53章Side:大樹 中編 パラライズニードル
前方にシャクヤス、後方にディアス。大樹とカサエルはこの状況をどう打開するか必死で思案する。
「お、おい!確か…ディアスとか言ったの!ちょっと待ってくれ!」
「ん?」
大樹は今朝司令から聞いた話を思い出す。このディアスという奴はわざわざデュラハン・ガードナーの本拠地まで出向いて司令に今回のダジーラク襲来の件を伝えに来たシチゴウセン。もしかしたら話が通じるかもしれないと思った大樹は話し合いを試みる事にした。カサエルは大樹の意図を理解し、シャクヤスの前に三度傘を展開して防御を固めた。
「お前、昨日司れ…。」
「問答無用。」
ディアスは今つけている頭を外し、新たな黒くて禍々しい頭を装着すると、背中に大型の悪魔のようなウイングが装着され、巨大な三枚刃の鎌を右手に持つ。
「なっ!?待っ…!?」
「人命救助をするのだろう?なら、早くするんだな。この攻撃を防げたらの話だが。」
ディアスが左手を勢いよく前に出すとウイングが変形してキャノン砲になり、無数の紫のビームでできたコウモリを前に飛ばした。
「大樹、危ないさぁっ!?」
カサエルは大樹を抱きしめ、右手に持った傘を開いて防御する。何とかビームコウモリを防げてはいるが、傘はどんどんボロボロになっていく。
「おっと、危ない…!」
シャクヤスにも襲い掛かるビームコウモリ。シャクヤスは額や耳にトランプが張り付いたピエロの頭を装着し、一枚のトランプを巨大化させてビームコウモリを防ぐ。
「ディアス様、おかしいなぁ。私は味方ですよぉ?」
「お前が私が仕掛ける攻撃の先にいるだけだ。気にするな。」
ディアスはそう言うと自分のウイングを取り外し、ブーメランのように縦に投げた。
「カ、カサエル!屋根の上じゃ!」
「あいさぁっ!」
カサエルはボロボロになった傘の後ろにもう一本傘を出現させて開き、ブーメランを妨げる。三度傘を足場にして、大樹を抱えて民家の屋根まで飛び跳ねて着地した。傘はブーメランで真っ二つになった。
「ん?ぐぎゃあっ!?」
巨大化したトランプで防御していたせいでシャクヤスは前方が見えておらず、ディアスの投げたウイングブーメランをもろに受けて地面に倒れた。
「カサエル、俺らの目的はカプセルロボットじゃ!あの二人は無視じゃ、無視!」
「わかったさぁっ!」
カサエルは大樹を小脇に抱えて家の屋根を何度も飛び移って豆の木図書館を目指す。
「…やっぱり、あいつ、俺らをわざと逃がしたんか…?」
大樹はディアスが取る行動に疑問を抱くが、頭を左右に振ってカプセルロボットのいる豆の木図書館を目指す。
「大樹君、どうしました?大丈夫でしたか?」
虎城が通信をしてきたので大樹は右耳に手を当てる。
「虎城さん!すまん!ディアスとシャクヤスと遭遇して遅れてしまった!今何とか振り切ってカプセルロボットの方へ向かっとる!カプセルロボットはまだ着いとらんか?」
「大丈夫です、まだカプセルロボットは細道まで来ていません!」
「あっしも今、辿り着いたさぁっ!」
カサエルは民家の屋根を十五軒程、飛び跳ねて目的地のビルの細道近くの屋上に辿り着いた。
「大樹君、ごめんなさい。ディアスとシャクヤスというデュラハンは監視カメラに一切映らずに行動しているみたいで、こちらでも確認できません。」
「何じゃと…?」
