1 少年の自殺
少年は団地の屋上の端に立ち、階下を見つめていた。
朝五時という時間のせいか、団地の前の道に人の姿はない。太陽はまだ昇っていないが、空はもう青みがかっている。
コンクリートの地面までの距離は十五メートル。走れば、三、四秒の距離だが、今、一歩、ここから足を踏み出せば、一秒もかからないだろう。
少年は元々高いところは得意であった。団地よりも高いマンションの屋上から下を見た時もすくんだことはなかった。
しかし、今は地面に吸い込まれていくような感覚に囚われていた。両足も痺れていた。
うまく飛び降りて、一瞬で死ねるかな。しくじって、生きてたら、痛くて最悪だろうな。それより、この足、ちゃんと動くかな。
少年は一歩下がった。後ろに下がる分には普通に足が動いた。
少年はここに来るまでに様々な自殺方法を考えていた。
インターネットで調べた限りでは、練炭自殺が一番苦しくないらしいが、時間がかかりすぎる。首つりは苦しそうだし、電車に飛び込むのは想像しただけで痛そうだ。刃物を使ったり、焼身自殺なんてのも論外だ。
飛び降り自殺が一番行動するのにエネルギーを要さない。足を踏み出せばいいだけだ。後はもう自分の力ではどうにもならない。
少年はこの場所より高い建物を探したが、最近は自殺防止のため、どこの建物も屋上に上がることは難しくなっている。この団地も屋上への扉は普段施錠されているが、少年の住む団地だから、怪しまれず鍵を壊し、上がることが出来た。
少年は足下に置いた鞄を拾い上げ、中から一枚の色紙を取りだした。
色紙にはアニメの少女のキャラクターのカラーイラストと声優のサインが記されている。
そのイラストを観た途端、少年は学校でのある出来事が浮かび、激しい憎悪に駆られ、色紙をぴりぴりに破った。
「畜生っ!」
少年は破った色紙をその場にまいた。
「何でだよ……」
少年の目から涙が流れた。
少年は屋上から空に向かって足を踏み出した。




