倍々ゲーム、のち振出しに戻る
第11話です。
唐突ですが皆さま。綱引きをやってみたことはありますか?
一般的には、複数人数からなるチームで一本の綱を両側から引き合って、その移動を競う競技です。団体戦であること、ルールが単純明快であること、またチーム分けによって力量の配分などに公正化が図りやすいこともあり、世界的にも広く親しまれていますね。
かくいう僕も、学校の運動会などで経験しました。……身長順で並ぶせいで何時も先頭だったのは、きっといい思い出です。
「しかし。まさかVRゲームでスライムの王様と綱引きするとは思いませんでしたけどね」
無数の触手を纏めて両脇に抱えた僕と、その触手の発生元であるキングスライムが一対一で引っ張り合いです。
僕にヘイトを集中させたキングスライムは、その無数の触手を僕めがけて集中的に浴びせてきました。
ですが、どうやら思った以上にこのスライム、攻撃力自体は高くないようです。
流石にダメージカットくらいは貫かれますが【HP自動回復】で支障なく全快しますし、衝撃にしたところでフォレストウルフロードに遠く及びません。
《【鱗装甲Ⅶ】のスキルレベルが上昇しました》
あ、前言撤回です。もうダメージも貰いませんねこれ。【鱗装甲】先生のチートスキルっぷりには頭が下がります。
と、いうわけでぺちぺちとうっとおしい触手を回収です。こちらに伸びてきた触手を片っ端から捕まえていくと、キングスライムは焦ったようにもがき始めます。
ふふふ、簡単に逃げられると思わないことですね。爬虫類は割と執念深い方ですので。
もがきつつ残った触手で何とか僕を振り払おうとしましたが、それも悪手です。もう僕にはこいつの触手など効きませんので、近づいてきた触手を片っ端から追加回収するだけです。
すると、ほら。全ての触手を僕に捕まえられて一対一の綱引き状態の出来上がりです。
え? これじゃ僕も何もできないって? まったくもっておっしゃる通り。相手が触手が出ないとしたら、僕の方もまた手が出せません。
でもほら、今回はあのクソ犬の時と違いますし。僕一人って訳でもありませんしね?
「傭兵共! タンクがひきつけている間に全力でぶっ叩け!」
ワンニャンさんの号令の下、全身鎧の兵士さんたちが一斉にキングスライム本体に攻撃を仕掛けていきます。さらに、先ほどまでスライムの触手と遊んでいらした他のプレイヤーの方々も加わって、さながらスライムを囲んで踊る盆踊り会場です。
さすがに膨大なHPを誇るだけあって少しづつしか削れていきませんが、それでもキングスライムの【HP自動回復】は明らかに間にあっていません。このまま僕がこいつを抑え込めば、皆さんで倒しきることもできるんじゃないでしょうか?
あ、スライムと目が合いました。なんだか涙目になっていますね……ざ、罪悪感が……
――脅威接近――
「シンくん! 避けろ! もしくは防御しろ!」
「え」
ワンニャンさんの警告と、【直感】が発した警告のどちらも、その攻撃には間に合いませんでした。
キングスライムは、その表情を怒りに染めると僕に向かって大口を開いたのです。次の瞬間、視界が純白に染まりました。
【スライムフレア】
「熱っっっちゃあああああっ??!!!」
口からいきなりビーム吐き出しやがりましたよこの軟体。真正面で触手を掴んで動かなかった僕が回避できるはずもなく、真正面から極太のビームに飲み込まれました。
いや、冷静に言ってはみましたがものすごく熱かったんですよ。熱線ですよ熱線。ゴ〇ラも真っ青ですよ? VRゲームじゃなけりゃ死んでますよ本当?
《【鱗装甲Ⅷ】のスキルレベルが上昇しました》
なんかアナウンスが流れてますが気にしている余裕なんてありません。流石にこれは無理です。【鱗装甲】先生でもビームを防げとかは無茶ぶりです。
おかげでHPがどんどん削られて――削られて、あれ? 半分くらい残った時点で止まりましたね?
ありゃ、なんだかキングスライムが涙目に戻っていますね。ちょうどいいので先ほどどさくさに紛れてペコさんからもらった回復薬を使っておきましょう。あとはまあ、【HP自動回復】さんに任せたいところです。
「……ふぅ、とりあえず、このペースならあと二発は耐えられますね。問題なさそうです」
「いや、そのりくつはおかしい」
横合いからツッコミを入れられると同時に、温かな光が僕に飛んできました。
おおう、ひょっとしてこれ回復魔法でしょうか? 一気にHPが全快しましたよ。
「ええと……シン……さんでいいかな? タンク役ありがとう。とりあえず回復させてもらうよ」
回復魔法を飛ばしてくれたのは――骨でした。
骸骨でした。
「……えっと、回復ありがとうございます。……ええと」
「あ、僕の名前はヴァイスクノッヘン。長いから知り合いからはヴァイスか骨って呼ばれてるよ。好きに呼んでくれればいいよ」
黒いカソックのような衣装を着た骨――ヴァイスさんは、僕のHPを全快させるとそのまま色々なバフをかけ始めてくれました。
「ではヴァイスさん。僕のことはシンで結構です。支援ありがとうございます」
「いやいや、それにしても君すごいね。アレの直撃食らってまともに耐えられるプレイヤーなんてそうそういないよ?」
「頑丈なのが取り柄ですので。ああ、さっきの衝撃で触手が何本か逃げてしまいましたね。また捕まえてきます」
「あ、ああ。がんばってね」
ヴァイスさんがかけてくれたバフは、数種類全部合わせてみるとほぼ全ステータスを5割近く跳ね上げるという凄まじいものでした。
おかげで触手の動きもさっきより心なしかゆっくりに見えてきます。回収ですよ。
触手を抑え込み終わると、再びキングスライムを囲んで盆踊り再開ですね。
見れば先程よりも人数が増えています。ヴァイスさん以外にも後方支援役の方がちらほらと見え始めていますし、非常に安定した攻撃サイクルが確立されたようですね。
キングスライムのHPもそろそろ5割を切りそうに――
《一定の条件を満たしたため、AIの進化を行います。対象:キングスライム》
またテコ入れですか! よっぽどボスキャラが封殺されるのが嫌なんですか!
