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情報売買にはご注意を

第9話です

 「さて、見苦しいところを見せてすまなかった。改めて、情報ギルド「解析組」でギルドマスターを務めさせてもらっているワンニャンだ」

 「同じく、サブマスターの一人をやっているファリエルだよ。よろしく」


 ワンニャンさんは『ルー・ガルー』という狼獣人、ファリエルさんは『トードマン』という蛙獣人の種族だそうです。【狼の天敵】を有効にしていたら、ワンニャンさんもペコさんのようになっていたのでしょうか。


 「リザードマンのシンです。わざわざご足労ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げてみましたが、お二人が見上げるくらいの高さに頭が下りただけでした。意図せず威圧のような形になってしまったためか、ワンニャンさんは少し後ずさりしましたがファリエルさんは逆に興味深そうにしています。


 「リザードマンとは珍しいね。少なくともうちのギルドのデータベースにはない種族だったよ」

 「そうだな。確か純粋なモンスターとしての『リザードマン』ならいるが、プレイヤーとしては初めて見た」


 おや、モンスターとして同族がいるのですか……ああ、だからガレスさんたちが最初警戒していたんですね。


 「ガレスからのメッセージで概略は聞いているが、もう一度確認させてもらいたい。【狼の天敵】の表示はまだしなくてもいいから、とりあえず今のステータスを見せてくれるかい?」

 

 ファリエルさんに指示されるまま、僕はステータスウインドゥを表示させました。

 各種ステータス、スキル、称号と順を追って表示させていくと、ワンニャンさんとファリエルさんの表情がどんどん困惑に染まっていきます。


 「成程、これに加えて、例の【狼の天敵】が追加されるわけだね。……よし。うん。とりあえず、スキルと称号の詳細はわかった。マスター、叫びたい気持ちはわかりますがまだ黙っていてくださいね」

 「……ああ。……うん。大丈夫。まだ大丈夫だ。ああ、問題ない」

 「よし……では、シン君。【狼の天敵】と【決闘者】を獲得した過程について話してくれるかい? ああ、念のためグループチャットを使おう。ガレス達も参加してくれ」


 《『ファリエル』からPT申請がありました。受諾しますか?》


 承認のボタンを押すと、視界の片隅に『PTメンバー』という表示と共にファリエルさん、ワンニャンさんの名前とHPゲージが表示されました。

 続いて、ガレスさん達の名前が次々に追加されていきます。


 『では、ここからはグループチャットに切り替えよう。シンくん、切り替え方はわかるかい? PTメニューの吹き出し型アイコンを触ってみてくれ』

 『はい。これでできていますか?』

 『OKだ。それじゃ、お願いするよ』


 そういえばPT組んだのってこれが初めてじゃないでしょうか。少し感慨深いものがあります。

 先ほどガレスさんたちにお話しした内容をもう一度繰り返すと、ファリエルさんは口元を引くつかせながら追加で質問を重ねてきました。


『湖に……叩き落とした、のかい? え? 君、職業無いんだよね? 罠師とかじゃないよね?』

『はい。ああ、罠を張るという手がありましたね。盲点でした』

『あ、いや……そこはまあいいんだが、どうやって落としたんだい?』

『はい。湖の前で突進を躱してそのまま蹴り飛ばしました』

『ボス蹴り飛ばすって……いやまあ、そのアバターサイズならできないこともないの……か? ……うん。そこも置いておこうか。湖に落とした後はどうしたんだい?』

『ひたすら水中に沈めて頭を踏みつけ続けました。どうも水の中にいると、僕を無視してでも岸に帰ろうとする動作があるみたいでしたから、ここから先はひたすら水中で窒息させ続けて、【毒攻撃】を使ってひたすら蹴っていましたね。最も、僕が蹴るよりもその衝撃で頭を湖底に叩きつけてHP削った方が早かったのですけど』

 『……ええと、つまり君のステータスではほぼフォレストウルフロードのHPを削ることはできず、毒と……衝突と窒息によるダメージで相手のHPを大きく削ったと、いうことでいいのかな……?』

 『はい。地面に叩きつけた時のダメージは精々僕の攻撃数発分のダメージでしたが、窒息と毒はかなり削ってくれたので助かりました。他の方の参考になればいいのですが』

 『そ、そうだね……なるほど。ところで、フォレストウルフロードの出現条件は【狼】の300体撃破と推測される、で間違いないかな。ほかに何か兆候のようなものはあったかい?』 

 『そういえば、少し大きな狼が5匹くらいまとめて出てきた直後に出てきた気がします』

 『五匹? ――つまり、セミボスクラスが集中出現したわけか……。ああ、わかった。次は……』


 しかし、流石は情報ギルドを名乗るだけあります。ガレスさんに一通りお話ししたつもりでしたが、ファリエルさんの質問を受けると話し損ねていたことが相当ありましたね。 

 結局、僕が現時点で知っている情報の大半を引き出されてしまいました。いやぁ、こういう聞き取りのテクニックが使える人って凄いと思います。


 でも、やっぱりそういうのはする側としても非常にお疲れになるのでしょう。僕への質問が一通り終わったファリエルさんは大きくため息をつき、ワンニャンさんは……あれ? 白目剥いてませんか?


