殲滅兎の婚約者
第29話
最終話となります。
青い空に、流れる雲。そして浮かぶ二つの月。
この空は、この世界特有のものだけど、こうしてのんびり草原の寝転がって眺めた回数は現実世界よりもずっと上だ。
「なぁ、骨ー。もうそろそろ時間じゃねえのー?」
同じように寝転がっているゾンビが時間を告げる。
ああ、確かにそうだね。もうそろそろシンくんたちもトーレからやってくる頃だろう。
この景色は気持ちよくて名残惜しいけど――なあに、時間だけはたっぷりとあるんだ。また来ればいいだけの話さ。
「そうだねゾンビ。それじゃ……そろそろ戻ろうか」
カソックを着たスケルトン――ヴァイスクノッヘンと名乗る俺……いや、僕は、同じクラスメイトのゾンビと一緒にこれから初めての試みを試すんだ。
「みんな、どんな姿なのかなぁ」
「さぁな。それこそ、今回のお楽しみってやつだろ?」
腐った顔で楽しげに笑う級友に、肉のない笑顔で返す僕。
普段見ている世界と全く違うけれど、そこに見知った人間達が入り込んだ時――ああ、そいつは今まで僕が知りもしなかった相手になるんだ。
これを、これからもっと沢山の連中とやるんだよ? 面白くないわけないだろ?
「ベッキー、まだー? もう安西さんもアーニャも外で待ってるよー」
「ちょ、ちょっと待ってよォ! 尻尾のリボンがうまく結べないんだってえ!」
はあ、折角アリスと3人でお揃いの尻尾リボンアクセ準備したってのに、締まらないにもほどがあるわよ。
「もう、貸しなさいよ。ホント不器用なんだから。どうやってそれで生産職やってたのよ」
「せ、生産とファッションは別じゃないのよ……ていうか、この世界の私は「レベッカ」でも「ベッキー」でもなく「みんてぃあ」だって言ってるでしょ、もう」
「はいはい。……よしできた。行くわよ、みんてぃあ」
彼女に作ってもらった自分と同じくらいの大きさのバトルアックスを担いで、私は二人の共有ホームを出る。
「ま、まってよマカロンー! ステータス差あるんだから加減して~」
全く、私をこのゲームに引きずり込んだ親友兼雇い主様はこれだから。
リアルじゃ私よりもタイム良いのに、どういう事かしらね?
「早くしないとみんな来ちゃうわよ。ほら、駆け足駆け足!」
「お、先生だ。チーっsぶほああああああっ!!」
遠くに見えた金色の髪のケンタウロスに、俺は手を振りながら呼びかけ――一瞬で近づいてきた騎士姫に鎧の頭部を吹っ飛ばされた。リビングアーマーで良かったあああああ!!
「はいダウトよ「シュガーリッチ」君。ネトゲでリアルの関係性を想起させるような呼称を使わないこと。いいわね?」
イエスマム。でもとりあえず教育的指導でPKになる寸前のダメージ与えるのは勘弁してつかあさい。
ていうか、今ので一緒にいたす――「ナポリタンクリスタル」と「うぇいばーB」がめっちゃビビってますよ。
「え、えっと、すみません。それじゃ本人確認はどうすれば――あ、はい。そうなんですね」
お、「ナポリタンクリスタル」の方は個人メッセージの使い方覚えたか。いや、こいつ実はBEOじゃなくて別のゲームやってたからな。あの件もあって急遽俺たちが引きずり込んだんだよなー
「さて、ここにいるのは君たち3人だけ? 他の子たちは――ああ、続々来てるみたいね」
ウーノにある4か所の入り口のうち、最も東にあるここは、トーレに向かう街道の起点になってるらしい。先生は街道の向こう側から一瞬でここまで来たけど、他の連中は普通にウーノの町中から来るよな。
「せ……騎士姫さん、東のフィールドで何やってたんすか?」
「ん? 暇だったから予習がてらコボルトジェネラル狩ってたわ。出すのめんどくさいわねーあれ」
悲報。うちの担任、バトルジャンキーだった。
ま、まあ気を取り直して……あっちの骨とゾンビは川畑と秦か。あっちのケモミミ幼女二人は水泳部だったよな。ていうことは、一緒にいるのは安西さんとオルロヴァさんか。……なんだありゃ。妖精と……鬼か? 怖え……。
お、あっちから来る人狼は委員長だったか。きっちりビギナーの女子二人引率してくれてんな。流石委員長。だがもげろてめえ。
えっと、じゃ後は――
「……うわあ、あの災害娘ってば、また何やってんのよ……「シュガーリッチ」君。ちょっと悪いけどタンクやってくれる?」
「は? タンクっすか? いいすけど……敵なんてどこに――」
「ああ、空から来るわ。ある程度はシンくんの方が押さえてくれると思うけど」
意味が全く分からないが、とりあえず後方の味方に被害が出ないように最前列でタワーシールドを構え、【エリアガード】を発動させる。
直後、隕石の衝突染みた大爆音とともに、俺たちの目の前にクレーターが出来上がった。
「……姉さん、アリスちゃん、大丈夫ですか?」
「ふわぁ……おねえちゃんはだいじょうぶ~」
「大丈夫じゃないわよこのおバカ姉えええええええええっ!!!!!」
おお、聞き覚えのあるツッコミが響くぜ……うん。なんかもう、正体分かっちまったからいいけどさあ。
俺の倍近い巨大な赤いリザードマンに、その肩口にしがみついている魔女っ娘風の兎、そしてリザードマンの背中に乗っていたシスター服のラミア。
……仲村さんはまだしも、あのドラゴンもどきが新藤だってのがいまだに信じられん。
「えっと、皆さんすみません。お待たせしましたか」
「も~、アリスちゃんが尻尾リボン決まらないってなかなか動けないから~」
「だからって炸裂魔法で空飛ぶアホがどこにいるのよ! 普通に転移陣使いなさいよ!!」
……あっけらかんと笑っているのは、このゲーム最強最悪のPK、通称殲滅兎。
よりにもよって、こないだ新藤がプロポーズかました相手なんだが――すまん。俺はやっぱり自分の認識能力を信頼しきれねえ。
だって、あの仲村先輩がだぞ? 完全無欠の超絶美人の完璧優等生の。最近新藤にデレまくってやたらかわいいと噂の!
