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その幻想を簡単に壊せたらどれだけ楽だったことか

第17話です。

 騎士団長バルガ。

 堅牢な鎧で全身を包み、常人では持つことさえも適わぬような大盾と大剣を軽々と振るう、無双の剣士。

 その剣は変幻自在にして強力無比。

 狂戦士でなくとも、その斬撃を急所に受ければ絶死は必然。

 巨木の如き大剣を小枝のような軽やかさで躍らせたかと思えば、次の瞬間には迅雷の速度で放たれる剛剣。

 だが、目に映る程度の剣筋は、最も遅い一閃に他ならない。

 そこに至るまでに2度、もはや目に映らぬほどの速度で振るわれた剣筋は、相対する未熟者を問答無用に切り捨てる。

 ひとたび振るえば、3つの斬撃。

 その斬撃を、フル稼働させた【直感】と幾度となく首を撥ねられた経験則で見切る。


 「っっっ躱したあっ!! はぶっ」


 感知すら不可能な()()()の斬撃に、首を撥ねられました。


 《死亡しました。デスペナルティが継続します》



 魔導団長サイラス。

 怪しげなローブで身を包み、無数の魔獣をたったの一撃で滅ぼしつくす大魔法を軽々と扱う、究極の魔導士。

 その魔法は千変万化にして古今無双。

 リザードマンの身体であれば猶更、その魔法を受ければ即死は免れない。

 放たれた魔法は、百を超える数の炎の玉。

 死と同義の炎の散弾を、全力の回避運動と折れた斬馬刀で切り払う。

 寸前で躱し、表皮を焼かれながら逸らし、折れた刀で両断する。

 無数の炎弾を切り抜け、一直線に魔導士の元に――


 「届いたあっって熱っ!!」


 振るった斬馬刀が急速に展開された魔方陣に弾かれ、同時に発動した炎の魔法が僕をこんがりと焼き蜥蜴にしてくれました。


 《死亡しました。デスペナルティが継続します》





 「おかしいわね。なんでこうもスキルが生えないのかしら?」

 「……どうしてでしょうねぇ」


 やっぱりこれ、運が相当絡むんじゃないですかね? 一体何回サイラスさんの魔法を切り払ったかもう覚えていません。

 おかげで、あの魔法陣の防壁と広域魔法以外は大体対処できるようになりましたけどね。


 「ちなみに伺いますけど、シャルロッテさんは【ブレイクファンタズム】はお持ちなんですよね? どうやって取られたんです?」

 「私はβ時代にオー……知り合いとPvPやってた時に生えたのよ。相手の魔法を武器で切り払い続けたら、簡単に出たわ」


 なるほど、β時代に……え?


 「βテスターの時のデータって引き継げるんですか?」

 「あれ? ワンニャンから聞いてないの? このゲームのβテスターの特典って、βの時のデータを引き継いで開始できるってオプションだったのよ」

 

 ……初耳です。そういえば姉さんもヴォーパルプリンセスっていう変わった種族でしたよね。

 

 「うーん……ひょっとしてβの時と条件が違うとかありますかね? 特別何かスキル使ってたとか……」

 「何か……というか、正直具体的に何をやってたかなんて細かく覚えてないのよね。とにかく無茶苦茶な数の魔法打ち込んでくる相手だったから、それを全部避けたり切り払ったりして接近することだけ考えてた気がするわ」

 「……今の僕とあまり変わりなさそうですよね……。ちなみに、このスキル他に持っておられる方とかご存知ですか?」

 「ええ、知り合いの一人がその時狂戦士だったから、彼も持ってる、というか取らせたわね。……確か魔法の雨を強行突破させたと思うけど」


 結局こういう取得方法なんじゃないですか。それで取れないとなると、どこかに見落としがあるのか運が悪いかのどちらかですよね。

 

 《プレイ継続時間:現実時間で3時間を超過しました。健康保持のため小休憩をお勧めします》


 おや、アナウンスが出ましたね。

 普段これほど長時間ログインすることがありませんからめったに見ないのですが、この手の時間加速機能を持ったVRゲームは一定時間ごとにこのようなアナウンスが表示されるそうです。

