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こんにちは。ぼくわるいスライムじゃないよ。

第10話目になります。

 「さてシンくん、向こうに見えるのがウーノの町だ。今現在、最も多くのプレイヤーが拠点としている場所だよ」


 広い平原を街道沿いに歩いていくと、随分先に大きな城壁が見えてきました。

 成程、あれが本来最初に向かうはずだった町なのですか。なんだか、町というより要塞のようにも見えますね。


 「その意見は間違いじゃないな。何しろ、ここはゲームの中でいうところの『悪魔』との戦いの最前線だ。ガレスたちが護衛してきた積み荷も、後方の町からの輸送物資というストーリーがあるんだよ」


 ストーリー……?

 ……ええと、ああ、なんだかオープニングで流れていた映像のお話ですかね? そういえば悪魔みたいな外見のキャラもいましたよね。

 ええ、覚えています。覚えていますとも。うんうん。とりあえず悪魔を殴ればいいんでしたっけ?

 うろ覚えな記憶を爬虫類特有のポーカーフェイスで切り抜けていると、隣で商談が始まったようですね。


 「へえ、初めて知ったよ。なんかのクエストが連鎖するのかい?」

 「ああ、町に入ってからの行動によってな。情報が欲しけりゃ売ってやるぞ?」

 「へいへい、商売上手なこって……」

 「ついでに連鎖先からもう一段階選択式で狩猟クエストか運搬クエストを受注できるな。こいつは完了すれば称号が手に入る。別料金だが、聞くかい?」

 「あー畜生! さっきファリエルの野郎からせしめた金がなくなっちまうじゃねーか! これだから商人てやつは!」

 「落ち着けユーヤ。そいつは俺が買うことにしよう。2人で分担すれば安く……」

 「今なら大特価でこのクエスト報酬の有効活用レシピも販売中だ。生産職への紹介状と足りなくなりがちな素材の販売も合わせてこんなもんでどうかな?」

 「「ミーシャ、金貸してくれ」」

 「……そういうとこよ。アンタらがいつも貧乏なのは」


 ミーシャさんがげんなりとした表情を浮かべています。

 ええ、なんといいますか、ガレスさんもユーヤさんもノリがいいんですね。

 

 「ワンニャン、バカ二匹にはまだいいとしても、ほどほどにしときなさいよ。あんたただでさえ結構叩かれてるんだから」

 「ふふん、その程度の雑音無視できなくてこの稼業が務まるものか。そもそも、私を叩いている暇があるなら、せめてボスモンスターの一匹でも殲滅して特殊称号の一つも手に入れる気概でも見せて欲しいものだな。」


 ファリエルさんは先ほどのガレスさんたちとの商談を終えると、来た時同様に高速で走るカタツムリの背中に乗って先にウーノに帰っていきました。

 ミーシャさん曰く、すでに僕の持っている称号の情報は一部秘匿されながら掲示板に小出しにされているそうで、お祭り騒ぎはさらに規模を拡大させているという事でした。

 ……ミーシャさん自身もものすごくいい笑顔で煽ってますね。


 「いやだって滅茶苦茶面白いじゃんこういうのって。『そんな餌に俺がつられクマー』って感じでみんな揃って釣られるの。こういうのがやっぱ釣りの醍醐味よねー」


 はい。僕の知っている釣りとだいぶ趣旨が違うようですので意見は差し控えさせていただきます。

 でも、情報につられたかどうかは知りませんが、先程からすれ違う方々の数が一気に増えてきた気がしますね。皆さんフル武装で湖畔まで行かれるんでしょうか。

 ぜひ頑張っていただきたいものです。湖に引きずり込む戦法とか毒とかお勧めですよ?


