Re:本命チョコレート
2月14日。それは、如月高校の男子生徒なら誰もが期待してしまう、Xデーだ。恋人をゲットすれば文化祭を一緒に回れるのだから、当たり前だけどな。
かと言って、当然ながら誰もが告白してもらえる訳では無い。色んなアピールをしても何もイベントが起きず、1人枕を濡らす男子も数知れず。バレンタインは、そんな残酷なイベントでもある。
だが、今は違う!そう、俺には紗奈が居るのだ!この世に生を受けかれこれ17年、今日やっと、本命チョコを貰えるのだ!……本気で嬉しい。
そんな感じで、俺はウッキウキで登校し、階段をダッシュで上り、廊下最奥の教室へ。
そして開扉!選手、入場ーっ!
「……ダーリン、おはよう」
「おはよう、紗奈!」
いつも通り紗奈と挨拶を交わす。……んー?なんだか元気無いな。というか、いつもの弾けた感じが無い。気になるので、聞いてみた。
「なあ紗奈、体調悪かったりする?」
「へ?……いや、ちょっと寝不足なだけだよ〜」
「そっか。じゃ、大丈夫か」
……そう返したものの、心配は心配だ。まあ寝不足なんてよくあることだから、変に心配しなくても良いのだが。
「あのね、ダーリン。今日なんだけど……」
なんて考えていると、紗奈が今日の話題を出した。ドキドキしながら、俺はそれに続く言葉を待つ。
「放課後、一緒にあの公園に行ってもいい?……そこで、ね」
……なるほど、これが焦らしプレイか。うむ、全然興奮しない!焦らしプレイと言うよりは、お預けって言うべきか。まあどっちにしろ栞さんなら興奮できるんだろうなと思う。美少女にだったら何されても悦びそうである。……偏見かな?結構自信あるぞ。
そんなことより、紗奈が言う『あの公園』ってどこなんだろう。俺の家の近くに公園なんかあったかな……?何年も使うことが無いと、どこに公園があるかなんて全然知らないし、分からない。
ま、紗奈の家か幼稚園の近くの公園という可能性もあるから、今日は紗奈に付いて行けば問題無いか!
紗奈のお誘いを受け入れた俺はソワソワしつつも1日真面目に授業を受け、ようやっと放課後になった。
「じゃ、早速行こっか♡」
「あ、ああ!」
教室をすぐに出た俺と紗奈は、連れ添って階段を下り、俺宛のラブレターなんざ見たことも無い下駄箱で靴を履き替えた。
もう陽がかなり沈み夜が迫る中、俺たちは瑠璃色の空に向かって歩いて行く。20分ぐらいすると、小さな広場が見えた。誰も居ない。
「あ、あそこだ!あの滑り台懐かしい〜!」
紗奈は駆け出して言った。……『あの』公園に、辿り着いたんだ。
紗奈が連れてきてくれたここは、2人分のブランコ、3階建ての小さなジャングルジム、いかにも子供用な青い象の滑り台に、幾つかのベンチ。それだけしか無い、小規模な公園だった。子供が遊ぶにも少し手狭に思えて、高校生の俺にとっては、休憩所と言った方がしっくりくるサイズ感だ。
「ダーリン、座ろっか」
紗奈は入り口近くのベンチに腰掛け、ポンポンと空いた所を軽く叩き、座るよう促す。俺が隣に座ると、紗奈は話し出した。
「あはは、この公園がこんなに小さいなんて、今まで気づかなかった!……いや、私たちが大きくなったから、余計小さく見えるのかな」
「……そうだろうな」
いかにも幼馴染って感じの会話だな。そんなことを思っていると、紗奈は鞄を開け、可愛らしくラッピングされた小さな包みを取り出した。……間違いない。アレだ!
「はい、バレンタインチョコ。朝渡せなくてごめんね!でも、学校じゃ、ちょっとね」
俺にチョコを渡した紗奈の表情は……何故か暗い。
どこに居たって俺をダーリンと呼ぶのを厭わない紗奈が、学校でチョコを渡したくなかった?
……分からないな。なんでだろう。
俺が不思議そうな顔をしているのを見て、紗奈は察したように言う。
「あはは!今渡すなんて、変だよね。ダーリンは分かってると思うけど、私は恥ずかしいから学校で渡さなかったんじゃないよ。……言いたいことが、あってさ」
言いたいこと、か。
「本当は言わない方が良いかもしれない。でも、これからのことを考えたら、やっぱ言わなきゃって思って」
言い淀む紗奈の口から、次に出てきた言葉は。
「私、ダーリンのことが好き。ずっとずっと前から、大好きだよ。だけどさ……ダーリンは覚えて無いんだよね?私との、結婚の約束」
今の俺たちの関係を、根本から揺らがしかねないものだった。