 「……とりあえず、私から一言いいかなあ」

 「あ、はい。どうぞ」


 グループチャットを解除したワンニャンさんは、やおら僕の顔を両手で掴んできました。


 「君は本当にプレイヤーキャラなのか? 何かのイベントキャラじゃないよな?」

 「マスター。そう言いたい気持ちはわかりますが自重してください」


 ジト目で僕を見据えていたワンニャンさんが、ファリエルさんに首根っこ掴まれて引き戻されました。

 ……そんな言うほど変なことしてないと思うんですが。すごいのはこのリザードマンの身体の方です。

 

 「こほん……まあ、冗談はさておきだ。シンくん。次は私の方から質問させてもらおう」

 

 今度は質問役がワンニャンさんに変わりましたね。ファリエルさんはというと、少し離れてガレスさんと何やら相談し始めたようです。

 気にならないと言えば嘘になりますが、とりあえず今はワンニャンさんのお話でしょう。答えられることは全て答えたと思うのですが、何でしょうかね。


 「まあ、質問というよりは実験に近いね。今ここで【狼の天敵】を使ってみてほしい。私は【狼】系統の種族だから君の称号の対象になると思うし、そのあたりを実際に見せてほしい」


 そういえば、実際に発動はさせていませんでしたね。

 ふむ……確実に影響は出ると予想されるのですが、ご本人の頼みならば仕方ありませんか。


 「わかりました。ダメなら言ってください。すぐ切りますから」


 ステータスから【狼の天敵】を有効にした次の瞬間、ワンニャンさんが腰が抜けたようにへたり込んでしまいました。見ればペコさんもこちらを見ないようにして背中を震わせています。

 ああ、言わんこっちゃない。……それより、【恐怖耐性】はちゃんと効いてないんでしょうか?


 「……あ、ああ、わ、わかった、うん、無理だわ、これ」

 「そ、そそ、そうだね……【恐怖耐性Ⅰ】はちゃんと発動してるらしいけど、やっぱそのままはまだ無理っぽいよ。というか、おなじPTなのに作用するのってこれ無差別過ぎないかなあ」


 とりあえず、再度【狼の天敵】を解除します。「恐怖」状態から解放されたはずなのですが、回復には少しばかり時間がかかりそうですね。


 「ふぅ……これは辛いな。ある程度覚悟はしていたがこれは【耐性】でどうにかなるものなのか? なんかもう、災害とかそんなものを目の前にしたような感覚でまともに立ち向かう気にさえならん」

 「正直【恐怖耐性Ⅰ】じゃさほど関係ない気がします。これならまだ被り物を被ってもらってた方がマシ――」

 「なるほどそうか。よし、シンくん。今度はそのマントを被ってから頼む。それから姿を隠す部分を変えながら検証してみよう」


 前言撤回です。ものすごく余裕そうですね。








 「いや、実に有意義な時間だった。本当にありがとうシンくん」


 結局、【狼の天敵】による恐怖効果の発動範囲、発動要件、「恐怖」状態での行動制限内容、僕が姿を隠した場合の各種条件などなど、ゲーム内時間で数時間かけて検証を続けることになりました。

 その副産物としてワンニャンさん自身に【恐怖耐性Ⅰ】が発現し、ペコさんの【恐怖耐性】もⅢまで伸びることになったため、お二人とも上機嫌です。


 「スキルレベルがⅢのスキルなんて初めてだよ。ふふふ、本当にありがとう」

 「まあ、ペコの場合はいろんなスキルに浮気しまくってるからなかなか上がんねえだけだろ。その気になりゃこうしてすぐ上がるっつうの」

 「うっ……ま、まあそうなんだけどさ」


 ペコさんは戦闘関係から生産関係までまんべんなく、50種類以上のスキルを保有しているそうです。正直管理が大変そうです。

 

 「はいはい。スキル関連の話は個別メッセージでやってくれ。シン君も初心者だから気を付けたほうがいい事だが、個人のスキルやステータスの情報については、できるだけオープントークを使わずにやり取りすることをお勧めする。

 ()()()()()()()()()一番トラブルのもとになりやすい要因の一つだからね」

 

 ああ、そうでした。最初にガレスさんにお話ししたときも思いっきり普通にしゃべってましたからね。

 

 「キャラデータ、相場、マナーは今も昔もネットゲームのトラブル要因3本柱だ。聞いたことくらいはあるかもしれないが、改めて気を付けるといいよ。

 さて、その上でシンくんに相談だ。相場に関することなので本来は個別メッセージの方が望ましいが、今回は関係者が多いのでグループチャットで送らせてもらうよ」


 グループチャット表示に切り替えると同時に、何やらものすごく細かく書かれた書類が表示されました。

 これ……え? 契約書?


