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システムナビゲーションと一緒!  作者: ハヤニイサン
第二章ゴフリン村のゴブ子
16/29

シスナビとの語らい Have confidence in




 狩人君から狩りを請け負ってから、今日で七日目。



 未だ、心の迷いは黄昏時を迎えることが出来ない。時は…光陰は矢の如く過ぎるが、対して、俺の弓の腕は頗る振るわない。

 こんな様では、何時まで経っても黄昏どころか、俺の心の内に煌めく、星の瞬きさえ雲隠れしてしまうのではなかろうか。


 その所為か解らないが、この頃…一日目以降、シスターシャとあまり会話をしていない。挨拶は交わすが、それ以外話さない。


 これは、どういった事だろう?もしかして、嫌われてしまったのだろうか?最初らへんは単純に、言葉を交わさずに呼吸で会話が出来るようになった、と浮かれたものだが、半日も経たずにそんな浮かれた気持ちも霧散してしまった。

 別段、彼女は機嫌が悪いわけでは無いのだ。いつも浮かべている微笑みも変わったところは無い。



 ゴブ子の方は、四日目辺りから、狩人君と話が出来るほどに回復してきている。喜ばしい事だが、二人の時間を取る為に俺の朝と夜の食事がケータリング状態になってしまっている。持ち運びしやすい様、食膳の内容も理に適った献立になっているのは言わずもがな。…以前に具体的な内容を覚えていない。正直、食事内容をあまり気にしていないせいもある。無論、食材に感謝はしているが。

 それよりも不謹慎ではあるが、意中の彼女と会話できる狩人君が今の俺には羨ましく思えてしまうのは何故だろうか。

 羨ましく思えてきたのも、今日の朝方からなのだが…一体何故なのだろうか。



 違う……惚けるのもいい加減にしよう。意地を張るのを止めよう。

 もう判断が付いている筈だ。他人を羨むことが出来る心の余裕が出来たという事実を。食事内容を覚えていないぐらい心のゆとりが無かった事実を。


 彼女は俺に考える時間を、一人になって気持ちを整理する時間を与えてくれていたのだ。


 何が変わったところは無い、だ?

 彼女が笑顔を無理して作っていることぐらい、俺には…俺だけは解ってるに決まっているじゃないか!!


 彼女と向き合って話すべきだ。

 俺にそれだけの時間を与え、彼女は黙って俺の傍に居てくれたじゃないか。待っていてくれたじゃないか。


 話す事に依って結果、彼女に依存する形となったとしても。


 俺は、彼女に無理をさせることもまた、望んではいない。



 彼女に縋れ!己の弱さを見せつけろ!情けない所を曝け出す勇気を持て!


 もうこれ以上彼女に…シスターシャに無理をさせちゃあ ダメなんだ!!




「シスターシャ。」


『はい。』


「話があるんだ…

 俺の懺悔を聴いてもらえるかな?」


『勿論です。

 私に何でも言ってくださいね。』



 俺は、一旦落ち着くために深呼吸をする。その様子をシスターシャは黙って見てくれている。俺もそんな彼女の様子で、彼女も俺の心の惑いを理解できているのだと確信に至る。



「俺は、

 ここ数日間の内、生きる糧を得る為に、

 生き物を狩り…殺生し続けた。

 それでも殺生する事に慣れた、とは言い難いけど、

 シスターシャにも言われたように、

 自分なりに割り切ったつもりだ。

 別に、糧を得る為に殺生をするのが嫌だとか、

 そんなつもりは一切ない。

 これからも、

 俺が生きていく為…人間性を担保する為に

 殺生を犯す罪は背負う。

 こうやってこの事について

 考え続ける事が罰であるならば

 俺はそれを受け入れる。

 けど、

 俺が今悩んでいる事はそう言った事じゃないんだ。

 狩りの事じゃない。

 …生きる糧を得る為に狩りが出来るのに、

 未だゴブリンを殺した罪悪感が消えないんだ。

 俺は彼らを無益にも殺してしまったのだと。

 俺と彼らは何が違うのか!

 彼らも無益に…いや、彼らなりの理由があるかもしれない。

 けど、そんな事よりも

 やはり、俺も彼らと同じ穴の狢だと思ってしまうんだ。

 どうしても、あれから毎朝夢で見てしまう。

 俺が彼らを殺す情景を……」



 そこで、言い及ぶことに疲れたのか、将又己の罪悪感に負けそうになったのか、自分の事なのに終ぞわからないが、言葉が途切れてしまった。……情けない



『……ケンタロウ君。

 私の話を聴いてもらえますか?』


「…うん、勿論だよ。」


『…私は、ゴブリンさん達は

 本能が強く理性に乏しい

 そういった行動体系を持つ生き物さんだと感じました。

 つまり、

 理性に重きを置く人とは根本的に価値観が違います。

 …では、ゴブリンさん達がしてきた行為は

 果たして許されざるべき行為なのでしょうか。』


「なっ!

