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闇から


竜族は異空間に繋がる事ができる。


その事を知られた私達は、兵器として、研究材料として、支配欲のままに追われた。



私が、最後の生き残りになるまで。



世界を改変することだって可能なはずの私達も、大樹であり本体の竜の姿を狩られてしまえば脆いものだ。

この世界は、大樹の根元にあたる世界で、唯一並行世界以外で、本体の姿で過ごせる世界だから尚更。



私が一番強烈に覚えているのは闇。



軍に、研究材料として人間の姿で捕縛され、あらゆる苦しみを味わった。

半不死だからと、生きたまま身体を裂かれたこともある。

それでも私が死ななかったのは、大樹である竜の姿を晒さなかったから。


長い年月が経って、やがてこの実験室施設へ来る者も居なくなった。

だから、まさか誰かが現れるとは思っていなかった。

重たい扉が錆び付いた音をたてて開く。

光は鱗粉のように、私に降り注ぐ。


ぼやけた視界に、誰かの手が差し伸べられる。



それが始まり。

そして、終わりは。



眼下に広がるのは、かつての戦争で破壊された建物達。

爪痕の残骸を癒そうとするかのように、植物達が覆い隠している。

その光景も羽ばたきひとつで形を変えていく。


オーロラの膜でできたような翼。

見覚えがあったのは当たり前だ。

私の一部だったんだから。


遠くには山が見える。

山脈を越える時、上へ上へと向かって飛ぶのはすごく好きだ。

青い空へすいこまれるようで。


だけど、私はそれ以上飛ぶことは出来なかった。


1発の大きな銃弾が私を貫いたから。


痛みと衝撃に声も出せず、降下していく。

竜の姿を保てなくなり、私は異空間の狭間にある人間の姿と入れ替え(コンバート)をした。

だけどおかしい。

この姿も腹に穴があいていた。

自身の血の雨を浴びながら私は堕ちる。

そのまま地面に叩きつけられるはずだった私を、雪のように白い色彩で出来た青年が受け止める。



「天…」



銃弾を受けたところが焼けるように熱いのに、寒い。

身体から溢れるのは、流れるのは命そのもの。

なぜ、いつもと違って少しも塞がらない?

命が流れ出るのを止められず、恐怖に瞳孔が揺れる。

冷や汗が滲む。



「…あいつら、何故銃弾を」



天が怒りで顔をゆがめているのに、鮮緑の瞳に浮かぶ悲しみに応えたくて頬に手を伸ばす。

天は口を結び、手を重ねる。



「待ってて」



私を横たえると、天は走り出す。

自身の三分の一程もあるサバイバルナイフを構え森に消えた。

朦朧とした意識の中、多数の銃声と男の叫び声が聞こえたと思うと、ピタリと止まる。

枯れ草を踏む音で、天が戻ってきたのが分かった。

私を再び抱え森がひらけると、軍幕の周りに凄惨な光景が広がっていた。

倒れた軍服を着た男達は皆血の海の中死んでいる。

軍幕の中に入ると、1人だけ生きている男。

服装をみるに、医者なのだろう。

首筋に傷があり青ざめた顔をしている。



「彼女を助けろ」



軍医は頷く。

首筋の傷は天につけられたのに間違いなかった。

天が簡易ベッドに私を横たえると、軍医は傷を見ると眉を寄せた。


「弾は貫通したのか」


胸元に毛布をかけられ止血の為にタオルをあて手術の道具を取り出した。

その時、再び銃声が遠くで聞こえる。

ヘリの音も、聞こえる。



「まさか、仲間ごと攻撃するつもりか」


「そ、そんな!?」


「…ここは守る。逃げたりしたら絶対に殺す」



軍医を睨みつけると天は再びサバイバルナイフを携え、軍幕を抜ける。



「どこに逃げるって言うんだ」



軍医は私の腰を少しあげると手早く針を刺す。

腹部の痛みとは違う痛みに息を吐く。

やがて下半身が暖かく感じ、痺れてくる。


腹に糸を通されるのを流石に見たいとは思わず、目線で天の姿を追う。


天は現れた兵士達を、銃を放つ前に素早く近づき切り裂く。

彼らは悶えながら何が起こったか分からずに崩れ落ちていく。

ヘリの機関砲がこちらを向いていた、と思うと天は跳躍し、銃口を切り落とす。

操縦席の窓の上に乗られた操縦士は有り得ない跳躍で現れた天に、為す術なくガラスごと胸を裂かれヘリは斜めに堕ちていく。


地面に天が着地すると、ヘリは激突し爆発した。

爆発の風圧が軍幕をたなびかせる。

天がこちらに戻ろうと背を向けた瞬間、爆発に紛れて何処かからこちらに砲弾が放たれた!

巨大な砲弾を一部切り裂くも先程よりもさらに激しく爆発が起こる。

天が吹き飛ばされ、軍幕に激突する。

簡易ベッドから投げ出され痛みに呻くが、耳が爆音のせいで何も聞こえない。

軍医は破片が頭に刺さり絶命していた。

身体が動かないから天に近づくことも出来ない。

しゃがみこんだ天の胸に、軍医の命を奪ったのとおなじ破片が刺さっている。


天からあんな赤い血が流れ出ているなんて、嘘だよね?

天の血の溢れる唇がなにかを告げる。


一緒に生きれなくて、ごめん。


理解した瞬間、腹の傷も忘れて私は叫喚した。

闇から救い出してくれた、天の掌の体温を思い出す。


全部私のせい、だ。

天は私を助けてくれたのに。


天に必死に手を伸ばす。

血がゆっくりと天を囲むように溢れ出る。

視界が暗転する。

腹の傷が開いたらしい。

胸のあたりも、血で濡れる。

急速に身体が冷える。

寒い…。

竜族であれば少しでも治るはずの傷は何故治らなかった?

あの銃弾を受けていなければ、気づいていれば。



「一緒に生きたかった…」



天が死ぬ、なんて。

こんな結末なんか望んでなかった。












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