第29話 華
アキトは泣き叫ぶルナを抱き懸命に山道を下る。
追手がくる気配はなかった。
やがて谷間に吊るされた一本の吊り橋が見えてきた。
橋は風に揺られている。谷底には川が流れておりその流れは早い。下を見れば足が震える。
「ルナ、少しじっとしてて」
「うん、にいに…」
ルナは涙目で頷く。
アキトはルナを抱き抱えながらタニセの吊り橋を慎重に渡り始める。
ギィィィ、ギィッ
底板が軋む。
一歩、二歩、三歩…
ビュュュュュュ
谷間風が橋を揺らす。
四歩、五歩、六歩… 重心を下げて進む。
ルナは黙ってアキトにしがみついている。
七歩、八歩、九歩…
一歩ずつ、一歩ずつ、一歩ずつ、進んだ————
五十三歩目、対岸にたどり着く。
アキトは抱きかかえていたルナを降ろすとサネユキで吊り橋のロープを斬る。
ガラガラガラガラァ
吊り橋は轟音を立てながら落ちた。
アキトは再びルナを抱えると山道をアルデ州へと向かった。
「兄さん、どうか無事で」アキトは心の中で祈った。
◆ ◆ ◆
カイトはアルデ州側へ続く山道の入り口に一人立ち塞がっていた。
大剣を振るい立ち向かってくる兵士たちをなぎ倒し続けていく。
「何人たりともここを通すわけにはいかんぞ!」
カイトの声が轟く。
アキトが去ってから半時経過したその時————
「ケヒヒヒ…」
不気味な声とともに処刑斧を持った男がカイトの前に現れた。
「あらまぁ、こんなに血が、おでは血を見るのが大嫌いなんだよ」
男は転がっている兵士の血をみて舌なめずりをしている。
「おや?あんたはエルダ村にいた大男じゃないか。峠付近で暴れている男を始末しろと言われてねぇ…」
「これ、あんたがやったのかい?」
男はカイトをギロリと見る。
「そうだ。だからどうした!」
「どうやら、あんたを始末しないといけないらしい。困ったねぇ… ケッヒッヒ」
「おではライ。ガルドアで処刑人をしている」
処刑斧を構えるとライは名乗りをあげた。
「俺はカイトだ。アルディア一の剣士ガルーダの息子だ」
全身傷だらけのカイトは大剣を両手で構えライに対峙した。
「そうかい…じゃあ、あんたを処刑するしかないねぇ!」
ライは不規則な動きでカイトに迫ってくる。そして、処刑斧を振るう。
一閃!
シューーッ、ガキンッ
空気が揺れ、カイトの大剣と激突する。
「あんた、もうぼろぼろじゃないか、身体もその剣も…」
「グッ」
重い一撃にカイトの顔が歪む。
二閃!
ガキンッ、ピキッ
再び武器同士が激突する。
「おでは血が噴き出すところを見るのが大嫌いなんだよ」
ライは意図的にカイトの大剣に処刑斧をぶつけている。
「…」
カイトはすでに肩で息をしていた。
カイトの大剣に少しずつヒビが生じていく。
ライは三閃から八閃までカイトの大剣を狙い処刑斧を的確にぶつけていく。
そして、九閃目!
「ああ~言い忘れていたけど、おでの処刑斧は特注品でな!」
バキンッ
大剣の上と下が割れた、勢いを増した処刑斧がカイトを深く切り刻んだ。
「ウッ————」
カイトから血が噴き出す。
「ケヒヒヒ・・・血だぁ、血、血、おでは血が大嫌いなんだ―」
ライは吹き上がる血を見て笑みをこぼす。
「ここ…までか…」
カイトは膝をつき、そして前のめりに倒れた。
意識が薄れる中カイトは思った。
ぁぁ…エリナと一緒のところで死ねるなら本望だ。
最愛の人にめぐり合わせてくれてありがとう、アキト。
悪くない人生だった…な。 俺の人生に一片の悔いもない。
アキト、後のことは頼むぞ……
そしてカイトは静かに目を閉じた。
「ケッ、ヒヒヒヒィー」
ライの狂喜乱舞した絶叫が峠に轟く。
「本命はセザール斬った小僧だ、ロシュフォード、おでに続け」
「了解しました。ライ様」
頬に傷のある男はガルドア式敬礼をとる。
ロシュフォードは右指を伸ばし心臓に添える。
ライは手勢を引き連れ、山道を下りアキトに迫る!
続く
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