「もしかしたら、その二人はフォンフェルと同じく、何かしらのジャマー能力を有しているのかもしれません。」
確かにあの二人は突然姿を現した。虎城の言う通り、何かしらの隠密能力を持ち合わせているのは間違いないだろうと大樹は思った。
「何とか対処できないか、こちらでも対策を考えてみます。」
「わかりました!お願いします、虎城さん!」
「大樹君、カプセルロボットがもうその道を通ります!お気をつけて!」
確かに遠くから足音がたくさん聞こえてくる。もう接敵の時は近い。
「カサエル、あの二人の対策じゃ。一箇所に留まる時は常に壁に背をつけて隠れておこう。これなら背後を襲われる事はないし、俺らの正面にしか奴らは仕掛けられんはずじゃ。」
大樹はカサエルにわかりやすいように実際に壁に背をつけて見せた。
「わかったさぁ。でも、こういう建物の場合は屋上へ向かう階段は建物内にあるさぁ。大樹は生身の人間だから、こういう場合は中に入って隠れた方が安全さぁ。」
「そうじゃな、わかったぞい。」
大樹はカサエルの言う通りに建物内に入る。大樹は何とかデュエル・デュラハンでの、ゲームでのプレイングスキルをこの戦いに役立てようと考えているが、ゲームと実際の戦闘は違う。特にサバイバルゲームの経験はない。こういう時、意見を交換できるカサエルがいるのは頼もしく感じていた。
「…よし、カサエル!まず一回目のヘッドチェンジじゃ!今日道人がパックで当ててくれた新ヘッドじゃ!ぶっつけ本番じゃが、いいな?」
「構わないさぁっ!あっしの芸の新たなネタとして取り入れてみせるさぁっ!」
カプセルロボットが大樹とカサエルの視界に入る。カサエルは手摺りを足場にしてジャンプし、カプセルロボットと首無し兵士たちの上空まで跳んだ。
「大樹、相手武装確認!剣盾持ちが五、槍が五、弓が六さぁっ!」
「兵が何を持っているかなんて、カウントせんでいいぞ、カサエル…。何故なら、このヘッドなら全て無力にできるからのぅ!」
大樹はカードを実体化し、デバイスにカードスラッシュして読み込ませた。
「ヘッドチェンジ!パラライズニードル!」
『あなたは針に刺されたような刺激的な経験に恋焦がれますか?』
「常にそうじゃぁっ!」
『承認。』
カサエルに電球の意匠が施された頭が装着され、両肩に懐中電灯のような肩パーツがつき、両手がニードルになった。
「半径二十mの、パラダイスニードルさぁっ!」
「パラライズ、な!」
カサエルが両手を上に上げてニードルを交差するとビルの間の細道に球体の電流が発生し、首無し兵士たちとカプセルロボットは痺れ、その場から動けなくなる。
「どんな争いでも大抵、電気技は最強なんじゃぁっ!」
カサエルは壁を何度も蹴り、カプセルロボットの前に着地する。中の真道は目の前に現れたカサエルに驚く。
「怖がらないでいいさぁっ!あっしはただの大道芸人さぁっ!」
カサエルは両手のニードルでカプセルをこじ開けた。中に入っていた真道の拘束は解かれ、カサエルの行動を見て味方だと判断し、笑顔になってカプセルロボットの中から出た。
「あ、ありがとう!助かったよ!」
大樹は急いで階段を駆け降りて来て、真道の前まで走って来た。
「もう安心じゃ!俺は道人の友達の大樹という者じゃ!」
「道人君の…?そうか、助かった…!」
「おじさん、喜ぶのは後じゃ!今の広域電流フィールドは一回しか使えんでの、相手の麻痺状態もすぐに直ってしまうんじゃ!