 シスターシャは許せると?」


『勿論許されません。

 ですけど、

 ケンタロウ君が人とは違う存在であれば、

 許せる余地もある筈です。

 つまり、

 ケンタロウ君は人としての立場故に

 ゴブリンさん達を許すことが出来ない。

 安心してください。

 …ケンタロウ君はゴブリンさん達とは違いますよ。』



 ……シスターシャの言う事は一理ある。


 俺はまだまだ思考し続けることが出来る。思索に耽ることも出来る。無為に思惟を重ねることだって出来る。


 蒙が啓いた。

 いや、そんな御大層なモノじゃない……ただ、目が醒めただけ。


 そう言われてみれば、

 この村に来てからの俺は、ゴブリンと己の醜さを(・・・・・)重ね合わせていた(・・・・・・・・)のかもしれないな…

 事ある毎に姿形の所為でゴブリンと言われたり、ゴブ子に欲情したり、殺生を楽しんでしまっていたり…

 だったら……



「……人とは違う考え方感じ方、か。

 俺は、ゴブリンと自分自身を重ねていたのかもしれない。

 容貌が似ていたという面もあるけど、

 この村において異質な存在だったり、

 己の醜い欲求をゴブリンの蛮行と重ね合わせてもしまっていた。

 その欲求の象徴であるゴブリン達を無惨に殺し

 自分だけが生きていることが気持ち悪かった。

 けど、重ね合わせたらいけなかったんだ。

 君が言うように、

 彼らは人とは…俺とは違う生き物だ。

 違う生き物なのに

 都合良く己の醜さだけを重ね合わせるのは卑怯な行いだ。

 彼らの行いを間近で見て、聞いて、接して

 それらによって、ただ己の醜さを感じ取っただけだというのに。

 その己の醜さ(・・・・)を…自分自身を(・・・・・)許せないだけ(・・・・・・)なのに、

 ゴブリンを殺した罪悪感に摩り替えてしまった。

 別に罪悪感それ自体が無かったわけじゃないけど、

 それは切っ掛けに過ぎなかった。

 …その事に気付かせてくれたのは、

 シスターシャ、君のお蔭だ。

 君が単純な…大前提を示してくれなければ、

 未だに俺は、ゴブリンを殺した罪悪感という

 自己陶酔の様な気味の悪い偽善的な考えに拘っていただろう。

 ありがとう。シスターシャ。」



 長い……心に思った事をそのまま口に出すとやっぱり長くなってしまうな。しかも思い掛けず、俺の醜さまでもシスターシャの前で自ら吐露してしまった。事前に懺悔と言っておいてよかった…その点だけは、自己陶酔していたさっきまでの自分に感謝だ。



『ケンタロウ君…

 これだけは貴方に言っておきますね。

 貴方は醜くなんてありませんよ。

 確かに、無益な殺生は好ましくありませんし

 それを楽しむことはもっと好ましくありません。

 それに、

 異性に対して欲情する事はいけない事でしょうか。

 勿論、時と場合や相手の立場、想い。

 そう言った事も大切ですけど、

 それらを含めて、何か危うさを感じたのなら、

 一旦立ち止まって顧みる事が必要なのです。


 今回、ケンタロウ君は

 自分自身を許せない、と言って

 自分を責めているお人よしさんですからね。

 ちゃーんと、省みれていますから大丈夫ですよ♪』



 シ、シスターシャは何でもお見通しだな。といっても、生体情報をモニターしたり感情を観測したりしてれば、当然か。


 今回俺は、ゴブリンを殺戮した罪悪感と、元から備わっていた己の醜さとを混同して認識しながら、あやふやな思考を繰り広げた。

 この二つは分けて考えなければならなかったのだ。

 己の醜さなどは元来のモノであるから、これから一生付き合っていかなければならない課題だ。

 今回の罪悪感についてならば、また違った形で解消すればよいだけ。


 今般の事案は色々身につまされる出来事だった。現に俺自身も関わっているので、他人事ではないのだが…


 でもさ…これだけは言えるよ。

 やっぱり、シスターシャは凄い。これだけは間違いない。だから、今から言う事も気軽に言えるんだ。



「そんなこと言うけどさ、

 俺だって聖人君子じゃないんだ。

 簡単に何かの切っ掛けで、

 道を踏み外してしまうと思うよ。

 其れこそ今回は危なかったんじゃないかな。」


『何をおっしゃいますのやら。

 ケンタロウ君。

 そんなの私が見過ごす筈ないじゃないですか。

 もし万が一にもケンタロウ君が

 道を踏み外しそうになっても

 私が全力で止めて見せますからね!』



 あの少し怖い感じの笑顔でおっしゃられた。もしかしなくても、怒っていらっしゃいますよね?…調子に乗りすぎた…舞い上がり過ぎちゃったかな?