 「む……向こうもかなりの数が行っていそうだが、()()()の方も増えてきたな。下手すると()()()()かもしれん」

 「げ、マジかよ。今くらいキンスラじゃなくて狼の方に逝っときゃいいのによ。仕方ねぇ、急ぐか」


 む、そういえばここにもクソ犬同様の敵が出るんでしたね。発見順的にはこちらの方が先達でしたか。


 「短時間に300体以上のスライムを倒しきるとフィールドにキングスライムが出現する、でしたか」

 「そうだよ。困るのは、呼び出して倒せなかったりするとフィールド上のほかのプレイヤーを襲い始めるっていう点だね」


 おや、そんな特徴があったのですか。正直呼び出す方法くらいしか調べていませんでしたので、詳しい事はよくわからないんですよね。


 「その特性のせいもあってキングスライムには初心者が巻き込まれる惨事が頻発していてね。シンくんに渡した情報ツールの中にも注意書きがあるから読んでおくといい」

 

 ワンニャンさんに促されて情報ツールを開いてみると、確かに初心者向け注意事項としてモンスター情報がありました。



【要注意モンスター⑦ キングスライム】

出現地点:北部平原フィールド

モンスターステータス(推定値)

  Lv 40

  HP 13800

  MP 100

  STR 210

  VIT 400

  AGI 190

  MGI 190

  LUK 推定不可

 

保有スキル(確認済みのみ)

【触手】【斬撃耐性】【HP自動回復】【毒攻撃】【麻痺攻撃】【アシッドレイン】【スライムフレア】【眷属強化】【捕食】


『フィールドボスと推定される強力なモンスター。一度出現してしまうと同一フィールド内にプレイヤーが生存している限り出現し続け、さらに襲い掛かってくる。

 回避方法は別フィールドに逃げ込むことだが、よほどレベルが高いか特殊な種族でなければステータス差で追い詰められる可能性が高い。

 また、このモンスターがフィールドに出現した場合、フィールド全域に永続スリップ+VIT累積低下効果を発揮するスキル【アシッドレイン】を使用するため、このスキルを確認したら全速力でフィールドから離脱することを推奨する。

 なお、【アシッドレイン】の平均ダメージ量は5~8DPS程度であるため、天幕、馬車、傘等のアイテムを所持していない場合、脆弱な魔法職は十数秒と持たず死亡する場合が多い』



 ……はい。無理でしょうこれは。何ですかHP13800にVIT400って。クソ犬同様ダメージ通らないんじゃないですかね。流石はアレのお仲間です。

 しかも【HP自動回復】持ちですか。僕ともお仲間ですね! ですがお会いすることにつきましてはご遠慮させていただきたいと思います。

 

 「……やばいな。このペースで彼らがスライムを狩り続けると間違いなく出てくるぞ。みんな、SPに余裕があったら毒と麻痺の耐性を取っておくんだ。巻き込まれて状態異常食らったら最悪だぞ」

 

 ご遠慮させていただきたいといった矢先にですか。成程これが愛利栖ちゃんの良く言う「フラグ」というやつですね。まったく嬉しくありません。

 とりあえず、用心のために耐性を取っておきましょう。ええと……一つとるのに4SPですか。結構痛い出費かも知れませんが、背に腹は代えられません。


 「うげ、両方で8も使うのかよ。……仕方ねえ。麻痺の方を優先しとくか」

 「やっば私余裕ないわ……最悪置いてってね」

 「あ、僕幾つか回復薬持ってるから使いますよ。……本当はこんな時にパパっと調合できたりしたらかっこいいのになあ」

 「ははっ、なら、もうちょっとレベルも上げていかないとな。万能型は大器晩成だ。はじめのうちから何でもできるやつはいないさ」


 ――脅威接近――

 不意に、【直感】が反応しました。

 ぽつり、ぽつりと、雨粒が滴ってきます。


 おかしいですね。先ほどまで青空だったはずなのに、いつの間にあんな毒々しい色の雲が空を覆っているのでしょう?


 「……出やがった。【アシッドレイン】に削りきられる前に走るぞ! ペコとミーシャは馬車に入れ!」


 雨粒が勢いを増していきます。 

 そしてどうやらそれは、キングスライムのスキルの一つだったようです。


 雨粒が当たった個所がダメージ判定を訴えてきます。僕は【鱗装甲】のおかげで判定を無効化できていますが、一緒に駆け抜けるガレスさんとユーヤさんは見る見るうちにHPゲージが削られていきます。

