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システムナビゲーションと一緒!  作者: ハヤニイサン
第二章ゴフリン村のゴブ子
14/29

ゴブリン狩り



 ハァ ハァ ハァ ……



 もうやめてくれ もういいだろう? 金なら財布の中だ お願いだ…後生だから…

 ハハッこいつ情けねぇな ごしょうだから…だってさ ごしょうってなんだ? …どじょうじゃね? どじょうか…! こいつクネクネおもしれぇし たかし いやおれたかしじゃねぇし おまえたかしってしらねぇの?―――――




 嗚呼…これは…この情景は…そうか…



 ……

 …



『ケンタロウ君。

 おはようございます。

 少し魘されていたようですけど…』


「おはよう。シスターシャ。

 多分、嫌な夢を見てたからだと思う。

 夢なんだから、心配無用だよ。

 それよりも、今日からの事――」


 ドンドンドン ガチャ――


「此処にもいないか…

 朝早く済まない。

 起こしてしまったか?

 いや、そんな事よりも

 ゴブ子はこちらに来なかったか?」


「あぁ、あれから来なかったけど…

 何かあったのか?」


「…ゴブ子が見当たらないんだ。

 昨夜、此方に来てから自宅に送って行ったのだが、

 朝の洗濯時間になっても水場に顔を出さなかったから

 彼女の友人が心配してな。

 それで、自宅に行ったら蛻の殻だったらしい。」


「何処か行先に見当は付かないのか?」


「ここ以外には…

 いや、まさかな…」


「そのまさかってのは?」


「…昨晩、ゴブリンを駆除すると話したな。

 これはまだ村の連中全てに行渡っている連絡事項ではないが、

 今回はゴブリンの集っている洞窟が対象なのだ。

 もしその洞窟の場所をゴブ子に知られてしまっているなら、

 恐らく、そこに向って行ったかもしれんのだ。」


「!!

 今は、そこに向かってみるべきだろう。

 俺が先行する。場所は…てか、方向は?

 方向が判れば俺一人先に行って確かめてやる。」


「ケントなら出来る…のか。

 いや、だが……アンタは…

 しかし……そうはいっても…」


「ゴチャゴチャ考えてても仕方ない。

 何にせよ、今は行動すべき時だろう?」


「……頼めるか?

 もし何かあっても俺が行くまで待っててくれよ。

 方向は、オレたちが辿った川の上流を北だとすると

 北北西の方角だ。」


 そう言いながら、洞窟があるであろう方向を指で示した。


「了解だ。

 早速行くぞ。」


「あぁ。

 といっても半信半疑ではあるが…

 言う程先行できるのか?」



 会話をしながらも俺と狩人君は部屋から出て、俺は直接外へ、狩人君は弓矢を持ち出してきた。

 村の外まで一緒に駆け足で進む。門扉を過ぎ、広場付近に来た。途中、見張り番に確認するが、見掛けていないらしい。これで外に居たら笊な警備だとしか言えない。といっても内から外で、その上ローテーションの間隙を突かれれば難しいだろうけど。

 それよりも、俺は先程の狩人君の問いかけに返事をする。 



「まぁ、見てな。

 あっちの方角でいいんだろう?

 じゃあ、宣言通り先に行くからな。

 シスターシャ。

 【思考加速】二倍でお願い。」


『解りました。』



 時間が…一万倍の全てのモノが止まってしまう感覚ともまた違う…引き伸ばされる感覚が広がった。


 【思考加速】二倍の部分は小声だったが、シスターシャは聴き分けてくれたようだ。


 動作が極端に鈍くなった狩人君を後目に、

 俺は何時も通りに動けると強く意識しながら一歩目を力強く…それでいて素早く踏み込んだ。


 …拍子抜けする程簡単に普段通りの動きが出来たので、その場で軽く踏鞴を踏んでしまったが、成功だ。

 この常識のブレイクスルーは些細なことかもしれないが、これからもこのような事を連続させていかなければならないのだから、その弾みにはなるだろう。これは昨夜の思索の賜物なんじゃないかな。



