アクアリウム
しばらく天気の悪い日が続いたが、6月最後の日曜日は晴れた。雲一つない、まさに快晴だ。
今日は紗奈と二人で、電車で30分ほど行った所にある水族館に来た。
「久々だなあ~水族館。今までいろんな水族館に行ってきたけど、ここは来たことなくて。半年前出来たってときからずっと来たかったんだ~!しかも、れーちゃんとデートで来れるなんて嬉しい!」
「紗奈は水族館好きなんだな」
「うん!癒されるよね♡」
「確かに。俺も結構好きかも」
「ほんと!?嬉しい!じゃあ、また来ようね!絶対!」
「まだ入場すらしてないけど……そうだな、また来よう」
俺たちは高校生料金のチケットを係員に渡し、イルカがモチーフに用いられたゲートをくぐる。入り口付近はヒトデとかに触れるふれあいコーナーや、熱烈なファンがいる深海魚のコーナーだ。
ふれあいコーナーって昔から敬遠しちゃうんだよな。デパートで「鳥たちと遊ぼうフェスタ」みたいな企画ものをやっているのをしばしば目にするが、結構親子で参加している人がわんさかいるのを見てびっくりする。フクロウを眺めるぐらいなら参加するのもまだアリだが、インコに直で餌をあげるようなレベルになると怖くなっちゃうから、俺は苦手だ。
それは海の生き物でも同じ。ヒトデがゆらゆら~っと動くのを見るだけならキモカワ~で済むが、掌に載せるのはゴメンだ。何されるか分からないから避けちゃう。ナマコとか触れる人はすごいと思う。
動物には排泄物がつきものなのも、嫌な理由の一つだ。キャー、ウ〇コしたぁぁぁ!!なんて喜べる子供だったら、どれ程良かっただろうか。いや、別に良くもないな。自分に子供が出来たらあんまりそうなっては欲しくない。
『パパあああぁぁぁ!!ポチ助がウ〇コしたあああぁぁぁ!!』
なんて叫ばれたら、つらい。
だが、ウ〇コで喜ぶのは子供の証ということもできる。……うーむ、子供って不思議だ。俺にもその時代があったはずなのに。昔はウ〇コウ〇コ言ってたはずなんだがな。今は全く言わない。いや、言えない、だろうか。
いつからだろう、言わなくなったのは。大人に憧れてきた中学生の時だろうか。もしかすると、ウ〇コは少年と青少年の分岐点なのかもしれない。でも、高校生になってもウ〇コネタで楽しむことができるやつもいるから、そいつはまだ少年で居たいのかもしれない。
閑話休題。
深海魚コーナーを通り過ぎ、階段を上る。緩やかに上下するクリオネ、大人気のカクレクマノミとイソギンチャク、想像していたのとは違ってしぼんでいるハリセンボン。小水槽の群れを見ながら、俺たちは歩いていく。
大水槽に辿り着いた。逆の入り口まで何十メートルあるのか分からないほどの大きさだ。数えきれない種類の魚は、活発に、時にふよふよと泳いでいる。
「わあ……!れーちゃん、きれいだね♡」
「ああ、凄いな……!」
ヒラメが体をうならせながら落ち着ける場所を探している。
イワシの大群が渦巻いて、自ら作り出した水流に乗っている。
その裏を青く光るサメが、悠然と泳ぐ。
水族館らしい、自然と非自然の調和を感じる。
分厚いアクリル板のその先に、世界を見た。感動の涙は流れなくても、心が震えた気がした。
その後ペンギンショーを見たり、グッズ売り場に寄ったり、途中クレープを食べたりしながら一周。気づけば夜が近づいていたので、水族館を出た。
「いやー、来てよかった。誘ってくれてありがとな、紗奈!」
「はい!本日はご来場いただき、誠にありがとうございました!」
「丁寧だなあ、飼育員さんかよ」
「あはは!でも本当楽しんでもらえてよかった~」
駅で紗奈と別れ、帰路に就く。家の前に着くと、夕食のいい匂いが漂ってきた。
「ただいまー」
「お帰り、お兄ちゃん!ねえねえ、水族館どうだった?」
「すごく良かったよ。今度一緒に行こうな。はい、お土産」
「わあ、ありがとう!開けていい?」
「もちろん」
香織が小袋を開けると、中からピンクのイルカのキーホルダーが出てきた。
「イルカさんだ~!可愛い!」
「イルカさんだな」
「イルカさん……ダメかな?」
「そんなことないよ。いいじゃないか、イルカさん。可愛い可愛い!」
「も~お兄ちゃん!馬鹿にしてるでしょ~!」
馬鹿にしているわけじゃない。香織がピュアすぎて、心がキュンキュンしてるんだよ。香織が言っても、ぜんっぜんオッケー。狙いすぎアイドルとは雲泥の差がある。うざったさが無い。純真無垢なまま、成長してくれるだろうか。汚れていく香織は見たくないなあ。タバコとかに興味持ちだしたら全力で阻止しよう。
忘れないうちに、このイルカのキーホルダーの説明をする。
「このピンクのイルカはな、恋愛運アップの効果があるらしい」
「……恋愛運なんだ」
「まあ、ピンクといえば恋愛運みたいなとこあるよな。他に友情運アップのオレンジのイルカもあったけど、微妙な色でな。そのピンクが一番可愛いかったからそれにした」
「微妙な色?オレンジはオレンジなんじゃ……?」
「うーむ、焦がしキャラメルの焼きが甘いとこみたいな色だったよ」
「えー、何それ~?気になる!」
「今度家族で行くか、水族館」
「うん、そうしよう!やった~♡」
そういうことになった。
「いや~楽しみだ。最初のデートは水族館だったよな、あかり♪」
「そうね、あなた!ジンベイザメ、良かったわよね~♪」
「わあ、ラブラブだねっお兄ちゃん!」
「うん、なんか複雑な気持ちだ……」
……まさか一週間後に行くことになるとは思ってもなかったが。
皆行きたいと思っていたらしく、香織は、ナマコをつんつんしてはきゃあきゃあ言っていた。父さんは、チンアナゴを見て面白いな、と声を漏らしていた。母さんはカエルアンコウとじっと見つめあっていた。……うちの家族、変な生き物好きなんだな。
俺は今回、クラゲをじっくりと見ていた。円柱型の水槽で、ふわふわ浮き沈みを繰り返しているのをずっと見ていた。青い光を浴び、透明な笠は青色に染まっている。幻想的、という言葉がピッタリだ。
集まったクラゲが、ドレスのフリルに見えた。後ろに人が居れば、それこそドレスを着たように見えるだろう。……顔まで隠れちゃうかな?後で香織にやってもらおうか。
……いや、ドレスはまだ早いな!あっという間に嫁入りしてしまう!そんなめんどくさいことを思いながら、一日を過ごした。




