41章 思い出のお好み焼き
道人たちが御頭デパートに入店するとイベント用の大広間が目に入る。今日も今からイベントがあるようでスタッフたちがいそいそと準備している。
「…わぁっ、結構広いんだね…!人もたくさんいる…!」
潤奈は目を輝かせ、首を忙しく左右に振ってデパートの周りを見る。
「…ねぇっ、道人!あれあれ!あれ、何?」
潤奈は興奮気味に道人の左腕にしがみついて左手でデパートの天井に飾られている動物のバルーンを指差す。
「あ…あ、あれはデパートの、の展示用の、バルーンだねぇ〜っ…!」
いきなり潤奈にしがみつかれて、道人に突然のドキドキが襲い掛かる。
「あれは?あれは?」
今度は御頭街のご当地ヒーロー、オカシラマンの等身大パネルを指差す。
「あ、あれはご当地ヒーローのぉっ…。」
「大丈夫か、道人?様子が変だが…。」
ジークヴァルは道人の動揺を気にする。
「大樹!あっし、こんな立派なステージ、初めて見たさぁっ!あっしもこのデパートで芸を披露してみたいもんさぁっ!」
「おうおう!夢は大きくのぉっ、カサエル!何時か俺と一緒に堂々と芸を披露してみせようぞ!」
「ホントさぁっ?約束さぁっ、大樹!」
潤奈以外にも興奮している組がいるぞ、と道人は視認した。
「自由人たちよ!夢見るのは構わないが、本来の目的をお忘れかい?」
「かイ?」
愛歌が発言すると道人、潤奈、大樹は今日の目的を思い出し、愛歌を見た。
「そうだった、まずどこ行く?」
道人の質問を聞き、愛歌はサングラスを外して元の愛歌に戻った。
「そうね、まずは七階のレストランの食品サンプルを潤奈に見てもらおう。何か気になる食べ物があったら遠慮なく言ってね。」
「…わかった。良いよ。」
道人たちはエスカレーターに乗り、七階のレストランに行く。展示されている食品サンプルを潤奈に見せたが、ミスパトに近そうな食べ物は見つからなかった。
「うーん…。饅頭みたいな感じだと思ったけど、違うのかなぁっ…?」
道人たちは何とか似た見つけられないものか、と思考した。
「やっぱ俺たちで再現した方がいいんじゃないか?スーパーで買い物しようぜ。料理できるか、お前ら?」
深也は道人たちに尋ねた。
「もち!」
「当然じゃ!」
「まぁ、母さんの手伝いするくらいには…。」
「お姉ちゃんも料理上手だよ?」
「まぁ、人並みですが…。」
「問題なさそうだな。よし、行くぜ!」
深也を先頭にエスカレーターを下り、スーパーに向かう。食品コーナーを周り、潤奈に聞きながらそれらしいものを籠に入れていく事になった。餃子の皮や小麦粉、甘みのある具などをカゴに入れていく。
「あっ、これ…。」
「どうしたの、稲穂?」
稲穂は手作りお好み焼きセットを手に取っていた。
「わぁっ、懐かしい!お姉ちゃん、覚えてる?お母さんがいない時に私がお腹が空いたって我儘言った時、お父さんがよくお好み焼きを作ってくれたの!」
「えぇ、覚えているわ。『俺は料理は出来んが、これならできるぞ〜!』って得意げに、楽しそうに鉄板取り出して作ってくれたわね。」
「…お父さんが?」
潤奈は虎城を見て話の続きを聞いた。
「えぇ、私が受験勉強で苦戦してた時とかでもお父さんがこれ食べて元気出せって応援してくれたりしたんです。懐かしいなぁっ…。」
「今、お父さん仕事で遠くに行ってるからなかなか食べられなくて…。また食べたいな、お父さんのお好み焼き…。」
「…そっか、お父さんが…。」
潤奈はお好み焼きセットを手に取って見る。
「…ねぇ、私食べてみたい。お好み焼き。みんなで作ってみたい。いいかな、道人?」
「潤奈…。もちろん!良いよね、愛歌?」
「もち!ミスパト探しも続けるけど、お好み焼きも作ろう!」