 前に見たのは確か狼を虐殺していた最中でしたね……あの時は思い切り無視しましたが、丁度考えも煮詰まってきたところです。


 「シャルロッテさん。休憩しろとアナウンスが出ましたので、今日はこの辺でログアウトしたいと思います」

 「ん、あー。そうね。私もそろそろ出てくる頃合いだし、今日はこの辺でお開きにしましょっか」

 「はい。ではお疲れさまでした」

 「お疲れー。また明日ねー」










 

 土曜日です。

 休日です。

 朝の日課を済ませ、とりあえず宿題でも終わらせようかと机に向かうと――


 「……人の机の下で何してるんですか、姉さん」

 「あはぁ♪ バレた?」


 むしろバレないと思ってませんよね?


 「宿題するんですから邪魔しないでくださいよ……デートなら行きませんよ?」

 「むー。たっちゃんのくせにお姉ちゃんの思考を先読みするとは生意気だぁ」

 「はいはい、その位愛してますから当然です。ですから愛利栖ちゃんと行ってきて――ああ、今日は確か部活の試合なんでしたっけか」

 「そうよぅ。おかげでお姉ちゃんは暇なのだ。だーかーらーかーまーってー」


 まとわりつかないでください。タコですか貴女。

 愛利栖ちゃんがいないと姉さんは過剰なまでにスキンシップを図ってくるから、少しばかりうっとおしいのです。触るのはいいですが時間と場所をわきまえろといつも言っているでしょう。


 「だいたい宿題なんて、インポートしてゲームの中でやればいいじゃないのよぅ」

 

 は?


 「あれ? 知らなかった? このゲーム外部からのデータを結構読み込んだりできるの。学生なら、宿題のデータを読み込ませればゲームの中でもできるわよ」

 「……ゲームの中で、ですか。あれ、それってもしかして……」


 8倍速の時間で、宿題が出来るってことですよね?


 「その通り♪ ま、おバカな子がやったらセキュリティ対策とかガバガバになるから、そもそもそれが出来ることを学校じゃ言わないけどね。あのゲームの中の図書館とかには日本地域で使われてる教科書や参考書のデータもあったりするから、それ使って勉強もできるわよ。愛利栖ちゃんもやってるわ」

 「ゲームの中で迄勉強するんですか」

 「せっかく8倍も時間使えるんだもの。それに、ゲームばっかりしてても飽きるでしょ?」


 ゲームの中でゲームに飽きるとはこれ如何に。です。

 ですが、ふむ。時間の有効活用という意味では非常に役に立ちそうですね。


 「ふふふ。ではぁ、時間の活用方法を伝授してあげたところで、報酬を貰わないとね♪ 空いた時間をお姉ちゃんのために使うのだー」


 結局、土曜日の昼間は姉さんの相手で潰される羽目になりました。

 ……明らかに浮いた時間より使わされてませんかこれ?




 

 「……で、宿題やってるって訳ね?」

 「はい。いつもだいたい1時間くらいかかるんですが、ゲームの中なら現実で10分かからず終わる計算ですし、こんな手段があるならもっと早くやっておくんでした」


 訓練場の隅っこでインポートした宿題をやっていると、ログインしてきたシャルロッテさんが呆れた様な目で見てきました。解せません。


 「まあ、確かに効率はいいからね……ただしちゃんとセキュリティチェックはかけなきゃだめよ? 確かにVRゲームの加速機能を使ってデスクワークをすれば捗るけど、同時にハッキングや情報流出のリスクがあるってことだけはちゃんと覚えておきなさい。特に個人情報に関するものは一度出ると大惨事だからね?」


 言われてみればその通りですね。確かに不特定多数の人がログインできるゲームに情報を持ち込む以上、そういった危険性は理解しなければいけません。


 「ああ、あと、もう一つ。シン君はこの手のゲームをやるのは、初めてなのよね?」

 「え? はい。そうですね」

 「なら、言っておくわね。人間の精神は、過度の時間の加速に耐えられるようには出来ていないわ。個人差はあっても、ね。そのことだけはしっかり自覚しておきなさい」


 そう言ったシャルロッテさんの表情は、すごく真剣なものに見えました。

 ……おかしいですね? 何故か見覚えがある気がするのですが、どこかで僕シャルロッテさんにお会いしたことがあったでしょうか? 