 走り抜けながら回復薬を流し込み、町の近くで戦っていたプレイヤー――酸の雨に削られて半壊していた集団の真ん中を通過しながら、ユーヤさんは悪態をついていました。


 「くっそ! 状態異常がなかろうがこれのせいでHPの少ないプレイヤーが全滅しちまう事なんてわかってただろうが! どんな勝算立ててたんだよあいつら!」

 「く、相変わらず前衛以外はほぼ生き残れんか。ペコ! ミーシャ! 絶対に馬車から出るな!」


 HPの尽きたプレイヤーたちは次々に光の粒子になって町に戻っていきます。そんな中、まだ戦えるプレイヤーたちは一斉に僕たちの後方に向かって駆け出しました。

 そして――


 ――脅威接近――


 「っとお! 大丈夫で……あ」


 【直感】の警告に従い後方を振り返った瞬間、僕めがけて狼人間のプレイヤーが吹き飛ばされてきました。

 きちんと受け止めたつもりだったのですが、彼はそのまま僕の腕の中で光に変わってしまいます。

 こうなった原因は、もはや問うまでもないでしょう。吹っ飛ばされた彼が消えた今もなお、【直感】は全力で警戒警報発出中なのですから。


 「あれがキングスライム……ですか」


 無残に眷属を殺戮され、怒りに燃えたその瞳は、実に円らでした。

 怒りに任せて捕らえた敵を丸呑みにするその口は、実にまんまるでした。

 ぷよぷよと動くからだと、うねうねとうごめく無数の触手。ぷんすかと擬音が発生しそうなマークをまき散らして、周囲にたかるプレイヤーを鎧袖一触薙ぎ払っています。

 そして、頭の上にちょこんと乗った玩具のような王冠

 それは、実にファンシーな見た目のスライムの王様でした。


 ……なんか、えらく可愛くないですか? サイズはものすごく大きいですが。


 

 「あんな見た目だから最初は騙されるプレイヤーが続出したんだよねえ……頑張ってテイムしようとしたテイマー職もいたんだよ」

 

 敵を見た目で判断してはいけないと言いますが、なんというかこう、戦っていると気が抜けそうな……


 「まずい! シンくん急げ! そろそろこっちにターゲットが変わるぞ!」


 ガレスさんが叫ぶのが早いか、キングスライムはその触手を隊列の最後尾にいた僕めがけて伸ばしてきました。

 クソ犬の突撃に比べれば蠅が止まりそうな速度です。力の方は……うん。大したことはなさそうですね。十分受け止められそうです。

 まあ、流石に【鱗装甲】先生でも完全に無効化は虫のいい話かもしれませんが、【HP自動回復】とあわせればそれなりに耐えられそうですね。


 馬車が城門に到達するには、まだ少し時間が必要そうです。

 

 もしここでアレに追いつかれると、当然ガレスさんたちのクエストは失敗してしまうでしょう。そうなると、クエスト失敗にはペナルティがあると聞きますし、ワンニャンさんから購入していた攻略情報も無駄になってしまうかもしれません。

 対して、ここで僕が盾となってみた場合、最悪あの湖畔に強制送還されるだけです。姉さんたちにはまた渋い顔をされるかもしれませんが、そこは説明すれば納得していただけるでしょう。


 何より、これは何かの縁というものだそうです。こんな僕と一緒に旅をしてくれた恩は返すべきでしょう。

 では、用心棒の真似事でもしましょうか。


 「ガレスさん。食い止めますので先に行っててください」


 よし。伝達も終わったことですし突撃です。

 触手が戻りたがっているようですので、戻してあげましょう。ただし僕も一緒ですけどね。

 スライムに向かって地面を蹴ると、触手が戻ろうとする力と相まって一気に相手の眼前に躍り出ることに成功です。当然、この勢いに乗じない手はありません。

 少しかわいそうですが、キングスライムの顔面に【ヘヴィシュート】を叩き込みます。おお、ぷよぷよですね。


 スライムはそれで怯んだのか展開していた触手を一気に引っ込めました。

 ですが、その直後には怒りのマークを浮かべまくった触手群が僕めがけて殺到してきます。どうやら上手く注意は引けたようですね。

 