「もちろんじゃ、潤奈ちゃん!」
「俺が作るからには最強のお好み焼きをお出ししてみせるぜ!」
「…ありがとう、みんな!」
潤奈は少し涙目になりながらも笑顔を見せた。稲穂が潤奈のスカートを引っ張るので潤奈はしゃがんで稲穂と視線を合わせた。
「潤奈お姉ちゃん、どうしたの?泣いてるの?」
「…ううん、これは悲しさの涙じゃなくて、嬉しさの涙だから平気だよ…。ありがとね、お好み焼きの事教えてくれて。」
「うん!あ、そうだ。お父さん仕事から帰ってきた時、潤奈お姉ちゃんも招待するね!お父さんに頼んでお好み焼き作ってもらうから、一緒に食べよ?」
「…うん、その時はよろしくね。」
「その時は私が車で迎えに行きますよ、潤奈さん。」
「…ありがとう、虎城さん。」
稲穂は右手の小指を立てて潤奈に見せた。
「約束の指切り。しよ?」
「…指切り…。道人とした時の…。うん、わかった。約束。」
潤奈は稲穂の小さな小指に自分の小指を絡ませた。
「指切りげんまん♪嘘ついたら針千本伸〜ばす♪指切った♪」
「…? 何?その歌?」
「指切りする時に歌うんだよ?知らないの?」
「…そうなんだ…。わかった。」
潤奈は立ち上がり、道人を見た。
「…道人、私たちがした時、歌わなかったから。今度一緒に歌おうね。」
「えっ?う、うん!そうだね…!」
道人は何故かドキドキして頬を染めた。その様子を見て不思議そうにする潤奈。
買い物を終え、会計を済ませ終わった。荷物は道人、深也が二袋ずつ持って帰る事になった。デパートの大広間まで歩き、今後の行動について話す事にした。
「さて、どこで料理作る?」
「俺の家は駄目だ。俺の親父は人にお見せできる奴じゃない。」
深也は即座に自宅での調理を否定した。
「私の家で構いませんよ。ちょうど晩御飯が近いですから。」
道人はスマホで時間を確認したら四時十分だった。確かに車で移動した後の調理時間を考えるとちょうどいい時間帯だ。
「いいんですか、虎城さん?大人数で押し掛けてしまいますけど…。」
愛歌は遠慮して虎城に尋ねた。
「今日は皆さんと行動できて楽しかったですし。ここまで来たら晩御飯もお供しましょう。稲穂も皆さんを気に入ったみたいですし。」
「うん!みんなと一緒に食べたい!」
「じゃあ、決まりね!虎城さんの家へゴー!」
愛歌たちはデパートから外に出ようとする。
「ビューティフル!ワンダフォー!ねぇ、君たち?」
突然話しかけられて後ろを振り向く道人たち。赤髪のポニーテール、首からサングラスを下げ、派手なシャツを着た二十代前半くらいの女性が立っていた。
「あ?何だ、おb…。」
「待った、深也!この人に対しては言ったらいかんやつじゃ!」
大樹は俊速で深也の口を右手で塞いだ。
「私はグルーナ!グルーナ・フリーベル!君たち、良いねぇ〜っ!良いオーラ出してんねぇ〜っ!」
「グルーナ…?って、まさか…。」
道人はその名前に聞き覚えがあった。潤奈はどこから出したのか大急ぎで月刊イケてるファッション6月号のあるページを開いた。
「…本物…!本物のファッションデザイナーのグルーナ・フリーベル…!」
潤奈は目を輝かせて道人たちに見せる。
「へぇっ、君私のファン?嬉しいねぇ〜っ…!今からさぁっ、私の思いつきでファッションショーをこの大広間でやろうと思ってんのよ!そこであなたと!」
愛歌を指差す。
「あなたと!」
潤奈を指差す。
「そして、あなた!」
虎城を指差す。
「私のファッションショーに参加してみなぁ〜い?飛び入り参加、大・歓・迎!」
「…えぇぇぇぇぇ〜っ!?」
突然の展開に驚く道人たち。道人たちの叫びが大広間に響き渡った。




