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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第1部 始まりのディサイド
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53章Side:大樹 後編 確実な勇気

 右腕を失ったカサエルは三つの三度傘をディアスの前に展開してこれ以上の追撃を阻止し、大樹を小脇に抱えて近くの民家の屋根まで跳んだ。着地した後、右肩に電流が走り、小脇に抱えていた大樹を屋根に落とす。大樹はすぐさま起き上がり、カサエルの損傷具合をしゃがんで見る。


「大丈夫か、カサエル…!?」

「だ…大丈夫さぁっ…!まだ、まだぁっ…!」


 カサエルが立ち上がるとディアスも高く跳び、大樹とカサエルの前に立つ。


「見ぃ〜つけた!」


 シャクヤスも追いつき、屋根の上に着地して大樹とカサエルの後ろに立つ。


「あれ?カサエル、右腕取れちゃってる?何してくれちゃってんの、ディアス様ぁっ?これじゃ彼との芸の見せ合いっこに支障が出るじゃないですかぁ〜っ…!」

「ニンゲン、ここまでだ。降伏しろ。命までは取らない。」


 ディアスはシャクヤスを無視して大樹とカサエルに話し掛けた。


「また前にディアス、後ろにシャクヤス、か…。全く、これじゃどっちが鬼ごっこやってんだかわからんのぉ…。」


 大樹は立ち上がってデバイスを構える。


「カサエル、ディサイドヘッドを使うぞ。つらいじゃろうが、いけるか?」

「もちろんさぁっ、大樹…!」


 カサエルは民家下で浮いている三つの三度傘をディアスに対して二つ、シャクヤスに対して一つ、彼らの前に配置して移動を妨害する。三度傘が足りないので左手に傘を出現させる。傘開いて宙に浮かせ、シャクヤスの方に足した。


「まだ抵抗するか。」


 大樹は【唐傘法師】のカードを実体化し、デバイスにカードスラッシュする。


『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』


 カサエルに藁の三度傘がついた頭が装着され、緑色のマントと黒い装束を着た姿に変わる。白い唐傘が一本カサエルの前に出現する。


「一本の唐傘を…ニ、三、よ…()いさぁっ…!」


 カサエルが左腕を左右に振ると一本だった唐傘が四本に増える。カサエルが人差し指で傘にちょんちょんと触れていくとそれぞれ赤、青、緑、黄と色づいていく。


「か、【唐傘法師】カサエル…!あ、推参…さぁっ…!」


 カサエルは苦しそうにし、左手に出現させた傘を左肩に置いた後、唐傘が一斉に開き、カラフルな花びらがカサエルの周りに舞い散る。


「こんな絶望的な状況でも芸の披露は忘れないとは…。同じ芸を(たしな)む者として尊敬できますねぇ〜っ…!故に気に入らない…!」


 シャクヤスは四角い頭パーツに付け替え、カサエルの身体に三体、大樹の身体に三体、爆弾の頭をつけた小さいピエロが急に出現し、笑いながらしがみつく。


「これはこいつと初めて会った時の…!?」


 大樹はフォンフェルが爆破した時の事を思い出し、あの爆発が今度は自分にも襲い掛かって来る事を想像してしまい、ぞっとする。大樹は自分の死を間近に感じてしまい、硬直する。シャクヤスは指を鳴らす準備をする。


「あっしは爆発には耐えられる…!でも、大樹は駄目さぁっ!?やめろぉーっ!!」


 カサエルの必死な叫びに大樹は我を取り戻す。


「何のぉっ!これしきぃっ、の事でぇぇぇぇぇーっ!?」


 大樹は何時も肩に掛けている上着を脱ぎ、背中に張り付いていた小さいピエロを服ごと捨てて二体はどける事ができた。胸元にしがみついているもう一体のピエロは近くに浮いている唐傘を掴み、両手で持って傘を横にして、小さいピエロを何とか地面に落とした。その後。小さいピエロを掴んでとっさにシャクヤスに向かってぶん投げる。