 ……いえ、やはり気のせいでしょう。ずっとクワトロにおられた方にお会いするはずもありません。


 「でもまあ、ちゃんと宿題やってるってのは感心ね。……ていうか、なんとなく気が付いてたけど、キミ学生なのね」

 

 む、何だと思われていたのでしょうか。ちょっと心外です。


 無事に宿題を終え、データ変換後セキュリティチェックをかけて端末にエクスポート。

 さて、やることもやりましたしゲームしましょうか。


 「さて、それじゃ今日も【ブレイクファンタズム】の習得に向けて……またボコボコにされるんでしょうか。はぁ……」

 「んー、私もリアルの方で仕事しながら考えてみたけど、やっぱ何か特別なことってのは思い出せなかったわね」


 いえ、仕事してる間は仕事のこと考えたほうがいいんじゃないかと思いますが、口に出すのは控えましょう。大人は大変だと聞きますからね。

 しかし、昨日あれだけ戦って習得する気配がないのですから、少し落ち着いて考え直した方がいいのかもしれません。称号にすら工夫しましょうとか言われるくらいですし。


 「習得方法……【ブレイクファンタズム】……そういえば、このスキルなんでこういう名前なんでしょうか?」

 「名前? 【ブレイクファンタズム】の?」

 「ええ。魔法を切り払ったりすれば習得できるのに、どうして【ブレイクマジック】じゃないんでしょうか」


 素人考えでスキルの名前に何かヒントでもあるのかと考えましたが、生憎全く思い浮かびません。


 「うーん……ちょっとスキル説明見てみようか?」


 シャルロットさんが表示してくれたスキル説明は以下の通りでした。


 【ブレイクファンタズムⅣ】

  実体のない存在を物理攻撃によって撃破する狂戦士の奥義。スキルレベル上昇により威力上昇。


 「実体のない……実体……やっぱり、魔法や幽霊を切ったりするスキルなんですよねこれ」

 「そうね。正直、これが無いとサイラスの攻性防壁を貫けられないわ。飛んでくる魔法は何とかなっても、結局あの爺にダメージ入らないんだもの。だからシンくんにはどうしても覚えてもらう必要があるのよ」


 むう、困りました。覚えるまで無為に突撃を繰り返すしかないんでしょうか。

 

 「はあ……困ったわね。これからまだバルガの【幻龍刃】対策の防御技を覚える必要もあるのに……ま、焦っても仕方ないわね」



 あれ?



 「シャルロッテさん、バルガさんが使う【幻龍刃】ってどんな技なんですか?」

 「昨日散々食らってたじゃない。高速で振るわれる三連撃の後の見えない四つ目の斬撃のことよ」


 ……あれですか。


 「ちょっと行ってきます」

 「あら? 何か思いついたの?」


 いえ、ものすごく単純な話なんですが。

 せっかく技の名前に「幻」なんてついてるわけですから、あの四撃目を攻略すればいいんじゃないかと思いまして。





 《死亡しました。デスペナルティが発生します》


 畜生。真正面から馬鹿正直に行って攻略できれば苦労しませんよね。

 高速の三連撃の回避はギリギリできるようになってきましたが、やはり四撃目は無理です。【直感】さえ発動しませんのでそもそも気が付いたら首が落ちているという体たらくなのです。


 「うーん……確かに試してみたことなかったわね。でも、バルガのアレ見切るなんて私でも無理よ? 防御スキルを全力で張って耐えるしかできないもの」

 「うう、いい手段だと思ったんですけどね……毎回首チョンパされ続けると、そのうちデュラハンにでもなるんじゃないですかね僕」

 「あはは、結構かっこいいかもしれないわよそれ……あれ、そういえば……ちょっと待っててね」


 シャルロッテさんが一人でバルガさんのところに向かっていきました。

 おおう、何だかものすごいスピードでの応酬です。一度の槍の刺突で何回突いてるんですかあれ。うわ、分身してる。

 ……やっぱり僕要らない子な気がしますね。シャルロッテさんとんでもなく強いです。

 あ、バルガさんの三連撃ですね。あれも躱して、四撃目――って、ええ!? 防御するんじゃないんですか!?

