42章 グルーナのファッションショー
「ちょっと!困りますよ、Ms.グルーナ!今日はあなたのファッション講座のはずでしょう!?急にイベント内容を変えるなんて無理ですよ!?」
スタッフが大焦りでグルーナに苦情を言いに来た。
「ノンノン!この私、デザイナーは気まぐれ!インスピレーション第一!私の創作意欲は止められないの!大丈夫!既に参加者は二十人は見つけたわ!」
「えっ?待って。あたしたち、もう頭数に入れられてる…?」
愛歌は自分を指差した後、潤奈と虎城を見てどうしよう?と見つめ合う。
「使えそうなランウェイも私が倉庫から見つけてきたわ!何も問題なっし!」
グルーナは両手を腰につけて上機嫌で笑う。
「ランウェイって何?」
道人はランウェイの意味を知りたかったが、大樹と深也はさぁ?と自分たちもわからんというポーズを取る。
「…ランウェイっていうのはモデルさんたちが洋服を着て歩く場所の事。観客席の中に突き出した細道を歩いてお客さんにアピールするものだよ。」
「あぁ、見た事ある。あれの事か。」
道人たちはよく芸能ニュースとかで見るやつか、と思い出した。日頃ファッション雑誌を読んでいるからか潤奈はファッション知識に明るいんだな、と道人は思った。
「配布用パンフレットも、進行用の台本も用意してあるし、そんな手間は掛からないから!」
グルーナはスタッフに右手に持った台本と左手に持ったパンフレットを見せて渡す。
「すごい、短期間でよくこんなに変更を…。」
「何せ、シユ…私の腕の良い協力者が手伝ってくれたんでねぇ〜っ!いい?一時間後には開始するから!ランウェイの準備よろしく!あ、君たちにもパンフレット渡しとくわね。それじゃ、よろしく!あ〜っ、忙し忙し!」
グルーナは愛歌、潤奈、虎城に配布パンフレットを渡して去っていった。
「…行っちゃった。どうしようか?」
愛歌は困り顔で道人を見た。
「どうしようか、って…。とりあえず、パンフレット見せてくれる?」
道人は愛歌からパンフレットを借りて
読んだ。大樹と深也も一緒に読む。
「えっと、このファッションショーはMs.グルーナがその場で出す課題を乗り越えてもらうコンテストです。相棒のデュエル・デュラハンをドレスアップし、その持ち主は服のコーディネートをし、ランウェイを歩いてもらう。Ms.グルーナに気に入られた者にはそれぞれグルーナ秘蔵の豪華賞品をプレゼント!…だって。」
道人は読み上げた後、愛歌たちを見た。
「デュエル・デュラハンのドレスアップモードも使うのか…。」
デュエル・デュラハンは基本的には対戦ゲームなのだが、デュラハンを戦わせずに育成ゲームとして楽しむ人もいる。その一つがドレスアップモード。相棒のデュラハンの色を変えたり、マーキングしたり、アクセサリーをつけたりして完成したらレシピ登録する事で何時でもその姿に変える事ができるという着せ替え要素のあるシステムだ。
「グルーナ秘蔵の豪華賞品って何じゃ?」
「うーん、特に記載はないね。」
「まさか、何時かの町内大会みたいに十糸姫の糸とかデュラハン・ハートだったりしないよねぇっ?」
「あーっ…。どうだろ?ない…とは言えない、か…。」
グルーナは世界中の珍しい物をコレクションしているコレクターの一面もあり、グルーナがデュラハン・ハートや十糸姫の糸を持っていてもおかしくはない。道人たちは参加するかどうか真剣に考える。
「潤奈お姉ちゃん、Ms.グルーナに憧れてるんでしょ?」
稲穂が話しかけてきたので潤奈はしゃがんで稲穂に視線を合わせた。
「…うん、好きだよ。雑誌を買った際に目次を見て真っ先にグルーナさんのページを見に行くくらいに。この人のファッション特集には毎度驚かされて、毎月楽しみなんだ。」
「だったらさ、せっかく憧れの人にイベントに誘ってもらったんだよ?こんな機会滅多にないんだからさ、出るべきだよ!」
「…そう?」