「3、2…おぉっ!?」


 カウントを取る毎に指を鳴らすシャクヤスだったが、自分の足元に爆弾ピエロが落ちたのでカウントを止める。


「今、さぁっ!!」


 カサエルはシャクヤスに向かって突進し、シャクヤスにしがみついた。


「どうさぁっ!?これなら爆発できないさぁっ!」

「うわぁっ!?は、離せぇっ!? …なんて、ねぇ。」


 大樹は今のシャクヤスの言葉を聞いてデジャヴが起こったが遅かった。シャクヤスはピンク色の煙を上げて消える。


「何っ!?」


 カサエルは急いで周りを確認すると縦長い箱が一つ浮いていて中からシャクヤスが出てくる。


「はい、脱出成功。残念。無念。」


 シャクヤスは指を鳴らす準備をまたする。


「まだまだ、っさぁっ!」


 カサエルは自分の身体にノコギリのように高速回転する三度傘を当て、しがみついている小さいピエロ三体の上半身と下半身を切断し、地面に落とした。


「ちぃっ!ならば!」


 シャクヤスは四本のナイフの角がついた頭を新たに装着し、両手の指の間全てにナイフを持つ。


「ディアス様、どかないと巻き添え喰らいますよぉっ!」

「ちっ!」

「それそれそれそれそれぇっ!」


 ディアスはとなりの民家の屋根に飛び移る。シャクヤスは両手を前に振る度に指の間にナイフが出現し、何度もカサエルと大樹に向かって投げる。


「やらせないさぁっ!」


 カサエルはシャクヤスの投げナイフ乱れ打ちを三度傘と唐傘で防ぎ、大樹を小脇に抱えて下に着地して逃げた。


「逃がしませんよぉっ?お二人さん!」


 シャクヤスは逃げたカサエルと大樹を追う。四つの唐傘が追いかけようとするシャクヤスの周りを跳び、追撃を妨害した。


「…おかしい。もうカサエルの麻痺攻撃はとっくに治っているはずだ。何故兵たちはこちらに来ない?」


 ディアスは未だに駆けつけない首無し兵士を気に掛けた。


 大樹とカサエルは切り株レストラン付近へ向かう途中、【唐傘法師】のヘッドが消え、カサエルの右肩の電流が激しくなったので近くのビルの中に入って隠れた。


「大丈夫か、カサエル…?」

「あぁ、平気さぁっ、大樹…!【唐傘法師】が解けてしまって、もうシャクヤスとディアスを妨害できる四つの唐傘は消えてしまったさぁっ…!奴はすぐに追いかけてくる…!急ぐさぁっ!」

「あぁ、わかっとる…!わかっとるんじゃが、ヘッドチェンジは後一回…!どうする、どうする…!? ん…?」


 大樹はディサイドデバイスでこの状況を打開できるヘッドを探しているとスマホにメールが届いているのに気づいた。


「メール…。爺ちゃんから…?」


 大樹は御頭街(おがしらまち)のこんな状況で届いたメールなので祖父に何かあったのかもしれないと思いながらも恐る恐る表示した。


『大樹、大丈夫か?爺ちゃんは大丈夫だ。今どこにいるんじゃ?わしは家に避難しない、ここに残ると言っていたが、我儘(わがまま)を言ってすまなかった。爺ちゃんは今、御頭街の外にちゃんと避難しておるよ。』

「爺ちゃん、良かった…。避難してくれたんじゃな…。」

「それは、良かったさぁ…。」


 この追い詰められた状況の中で、不幸中の幸いの報を聞いた大樹とカサエルは胸を撫で下ろした。


『わしは本当に家に残ろうと思っておったんじゃが…大樹、お前がいなくなっている事に気付いた。その時、わかったんじゃ。例え、家の中のお前の作った陶芸品を守れたとしても、お前自身を助けられなかったら、思い入れがある陶芸品が逆に見たらつらい物に変わってしまう…。わしがあの世に行ったら、平助(おまえのちち)たちに顔向けできん。だから、避難する事にした。なのに避難してもお前はおらん。大樹、無事でおったらメールを返しておくれ。お前の返事を心配して待っておるぞ。』


 大樹はメールを見終わると気づいたら涙を流していた。


「爺ちゃん、当たり前じゃ…!命あっての物種じゃし、まだあの世とか言うんじゃないわい…!」


 大樹は右腕で両目を擦り、涙を拭った。


「そうじゃ…!俺は…俺たちはまだ、死ぬ訳にはいかん…!諦めたりするものか…!絶対に…!絶対に残りの人質を救出し、道人と潤奈ちゃんに安心させる報告をするんじゃ…!」

「そうさぁ、大樹…!こんなところでもたもたしてられないさぁっ!」

「おう!行くぞ、相棒!必ず生き残ってみんなと会うんじゃ!」

「当然さぁっ!」


 大樹とカサエルは新たな勇気を胸に立ち上がり、外に出て走った。現在の状況を聞くため、虎城に連絡を入れた。


「虎城さん、真道さんを豆の木図書館近くのビルの中に隠れさせておいた!状況が落ち着き次第、助けに行ってやってくれ!」

「大樹君?わかりました、救助隊を向かわせます!」

「今、切り株レストランに向かっておる!じゃが、少し時間が掛かってしまった…!今、カプセルロボットの周りには首無し兵士が何人いるのかわかるか?」

「はい、カプセルロボット付近には…確認中…。出ました、()()()います!」


 虎城の報告に大樹は疑問を感じずにはいられなかった。


「十九…?残りの三十九体はどうしたんじゃ…?深也が倒したんじゃろうか…?」

「大樹、もう着くさぁっ!跳ぶさぁっ!」


 カサエルは大樹を小脇に抱えて近くのビルの屋上に着地して切り株レストランの付近の広場を見た。


「大樹、相手武装確認!剣盾持ちが五、槍が五、弓が九…!後、シャクヤスの奴がいるさぁっ!」

「やっぱり弓が多いの…!それにそうか、シャクヤスの奴、俺らを捜すよりもカプセルロボットの近くにいれば俺らが確実に現れると踏んで待ち伏せしておる訳か…!よし、カサエル!この戦い、もう奇跡には頼らん!この胸に確かにある、確実な勇気で立ち向かうんじゃぁっ!」

