行くぜえぇぇぇぇぇーっ!!」
「来ぉい、若ぞおぉぉぉぉぉーっ!!」
パイレーツランドレイクは右手の三日月クローを前に出し突進し、レイドルクは左手でパイレーツランドレイクのクローを掴んで受け止める。そのままパイレーツランドレイクを後ろに流し、膝蹴りを腹に喰らわした。
「ぐぅっ!?」
「追!一撃、二撃!」
宙に浮かせたパイレーツランドレイクに右、左と拳を当てる。三撃目でパイレーツランドレイクを吹っ飛ばす構えを取る。
「三撃目は許さねぇっ!!」
深也はデバイスを操作して地面に二門の大砲を出現させ、発射。レイドルクは上半身を後ろに倒し、二発の砲弾を避ける。
「当たらんぞぉっ!」
「船長は元々当てる気はねぇからなぁっ!こっちが体制を立て直せればぁぁぁぁぁーっ!」
パイレーツランドレイクは地面に足をつけ、左手で持った三日月刀でレイドルクを斜め横に斬る。
「ぐぬぅっ…!?」
「まだまだぁっ!スラァァァァァーッシュ!!」
パイレーツランドレイクはこの隙を逃さず、高速でレイドルクを斬り刻む。が、レイドルクの強化された装甲には傷一つつかず、先に三日月刀が折れ、刀身が回転しながら宙を舞う。レイドルクが地面に着地し、回し蹴りのポーズを取る。
「ぐっ…!?まだまだぁっ!」
パイレーツランドレイクはレイドルクの回し蹴りを跳んで避け、三日月刀の刀身をキャッチしてレイドルクの脚部の装甲の薄い部分に刺した。
「ぐおっ!?」
「チャンスを逃すなぁっ、パイレーツランドレイクゥッ!」
「追撃ぃっ!!」
パイレーツランドレイクはレイドルクの足を掴み、またコージードームにぶん投げた。
「全砲門、一斉掃射ぁっ!!」
パイレーツランドレイクは地面から四門の大砲を発射。四つの弾丸がレイドルクを襲う。
「ふん!ふん!ふん!ふぅん!!」
レイドルクはすぐに立ち上がり、弾丸が爆発する前に拳で弾丸を弾き、弾丸は全て散らばって他所で爆発した。
「おらぁっ、まだまだぁっ!」
パイレーツランドレイクとレイドルクはお互い横に走る。すると、カプセルロボットが兵士六体を連れて公園の入り口にいて、歩いていた。
「何っ!?」
「こんな時に…!?」
「うおぉぉぉぉぉぉーっ!!」
深也とパイレーツランドレイクは立ち止まるが、レイドルクはカプセルロボットの元へ駆ける。
「わしらの闘いにぃっ、水を差すでないわぁっ!!」
レイドルクはカプセルロボットの両手両足をあっという間に切断し、カプセルロボットはダルマ状態になって地面に落ちる。中から出てきた中島と首無し兵士六体は何が起きたのかわからず、きょとんとした。
「ニンゲンよ、この場から去れ!兵士たちも別のカプセルロボットの元へ行けぇっ!」
「は、はいぃっ!?」
中島は事態が飲み込めないが、とりあえず視界に入ったデュラハン・パークへ向かった。兵士たちもシチゴウセンの命には逆らえず、別の場所に行った。
「邪魔が入ったな…!さぁ、続きだ!」
「おい、逃げ惑う民には興味がないんじゃなかったか?」
「否!わしらの闘いの邪魔をされたくなかっただけだ!これで心置きなく掛かって来れるだろうよ!」
「お気遣い、どーも!続きだぁっ、ランドレイク!」
パイレーツランドレイクは左拳を勢いよく前に出し、レイドルクは対抗して右拳をパイレーツランドレイクの左拳にぶつける。拳同士がぶつかった瞬間に波動が発生し、二人の近くにある全ての物が震度した。
