世界の狭間は、竜の住処
死んだら、消えてなくなる。
常識だ。
自分自身は感じないけど、冷たくなった肉体は、まるで眠っているみたいだねなんて生者からの慈しみをうける。
そして、数時間かけて火葬され、骨だけになった身体で、死者の生前とのギャップを生者は感じるのだ。
もう、この残骸では何かの奇跡が起きない。冷たい眠りから蘇ることはできない。
骨を箱にしまわれ、ただの物になった身体は冷たい墓の下で保管される。
生者の巡礼を待つだけ。
私もそうやって、親しい人を弔ってきたから分かる。
だけど、消えてなくなるって具体的にどういう事?
客観的には分かるけど、主観的には全く未知。
空気みたいに透明ってこと?
分からない。
だから、死ぬって怖いことなんだろうけど。
怖いから、暗い。
墓の下と同じ闇の、黒色だと思っていたけど…。
なんか…思ったより明るくない?
目を開けると…というか、身体の感覚があるのに驚きなんだけど…。
そこは、柔い光の世界だった。
虹といっていいのか、DVDの裏とか、モルフォ蝶の構造色のような光で満たされた世界。
どれも何となく似てるな、でしか例えられなかったけども。
『おかえり、星の子』
そう言うのは、今まで見たことがない生き物。
声は女性とも男性ともつかないが、優しい。
巨大な瞳も虹めいていて、爬虫類みたいに鋭い瞳孔で、猫みたいに表情豊かで優しい。
全身は白い鱗で覆われ、所々光を反射してムーンストーンのよう。
でも、あの大きくて薄いオーロラの膜で出来たような翼は、見覚えがある様な気がする。
翼を見ていると…この生き物がなんだか思い出した。
「あなたは、ドラゴン?」
『そう。そして、貴方と私は同じ存在』
どういうことか全く分からない。
だけど、確かにここはよくよく見れば知っているような気がする。
思い出してきた、というか。
『ここは、貴方の元の世界では並行世界とも言われる、世界と世界の狭間の場所。そして私達の真の住処』
「私…夢でここにも来たことがある?」
ドラゴンは頷く。
『私達の夢は繋がっている。あらゆる異世界に私達の枝はそれぞれの生き物として育ち、大樹として私がいる』
「要するに…ドラゴンは魂を沢山持っていて、色んな世界の色んな生き物として生きていて、夢で繋がっているということ? 私もその魂の1つだった?」
『そう。貴方は元々私とおなじ大樹と近しい存在の太い枝だった。そんな貴方を星の子と呼んでいた。だけど…貴方の元々の世界は砕けてしまった。私と同じ半不死であるはずなのに、肉体が死に、魂が半分砕けてしまったから』
「それは…さっきまで生きていた世界のこと?」
『それは、貴方の魂を癒す為の代替の世界。本来の世界はその前の世界』
つまり、前世ということか。
「なら、本来の世界はもう無いんでしょ? 私はどうすれば」
『貴方が仮の世界で魂を癒している間、私は本来の世界を修復した。だから、貴方は帰れる。だけど、また本来の世界が砕けないようにしないと貴方も死んでしまう』
ドラゴンはその虹の瞳孔でこちらを見つめる。
『そして、彼も。分かるでしょ?貴方の魂が肉体が…砕けてしまった原因が』
その時、私は忘れていた誰かの存在をハッキリと思い出した。
「天…!」