『ケンタロウ君。

 急ぎましょう。

 何か嫌な予感がします。』


「あぁ、俺もそう感じている所だよ。」



 そうだ、昨夜のゴブ子の行動はやはり可笑しいのだ。

 そんな彼女を素気無く…といっても、あのように扱う以外どうしようもなかったのだが、彼女を自棄に追い詰めてしまった己の責任を若干感じたのは本当だ。


 もし、俺のせいでは無かったとしても、最悪の可能性は潰しておくに限る。


 そんな思いを胸に仕舞い込みながら、今は件の洞窟を目指して、極力森を蹂躙しない様に気を付けながら駆けている。

 方角だけ訊いて駆けだしたバカだと思う奴もいるだろう。だが…



『ケンタロウ君。

 昨日マッピングした箇所以外で洞窟がありそうな場所は

 この方角なら…もう少し右方向にズレて下さい。

 …はい。この方向で良いと思います。』



 俺には心強いナビゲーターが付いているから、絶対に行けると判断して狩人君への先行宣言だ。



 ……

 …



 すると腕時計で十二、三分程経過した辺りで、洞窟が目の前に現れた。結構距離があったので、追いつけるかもしれなかったのだが、見通しが甘かったか。若しくは来ていないのか。



 ……チィ 見通しが甘かった方だ。しかし、不幸中の幸い。ゴブ子も今辿り着いて中に丁度入っていった所のようだ。



「シスターシャ。

 狩人君を待つ手筈だったけど、

 この場合は俺一人でも止めに行った方が良いと思うんだ…

 どうだろう?」


『私は……

 ケンタロウ君の言う通り…だと思います。

 けど…無茶しないで下さいね?』


「勿論。

 伊達に能力値は高くないよ。

 心配しなくても、俺は傷一つ付かないからさ。

 うん、こういうのは思い込み一つなわけだから。

 俺が、彼女を絶対救うんだと思い込んだ方がいいかもね。」



 そうだ、俺は常識をブレイクスルーするんだ。し続けなければ、この世界に飲み込まれる。飲み込まれる前に常識を破壊し続ける事が重要なんだ。

 よし。俺はいける。洞窟の中は薄暗かろうが、俺は洞窟の中でも暗順応を最大に…其れこそ超人の様に発揮できる。絶対できる、やればできる。


 そう意気込んで、洞窟の中に駆け込んだ。



 ……洞窟の中の明るさは外とあまり変わらなかった。こういう結果になると、本当に器用値様様だと思える。

 だが、洞窟の内部構造は把握できてないし、密閉空間なので、これからは慎重に行動する。


 聴覚に集中すると、奥の方で何か言っている声…というか音が聞える。正直、聞き取り辛い。いや、【思考加速】している影響で、岩壁に反響する音が、判別し辛くなっているんだ。



「【思考加速】オフ」



 気持ちのゆとりと、時間があれば、器用値を順応させるのだが…この場合は【シスターシャブースト】も絡んでくるからな。


「―――――

 さぁ――――よ

 怖気づいてんじゃ―――」


「ギギギグゥ!!」


「―――よ

 はやく――――」



 今度は、聞き取れた。焦る気持ちを抑え、普段と変わらない(・・・・・・・・)足取りを意識しながら、平地と同じように洞窟を駆け抜ける。


 洞窟は平均して高さと幅が三メートル程で勾配は無い。足元はごつごつとして歩きにくい筈だ。俺はそんな事は気にせずに、曲がりくねった通路を五秒程で走破して、最奥の少し開けた五十平米余りの広間に辿り着く。


 そこには、今にも二匹のゴブリンによって組み伏せられんばかりのゴブ子と、その周囲には十体のゴブリンが集っていた。



「ゴブ子!

 何やってる?

 まさかノコノコ自分から来たんじゃあるまいな?」


「…その声は!?

 なによ!これからいい所なんだから、

 邪魔しないでくれる!?」


「そんなわけにいくか!

 お前の友人も、狩人君も

 みんな心配してんだぞ!!