「悪いが、恩は仇で返させてもらうぜ、爺さん!」
「安心せよ、恩を売ったつもりはない!」
「そうかよ!」
パイレーツランドレイクとレイドルクは拳を一旦離した後、お互いもう防御を捨てて二人で高速で殴り合った。
「「はあぁぁぁぁぁーーーっ!!」」
殴る度に三日月クローが砕け、レイドルクの右肩パーツと外れていき、二人共傷だらけになっていく。
「ぐおっ…!?」
先によろけたのはレイドルク。パイレーツランドレイクは地面に二門の大砲を出現させ、弾丸を発射してレイドルクに当て、宙に浮かせる。
「うおぉぉぉぉぉーーーっ!!」
パイレーツランドレイクは宙に浮かせたレイドルクに連続パンチを繰り出す。レイドルクの装甲に次々とヒビが入っていく。パイレーツは折れた三日月刀を取り出し、水の刃を発生させる。
「どらあぁっ!これがぁっ、海賊魂だあぁぁぁぁぁーっ!!」
両手で持った水の刃を勢いよく振り、レイドルクの胴体の鎧を粉砕した。
「見事ぉぉぉぉぉーっ!!」
レイドルクは公園の水飲み場まで吹っ飛び、土煙と水が舞った。パイレーツヘッドが解除され、ランドレイクは首無し状態になる。レイドルクはよろけながら立ち上がる。
「ははっ…!楽しい…!愉快愉快…!これ程の強者に出会えるとは何たる幸運…!こんな高揚感を抱くのは久しぶりじゃぁっ…!ごふっ…!」
「へへっ、何だよ?もうへとへとじゃねぇか、爺さん…!」
「人の事を笑えるか、若造がぁっ…!」
ランドレイクとレイドルクは互いに見つめ合う。深也もランドレイクを見る。
「さぁ、続…。」
その時だった。レイドルクは後ろから槍で腹を貫かれた。
「ぐぅっ…!?な、に…?」
「「爺さん!?」」
レイドルクは腹を押さえ、しゃがんだ。頭が取れ、元のレイドルクに戻る。
「…な、何だ、てめぇら…?」
レイドルクの後ろに謎の五人の首無し戦士が現れた。それぞれ魚のような鎧を着ている。
「大丈夫ですか?あなたは我々の同胞とお見受けしました。襲われているようだったのでお助けしたのです。」
「何…?」
深也はこの首無し戦士たちに見覚えがあった。確か水縹星海岸の海音の神殿に置いてあったデュラハンの石像に似ていると気づいた。
「お前ら、海音の関係者か何かかっ!?」
海音の名前を聞いた途端、兵士たちはざわつき、五人は見つめ合った。
「…お前、人魚騎士の…あの裏切り者の知り合いか?」
「何…?裏切り者…?」
「何だ、助けて損したな。」
謎の首無し戦士たちは態度が一変し、レイドルクを蹴り、地面に倒した。
「ぐっ…!?」
「おい、やめろ!」
謎の首無し戦士たちは首を傾げた。
「何故だ?君たちはさっきまでこいつと敵対していただろう?こいつらはあれだろ?あの宙に浮いてる島の奴らだろう?侵略者じゃないか。庇う意味がわからないな。」
「いいからやめろって言ってんだ!」
深也は右手を勢いよく横に振ってさっさと消えろという姿勢を見せた。
「てめぇら、俺らと爺さんの闘いに水を差しやがって…!許さねぇぞ!」
ランドレイクも怒りを露わにする。
「…君たち、まるで人魚騎士ミオンみたいだ。変な拘り持っててさ。そういうの…。」
謎の首無し戦士五人はそれぞれ自らの武器を構えた。
「む・か・つ・く・ん・だ・よ・ね。」
「なっ…!?」
五人は一斉に深也とランドレイクに襲い掛かった。




