表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の帳  作者: 是空
二章 怪物
9/37

8話



俺たちはルールを設けた。



「1、家で2人だけにならない」


これは基本だ。


「2、お互いの部屋に行かない」


簡易な内鍵も取り付けた。


「3、刺激するようなワードを言わない、見ない」


なにがきっかけになるか分からない。



以上の3つの条項をまとめて締結を交わした。



ちなみに3つすべて俺からの提案で、彼女から



「4、2人きりじゃない時は、なるべく一緒に遊ぶ、関わる」



という4つめの追加条項が盛り込まれた。



これについて俺も異論はない。


というか、嬉しい。


彼女からそんなことを言ってくれるなんて。


ま、弟としては好かれているように思う。


弟としては。


はあ。




締結を済ませた俺たちだが、早速問題が1つ発生している。


先ほどから母親からの視線が恐ろしく痛い。


リビングのソファーで、姉と2人でロードナイトのyoutube動画を見ているのだが…………



近いのだ。


これに限らず、何もかも近い。


親がいても怪物が目を覚ましてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。



膝と膝が触れ合うどころか、乗ってる。


ソファーに座った俺の下半身に、上半身がもたれかかるようにして、動画を見ている。


確かに、条項に違反するようなことはない。


2人きりでもなければ、お互いの部屋でもなく、卑猥な動画を見ているわけでもなく。


条項の4に至ってはダイナミックに役目を果たしている。



それはいいんだがーーーーー




「………………あんたたちさ、ちょっと」




はい。



「近くない?」




はい。



母上、ぐうの音も出ません。




「なにが?」




姉上、それはおかしい。


見たまんまだ。


近いというか重なってるからね。


高校生の姉弟が重なってるのは、やっぱりおかしいよ。




「まあ、いいけど」




いいんかい。


ならその怪訝な目つきをやめてもらえないだろうか。


あなたの子供は必死で抗っているんだよ。


家庭崩壊の危機からね。



若干、もはや説明できないような事態もあったがーーーー



抗っているよ、母さん。



ただーーーーー



俺に年頃の身体を預けてポテチを頬張りながら動画を眺めているこの人は、本当に抗う気があるのか問い詰めたいがーーーー



ええい、膝に乳を乗せるな、乳を!!



こちとら童貞だぞ!!



この人大丈夫かな、ホント。




はぁ………………こんなに柔らかいんだ、おっぱいって。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「プルルルル………」


風呂に入って自室に戻ると、姉からの着信だ。



基本的にどちらかが部屋にいる時に話す手段は電話かLINEしかない。


なにせ条項により立ち入り厳禁だ。



「やっほ」



「あ、うん」



「お風呂上がった?」



「たったいま」



「ロードナイトやろーーー」



好きだねぇ、この人も。


ま、俺も好きだぜ?


行くか、リッキー!




ーーーーーーーーーーーーーーー


………おかしい。



なにかがおかしい。



いや、始まって数ゲームはいつも通りだった。



軽快なノリでいつものように2人ではしゃいでいた……はずが。



突然、「リッキー」からのチャットが止まった。



動きも精彩を欠いている。



らしくない。



どんな時でもベストを尽くすのが俺たちの流儀のはずだ。



リッキーに、いや彼女に、何かあったのか?




リッキー「HH」



しばらく沈黙していたリッキーからのチャットだ。



Hollyhock「リッキー、具合悪いの?」


リッキー「ちょっと」


Hollyhock「どうした?」



なんだ?どうしたリッキー。



リッキー「すまん、今日は落ちる」


Hollyhock「大丈夫か?」


リッキー「大丈夫、おつかれ」


Hollyhock「ああ、おつかれ」



……………電話するか。




プルルルルル……………




出ない、本当にどうしたんだ。



条項はあるにせよ、これは緊急案件だろう。



部屋で倒れてやしないか。



もういい、姉ちゃんの安否は条項以上の重大案件だ。



行こう。



部屋を出て、隣の彼女の部屋をノックした。



……………応答がない。



「姉ちゃん?」




思わず、ドアノブに手をかける。



ガチャガチャ。



そうだ、鍵を付けたんだ。



どうしよう、蹴り破るか?



ガチャリ。



鍵が開いた音。



なんだ無事ーーーーーーー



ガチャっ



扉が開く




と同時に




腕が出てきて




「えっ」



グイっ、ドドッ………ドサッ



「ちょっ」



バタン……………ガチャリ




部屋に引きずり込まれた。



「ドクン」




ご丁寧に鍵まで閉めて。




「ドクン」




頬を冷たい汗が伝う。





「ドクン」




部屋に立ち込める彼女の甘い香り。






その中にわずかに、すえたような匂いが入り混じる。





この匂いが、俺の中の”アイツ”を刺激する。






…………………1人で何をしていた?






嫌な予感なんてもう通り過ぎてる。






「……………………きたぁ………私の……………」






くぐもったような、恐ろしい声。







「私の有弥」








ーーーーーー絶望の始まりだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