014話 どこに
(「真正面から戦っても勝ち目はない。でもスピードは僕達のほうが速い。ムクゲを助けて、すぐに逃げよう。」)
舗装路を走り続けてしばらくすると、目前に、生け垣に囲まれた、村で唯一の煙突が突き出た茅葺屋根の家が見えてきた。
左の方から玉灯を手に、走ってくる三人の姿が見える。ユウリはスピードを上げ、疾駆した。
煙突屋根のある屋根や生け垣が視界の中でだんだんと大きくなり、ユウリたちはほぼ同時に、敷地内に飛び込んだ。
「ダメだ、参道から道沿いに走ってきたけどムクゲはいなかった。」
「こっちもよ。だとしたら、まだ家の中に?」
ユウリとハネズは短く情報交換を共有する。残されている可能性は一つだけ。二人の顔に険しさが増す。
「それにカイブツの姿が異常なほどデカかった」
「アタシらも見ただわさ。あんなのに追いつかれたら髪の毛も残らず飲み込まれそうだわさ」
門扉から玄関に駆けている間も周囲を確認しながら、ユウリがムカデに言及すると、アサギが思い出したように顔を顰めた。
ハネズがカクゲンに、高所から妖獣の動きを監視するように指示を出した。
カクゲンは「おう」と返し、庭に植わっている松の木に掴まると、猿のように木を登り、分岐した太枝に陣取った。
ユウリ達は生け垣の内側に広がる庭を隅々まで確認しながら、玄関までやって来た。
(「前庭にもいない…」)
ユウリは玄関の引き戸に指を掛けると、勢いよく開け、大音声で叫んだ。
「ムクゲ!どこだ!」
板張りの床やよく磨かれた柱にユウリの叫び声が反響するが、返事はない。
(「どこだ。焦るな、考えろ。裏庭?」)
ユウリは玄関を飛び出すと、家の周囲を回って裏庭に向かいながら叫ぶ。
「ムクゲ、返事をしてくれ」
裏庭の池から驚いて鯉が尾びれを振る音以外の物音はなく、やはり返事もない。考えろ、考えろ。
幼馴染達も懸命に親友の名を呼んでいるのが背中から聞こえるが、やはり返事はない。
「家にいない」
ユウリが絶望し、低い声が呟き出た。
同時に、監視役のカクゲンから、妖獣までの距離が大きな声で知らされる。
「あと二百米!」
「了解。カクゲン、裏庭に来て!」
ハネズが大声で、カクゲンに合流するように指示した後、その場にいた二人に、思いついた自分の予想を説明し始めた。
「前にムクゲが犬に襲われたことがあったのよ。」
それは四年前、まだユウリたちが小学校に入る前の事だった。ハネズとアサギがムクゲと遊んでいた時に、ムクゲの隣家の犬がムクゲを追い回したのだ。ムクゲと遊んで欲しかったらしく、犬はムクゲだけを追いかけた。ハネズたちは必死にムクゲと犬の後を追いかけたのだった。
「村中を追い回されて逃げてたんだけど、その時、ムクゲは秘密基地に逃げ込んだんだよ。時機が悪く、秘密基地には誰もいなかったんだけど、ユウリが作ってた【旋回手裏剣子ユウリスペシャル】だっけ?投げたら戻ってくる手裏剣。あれが机の上にあって、犬に向かって適当に投げたら、秘密基地の外まで飛んでいって、犬がそれを追いかけて離れていったんだ。」
「それで、ムクゲは怪我することなく、無事だったんだわさ」
「だから僕の発明品がなくなったんだ。いくら探しても見つからなかったわけだ」
当時から、ユウリは秘密基地に入り浸っていた。空き地で素振りをしたり、崖を登ったり、洞窟探検をして、身体を鍛えていた。また、武器を開発したり、新しい呪文を創作しては、紙に書いて秘密基地に保管していた。秘密基地で鍛錬を繰り返していたユウリは、幼少の頃より身体能力が幼馴染より高く、ムクゲが頼ろうとしたのも頷ける。
「その時にムクゲが言ってたんだ。『ユウリはいつも秘密基地にいて、私を助けてくれる』って」
「次はどこを探す?」
合流したカクゲンがユウリとハネズに問いかける。
「秘密基地に行ってみよう」
ユウリは決断した。心の片隅には、いなかったらどうしよう、という拭いきれない不安もあったが、何もしないよりかは、とにかく探して、後悔するのは後でしろ、と自分を叱咤した。
ムクゲの家から秘密基地は近く、歩いても一分だ。ユウリ達は裏木戸から外に出て、未舗装のあぜ道を進む。すぐに木立の奥に、ユウリがいつも朝練をしている空き地や、その奥に口を開く洞窟が見えてきた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次話以降も楽しみにして頂けましたら嬉しいです。




