53章Side:大樹 前編 危険な奇跡
大樹は民家の屋根の上で偵察に行ったカサエルを待っていた。大事な友達である道人や潤奈に対するシユーザーたちのあまりに非道な行いに腹を立ててついカッとなり、あの場を飛び出してしまったが、デュラハン・パークのモノレール乗り場に着いた途端、カサエルに落ち着くように諭された。
「大樹、お互い怒りで先走ってしまったが、まずは落ち着こうさぁ。あっしも道人がずっと心配してきたお父上の宇宙飛行士仲間に対してのバドスン・アータスの非道な行いには怒りを禁じ得ないさぁ。でも、こんな時こそ、怒りを鎮めて、落ち着いて敵の情報を調べる事が大事さぁ。」
カサエルはそう言うと大樹を抱えて高くジャンプし、大樹を近くの家の屋根の上に乗せた。
「あっしが今から民家の屋根の上を飛び跳ねて首無し兵士やカプセルロボットの様子を見てくるさぁ。大樹はここで待っていてくれさぁ。すぐ戻ってくるから待ってるさぁ。」
カサエルの言う通り、ここで怒りに任せてただ闇雲に宇宙飛行士たちの救出に向かっても五十もの兵士の数の暴力に負けるだけだ、と大樹は考えて落ち着き、今は腕を組んで胡座をかいて座り、カサエルの帰りを待っていた。
「大樹、お待たせ。今戻ったさぁ。」
カサエルは去ってから七分で戻ってきた。大樹の背後に着地して立ち上がる。
「おぉ、お帰り。どうじゃった、敵さんの様子は?」
大樹は立ち上がり、後ろにいるカサエルの方を向く。
「カプセルロボットは三体とも発見できたさぁ。御頭公園、切り株レストラン、豆の木図書館の付近を移動してたさぁ。」
「うむ、さすがに徘徊する場所はバラけさせておるのぉっ…。」
「カプセルロボットの周りには必ず兵が共に行動しているさぁ。兵が持つ武器は剣と盾持ちが十六、槍が十六、弓が十八だったさぁ。カプセルロボットも剣と盾を持っていて恐らくこちらが近づくと攻撃をしてくるさぁ。」
「迂闊には助けにいけんという訳か…。」
「あっしが三度傘で少しちょっかいを出してみたが、相手兵士は喋る事ができず、仲間同士では軽いコミュニケーションしか取れないみたいさぁ。」
「奴らの兵士は戦うための人形、駒でしかないという事じゃな…。」
「でも、現在奴らは意志を持つデストロイ・デュラハンを造って求めているさぁ。もしかしたら…。」
「そうか。奴らが意思を持たず、自分たちの手を汚さないオートマチックな戦争を求めているのなら、ダジーラクたちが戦場に出てくる必要はないんじゃな。なのに奴らは戦場に好んで出てくる。兵士に意思を持たせていないのではなく、今現在その程度の兵士しか用意できない…。そういう事じゃな?」
「そういう事さぁ。」
大樹はカサエルの集めてきた情報を聞くと人質を助け出す自信がつき、色んな策が頭に浮かびはじめて、行けるような気がしてきた。
「カサエル、お前さん、この短時間でよくそこまでの情報を得る事ができたの。大したもんじゃ。」
「何、あっしはお客さんがどんな反応をして、何を求めているのかを細かく洞察する事が得意なだけさぁ。本来はこんな戦場ではなく、ステージで披露したい特技さぁ。」
「違いないの。」
「大樹君、聞こえますか?」
「うおぉっ!?」
いきなり耳から虎城の声が聞こえてきて大樹は驚いた。片耳通話イヤホンをつけてたのを意識していなかった。大樹は虎城に返事をする。
「大樹君とカサエル、深也君とランドレイクが戦島から街中に移動した事をこちらでも把握しました。今の大樹君とカサエルの会話もこちらに聞いていましたよ。」
「そうか、深也たちも街中に来てるんか…。」
「はい。それで大樹君、私が街中の監視カメラなどを駆使して今からあなたたちをナビゲートさせて頂きます。」
「おぉ、それはありがたい!お願いします、虎城さん!」
大樹は虎城はこの場にはいないが、お辞儀をした。
「御頭公園付近は深也君がいますのでそちらは彼らに任せましょう。大樹君は残りの切り株レストランと豆の木図書館の方をお願いします。どちらかが手薄になった時を狙った方がいいですから、何か状況が変化したら私がお知らせします。そこを攻めて下さい。」
「わっかりました!カサエル、切り株レストランと豆の木図書館の中心にある銀行があっての、そこで構えていた方がどちらにも駆けつける事ができる!まずはそこへ行くぞい!」
「あい、心得たぁっ!大樹、舌を噛まないように気をつけるさぁっ!」
「あいつらより俺らの方がこの街の事をよく知っておる!地の利はこっちの方があるって事を思い知らせてやるぞい!」
カサエルは大樹を小脇に抱えて屋根を次々と跳ねて移動する。
「カサエル、わしらは基本屋根の上を移動した方がいいの!それなら槍投げや弓の兵の攻撃はともかく、剣使いは俺らに近寄れん!」
「あぁ、わかったさ!大樹もあっしと離れてる時は危ないから弓や槍投げから避けるためになるべく身を隠すようにするさぁ。」
「おう!」
大樹は銀行に着くまでにまだカサエルに話さないといけない事はないか、と脳をフル回転させる。
「…なぁ、カサエル。この戦いはあまり考えたくはないが、俺らが圧倒的に不利じゃ…。奴らと比べてこちらのヘッドチェンジには時間制限がある…。」
