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シャルロット

 シエナがアッシュ達と共に竹林に向けて冒険に出かけている間の出来事だった。




「こんにちは」

 宿屋シエナで主に清掃を担当しているシャルロット・パルフェンはテミンの街、二番街区区長であるカイエン・リドアベール・アジェラの館の前に立っていた。


「シャルロット!久しぶりだな!元気にしていたか?」

 門番を勤めていた男は、挨拶をしてきたシャルロットの姿を見て、驚きと嬉しさの声を挙げる。

「お久しぶりです。覚えていてくださったのですね」

「そりゃ、お嬢様のお気に入りでこの館一番のメイドだったお前の事なんて忘れられる訳ないだろ」


 シャルロットは門番の男の言葉に「嬉しいです」と、優しい微笑みを見せる。

 その微笑みに男は顔を真っ赤にして視線を逸らす。


「そ、それで今日はどうしたんだ?辞めてからもう2、3年くらいになるんだったか?」

「そうですね。私がここを離れてから2年半程でしょうか…。最近になって、シフォンお嬢様があまり元気でないという噂を耳にしまして…少し心配になりまして…」


 シャルロットの答えに門番の男も少しだけ俯くが、すぐに顔を上げる。

 シフォンの元気がなくなった理由、それはシフォンが一番大好きであったメイドが突然辞めてしまった事が原因である。

 そして、その辞めたメイドとはシャルロット・パルフェンの事である。


「おぉ!そうだったのか!お嬢様もシャルロットの姿を見ればきっと元気になってくれるはず!」

 そう言うや否や門番の男は門を開けてシャルロットを歓迎する。

「あれ?誰か他の人に引き継がなくてもよろしいのですか?」

「他ならぬお前じゃないか。むしろ、そのまま旦那様のところへ行ってもむしろ問題ないんじゃないか?」

 そう言って、門番の男は豪快に笑う。


 シャルロットは「流石にそれは問題あるでしょう」と苦笑をし、館の中にいる使用人の誰かに旦那様とお嬢様に面会をさせてもらえるように取り継いでもらおうと考えて館へと足を向ける。

(まあ、まずはカイエン様に挨拶ですね)

 多忙な方だから、もしかすると挨拶すらできないかもしれないが、それでも自分が来た事だけは伝えてもらおうとは考える。


 そして、慣れ親しんだ館の中へと入り、使用人が休憩している場所へと足を運ぶ。


 そこで見知った顔の使用人達には大歓迎を受け、シャルロットの事を知らない新人の使用人には尊敬の眼差しを向けられたシャルロットは、今日館へと来た理由を説明する。

 理由を聞き、中でも古株の使用人が「すぐに旦那様へ伝えて参ります」と言って出ていき物の数分で戻ってくる。


「シャルロット、旦那様がお呼びです」

「早いですね」


 ビックリするほどの早さにシャルロットも驚く。

 挨拶すらできないと思っていたにも関わらず、むしろすぐに面会にこぎ着けた事にシャルロットは「もしかしたら、丁度今は手が空いていたのかも」と、楽観視する。


 ちなみにそんな事はなく、カイエンは今日も多忙を極めていた。

 しかし、シャルロットが訪問してきた事を聞き、どの来訪者よりもシャルロットを優先したのである。

 理由は単純で、シャルロットであれば大事な一人娘のシフォンの笑顔を取り戻せると考えての最優先である。



 コンコン、とノックの音がカイエンの執務室に響き、カイエンは「入れ」と短く告げる。


「ご無沙汰しております。カイエン様」

 入室したシャルロットは優雅に挨拶を交わす。

「シャルロット、よく来てくれた」

 カイエンは笑顔を見せて立ち上がり、握手を求める。


「話は聞いた。シフォンの為に来てくれたのだろう?」

「はい。詳しくは知りませんが元気がないとの事でしたので、心配になりまして」

 カイエンも流石にシャルロットが辞めた事が原因でシフォンの元気がなくなったとは言えなかった。


「元気がないのは事実だが、しかし、それはどの使用人にも漏らさないようにしていた。君は一体どこから…」

「シャロ!!」


 カイエンがシャルロットに質問を投げかけていたその時だった。

 カイエンの執務室の扉が勢いよく開かれ、そこにシフォンが飛び込んでくる。


「シフォンお嬢様!お久しぶりです」

 驚きに目を見開いたシャルロットだが、すぐに笑顔で自分の仕えていた主に笑顔を見せる。

「あぁ!本当にシャロだ!シャロぉ~!!」

 シフォンが泣きながらシャルロットに抱き付き、シャルロットは優しく抱き返した。


「ふふ、シャロって呼ばれるのは久しぶりです」

 シャルロットの事をシャロと呼ぶのはシフォンだけであり、宿屋シエナでは全員シャルロットと呼んでいるので、シャルロットはその久々に聞く自分の愛称に微笑を浮かべる。




 少しの間、シャルロットとシフォンはソファの上で抱き合うようにして座っていた。

 シフォンが離そうとしないのもあるが、シャルロットとしても女の子に抱き付くのは大好きなのである。


(ただ、ちょっと残念なのが、やはりシフォンお嬢様は成長なさってしまいましたわね…)

 シャルロットは男よりも女の方が好きな女性であるが、その女性の好みも小さな女の子に限定される。

 そして、シフォンの体型はシャルロットのストライクゾーンから外れてしまっている成長具合なのであった。

(いや、まあ貴族令嬢として立派な体に成長を遂げてくれているのは嬉しいのですが、あの小さくて可愛かったお嬢様が…)