それが、よりにもよって、あの殲滅兎なんだよなあ……ていうか、殲滅してなくても行動が無茶苦茶じゃねえかあの先輩。
ちょっと、あこがれてたんだけどな。
「さ、それじゃ全員揃ったところで。これからコボルトジェネラルぶちのめすわよー」
「「ちょっとまてえええええええええええええええええっ!!!!」」
シャルロッテさん――で良かったですね。――が僕たち全員を前に宣言すると、2名ほどからツッコミが入ります。
川畑君――いえ、ヴァイスさんと、ゾンビのユンケルさんでしたか。
「なによ? 質問?」
「質問っていうかですね。コボルトジェネラルの召喚方法ってわかってるんですか? 僕らかれこれ数千体コボルト狩ってますけど全然でないんですよ!?」
「せん……騎士姫さん知ってんならせめて「解析組」に情報流してくださいよお!」
「ああ、私だってさっきまで知らなかったのよ。だって今確認してきたところだもの」
はい。シャルロッテさんは相変わらずシャルロッテさんでした。とりあえずわからないことは自分の身体で確認ですよね。撥ねられまくった首筋がうずきます。
「と、いうわけでオーヴ。どうせあんたでしょアレ最初に倒したの。ちょいちょいっと召喚しちゃってよ」
「はいはい。それじゃシンちゃん。お姉ちゃんを連れてってね♪」
うん。僕姉さんの乗り物ですかね? いや別にいいですけど。
「ところで、そのコボルトジェネラルってどうやって呼ぶんですか?」
「ああ、多分一番簡単よ。5秒以内に普通のコボルトを100体倒せばいいだけ」
あれ?
嫌な予感がしま――
【スターダストターミネーション】
―――――とあるラスボスの後口上―――――――――――
さてさて、どうやら試みは上手く転がり始めたようですな。
この世界は仮初の物なれど、そこに在る人々の姿は現実の現身。
願わくば、これから先も続いていく貴方たちの物語に、この世界が一滴の彩を添えられますように。
ですが、それはまた、別のお話。
いつかまた、機会がございましたらご紹介することといたしましょう。
なにせ私、このゲームのラスボスですので。
Beast Eden Online ~~殲滅兎の婚約者~~
これにて終幕でございます。では、ごきげんよう。
ご覧いただきありがとうございました。
これにて、蜥蜴の巨人と殲滅兎の物語は終幕となります。
長らく拙文にお付き合いを賜り、誠にありがとうございました。
最後に、この作品を作った経緯についてお話させてください。
私は前々からVRMMORPGの作品を読む専門だったのですが、私が読んでいた作品に登場するゲームには同じような特徴が散見されました。
そう言った特徴と、MMORPGの特性である対人交流という点を掛け合わせると、そもそもゲーム以外を目的としてプレイする在り方もあっていいのではないかと思ったのです。
すると、よくあるVRMMORPGの特徴を最大限活用でき、かつそんなに重い問題を扱うと作者のストレス耐性が崩壊しますので軽めに考えていくと、最初に出てきたのが「殲滅兎とリザードマン」というキャラでした。
さらに、そこに登場させる人物に最低一つは致命的な欠点を与えてやりたいという作者の根性の悪さと、いちいちうだうだと考えさせる面倒くささ、そのくせ推理放棄よろしく卓袱台返す無茶苦茶をごった煮にしてみた結果、悪魔合体の果てに生まれたのが本作品です。
ただ、自分の予想外に読んでくださる方がおられたようでして正直汗顔の至りです。
ゲームの設定自体あまり考えずに雰囲気のみで書きなぐった部分も多く、お見苦しい箇所も多々あったかと思います。
本当。お目汚しにもほどがありました。申し訳ありません。
VRMMOタグをつけておきながら、本質のところでゲームを目的としていないあたり、タグ詐欺とか言われても全く持ってその通りでございます。平に御容赦ください。
ですが、わざわざ読んでいただき、また恐れ多くも評価点を入れていただけましたことを、遅ればせながら御礼申し上げたいと思います。
本当にありがとうございました。