「合点さぁっ!」


 カサエルは手摺りを足場にして高く跳んだ。大樹はザンバーヘッドのカードを実体化させ、デバイスに読み込ませる。


『あなたは例えどんな困難が待ち受けようとも薙ぎ払って進めますか?』

「今がその時じゃぁっ!」

「承認。」


 カサエルに大きな剣の形をした頭が新たにつけられる。左手に巨大な斬馬刀を持つための強化アームがつき、斬馬刀を振り回しやすい肩パーツと、移動を考慮したローラースケートも新たについた。


「おや?お待ちしておりま…。」

「このまま!ドーン!!」


 カサエルは落下と同時に斬馬刀を地面に強く叩きつけ、土煙を舞わせた。


「斬りはしないさぁっ!ただ、吹っ飛んでもらうさぁっ!」


 カサエルは左手首を回転させ、しゃがんで上に上げる。刀身の身幅の部分で首無し兵士たちをどんどん吹っ飛ばしていく。ローラースケートの移動モードと足場固定モードを駆使して移動し、多くの首無し兵士を吹っ飛ばす。カサエルの斬馬刀を持った左手首に負担がかかり、手首から火花が散る。


「保ってくれさぁっ、あっしの左腕ぇっ…!」

「いや、見事な大道芸!」


 シャクヤスは嘲笑(ちょうしょう)し、その場で拍手する。


「あくまで敵は倒さない!どかすのみ!故に腹立つ!その姿勢!その志ぃっ!」


 シャクヤスはトランプヘッドに頭を変え、無数のトランプをカサエル目掛けて投げまくる。カサエルの身体にトランプが何枚も刺さる。


「健気な!痛々しい姿ですよ!ははっ!…ん?あなた、三度傘は何故使わない?」

「うおぉぉぉぉぉーっ!!」


 大樹はデバイスで三度傘を操作して自分を守りながらカプセルロボットに前進し、辿り着いた。


「よし、割れるんじゃあぁぁぁぁぁーっ!!」


 大樹はカプセルの一部分に高速回転した三度傘二つを当てヒビを入れていく。カプセルロボットが剣で抵抗してくるが、もう一つの三度傘で防御する。


「よし、これでぇっ!しまいじゃあぁぁぁぁぁーっ!!」


 ヒビの入ったカプセルに大樹は右手で殴り、カプセルの一部分を完全に割った。


「どぉりゃあぁぁぁぁぁーっ!!取れんかぁぁぁぁぁーい!!」


 大樹は両手でカプセルの割れた穴を掴み、両足をカプセルロボットのボディにつけ、身体全体を使って後ろに重心を置いて思いっきり引っ張った。


「少年…!ありがとう…!よし、俺も…!」


 隆は手足を拘束されているが、頭でカプセルで押した。するとカプセルの蓋が取れ、大樹は地面に倒れた。カプセルロボットは機能停止し、拘束が解けた隆は大樹に駆け寄る。


「大丈夫か、少年…!?ありがとう、ありがとう…!」

  

 隆は涙を流しながら大樹に感謝した。


「あぁ、やった…!全てのカプセルロボットの人質を救出できたぞ…!やったんじゃ…!じゃが、まだじゃ…!おじさんを安全なところまで連れていかんとまだ終わりじゃない…!」

「た…大樹、逃げるさぁっ…!もう救助が終わったんなら、あっしを置いて…!」


 斬馬刀を地面に落とし、トランプがたくさん刺さったカサエルを見て大樹は涙ぐむ。


「何を言っておるんじゃ、カサエル!?お前も一緒に帰るんじゃ!」

「…大樹…。」

「いやぁっ、見事な救助劇でした…。感…。」


 その時、ディアスが飛んできてカサエルとシャクヤスの間に降りた。


「おい、ニンゲン。何だ、あの()()()()()()()()()()()()()()は?お前たちの仲間か?」


 大樹とカサエルは突然現れたディアスの発言の意味がわからなかった。


「…? 何を言っておるんじゃ?カラクリ…?」

「お前たちが痺れさせた兵の様子を見に行ったら、カラクリ武者たちが我が兵を倒していたのだ。物凄い数だ…!もうこちらに向かって来るぞ!」


 ディアスの発言の後、戦島の方向で巨大な光の柱が立った。


「何だっ!?何事だ、ダジーラク!?」

「あ、あれは道人たちのいる方角じゃ…?い、一体何が起こっとるんじゃ…?」


 困惑する大樹。どんどん近寄ってくる多くの足音に大樹は頭の理解が追いつかなかった。

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