 お前が何と言おうとも

 俺はお前を助けるからな!」


「いや!邪魔す―――」


 そう言って会話を打ち切り、俺は集中する。何か喚いているが聞かない、聞こえない。そんな状況まで自分を追い込む。

 ゴブ子が喚きだしたお蔭か、ゴブリン達はゴブ子を襲う事を一旦止めている様で、俺にとってはそれも好都合だった。


 落ち着け…たかがゴブリン十数体。今の俺なら大丈夫。やれる。


 そう思いながらも、俺に向かってくるゴブリンを睨み付ける。



 やはりゴブリンの顔つきは、気持ち悪い。人とは掛け離れているが、それでも相似点を探せば見付けられる様に…

 先程まで醜い行いをしようとしていた割に、妙に真剣な容貌や眼差しは生きようと必死なのかもしれない。だが、そんな真剣な様を見せつけても、これまでの蛮行は覆せない筈だ。


 

 ふと、ゴブリンの顔は現在の自分の顔と酷似しているのだろうか、と頭の中で過った…過ってしまった瞬間、あの…嫌な光景が蘇ってしまう。ゴブリンの顔が己に酷似している所為か。あのゴブリンの気絶した顔を思い出してしまった為か。今朝夢にあの情景を見た故だろうか。


 何にせよ、俺はその時点から身体が硬直し、身動きが取れなくなってしまう。


 何故だ?何故動けない?俺は動ける。俺はやれる。そうだろう?健太郎よぉ!!


 俺が動かないことを怖気づいたと取ったのか――正鵠を射ているが――先程までの真剣な顔つきを途端に崩し、ニヤけながら、ゴブリン全員が俺の周囲を囲んできた。



「グゥッグゥッグゥ」


「ギギッギギギッ」


「ガギグゥギギガグゥ」



 やめろ…やめてくれ…


 そんな意味不明な言葉を話さないでくれ…そんなリンチをするのが当たり前みたいな顔をするのはやめてくれ…

 お前らは、こうやって甚振るのが好きなのだろうが…俺は…おれは…


 そう思考の渦に落ち込んでしまった俺は、その場で亀のように蹲ってしまう。


『――――――!』


「やめてくれ…後生だから…この通りだから…頼むから…」


 そう思っても彼奴等はチクチクと俺を焦らすように…愉悦の混じった嘲笑をあげながら…意味の解らない言葉を発しながら…暴行を楽しんでいるようだった。

 いや…あの時もそうだったが、奴らにとってこれは普通なのだ。これが日常。どうしようもない。慈悲が無い、以前にそんな概念も持たないのだろう。


『―――――君!』


『ケンタロウ君!!

 しっかりしてください!!』



 !!



 違う…あの時とは違う


 …そうだ。あの時と俺は違うんだ。


 俺は、確かにフィジカル面で強くなったかもしれないが、同時に現実は能力値に振り回されてもいる。メンタル的にはいう必要もないだろう。

 概して俺自身は何も変わっちゃいない。

 だがしかし、あの時と明確に違っている事がある。天と地の差がつく程の事がある。


 そうなのだ。あの時には居なかった、俺の傍にずっと居てくれる彼女が…シスターシャという掛けがえの無い存在が。


 そう思い、顔をゆっくりと上げ、同時に軽くなった身体も伸び上げる。



「シスターシャ、心配かけてごめん。

 偉そうなこと言ったのにごめん。

 格好悪いとこ見せてごめん。

 惨めなとこ見せてごめん。

 本当にごめんなさい。」


『ケンタロウ君!

 良かった!

 身体は何ともないと思いますけど、

 どこか変なところはありませんか?』


「うん、もう大丈夫だよ。

 俺の事より、このゴブリン達を一掃しなきゃね。」



 そう自分自身にも言い聞かせながら、改めてゴブリン達を窺う。


 彼奴等は、各々粗末な武器をチラつかせながら、時折不意を突いたように得物を振るってくる。俺の胸辺りまでしか身長が無い為、俺の顔には当たりにくい間合いだ。

 無論、俺は避けることが出来ずに当たる事になるが、そもそも防具の性能が段違いであるため攻撃の衝撃やダメージを一切食らわない。仮に己の柔肌に受けても食らわないだろうが。

 多分、平常時なら怖くてビビッてたかもしれない。…つい今し方の事だ。しかし現在の俺は、アドレナリンが過剰供給されているのか、全能感に満ちている。リア充パワーと呼んでもいいかもしれない……嘘です御免なさい反省しています。