「うん!憧れの人に潤奈姉ちゃんのファッション褒めてもらったらきっと嬉しいよ!」
「…そっか。…うん、そうだね。」
潤奈は立ち上がり、道人を見た。
「…道人、私、このイベントに出てみたい!私はもう、どんな事でも手に入れた機会を逃したくないから…!」
潤奈の決意に満ちた目を見て道人たちは微笑み、潤奈の想いに応える決心をする。
「わかった、出よう!」
「よし、決めた!あたしも付き合ってあげる!出るからには優勝を目指すわよ!」
「このファッションショー、優勝とかないみたいだがな…。」
「まぁまぁ、そういう意気で挑むって事じゃ。」
「私も出ましょう!ここまで来たらとことん潤奈さんたちと休日を楽しみますよ!」
道人たちが皆、賛成してくれて潤奈は微笑んだ。
「…うん! みんな、ごめんね。今日は私のためにミスパトの再現やお好み焼きを作ってくれるはずだったのに…。」
「大丈夫、大丈夫!ミスパトの再現は時間掛けて挑みたいから明日でもいいし、お好み焼きは今日の晩御飯としてみんなと食べられるかもしれないじゃん?ね、みんな?」
愛歌の言葉に道人たちは誰も異論はなかった。
「…ありがとう、みんな…!」
「でも、ちょっと待て、潤奈?お前、デュエル・デュラハン持ってないんじゃないか?」
深也の疑問を聞き、潤奈ははっとなった。
「…あっ、そうだね…。そっか、持ってないと駄目なんだ…。」
「…大丈夫!僕のハーライム、貸してあげるよ!」
道人はスマホを潤奈に差し出した。
「…えっ?いいの?」
「パンフレットには『相棒のデュラハンは私が美しいと思える者ならば貸し出し用でも何でも可!』と書いてありますから大丈夫だと思いますよ。」
虎城は既にパンフレットでファッションショーのルールを暗記していて潤奈に伝えた。
「…そっか、わかった。大事にするね、道人。ハーライムもよろしくね。」
潤奈はスマホの画面のハーライムを見て協力に感謝した。
潤奈たちはまず駐車場に行き、車の中に買い物した物を置いた後、パンフレットに付属しているエントリーシートを記入し、受付に渡す。午後五時になり、ファッションショーは開幕となった。
「さぁ、皆さんお待ちかねぇっ!この私、Ms.グルーナの思いつき企画!グルーナファッションショーによくお集まり頂きました!」
グルーナのマイクパフォーマンスに観客は湧き上がる。道人、深也、大樹、稲穂も用意されたパイプ椅子に座っていた。
「うん、元気があってよろしい!早速ファッションショーを開始…と行きたいところだが、私の評価をサポートしてくれるゲストを紹介だ!その名は園場志湯痤さんだぁっ!」
拍手の中、志湯座は立ち上がって一礼して座る。志湯座は眼鏡をかけ、白衣とネクタイをつけた目つきの悪い長身の男だ。
「園場志湯座?変わった名前じゃのう?」
「芸名か何かだろ?」
深也はポップコーンを食べながら大樹に返答した。
「道人、芸名とは何だ?」
ジークヴァルが質問してきたのでデバイスを手に持って見る道人。
「芸名って言うのはテレビに出てる人とか、本書く人とかが活動する際の本名とは別の名前、かな?」
「なるほど、そういうものか。」
「何か気になる事でもあるの、ジークヴァル?」
「いや、観客の人たちがあの男の事を誰も知らない様子なのが気になったのでな。」
確かに観客たちは拍手はしているものの、「誰?」「知ってる?」と何人か小声で話している。
「確かに、気になるね。志湯座か…。何か聞き覚えがある気もするな…。」
道人はジークヴァルの直感を信じ、志湯座を警戒する事にした。
「それでは、参加者の入場です!ヘイ、カモーン!」
参加者二十二人が入場し、メインステージに立った。愛歌は仁王立ちで堂々としているが、潤奈と虎城は恥ずかしそうにしていた。
「さぁさぁ、このメンバーの中に私の審美眼にかなう女神は果たしているのかっ!?乞うご期待!」




