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「お前は犠牲者役だ」と捨てられた俺、ラスボスと配役を交換する ~役なし《代役》は、世界最強ヒロインと台本どおりに死なない~  作者: michael


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第一話「死ぬ役は、ラスボスに譲ります」

第一話 死ぬ役は、ラスボスに譲ります


 世界は俺に、死ぬ役を与えた。


 だから俺は、ラスボスへ代役を頼んだ。


 視界の中央に、金色の配役表が浮かんでいる。


 《第十八層・処刑劇場》

 《主役――皇カイト》

 《ヒロイン――天城ミオ》

 《盾役――犬飼バン》

 《敵役――断頭王ギロティナ》

 《犠牲者――鳴海零》

 《幕引き――犠牲者の死亡》


 俺の両手は、処刑台へ黒い鎖で固定されていた。


 頭上には、三十メートルの巨大な刃。

 正面には、王冠の代わりに無数の首を載せた骸骨の王。

 背後にある帰還門は、赤い光を失ったまま閉じている。


 断頭王ギロティナ。


 未討伐期間七年。

 推奨攻略人数、S級探索者五十名。

 世界攻略順位第三位の舞台迷宮ボスだ。


 俺たちは五人で、そいつの前まで来た。


 一人は途中で死んだ。

 残った四人が帰るには、もう一人死ななければならない。


「零」


 皇カイトは剣を下ろした。


 二十一歳。

 世界最大の攻略組織《ファイナル・キャスト》代表。

 固定役《演出家》を持つ、俺の幼なじみ。


 昔は兄のように思っていた。

 今は俺を殺す結末を、誰より正確に選んだ男だ。


「お前が死ねば、残る四人は地上へ帰れる」


「俺を助ける方法は」


「三十七通り試算した」


 カイトの声に迷いはない。


「全員生還の確率は〇・二%以下。お前を犠牲者へ固定すれば、残る四人の生存率は九十九・八%」


「そうか」


「恨んでくれて構わない」


「恨むのは後にする」


「後はない」


「俺の役が変わらなければな」


 カイトの眉が、ほんの少し動いた。


 俺の固有技能は《代役》。


 役なし。

 補正なし。

 欠員が出たときだけ、その場へ入る最低等級の技能。


 回復役が倒れれば回復役になる。

 盾役が負傷すれば盾役になる。

 罠を踏む者が必要なら、罠を踏む役になる。


 能力は借りられる。

 しかし役に定められた義務と、敗北条件まで引き受ける。


 便利だった。

 使い捨てる側には。


 俺自身に固定役がないため、これまで《交換》は一度も成立しなかった。


 だが今、初めて俺へ役が与えられた。


 《犠牲者》。


 ならば、ようやく交換できる。


 俺は配役表の《敵役》へ指を伸ばした。


「固有技能《代役》を発動」


 金色の文字が震える。


 《交換元――犠牲者・鳴海零》

 《交換先――敵役・断頭王ギロティナ》

 《対象の本名および役名を確認》

 《警告》

 《役の能力、義務、終幕条件をすべて交換します》

 《承認しますか》


 断頭王が初めて笑うのをやめた。


『その手を離せ、人間』


「承認」


 鎖が外れた。


 同時に、断頭王の両手足へ黒い鎖が巻きつく。


『何をした』


「配役変更だ」


 俺の頭上から消えた巨大な刃が、断頭王の真上へ移動した。


 新しい配役表が開く。


 《敵役――鳴海零》

 《犠牲者――断頭王ギロティナ》

 《幕引き――犠牲者の死亡》


『待て』


「主役じゃないから、待つ義務はない」


 刃が落ちた。


 轟音。


 処刑劇場の石床が、縦に割れる。

 六億あった断頭王の体力表示が、一瞬でゼロになった。


 世界攻略順位第三位の怪物は、自分の舞台装置で真っ二つになった。


 金色の粒子が吹き上がる。

 魔石、武器、宝箱が雨のように落ちる。


 配信用の浮遊カメラが、俺を映していた。


 同時視聴者数、二千八百四十一万。


 コメント欄が爆発する。


《は?》

《今なにした?》

《犠牲者とボスを入れ替えた?》

《ギロティナ七年未討伐だぞ》

《ワンパンじゃなくて台本キル》

《鳴海零って荷物持ちじゃなかった?》

《カイト、こいつを殺すつもりだったの?》


 俺は落ちた剣を拾った。


 断頭王の役を得た瞬間、身体の奥から異常な力が湧いている。


 《敵役補正》

 《主役と敵対中、全能力八百%上昇》

 《恐怖付与》

 《処刑武装支配》


 同時に、別の衝動も流れ込んだ。


 主役を殺せ。

 観客を恐れさせろ。

 誰も帰すな。


 これが《役残り》だ。


 長く演じるほど、役が人格へ入り込む。


「零から離れて!」


 天城ミオが剣を抜いた。


 十八歳。

 登録者二千四百万人。

 世界最強と呼ばれるS級探索配信者。


 固定役《主役》。

 見られているほど強くなる固有技能《スポットライト》。