 狼の時ほどの緊張感はありませんが、上々の相手です。楽しむとしましょう。





 面白い。

 彼を見た時に初めて感じたのは、ごくごく単純なことだった。

 まず目を引いたのは、全プレイヤー中最大の大きさを誇る『ゴーレム』のアドルフさえも上回る巨体。

 モンスターのリザードマンは、せいぜい彼の半分強の大きさしかないだろう。正直同じ種族なのかと今でも疑問に思う。

 次に、妙に慇懃でよそよそしいしゃべり方と、あの巨体から本当に出ているのか疑わしい『少年の声』

 ステータスが滅茶苦茶低い数字だったりスキルや称号が未発見のものがあったりとそっちの興味が尽きないこともあるが、何よりも彼自身に非常に興味をひかれた。


 ()()()()()()()()


 ファリエルのやつは相変わらずそういう嗅覚が鈍いが、あの手の子には、親身になって(手なづけて)優しくする(商品価値を上げておく)のが一番だ。


 「ガレス! そのまま止まるな! あの子は私が守ってやる!」

 「っ! すまん、マスター。任せる!」


 ガレスの声は実に必死だった。まったく、あいつもいろいろ抱え込む苦労人タイプだからな。

 アイツはまだまともな部類(プレイヤー)だから、本気で(シンくん)をウーノに連れて行ってやりたかったんだろう。後で報酬に色を付けてやろうか。

 

 さて、そんなことよりも今はシン君の方だな。

 蜥蜴の顔に凄まじい笑みを浮かべてキングスライムめがけて突っ込んでいった少年は、今や無数の触手を相手取って大立ち回りだ。

 信じられるか? 薙ぎ払われれば中堅当たりのプレイヤーでも一撃で即死級のダメージなんだぞあれ? それを受け止めて逆に投げ飛ばす?

 いやあ、キングスライムが投げ飛ばされるのって初めて見たよ。

 だいたい、何で彼は【アシッドレイン】が効いて無いんだ? キンスラ対策の最大の問題のはずだぞ?

 まあ、恐らく彼が持つ何らかのスキルが関係しているんだろうがな。上手く行けば『鋼の守護者』に高値で売り付けられるか。


 全く、これは逃がすわけにはいかないじゃないか。


 おっと、見惚れている場合じゃないな。あの子がやってくれているのはあくまでも足止めだ。

 楽しンでいるとこ悪いが――大切な「商品」はきちんと届けなけりゃ「商売」の障りになるってもんだ。


 【コール・マーセナリーⅢ】

  事前に契約を交わすことで戦闘ユニット『傭兵』を召喚する。『傭兵』の種類、性能については契約内容に依存する。


 全身鎧に身を包んだ十数人程度の武装集団が私の周囲に展開される。一体一体はさほど強いわけでもないが、キングスライムに一蹴される程度の有象無象よりはマシだと自負させてもらおう。


 「やれやれ、こんなことならもうちょっとマシな連中を雇っとくんだった。傭兵共、(マーセナリーズ)突撃だ。(チャージ)あの蜥蜴の坊や(新商品)を死なせるなよ」

ご覧いただきありがとうございます。


おまけ


今回ラストの視点を担当する武装商人 ワンニャンのステータスは以下の通りとなります。


  アバター ワンニャン

  種族   ルー・ガルー(偽装)

  レベル  26

  職業   武装商人

  HP597

  MP496

  INT217

  VIT142

  AGI217

  MAG134

  LUC247  

  スキル

  【スラッシュⅦ】【ガンショットⅧ】【スナイピングⅡ】【騎乗Ⅳ】【鑑定Ⅸ】【真偽看破Ⅵ】【交渉術Ⅷ】【威圧Ⅱ】【直感Ⅵ】【宮廷作法Ⅲ】【商売人Ⅲ】【運搬Ⅷ】【並列思考Ⅳ】【コール・マーセナリーⅢ】【集中Ⅷ】【毒耐性Ⅰ】【麻痺耐性Ⅰ】【恐怖耐性Ⅱ】【見切りⅥ】【戦闘指揮Ⅲ】【艦隊指揮Ⅰ】【共通言語Ⅸ】【宗教学Ⅲ】【民俗学Ⅲ】【経済感覚Ⅱ】


  魔法

  【ヒール】【ライブラ】【クイック】【マッパー】【アンチマジック】


  称号

  【水先案内人】【武器商人】【相場師】【ギルドマスター】【表裏比興】【嘘吐き】

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