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「お前は犠牲者役だ」と捨てられた俺、ラスボスと配役を交換する ~役なし《代役》は、世界最強ヒロインと台本どおりに死なない~  作者: michael


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第十四話「主役のいない救出劇」

第十四話 主役のいない救出劇


 カイトは、一人で舞台裏へ来た。


 剣も護衛もない。


「受入地点を百二十七か所確保した」


 病院。

 避難所。

 家族のいる家。

 帰る場所のない者には一時住宅。


「条件は凪か」


「世界規模公演の鍵として戻ってもらう」


「拒否した」


 凪が答える。


「なら百二十七人は、三日後に削除される」


「脅し?」


「事実だ」


 カイトは名簿を置く。


「俺は全員を救うと言わない。救える数を最大にする」


 そのとき、舞台裏が崩れた。


 削除の波が、ノークレジットの居住区を飲み込む。


 出口は開いたが、一度に一人しか通れない。

 残り時間、十分。


 百二十七人。


「主役役がいれば、全員を導ける」


 カイトがミオを見る。


「復帰しろ。役補正を戻す」


「嫌」


「意地で人を死なせるのか」


 ミオは一瞬、揺れた。


 主役へ戻れば、正しい道が光る。

 全員が彼女の指示へ従う。


 だがまた、他の人を背景にする。


「私一人を見ないで!」


 ミオが百二十七人へ叫ぶ。


「出口を知っている人。怪我人を運べる人。子どもを数える人。自分でできることを言って!」


 声が上がる。


 三枝千春は救護。

 奏太は扉の制御。

 高瀬修司は歩けない者を分類。

 凪は通路を切る。

 バンは崩落を盾で支える。


 主役はいない。

 役割は、自分で選ぶ。


 最初の一分で、計画は崩れた。


 歩けると申告した男性が、廊下で倒れる。

 舞台裏に長くいたせいで、足の感覚が薄れていた。


「分類をやり直す!」


 高瀬修司が叫ぶ。


「最初の申告を固定しない。状態は変わる!」


 三枝千春が腕へ色札を巻く。

 赤は担架。黄色は付き添い。白は自力歩行。

 五十人通るごとに確認し直す。


 出口の前では、老人が動かなかった。


「妻がいない」


 名簿には老人一人だけ。

 妻は舞台崩落の日から姿を見ていないという。


「先に出て。後で探す」


 誰かが言う。


「後で、は信用できない」


 老人は入口へ座り込む。

 説得して運べば、時間は縮まる。


「名前は」


 凪が尋ねる。


「片桐文江」


「特徴は」


「右手の小指が曲がってる。歌が下手。私より先に怒る」


 奏太が名簿の削除履歴を検索する。

 《同行家族一名》ではなく、《避難誘導用の声》として記録された人物がいた。


「人じゃなく、放送装置へ変えられてる!」


 廊下の非常スピーカーから、同じ誘導文が繰り返されている。


『慌てず、出口へ進んでください』


 老人が顔を上げる。


「文江は、そんな丁寧に言わない」


 スピーカーを外す。

 裏に、小さな役札。


 《避難誘導役――片桐文江》


「文江!」


『あんた、まだ座ってるの! 先へ行きなさい!』


 録音ではない。

 本人の声だった。


 凪とキューが役札を人型へ戻す。

 老女が床へ落ち、夫の肩を叩いた。


「探す方が先に倒れてどうするの」


「お前を置いて行けるか」


「置いてない。放送してた」


 二人を同じ担架へ載せる。


 別の場所では、子どもが出口を怖がった。


「向こうで、また名前を忘れられたら?」


 主役が「大丈夫」と言えば、台本上は従う。

 今は誰も保証しない。


 ユイが隣へ座った。


「私も怖い。一緒に行って、忘れられたらお互い呼ぶ?」


「途中で離れない?」


「手が痛くなったら言う。その時は別の人と交代する」


 二人は手をつなぎ、出口へ向かう。


 バンの支える天井がさらに下がった。


「あと何人!」


「八十四!」


「多いな!」


「無理なら交代」


「まだ十秒いける!」


 十秒後、元兵士の宮野佳澄へ支柱を渡す。

 さらに十秒後、別の三人。


 盾役一人ではなく、腕のある者が短時間ずつ天井を支える。


 カイトは出口の横で、流れを見ていた。


「順番を俺が決めれば、三十秒縮められる」


「決めたい?」


 ミオが聞く。


「決めたい」


「では候補だけ」


 カイトは計算を出す。

 担架を二列にする案。

 子どもと歩ける大人を組ませる案。

 出口前の曲がり角を壊す案。


「壁を壊すと、最後の三人が崩落へ巻き込まれる確率がある」


「本人へ伝える」


 最後尾の三人は、危険を聞いたうえで別案を選んだ。

 曲がり角を奏太が工具で広げ、全員が少しずつ荷物を捨てる。


 最適ではない。

 説明と変更に時間もかかる。


 それでも、自分がどこを通るかを知らないまま運ばれる人はいなかった。


 残り四分。

 出口の枠が白く崩れ始める。


「今度は俺の番」


 俺は出口役と交換し、一時的に身体を扉へ変えた。


「零は最後!」


 ミオが決める。


「勝手に」


「私は先に残る」


「なら二人で最後」


 次々に人が通る。


 残り三十秒。

 最後の子どもが現実へ出た。


 俺は人へ戻る。


 出口が閉じかける。


