016話 永遠の鬼ごっこ
「…ユウリ? 助けて。ここまで逃げてきたけど、何だか足が震えて、立てなくなっちゃた」
数拍置いて、待ち焦がれた、待望の声が鼓膜を震わせ、涙を流しそうになった。声が聞こえてきたのは、枝道ではなく、主通路だ。と左耳で捉えた音で判断し、今まで歩いていた通路を前進する。
走る事三分、玉灯の光に照らされる、ピンクブラウンの髪の少女が目から大粒の涙を流して、通路の奥に蹲っている姿が浮かび上がった。
ユウリ達は今まで感じていた疲労が吹き飛んだかのようにムクゲに駆け寄ると、ムクゲを囲んで地面に膝を付けた。
「心配したよ。とっても心配した。ムクゲがもし妖獣に襲われてたらって思うと、不安でたまらなかった」
「ユウリ、それにみんなも、助けに来てくれてありがとう」
ユウリは目の端に一粒の水を溜め、心底安堵したかのように、ムクゲに話しかけた。ムクゲの声は、耐えていた恐怖と、幼馴染達が助けに来てくれた歓喜により、震えている。そんなムクゲを労るかのように、ムクゲの背中から白狐が顔を覗かせ、ムクゲの膝に乗った。
「きれいな狐ね。ムクゲ、怪我はない?擦り傷程度なら、ウチ薬持ってるよ」
「ありがとう、ハネズ。どこも怪我してない」
ハネズがベストのポケットを弄り薬を取り出そうとしたが、ムクゲの返答を聞いて手を下ろすと、狐を撫でた。狐は心地よさそうに丸まっている。
「こんな奥にいるとは思わなかったわさ」
「家にいたら、身の毛がよだつような気がして、外に出たの。そうしたら抱いてたこの子が飛び降りて、洞窟に入って行ってしまったのよ。私はそれを追いかけてここまで来たのはいいんだけど、膝が震えて立てなくなっちゃたんだ。みんな、本当に心配かけてごめんね」
「無事なら大丈夫だよ。さぁ、ムクゲ。神社の結界の所に行こう。妖獣が近づいてる」
ユウリが真剣な目をして言うと、ムクゲを立たせた。
「ねぇ、さっきも妖獣って言ってたけど、本当にこの村に妖獣が入ってきたの?」
「うん、一の鳥居みたいに太い胴体のムカデの妖獣が襲ってきた。村の南西から入ってきて、三の鳥居を倒して、今こっちの方角に進んでる」
ハネズが状況を簡潔に説明した。
「神主さんが境内に結界を張って、村のみんなは神社に避難してる。私達も早く行くだわさ」
アサギが催促するように早口で伝えた時、白狐が怯えるような弱々しい声で一声鳴いた。その瞬間、洞窟を揺るがす振動が、ユウリたちを襲い、天井からパラパラと石の欠片が降り注いだ。
「まさか、妖獣がここまで?」
「もしそうだとしたら、入り口を塞がれて、俺たち外に出られないぞ」
ユウリの疑問にカクゲンが答える。
「やっぱり、ムクゲを狙ってる?」
「いや、ムクゲを狙う意味がわからない。狙われるとすれば、この狐だと思う」
カクゲンが呟いた自問の声に、ハネズが客観的に分析して、一つの仮説を導き出した。
「トヨ婆が言ってた。白狐様は神の使いだって。妖獣は神様の使いを襲おうとしているってこと?」
ムクゲがトヨ婆から聞いた話をみんなに伝える。
「そうだとしたら、狐を連れて逃げたら、ずっと追いかけられるってことか」
カクゲンが誰も言わないことを、代表して言った。
「「 私はこの白狐様を守る
狐も一緒に助けるんだ 」」
ムクゲとユウリの声が重なる。その時、再度大きな揺れが洞窟を襲った。
「でもどうする?入り口にはバケモンが待ち構えてるぞ」
カクゲンが逃げ道がないことをみんなに再確認させるように怒鳴った。
ユウリは考え込む。
(「この洞窟に一番詳しいのは僕だ。さっきの枝道に行っても出口はない。なら取れる手段は一つだけ。僕が狐を抱いて、カイブツの隙を見て、洞窟から飛び出し、逃げる。少し遠回りをして、動きが遅いムカデを振り切って、神社まで走る。ムクゲ達はここから一直線に神社に走る。それしかないか…。」)
(「でも、もしバケモノムカデが大きな口を空けて僕たちが出てくるのを待っていたら…、ムカデが木の間に隠れて、僕たちが出てきた瞬間に襲いかかられたら…、 死合終了。」)
ユウリはその四文字に絶望する。ダメだ。あんなバケモノ相手に戦えるわけがない。ユウリが「助けが来るまでここに籠城しよう」と言いかけた所で、アサギがあることに気付いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次話以降も楽しみにして頂けましたら嬉しいです。




