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氷菓、生還、炎天下

 期末考査を87位という好成績で乗り切った俺は、夏休みを謳歌していた。最初は。


 今年の夏は、えげつない。なにが?全てがだ!


 その1、エアコンぶっ壊れた。狙ったかのように夏に壊れてくれた。おかげで汗だくだ。

 その2、10日間連続真夏日。何日かは猛暑日スレスレだ。地球温暖化しまくってる。

 その3、夏課題。うずたかく積まれている。逆・バベルの塔だ。永遠に終わらない。


 暑い。熱い。既にどっちが適切か分からない。頭がオーバーヒートしている。テレビをつけると波だった海面が一面に映し出され、引いたカメラには小さな漁船が写る。今年もマグロとの戦いを繰り広げる男たちの生き様が熱く語られるようだ。あー、暑苦しい!


 一人ガン萎えしていると、香織が入ってきた。冷たい飲み物を求めてやってきたようだ。


「あついね~お兄ちゃん!」

「香織いいいいいい……よくぞ来た……」

「ん~、魔王かなんかなの?」

「我が配下に加われば世界の半分とアイスをやろう……」

「ついていきますっ、魔王さま!」

「いや、意志弱いなあ勇者」

「えへへ。アイスもいいけど、かき氷もいいな~」

「かき氷か。いいな。食べるか?」

「食べたい!」


 俺は押入れの奥の方から、かき氷機を引っ張り出してきた。随分古びているがまだ使える。


 ああ、かき氷機ってマジで使う機会がないよな。今回はちゃんと準備してあるが、家でかき氷を作るにはこのマシンと、わざわざ丸く凍らせた氷と、10杯分以上入ってるから買っても使い切らず、消費期限があっさり到来して捨てることになる、かき氷シロップが必要だ。要は、家で作るには敷居が高いんだよ。


 穴杓子と同じぐらい使わないかな。穴杓子は穴が開いているおたまで、スープに糸状のたまごを作りたいときに使うアレだ。使ったことない人も結構いるだろう。家庭科で習うまで正式名称知らなかったわ。


 まあ穴杓子は脇役(サブ)だし、無くても菜箸を伝わせるとかいくらでも代用が効くからまだ影の薄さにも頷けるが、かき氷機に関しては主役(メイン)だろ?それでこの使われなさは凄い。


 こういうのは一度洗ってから使う。めんどくさ!ああ、使われない理由が分かった気がする。


「香織、何味がいい?」

「イチゴがいいな~」

「了解っ」


 氷をかき氷機にセットしてゴリゴリと削る。荒削りの氷の粒が、常夏のビーチが描かれたスチロール製のカップにわっさわっさ落ちていく。最新型のかき氷機はふわふわなパウダースノー系かき氷が作れたりするんだろうか。謎である。


 冷蔵庫でよく冷やしたイチゴのシロップと練乳を大量にかけ、最後に先をカットしたストローを差して完成!いい出来だ。


「ハイお待ち!」

「ありがとう、お兄ちゃん!お祭りのかき氷みたいだね!」

「好きなだけシロップ足していいからな」

「夢だねえ……」

「夢だろ?」


 香織は夢いっぱいのかき氷をおいしそうにシャクシャク食べている。俺も早く作ろう!またゴリゴリと氷を削り、今度はブルーハワイのシロップをかける。


「お兄ちゃん、ブルーハワイ一口頂戴?」

「いくらでもあげるよ。はい、あーん」

「あ~ん……」


 香織の舌はイチゴシロップのチープな赤色で染まっている。そこに青色の塊をそっと乗せた。


「うん、甘あっ……んああああぁぁぁ!痛いよおおおぉぉぉ!」


 あ、キーンと来たようだ。うにゅうにゅ言いながらソファで転がっている。


「香織、やられたな」

「うん、やられたぁ……」

「実はな、完全に口の中で溶かしてから飲み込むとキーンとならないんだよ」


 そう、氷の粒が口蓋垂(のどちんこ)に当たる刺激でキーンと来るのであって、冷たすぎて痛くなるというのは間違いだ。ソフトクリームを食べてもキーンと来ないのがその証拠である。じゃあかき氷とソフトクリームの相の子・ジェラートでは?なります。余裕で。


「もう、早くいってよ~……」

「はは、すまん」


 ごもっともなことを言われながら、二人かき氷を楽しんだ。


 が。


 翌日、香織は風邪をひいてしまった。かき氷をたくさん食べたせいで体が冷えすぎたのが良くなかったのだろう。4杯ぐらい食べてたからな。香織はちょっと食べすぎかな~と思いつつも、にっこにこでシャクシャク食べていく香織を見ていたら、ついついもっとあるぞ~!ってゴリゴリ削ってしまった。悪いことしたな……。


 夏休みとはいえ、両親は仕事だ。俺一人で香織の看病をする。


「おにいちゃ、のどかわいたぁ……」

「ああ、スポドリ持ってきたぞ!」

「ん……のませて……?」

「ああ、口開けてくれ」

「あ……」


 しんどさで頭が回っていないのか、小さい子みたいなしゃべり方になっている。

 長い睫毛が伸びるまぶたは下がり、大きな目は溶けてしまったようにぼんやりとしている。

 熱を持った身体は、ほのかに桃色に染まっている。

 小さな唇にペットボトルの口を当てると、舌を出して梯子のように渡してくる。


「んくっ、んくっ……おいしっ……♡」


 はぁ、と息を吐いた香織は恍惚の表情を浮かべていた……ように見えた。えっちぃ!


 その後も、冷感シートを貼ってあげたり、おかゆを作ってあげたりして看病した。そのかいあって次の日には回復していたので、心底ほっとした。せっかく楽しい夏休みが熱で何日も消えるなんて勿体なさすぎるからな。


……夏課題を終わらせるのも大事だ。この逆バベルを、今度こそ早いうちに削り始めなくては。かき氷みたいにゴリゴリ削れたら楽なんだけどなあ。現実は甘くない。最新型(?)の脳を持つ仁なら、案外サラッと削りきることができるのかもな。そう思った。



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