そう、こちらが一人のディサイド・デュラハンに使えるヘッドチェンジは三回のみ。トータルして九分間のヘッドチェンジを使い終わった後、ヘッドなしで戦わなければならなくなる。全く戦えない事はないが、ヘッドチェンジに回数制限も時間制限もないシチゴウセンたち相手では部が悪過ぎる。
「特に俺らが持つディサイド・ヘッド【奇跡自在】…。あれは十五秒しかもたんし、二人の考えが完全一致しないと不発に終わってしまう…。じゃが、あれは俺らにとってとっておきの切り札でもある。使いどきが難しいが、なるべくなら温存したい…。」
「しかし、大樹。あれを使うと…。」
「あぁ、【奇跡自在】を温存するという事は俺らは六分十五秒以下の時間しかヘッドチェンジできないという事になる…。なかなか難しいのぅ…。」
「…大樹、あっしらはまだ【奇跡自在】の能力を全て把握できている訳じゃないさ…。でも、一つだけ使わなくてもわかる事があるさ…。」
「あぁ、俺にもわかる。【奇跡自在】はかなりの複雑な意識の読み取り・判定を要求をしてくる代物じゃ。残念ながら、今の俺たちが自在にできる奇跡には限りがある…。」
例えば二人で打ち合わせをした後、【奇跡自在】を使ったとしてもうまく発動はしない。打ち合わせをしたという時点で片方に意思を合わせたという判定になってしまうからだ。最初にレイドルクに使った時も二人が考える時間が欲しく、待って欲しいという気持ちが偶然一致したから発動し、レイドルクは金縛り状態になったのだ。
「それと二人で敵に対して『今すぐ死ね』、とか『この場から消滅しろ』、と願うのも難しいかもしれん…。」
「それはそうさぁ、あっしは例えどんな相手でも命を奪う事には躊躇いが生まれる…。あっしの信条がそれを許さないさぁ。」
「俺もそうじゃ。それを叶えるためにはこのヘッドは俺に相手を殺人する覚悟を問うてくるはずじゃ。心強くもあり、怖くもある…。まさに諸刃の剣じゃ、こいつは…。」
大樹は自分たちが持つディサイドヘッドの怖さを想像し、冷や汗をかく。カサエルに小脇に抱えられながら、正面から当たってくる風も悍ましいもののように感じ始めた。
「そうじゃ、このヘッドは俺らがこういう性格だからこそ、与えられた物…。他のジークヴァルたちにはそもそも扱えず、与えられなかった物…そう思える…。」
「仮にそうだとしたら、与えたのは誰なのさ…?」
「…わからん!そうか、これだと俺らが誰かに決められてディサイドヘッドを与えられたという話になってしまうの!何時もデバイスで承認を聞いてくる声の人とか、なんてな!我ながら変な事を言った!忘れてくれ、カサエル!」
「…そ、そうだな、大樹!考え過ぎさぁっ!」
そうこう会話をしている内に銀行の屋上まで辿り着いた。大樹は片耳通話イヤホンに手を当て、虎城と連絡を取る。
「虎城さん、今銀行に着いた!現状ではどっちが手薄になっとるんじゃ?」
「そうですね…。カプセルロボットは現在交戦中の深也君たちを警戒して動いていますね。」
「深也、かなり暴れてくれてるようじゃの…!ありがたいぞ…!」
大樹はさすが不良王、やりおるわと思いながら左手でガッツポーズをした。
「豆の木図書館のカプセルロボットがこのまま進むとビルの間の細道を通ります。そこを待ち伏せできれば、敵は狭い道をわざわざ通ってくれてるのでそこを襲撃できれば敵の反撃は受けにくい。カプセルロボットを一機無力化できるかもしれません。」
「わかった!ありがとう、虎城さん!カサエル、今すぐ豆の木図書館の方へ向かうぞ!」
「了解さぁーっ!」
「見つけたぞ、ニンゲンとディサイド・デュラハン。」
大樹とカサエルは突然聞こえた声に驚き、声が聞こえた方を向く。大樹とカサエルの右後ろにシチゴウセンの一人、ディアスが浮かんでいた。
「お前、さっきいた…!?」
「やれやれ、勢いよく飛び出して行ったと思えばこんな所に…。手間をかけさせるな。」
ディアスは両手にドクロ顔のチャクラムを四つ出現させ、大樹とカサエルに向かって投げた。
「大樹、危ないさぁっ!」
カサエルは大樹を抱え、屋根から地面に着地してチャクラムを避けた。カサエルはすぐに三度傘を三つ宙に浮かせて防御展開をする。
「大樹、大丈夫さぁっ!?」
「あ、あぁ…大丈夫だ。」
「本当に大丈夫ですかぁ?」
カサエルは後ろから殺気を感じ、急いで振り向くと鉤爪が襲ってきた。カサエルは瞬時に傘を右手に出現させ、鉤爪を傘で受け止めた。大樹はカサエルの腕から離れ、地面に落ちる。
「いったた…!?お前は…!?何時かのピエロ!」
「こんにちは。私の名はシャクヤス。公園でお話しした通り、カサエルさんとお手合わせに来ました。」
「その声…!? そうか!公園で、レイドルクとの戦いの後に聞こえた小声は…!?」
「はい。私です、よっと!」
シャクヤスは傘を掴んだ鉤爪を勢いよく右に振り、傘から手を離した。大樹を抱えて後ろに下がるカサエル。
「ニ対一、か…!?何てこったい…!?最悪じゃ…!?」
大樹はカサエルに抱えられたまま、両手で頭を抱えた。
「ど、どうするんさぁっ?大樹ぅっ…!?」
大樹はこの事態をどう対処するかで精一杯でカサエルに返事ができなかった。
「…シユーザーの造ったデストロイ・デュラハンか…。」
ディアスはシャクヤスを睨む。
「さぁ、私と競いましょう?大道芸を!」