 カイトが手を伸ばした。


「最終稿。出口は四人が通るまで閉じない」


 因果が固定される。


 俺、ミオ、凪、バン。

 全員が滑り込む。


 現実の廃体育館へ、百二十七人が揃っていた。


 家族が名前を呼ぶ。

 帰る家のない人には、受付が名前を聞く。


 カイトだけが舞台裏へ残った。


「来い!」


 俺が手を伸ばす。


「最終稿の代価だ」


 出口を固定した演出家は、幕が閉じるまで舞台を離れられない。


「俺を助けるな」


「本人の希望?」


「ああ」


 カイトは初めて、少し笑った。


「三日後、世界規模公演で会おう」


 扉が閉じる。


 百二十七人を救った男は、スタッフロールに名前を残さなかった。


 凪が閉じた扉へ触れる。


「嫌い」


「俺もだ」


「でも、今のは格好よかった」


「それも同意する」


 空へ巨大な配役表が現れた。


 《最適配役開始まで 七十二時間》


 世界中の人間へ、役札が配られ始めた。


    ◇


 廃体育館は、再会の声で満ちた。


 七年ぶりに夫へ会う女性。

 名前を変えたため、家族ではなく支援員に迎えられる若者。

 帰る家を失い、受付で新しい住所を相談する者。


 高瀬修司の前には、成人した娘が立った。


「お父さん」


「すまない」


「最初にそれ?」


「英雄ではなかった」


「知ってる」


 娘は片方ずつ違う靴下を見せる。


「そんな人が、完璧な英雄なわけない」


 修司は泣いた。


 三枝千春の弟は、姉の好きだった辛いカレーを持ってきた。


「誕生日、覚えてる?」


「九月」


「十二月だよ」


「やっぱり」


 間違った記憶を正解へ直し、二人で笑う。


 救出は成功した。


 それでも俺は、閉じた扉から目を離せなかった。


 カイトは舞台裏に残っている。


「助けに戻る?」


 ミオが隣へ来る。


「本人が残ると選んだ」


「納得してない顔」


「選択を尊重するのと、心配しないのは別だ」


「なら心配していい」


 俺たちは扉の前に、連絡用の鍵を置いた。

 カイトが帰りたいとき、自分で開けるように。


 午後、世界中へ役札が降り始めた。


 最初は職業だけだった。


 《救急医》

 《電車運転士》

 《保育者》


 喜ぶ声が上がる。


「ずっと向いている仕事が分からなかった」

「これで失敗しない」

「子どもの才能を無駄にしなくて済む」


 次に、関係の役が出る。


 《理想の妻》

 《従順な息子》

 《優秀な姉》


 最後に、物語上の役。


 《将来の犯罪者》

 《家族の負担》

 《背景》


 本人の希望を聞かず、同じ光で配られる。


 体育館の入り口にいた老人が、自分の札を見た。


 《退場予定者》

 《社会資源を若者へ譲る》


「これは、何をすればいいんだ」


 誰も答えられない。


 俺は札へ触れる。


 交換しようとして、止めた。


 俺が引き受ければ老人は救える。

 だが《退場予定者》という役は残る。


「あなたは、どうしたいですか」


「孫の卒業式を見たい」


 老人は役札を握りつぶす。


 すぐ新しい札が出た。


 《不適合者》


 世界規模の配役は、拒否まで役へ変えようとする。


 キューがカイトから送られたデータを開いた。


 《ディレクター初期記録》


「この仕組みが、なぜ作られたか分かるかもしれません」


 俺たちは再会の続く体育館の片隅で、十年前の世界崩壊を再生した。



    ◇


 初期記録には、音声が欠けていた。


 映像だけなら、役割を捨てた人間が災害を広げたように見える。


 出口管理者が持ち場を離れる。

 医師が担当区域を越える。

 避難者が列を崩す。


「カイトが見せられたのは、これだけ」


 キューが言う。


 だがデータの端に、削除された音声層がある。


 復元には一時間。


 その間にも、役札は世界へ広がる。


 体育館の帰還者へも届いた。


 三枝千春は《補助看護師》。

 高瀬修司は《英雄医師》。


「また私が補助」


「また私が英雄」


 二人は顔を見合わせ、同時に札を外した。


「担当は患者ごとに相談」


「同意します」


 札はすぐ戻る。

 外しても、役の指示が頭へ流れ続ける。


 凪には《保護される妹》。


「いらない」


 破っても、次が出る。


 《兄を正しい道へ導く妹》。


「これも嫌。お兄ちゃんの成長装置じゃない」


 俺には《世界の敵候補》。


 まだ候補。

 しかし周囲の役札は、俺から距離を取るよう命じ始める。


 ミオだけには何も出なかった。


「なぜ」


「主役役を自分で捨てたため、再計算中です」


 少し安心した直後、天井いっぱいの文字が現れる。


 《最上位候補――世界の主役》


 ミオの顔が強張る。


 世界は、一度降りた人へもっと大きな役を差し出した。


「受ける?」


 凪が聞く。


「受けたら、何人救えるかは知りたい」


「受けたいかは」


「受けたくない」


 両方を認め、詳細だけ読む。


 主役が存在すれば、世界固定成功率は九十九・九%。

 代償欄は非公開。


「代償が見えない契約は選ばない」


 ミオは拒否した。


 ちょうどその時、削除音声の復元が完了する。


 十年前の映像から、幼いカイトの母親の声が流れ始めた。


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