 首を撥ねられてデスペナにされたシャルロッテさんが、なにやら納得した様子で戻ってきました。


 「シンくん、ひょっとしたらだけど、バルガが【幻龍刃】で狙う所って、決まってるかもしれないわ」




 「……まあ、ダメ元です。行きますよ騎士団長さん!」


 もう何十回目の光景でしょうか。幾度となく付き合ってくれている騎士団長さんズには頭が上がりません。

 そろそろお二人のことを先生と呼んだ方がいいかもしれませんね。

 全力で訓練場の床を蹴り、まず向かうのはサイラスさん。

 魔法の詠唱が終わってしまったが最後、僕を待つのは確実なデスペナです。

 ですので、少々待っていただきます。


 狂戦士に就職して3つ目に獲得したスキル【ハウルオブフューリーⅠ】

 「恐怖」の状態異常と「スタン」の状態異常を確率で付与するこのスキルは、博打的な要素こそ大きいものの成功すれば非常に有効です。

 そして何より有効なのは、その発動速度と効果範囲でした。

 サイラスさんの魔法が届く範囲外からでも、僕の咆哮は届きます。そして、たとえ二つの状態異常が外れてしまったとしても、咆哮による衝撃はわずかにサイラスさんの詠唱を遅らせることが出来るのです。

 

 そして、そのわずかな瞬間さえあれば、僕は本命――バルガさんと相対することが出来ます。

 僕よりもさらに一回り大きなその体に、全速力で突貫です。

 もとより、数舜も時間をかけるつもりはありません。

 たったの一撃。今の僕はそれだけで簡単に倒されてしまうほど脆弱です。

 ならば、その一撃の時間に全てを叩きつけます。


 【グレンデルロアⅢ】で、元々少ないVITをさらにSTRに変換。

 バルガさんは非常に空気を読んでくれたのか、望み通りの三連撃を撃ってきてくれました。

 目に見える最遅の一閃。その寸前に振るわれる不可視の二閃を、今まで何度となく切り刻まれた経験則と【直感】の警告で回避。

 そして、回避した先に襲い掛かってくる最後の三撃目を、折れた斬馬刀を盾にして打ち払います。


 ここまで来て、何となくですけどバルガさんの表情がわかるようになってきました。

 彼が少し失望したような光を鋭い瞳に浮かべた次の瞬間――


 「――~~~っ!! と、めたあっ!!」


 ()()()目がけて振るわれた完全不可知の四撃目を、強化されたSTRをのせた【スケイルナックル】で迎撃しました。

 シャルロッテさんありがとうございます。あたりですよ当たり!

 とりあえず迎撃した腕は縦に切断されて肘くらいまで二つに分かれる羽目になりましたが、【幻龍刃】は迎撃することに成功はしたのです。


 さて、そうとなればぼうっとしている場合ではありません。驚いたような表情のバルガさんに、全力で【ヘヴィシュート】からの【テイルアタック】です。

 ふふふ、右腕を開きにされたお返しです。せめて食らってください!



 

 「見事だ小僧。よくぞ我が技を止めて見せた。だが、腕を断たれるとはまだ未熟。精進せよ」



 ……あれ? 



 「少々不格好だが及第としてやろう。褒美だ。わが剣の奥義、よく見ておけ。【龍剣術奥義・天禍魂(アメノマガタマ)】」





 ()()()特有の凶暴な笑みを浮かべたバルガさんは、認識さえ不可能な一撃で僕を文字通り消し飛ばしました。




 《死亡しました。デスペナルティが継続します》

 《スキル【ブレイクファンタズムⅠ】を取得しました》

 《【直感Ⅸ】のスキルレベルが上昇しました》

 《【直感】のスキルレベルが上限に到達しました。スキル進化を開始します》

 《スキル進化に種族要件が干渉しました。SP8を消費することにより【末那識Ⅰ】への進化が可能です》

 《称号【流派:龍剣術】を取得しました》

 《【スラッシュⅥ】が変更されます。【豪剣Ⅰ】に変化しました》

 《特殊クエスト 騎士姫の試練 ~助っ人編~ がアップデートされました》

ご覧いただきありがとうございます。


次回、掲示板回です。

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