それに今の電流で俺らのいる場所も敵にバレてるじゃろう…!」
大樹はディアスとシャクヤスがいないかどうか周りを何度も見る。
「これから豆の木図書館の外に案内する!ほとぼりが冷めるまでどこかのビルに隠れておるんじゃ!後で必ずデュラハン・ガードナーの誰かが迎えに来るからのぅっ!さぁ、ついてくるんじゃ!」
「見ぃ〜つけた!」
大樹が後ろを振り返るとさっきまで見当たらなかったシャクヤスがコウモリみたいに逆さまになって街灯に足を引っ掛けていた。カサエルが大樹と真道の前に立って両手の針を交差して電流を発生させる。
「遅かったのぉっ!もうカプセルロボットは一体無力化したぞい!」
「カプセルロボット?何ですか、それ?興味ないなぁ〜っ…!」
シャクヤスは上空に跳び、全身を回転しながら地面に着地し、首を傾げた。
「私はカサエルと芸で競いたいだけですよ?さぁ、お互い芸を見せ合いましょうよぉ〜っ?」
「カサエル、逃げるんじゃ!人命救助が最優先じゃぁっ!」
「当然さぁっ!」
カサエルは両手のニードルを交差して電撃を前に飛ばし、シャクヤスに当てた。
「ひぃえっ…!?良いねぇっ、痺れますねぇ〜っ…!?」
この場に残って戦っていては多くの首無し兵士たちの麻痺が解けてしまい、こちらの圧倒的な不利になる。大樹とカサエルは真道を連れて全力でこの場から離れた。大樹は走りながら虎城に連絡を取った。
「虎城さん!やったぞい!…えっと、おじさん、名前は?」
大樹は走っている最中に後ろの真道に尋ねた。
「真道だよ。」
「真道さんをカプセルロボットから救出できたぞい!」
「やった…! …やりましたね、大樹君!その調子で行きましょう!それと大樹君、もう一つ朗報です!御頭公園付近のカプセルロボットの中島さんも救出できました!」
「おぉ、本当ですか!?深也とランドレイクも頑張ってくれとるのぉっ…!」
「はい!後は切り株レストランだけです!急ぎましょう!」
虎城との通信を一旦終え、大樹は嬉しそうに走る。
「イケる…!イケるぞい…!後一人助けられたら、早く道人と潤奈ちゃんに伝えて、安心して戦ってもらうんじゃ…!待っておれよ、二人共…!」
「そううまくはいかないぞ、ニンゲン。」
大樹が前を見るとディアスが待ち伏せしていた。大樹と真道は立ち止まる。
「大樹!真道さん!伏せるさぁっ!」
カサエルの叫びを聞いた大樹と真道はすぐにしゃがみ、カサエルは両腕のニードルを交差して電流を飛ばした。
「ふん!」
ディアスは三枚刃の鎌で向かってくる電流を斬り裂いた。
「カサエル。レイドルクの報告通り、戦闘が不慣れな奴と聞いていたが…なるほど、正直な攻撃の仕方だ。故に断ちやすい。」
ディアスは背中のウイングを取り外し、ブーメランのように投げた。大樹たちは横に跳んで床に倒れて何とか避ける。ビルの壁に大穴が開き、ウイングブーメランはディアスの手元に戻った。
「っ…!? よし、真道さん!ビルの大穴に入って、建物内に隠れておるんじゃ!」
「わ、わかった!すまない!」
真道は大穴の中に入り、身を隠した。カサエルのパラライズニードルが時間切れになり、カサエルは元の姿に戻った。
「…なぁ、お前、今わざとビルの壁に穴を開けたんか?」
「勘違いするな。カプセルロボットから出た以上、もうこちらの負けだ。あのニンゲンに価値はない。それに闘いの邪魔だ。だから見逃す。その代わり、残りのカプセルロボットには手を出させん。」
「ははっ、そいつはどうも…。」
大樹はこのディアスという奴は案外面倒臭い奴かもしれんと思った。
「話はもういい、行くぞ…!」
ディアスは三枚刃の鎌の内、二枚の刃を外して三本の鎌に変形させ、宙に浮かせる。背中のウイングの射出口からビームの死神を二体作り出し、二本の鎌を持たせてカサエルに三人で襲い掛かる。
「いぃっ!?何さぁっ!?いきなり一対三なったさぁっ!?」
「何て滅茶苦茶な戦い方じゃ、行動が読めん…!? …よし、ディサイ…!」
カサエルは三度傘を三つ宙に展開し、右手に傘を持って開いて防御する。死神二体の攻撃は防ぐが、ディアスは三度傘を潜り抜け、カサエルの懐に入る。
「しまっ…!?」
「斬。」
ディアスは鎌を逆手に持ち直し、勢いよく上に斬り上げる。カサエルの右腕が切断され、地面に落ちた。
「カ、カサエルゥッ!!」
「ま…まださぁっ!まだあっしは守れるさぁっ!守ってみせるさぁっ!」