 『ガレスから提案されていたと思うが、シン君の称号の情報とフォレストウルフロードに関する情報について、ギルド「解析組」で買い取らせてもらいたい。

 購入範囲はまず、称号の名称及びその効果。フォレストウルフロードについてはその名称、出現条件、行動パターン、撃破報酬、それと【魔狼決闘】についてだ。

 もちろん、シン君の個人情報に関しては秘匿を約束しよう。私たちが取り扱う上において、またこれらの情報に関連して君の個人情報を漏らすことはしない。

 また、弊ギルドが購入した情報については原則守秘をお願いするから、掲示板などへの書き込みは控えてもらうことになる。個人的なメッセージ交換はどうしようもないからそこは問わないがね。

 購入金額は情報の精度が確定しているものについては一つ5000G、未確定については一つ500Gでどうかな?』


 ……な、なるほど、これが情報の売買という奴ですか。

 さっきまで何をやっていたのかと思ったら、契約書を作っていたんですね。今お話ししていただいた内容についての事細かな詳細がずらずらと書かれています。

 とりあえず、根本的なところを先にお伺いしておいた方がいいかもしれません。決して読むのが面倒くさいとかそういう話ではないですよ。


 『あの、すいません。基礎的なことなんですがあらかじめ聞いてもいいでしょうか?』

 『ああ、構わないとも。何だい?』

 『僕、今無一文でして。その上町にも一度も行ったことがないのでお金の価値が全く分からないのですが、金額の適否とかどのように判断すればいいのでしょうか?』


 少々場が凍り付いた気がします。

 ファリエルさんはゆっくりとガレスさんに振りかえると、何やら個別メッセージのやり取りを始めたようですね。

 ……表情がわかりづらいカエルの頭なのですが、何でしょうこの迫力は。


 『すまないシンくん。そういえば種族固有スタートだったのだね。失念していたよ。申し訳ない。』

 『いいえ、こちらこそ申し訳ありません。』

 『シンくんにはひょっとしてお金よりも情報の方がいいかな? これから町に行くのなら、初心者向けの情報セットと冒険に役立つ便利ツールをまとめて教えてあげることもできるよ』


 ああ、そっちの方がいいかもしれませんね。お金はインベントリの中の狼素材を売ったりすれば手に入るでしょうし。


 『はい。そちらの方がいいです。それと交換で――』

 『交換では全然()()()()な。ファリエル、うちのギルドに関わりのある生産職への紹介状も追加しろ。あと、私はスキルが取得できたから個人的に10000Gは支払うよ』

 

 横合いからワンニャンさんが割り込んできました。


 『生産職ですか。どなたへの紹介状を?』

 『みんてぃあ、黒鉄、マゴロク、エクレールの4人なら無難だろう。変態野郎は書いても無駄かもしれんが、連絡はつけとけ』


 ファリエルさんがなにやらインベントリから数枚のスクロールを取り出してワンニャンさんに渡しました。


 『それじゃ、シンくんの方はマスターにお任せします。さてガレス、ちょっとこっち来い……』


 おおう、なんだかガレスさんたちには一気に雰囲気変わりましたねファリエルさん。

 そうしていると、ワンニャンさんから個別メッセージと共にプレゼント表示が届きます。

 

 『あっちは置いといて、シンくん。プレゼントの中身はさっきファリエルが言ってた情報のセットと便利ツールだ。取り出せば自動的に展開されるようになっている。それと、こっちは私のスキル代な』

 『ありがとうございます。でも、なんだかたくさんもらったみたいで、いいんでしょうか?』

 『勿論だ。知っている通り、スキルはSPで取るかめんどくさい行動を重ねた後にほぼ運任せでしか取れないのがこのゲームだ。やりようによっては、君のその称号はそれだけで商売ができる代物だよ? しっかり取っておくといい』


 成程……なんにせよ、これが僕がこのゲームで初めて稼いだお金という事になりますね。

 待たせたお詫びに、姉さんと愛利栖ちゃんに何か買っていった方がいいでしょうか……。


 『それと、こっちはうちのギルドの紹介状ってアイテムだ。これ持っていけば、……そうだな。アイテム一つとの交換くらいならしてもらえるよ。一応全員トップに近い実力の生産者だから、君が気に入れば今後も関わり合いになってくるだろう』

 『……あ、ありがとうございます……って、アイテムと交換してもらえるんですか?』

 『君、今ほとんど(装備なし)だろ? 私を誘ってるのかと思ったぞ? ま、冗談はさておき一通りは装備を揃える必要があるだろうから、有効に使うといい』


 からかうような笑みを浮かべるワンニャンさんでしたが、確かに半裸ですからね僕……。

 なんだか、一気に恥ずかしくなってきた気がします。


 「……リザードマンが頬を染めるというのも新しいな。これはこれでアリかもしれん」


 いいえ、無しです。あってたまりますかそんなもの。

読んでいただきありがとうございます。

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