「…う。

 試す様な事を言ってごめんよ。

 けど、ちゃんと君の口から聴いておきたかったんだ。

 絶対に止めてくれると信頼してるけど…さ。」


『……私、さっき言った事撤回しますね。』



「!!………………………」



 絶句だ。絶句というほか表現が浮かばない。いや、二の句が継げないともいえるが……


 舞い上がっていた気持ちが、見る影もなく沈んでいく…意気消沈の有様、然れば無様。惨めな有様、然れば無様。


 やっちまった……遠慮なければ近憂あり、をこの身で体現してしまう事になろうとは……


 本当の意味で何も考えることが出来なくなってきた


 あぁぁぁ―――



『フフフッ

 ケンタロウ君、早とちりしないで下さいね。

 私が、ケンタロウ君の信頼に応えたいのは間違いありません。

 けど、

 それ以上にケンタロウ君を信じてもいるんですよ。

 ケンタロウ君の真摯な優しさに何度救われたことか。

 貴方は何でもない事の様に、

 私に直向きな優しさをくれます。

 当然その事で救われてもいますけど、

 同時に貴方の優しさを

 心の寄る辺にしている事にもまた気付いたのです。

 だから、私は貴方を信じてもいるし、頼りにしてもいます。


 …断言します。

 ケンタロウ君は道を踏み外しません。』



 茫然自失になりかけていたが、その言葉で我を取り戻した。俺に縮む寿命は無いと思われるが、精神がゴリゴリ削れたのは、最早言うまでもないだろう。


 だがしかし、そんなチンケな事よりも、彼女が…シスターシャがこの上なく嬉しい事を言ってくれたではないか。



「ハハッ

 これは参ったな。

 これじゃあ、道を間違えるどころか、

 おちおち寄り道だって出来やしない。

 君の信頼がこれ程までに頼もしく思えるのは

 俺も君の事を信頼しているからなんだろうね。」


『フフッ

 お互い様ですね♪』



 シスターシャは、さっきから声を出して笑い通しだ。俺の事で気を揉ませてしまったからな。気が緩んだことも影響しているのだろう。

 俺は、彼女との会話を楽しみたい気持ちが勝っているので、居た堪れないとまではいかないが、妙に擽ったい心持ちのまま、話題を変える。



「そういえば、

 【思考加速】を発動していないばかりか、

 辺りの警戒もせずに随分と話し込んでしまったね。」


『フフッ

 ケンタロウ君は気付いていなかったかもしれませんけど、

 私は、初めて狩人君と会話した後から、

 毎回、ケンタロウ君が私の名前を呼んだら

 直に発動させていたんですよ。』


「えっ!!

 …それは気付いていなかったよ。

 本当にシスターシャの心遣いは恐ろしいものを感じるね。」


『あっ!

 私の事、恐ろしいと思ってるんですか?』



 と好い笑顔で、冗談めいた事をおっしゃった。



「いや!

 それは、言葉の綾というモノだよ。

 って、笑いながら言うなら

 俺がそう思ってないって判ってるでしょうに。」


『フフフッ

 いえ、ケンタロウ君が答えを出せたみたいで

 嬉しくて…

 何だか嬉しいのに…

 涙が出て来そうなんですよね…』



 本人が言うように、嬉し泣きなのだろう。

 さめざめとでは無く、瞼を瞬く毎にほろほろと…

 その泣き笑いの表情が途轍もなく愛おしい。居ても立っても居られない。雄叫びを上げながら其処ら中を駆けずり回りたい程に。実際は彼女を抱きしめたいのだ。だが、それが出来ないもどかしさ…もどかしさや嬉しさが融合してどうにも居た堪らない。


 本当に擽ったい。



 触れられない筈なのに(・・・・・・・・・・)彼女の笑い声は俺の胸襟を…心の奥底を撫で摩る様に擽ってくる。



 …何て得難くもまた掛けがえのない人なんだろうか。


 こうも俺の事で親身になってくれて。俺は幸せ者だ。果報者過ぎる。決して阿呆者では無い。が、こんなにもシスターシャの気持ちをヤキモキと弄んでしまった俺は、やっぱり阿呆者だ。阿呆者で果報者だ。


 別に二つの事は矛盾しない訳だから、何方の言葉も真実だ。


 そう、物事なんて少し違うだけで全く違うモノに変化する。過程が…心の持ちようが違うだけで違った結果を齎してしまう。



「シスターシャ。

 俺は君に謝るような事はしないよ。

 けど、傍に居てくれてありがとう。

 黙って俺の傍に居てくれただけで俺は正気でいられた。

 多分…いや絶対、

 これからも君に迷惑をかける事になるから、

 覚悟しておいておくれよ?」


『フフッ

 そんなの望むところに決まっているじゃないですか。』



 そうやって笑った顔は

 目元を赤らませ、瞳を潤ませながらも何処か輝いて見えた。


 きっとそれは、黄昏時なんかじゃなくて…


 俺の心の澱を払う払暁めいた 赫く笑顔なんだ。




 斯くもその眼差しは己の内に 明けの明星の如き煌きを放つ



 心の内が光で満ち満ちてしまえば


 ごく自然に 瞳に光るモノを溢れさせてしまうのも道理


 彼女の手前 溢れ落ちさせまいと 上を見上げて斯くも思う




 嗚呼 シスターシャにはやっぱり敵わない






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