017話 多数決
「ちょっと待って、何か水が流れる音が聞こえるだわさ」
その声に、みんなが耳を澄ます。ユウリの耳もその音を捉える。そうだ、確かに水が流れる音がしている。この洞窟は隅々まで熟知しているが、今まで聞いたことがなかった。この洞窟に流れ込んでいる川はない。そうするとさっきの振動で地形が変わり、近くの水源からこの洞窟に流れ込んできたのか? でも、この近くにそんな川や池があるなんて、大人から聞いたことがない。
(「でも、もし、そんな水が流れ込んできたら、全員が溺死してしまう。 まだ死にたくない。セツナには会いたいけど、今じゃない。嫌だ。」)
ユウリが妄想で自分の死を想像した時、再度激震が襲う。すぐに四度目が続く。怪物が執拗にその巨体を洞窟にぶつけているのが想像できるくらい、不自然な揺れが少年少女を経ちを襲う。
「みんな、見て。これ。」
それまで洞窟の最奥に背中を預けていたムクゲがみんなを呼ぶ。ムクゲは背を見せている。今までムクゲが立っていた壁面が崩れ、ムクゲの腹の位置に、人の頭くらいの空間が空いている。
ユウリはムクゲを穴から離すと、穴に頭を突っ込んだ。
ユウリはその光景に息を呑んだ。その後、一人ずつ順番に覗いてみると、それぞれが驚きの反応をした。
「洞窟の奥にこんな場所があったなんて」
「すごい、きれいだわさ。伏流水なのかな」
「もしかしたら助かるかもしれないわね」
「行ってみようぜ」
ユウリ、アサギ、ハネズ、カクゲンの順に感嘆の声や高揚した声を上げる。ムクゲが見つけたのは、洞窟の奥に続く、さらなる洞窟だった。そこは、青い光がぼんやりと辺りを照らしている。自分たちがいる洞窟よりも四倍は広い幅の空洞で、地面には水が流れるサワサワという音が耳に心地良い。
「ちょっと待って」
消極的思考を自負するユウリがみんなを留めた。
「初めて行く場所だから、どんな危険があるかわからない。ここは、しっかりと準備をしてから行くべきだ。」
「それはわかるけど、ウチらは何も持ってきてないじゃん」
ハネズが反論する。
「俺も、まずはムカデのバケモノから逃げるのが一番重要だと思う。ここにいたら洞窟が崩落するかもしれねぇ」
カクゲンが自分の意見を述べる。
二対一。
「アタシはユウリに賛成だわさ。秘密基地にある道具を使って、使えるものを作るべきだと思う。何が保管してあるかは知らないけどさ。ここの地層は溶岩が固まって出来てるから、そんなすぐに崩れることはないだわさ」
学校で一番の成績を誇る理系女子であるアサギは、岩盤の種類を見て、すぐに崩壊することはないと判断し、【備えあれば憂いなし】派に一票を投じた。
二対二。
「私はすぐにでも飛び出して、この子を助けてあげたい。」
でも、とユウリが口を開こうとすると、それを遮るように、ムクゲが言葉を続けた。
「でも、そのためには、出来るだけ準備をしてから、奥に進む方がいいと思う」
二対三。少数派になってしまったハネズとカクゲンは、それが最適解か考えているように、俯く。
「ユウリに何か考えがあるんだったら、俺はそれに従う」
「それじゃあ、言い出しっぺさん、どうするか教えてくださいな」
腹が据わったのか、カクゲンと学級委員長が多数決を尊重し、ユウリに一任することにした。
「それじゃあ、僕とカクゲンは、秘密基地まで戻って、ロープ、釘、金槌、木箱、後は…・、その後は、穴を広げて…」ユウリは指示を出すと、準備に取り掛かった。
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