 シスターシャが傍に居てくれると考えるだけで、何でも出来そうになっている状態だ。


 こんな風に…


 俺は腕を鞭の様に内から外へ水平に大振りした。するとどうだろう。丁度いい位置に頭があるので、首なしゴブリンが即席で出来上がってしまう。



 ブシュゥ――


「…ガギ、ガギグゥ!?」


「…ギギ、ガギガギ?」



 腕の一振りで仲間が呆気なく死んだと認識するや否や、彼奴等は焦りだしたのか、将又恐怖故に慄いたのか、今度は俺に替わって彼奴らが立ち竦んでしまった。


 俺は、半ば作業を行うように、ゴブリンの前に立ち、腕を振るっていった。



 ブシュゥ――



 この時初めて攻撃手段として、器用値を用いて、腕を揮ったのだ。



 ブシュゥ――



 ただ、そこは素人の腕振り。振るう度に血が…ゴブリンの血が舞い散り、舞い踊った。宛ら、おもちゃの花火に火を付けるが如く、俺の腕が触れた花火から順に火花を舞い昇らせた。

 余談だが、これ以外に致命傷を負わす手段が考え付かなかったせいもある。

 しかし、それ以上に己の内から、愉悦の混じった…童心に返った様な、幼心故の行為なのかもしれない。



 ブシュゥ――



 っと、此処にきて漸く我に返ったのか…返らざるを得なかったのか、ゴブリン共が慌てふためき始めた。

 俺は、何処まで行っても素人なので、動き回られれば上手く攻撃を当てられないのは目に見えている。



「【思考加速】オン」



 現状、これがベストであろう。だが、この洞窟という密閉空間において約一万倍の加速は非常に危険だ。なので、極力無駄な動きを省いて…



 ボッ



 先程よりも慎重に作業をこなしていく。



 ……

 …



「【思考加速】オフ」


 ブシュゥゥゥゥ―――――



 最後に一斉に花火から火花が舞い昇った。これが本当の花火であれば、さぞかし綺麗な光景だった事であろう。


 …そう、この場を瞬く間に制圧し切ってしまった締め括り(フィナーレ)に相応しい。が、



 あっけない。



 それが…俺が人間大の生き物を初めてこの手に掛けた無情で無慈悲な心根だった。



 殺しを経験した事に依って気持ちが高ぶっていたのか、周囲の観察が疎かになっていることに気付く。


 俺は、死体を無駄に…無益にも損壊させ過ぎている。やり過ぎてしまっている。

 この俺の蹂躙劇をシスターシャはどのように思っているだろうか。やはり、森歩きの時の様に怒られてしまうだろうか。

 シスターシャは俺に声を掛けてこないが、果たしてどのような表情をしているのだろうか。


 俺は殺生をした罪悪感より、シスターシャに悪い印象を与えたくない一心になっている己に対して、彼女と出会ってからは久しく無くなっていた、久方ぶりの自己嫌悪に陥った。



「はぁ。」


『ケンタロウ君…

 無理をしないで下さい。

 感情の起伏が正常ではありません。

 一人で考え込まないで、

 何か話したい事があれば、

 私に相談してくださいね。』


「あぁ…その時は頼むね…」


 シスターシャは俺が今の情況に陥っても俺の事を変わらずに案じてくれているらしい。



 俺は戦闘の高揚を治め、一旦落ち着くために、残心の意味も込めて最後に周辺を確認する。

 …無事ではあるが、その場にへたり込んで放心状態のゴブ子。首無しの死体と棍棒や短剣、短槍等と共に、そこには見覚えのある一本のナイフが落ちていた。


『それは!?ケンタロウ君!いけま――』


 柄には名前が彫られてある。




【ゴブ子】




「――――――――――!!」



 俺は、声にならない声を上げてしまう


 未だ手に残る生温く湿った感触が…俺に何かを訴えかけるかの様に 



 全てが理解できた為だ。総てが繋がったからだ。曖昧な憶測でもなんでも真実を知ってしまった故に…



 この蹂躙劇の中にあのゴブリンも当たり前の様に居たのだ…。


 脳裏に嫌でも思い浮かべさせられるのは、己に酷似し気絶した顔…。


 ゴブ子の狂人染みた奇矯な振る舞い…。


 焦点の合っていない瞳の眼差し…。


 あの瞳の先にはいったい何が見えていたのか…。



 総じて

 俺は生き物を殺した事への罪悪感が己の身体の何処其処からか…。


 沸々と湧き上がって来る事に気付かざるを得なかった。






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