 今の彼女なら、敵役補正を得た俺でも勝てない。


 だが剣先は、俺ではなくカイトへ向いていた。


「配役の再固定を解除して」


「できない」


 カイトは静かに答える。


「舞台迷宮は、空席を許さない。敵役が生まれた以上、主役が倒さなければ帰還門は開かない」


 言葉どおり、新しい台本が表示された。


 《最終幕》

 《主役とヒロインは、敵役・鳴海零を討伐してください》

 《制限時間 五分》

 《未達成時、出演者全員を処刑》


 カイトが剣を構える。


「零。抵抗するな」


「それが最終稿か」


「違う。今、最も多くを生かす選択だ」


「俺一人を殺す選択だ」


「そうだ」


 ごまかさない。

 だからこそ、腹が立つ。


 カイトの剣へ白い光が集まる。


 《主役補正》

 《敵役への攻撃、必中》

 《終幕時、致命傷を一度無効化》


「待って」


 ミオが、今度は俺へ剣を向けた。


「ミオ」


「零。あなたが死ねば、全員帰れるのね」


「ああ」


「怖い?」


「役にそう思わされるのが、一番怖い」


 俺の口元が勝手に笑おうとする。


 敵役は、最後まで不敵に笑う。

 そういう演出らしい。


 ミオは一歩近づいた。


 配信画面のコメントが、彼女を急かす。


《ミオ逃げて》

《零はもうボス側》

《倒せば助かる》

《主役なんだから決めて》

《世界最強ならできる》


 世界中の期待が《スポットライト》へ流れ込み、ミオの剣が太陽のように輝く。


 彼女は剣を振り上げた。


 そして、床へ投げ捨てた。


「嫌」


 処刑劇場が揺れた。


「天城ミオ」


 彼女は自分の頭上に浮かぶ《主役》の文字を、両手でつかんだ。


「本公演の主役役を、降ります」


 金色の役札へ亀裂が走る。


 《警告》

 《固定役を放棄した場合、役補正を永久に喪失する可能性があります》

 《評価、順位、契約上の地位が失われます》

 《観客の期待を裏切ります》


「全部、分かった」


「ミオ、やめろ!」


 カイトが初めて声を荒らげた。


「主役補正を失えば、お前は――」


「主役だから守るんじゃない」


 ミオは役札を引き裂いた。


「私が、零を守りたいから守る」


 光が消える。


 二千八百万人の視線を力へ変えていた世界最強が、ただの一人の少女へ戻った。


 同時に、金色の台本へ黒い亀裂が走る。


 《想定外の降板を検知》

 《終幕条件を再計算できません》

 《舞台裏を開放します》


 劇場の奥に、存在しなかった黒い扉が現れた。


 扉の隙間から、一枚の紙が滑り出す。


 俺は拾った。


 子どもの頃から見慣れた、少し右上がりの字だった。


 《お兄ちゃんへ》


 息が止まる。


 《私を助ける役は、まだやらないで》

 《舞台裏で待っています》

 《こっちはこっちで、百二十七人助けました》


 署名。


 鳴海凪。


 三年前、舞台迷宮に飲み込まれ、死亡認定された俺の妹。


 その下に、追伸がある。


 《そっちの主役、たぶんお兄ちゃんのこと好きだよ》


「凪……」


「最後の一行は読まなくていい」


 ミオが真顔で紙を奪った。


 彼女の頭上に、役ではない赤い字幕が出る。


 《図星》


「それは消せないのか」


「今から舞台ごと壊す」


 制限時間は、残り三分。


 カイトが黒い扉を見る。


「その先は、帰還経路ではない」


「妹がいる」


「罠の可能性が高い」


「それでも行く」


「零」


「俺を殺すよりは、確率が高いだろ」


 答えを待たず、俺は黒い扉へ走った。


 ミオが隣へ並ぶ。


 背後から、犬飼バンの大声が響いた。


「カイト! 追うなら俺を倒してからにしろ!」


 振り返る。


 二メートル近い巨体の盾役が、カイトの前へ立っていた。


「バン」


「勘違いすんな、零! 助けるのは今だけだ!」


「十分だ」


「あとで殴れ!」


「予約しておく」


 俺とミオは扉をくぐった。


 舞台の光が消える。


 落下する感覚。


 最後に見えたのは、カイトが剣を振り下ろさず、俺たちを見送る顔だった。


 怒っているようにも。

 迷っているようにも見えた。


 暗闇の中で、小さな声がする。


「出演者二名、無断で舞台裏へ侵入」


 黄色い非常灯がついた。


 黒い作業着を着た、手のひらサイズの少女が浮かんでいる。


 髪はケーブル。

 腰には工具とガムテープ。

 顔の半分を大きなヘッドセットが覆っていた。


「規則違反です」


 少女は無表情で言った。


「ですが、規則どおりなら二人とも死んでいました」


 小さな手で、奥の通路を指す。


「走ってください。幕が閉じるまで、あと百八十秒です」


 その先には、黒い扉が百以上並んでいた。


 すべての扉の向こうから、誰かが助けを求めていた。


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