頭にフォレストウルフロードが使った【魔狼決闘】のことがよぎります。あのスライムも似たような真似を仕掛けてくるというのでしょうか?
誰か一人だけあの閉鎖空間に引きずり込むとか――
突如、思考が後方から襲い掛かって来た衝撃と熱波に邪魔されました。
「……ははっ……成程、成程なあ。これがテコ入れってやつか……クソ運営が。よりにもよって、こいつにこんな能力を追加しやがるとか、ふざけろ」
私は、目の前の光景に乾いた笑いが止まらなかった。
ふざけやがって。
つまり、こういう事か。シン君の話を聞いても実のところ半信半疑だったが、これで納得した。
そこにいたのは、四体のキングスライム。
いや、それだけではない。
四体のキングスライムは、体を震わせるとさらに一体ずつ自分と全く同じ姿の分身を生み出した。
そして、その増えた計八体は、さらにその倍に――
【自己増殖】
自身と同じフィールドに存在する「プレイヤーの数」と同じだけ、自分と全く同じ分身を増やし続ける。
なあ、普通に考えろ。これ、ボスが持ってていいスキルだと思うか?
シン君が戦ったというフォレストウルフロードは、自分自身との一対一の【決闘】を追加ルールとして強制したらしいが、こいつも大概だ。
こいつは、数を頼みにして自分を撃破しに来る連中を許さない。
数で攻めてくるのなら、同じ数を用意して殴り返してやるとでも言うつもりか。
冗談はやめろよ本当に。そもそもこいつらを一対一で撃破可能なプレイヤーなんぞ騎士姫か殲滅兎くらいしかいないぞ。
「じょ、冗談じゃねえぞ! 一体だけであんな無茶苦茶なのに勝てるかこんなもん!」
「ちょっと! 一人で逃げないでよ!」
「くそっ! あのリザードマン君助けに行くぞ! ……うわあああああっ! 何でいきなりこっちに――」
「ひ、ひいいっ! こっちくるなあああっ!!」
はっ……。
情けない。戦線崩壊か。まあ、まともに組織立てて集めたわけでもなく、指揮系統があるわけでもない。
こうなるのは、自明の理だ。
私が召喚した傭兵共も、キングスライムの集団に襲い掛かられてもう一体も残っちゃいない。
救援依頼も片っ端から出しては見たが、正直この戦線にまともな思考回路をした奴が来るはずがない。
ファリエルにはウーノの門で私たちが全滅する様子を記録しておけと伝えているから、最悪無駄にはならんだろうが。
ああ、クソ。大失態だ。ガレスに偉そうなこと抜かしておいてこの様か。
もはや、この状態から逃走することさえ不可能だろう。ケチらずに転移石の一つでも用意しておくんだった。
まあ、いい。こいつの討伐方法はこれでわかった。事前の準備さえ整えれば私で十分倒せるな。
よくも私の商売を邪魔してくれたなクソ軟体が。お陰で久々にキレさせてくれてありがとうよ。
こいつは、採算を度外視しても私が狩る。
「次はブチ殺してやるよ。キンスラ共」
8体のキングスライムが同時に放ってきた【スライムフレア】に飲み込まれる寸前。私は奴らに宣誓した。
ああ、どうやらワンニャンさんまで倒されてしまったみたいですね。
僕の周囲には、無数のキングスライムたちが集まっていました。倍々ゲームで増えていった彼らの総数は把握できません。一体一体の図体が大きいくせに密集しているものですから、もうぷよぷよのみちみちです。
……ああ、あのふざけた顔のせいで毒気が抜かれてますね。キングスライム、実に恐ろしい相手です。
周囲に集まったキングスライムたちから伸びてきた無数の触手は、僕をがんじがらめに張り付けていました。もがこうとしても、いたる所に数匹分のキングスライムが触手を巻き付けているのでピクリとも動きません。
この後、彼らはありったけの【スライムフレア】を僕に向けて撃ってくるでしょう。見事な蜥蜴の丸焼きの完成です。
少し残念なのは、折角ペコさんに作ってもらった外套が【スライムフレア】で壊されてしまったことでしょうか。
はあ……また半裸で湖畔です。姉さん、ごめんなさい。もう少し時間がかかります。
「……僕は何時になったら町にたどり着けるんでしょうかね」
そして、閃光が僕の視界を覆いつくしました。
まあ、ガレスさんたちは無事に町にたどり着けたようですし、目的は達成できました。
今回は……選択肢を間違えずに済んだんでしょうか?
《死亡しました。デスペナルティが発生します》
《【鱗装甲Ⅸ】のレベルが上昇しました》
《【鱗装甲】のスキルレベルが上限に到達しました。スキル進化を開始します》
《スキル進化に種族要件が干渉しました。SP16を消費することにより【龍鱗装甲Ⅰ】への進化が可能です》
《行動より【剛体Ⅰ】を獲得しました》
ご覧いただきありがとうございます。
次回は掲示板回を予定しています。
ようやく、あらすじの台詞を回収できました。