 内心、複雑な心境のシャルロットであった。



 カイエンは、今までどれだけ手を尽くしても表情一つ変えなかったにも関わらず、久々の再会で泣きついたあとにこうもあっさりと笑顔でシャルロットに抱き付いている愛娘を見て、同じく内心では複雑な気分であった。

(いや…考えるのはよそう…)

 しかし、すぐに首を振って懸念を打ち消す。


「それで先ほどの会話の続きだが、シャルロットはどこでシフォンの元気がないという情報を?誰にも漏らさないようにしていたのだが?」

 誰かにつけこまれるような弱みは見せないようにと箝口令を使用人達や状況を知っている商人達に敷いていた。

 にも関わらず情報が洩れている事実に、カイエンは情報の出どころを掴もうと躍起であった。


「あぁ、それはウチの経営者(オーナー)からです」

 シャルロットはあっけらかんと答える。

「経営者…?」

「はい、わたくし、今は宿屋シエナと言う宿屋で働かせていただいております。そこの経営者であるシエナから聞きました」


 その名前に、カイエンは「あぁ…そういえばシエナ君には箝口令を敷いていなかったな…」と、今までにない商談の話で盛り上がってしまい抜けていてしまった事を思い出す。

「それにしても驚いたぞ。つい最近知り合ったばかりの少女の所で君が働いていたとは」

「世間は狭いものですね」

 この事実に、カイエンは本当に驚いていた。


「シャロ…宿屋を辞めて戻ってきてよ…」

 笑い合うシャルロットとカイエンに挟まれる形のシフォンは、大好きなシャルロットに戻ってきてほしいが為にそんな我儘を言い始める。

(…やっぱりお嬢様は懸念していた通りに人付き合いが苦手な令嬢になってしまわれたようですわね…)


 そしてシャルロットはメイドを辞める前に心配だった出来事がそのままであった事実に少しだけショックを隠せずにいた。




-----


 シャルロットとシフォンの付き合い、それはシフォンが生まれる前まで遡る。


 シャルロットは、幼い頃に自分の住んでいた村から、カイエンの館へ奉公に来たのであった。

 商売に失敗し借金で生活に苦しんでいた両親、そんな両親を助ける為に、幼いシャルロットは、テミンから視察に来た領主のグラハムとその補佐でやってきたカイエンに、自分を売り込んだのである。


 グラハムは断った。

 これ以上、自分の屋敷にメイドが増えても持て余すだけだと感じていたし、何よりシャルロットが親元を離れるには幼すぎたからだ。


 しかし、カイエンは迷った。

 当時のカイエンは、あと半年程で子供が生まれる予定であった。

 その生まれた子供に、年の近い使用人がいる方が安心できるのではないかと思ったのである。


 そしてカイエンは、シャルロットに「何故、奉公に行きたいと思った?」と質問をした。

 シャルロットは正直に、今の自分の家の現状を語る。


 借金のせいでまともに食べる事もできない毎日、いずれ、一家もろとも餓死する可能性が高い。

 それならば、借金の返済と、自分という食い扶持を減らす為に奉公に出るのが一番だと、幼い子供であったシャルロットは真剣な表情で語った。


 何故、奉公だったかは、たまたま視察に来たのがテミンで領主をやっているグラハムと、補佐ではあるが同じ貴族であるカイエンだったから、そのどちらかが雇ってくれないかと期待したからだとも正直に語っていた。


 それを聞き、カイエンはシャルロットの事を信じてみる事にした。

 先に、カイエンはシャルロットの両親の借金を全額返済できる額と、当面の生活費を渡す事にした。

 シャルロットが自分を雇ってほしいと言った理由が、両親の為だからである。


「ただし、君の両親がこのお金を受け取ったら、以降10年間は君は無給金で働かなくてはならない。どんなに辛くても、私の屋敷から離れる事はできない。辞める事ができない。それを理解しておいてくれ」

 これは覚悟を見る脅しであった。


 シャルロットは力強く頷く。

 カイエンはそれを見て、シャルロットを雇う事を決定した。



 シャルロットは、非常に献身的に働いていた。

 給金を10年分前払いしてもらっているのである、これで手を抜く事など許されるわけがない。

 子供である自分では来客の対応は難しい、ならばと自分で考え、清掃活動を重点的に覚えて誰よりも館を綺麗にしていった。


 それから半年ほどが経った頃、シャルロットはカイエンに呼ばれた。


「シャルロットよ。私には、もう間もなく子が誕生する」

「おめでとうございます。自分の事のように喜ばしく感じられます」


 幼い少女なのに、しっかりとした受け答えをするシャルロット。

 まだ奉公に来て半年程だというのに、その優秀さにカイエンは雇って良かったと自らの判断を心の中で称える。


「それで、だ。その生まれた子供の世話係と教育係に、シャルロット、君を任命したいと思っている」

「わ、私なんかが…恐れ多くございます…」


 シャルロットはその場にひれ伏した。

 こうして自分と自分の家族の為を理由に、無理に雇ってもらったにも関わらず、そんな大任を任されるほどに信用してもらっていた事実に恐縮してしまったのである。


「顔を上げよ。…元々、君を雇う時に考えていた事だ。もし、君が私の子を世話するに値する働きを見せてくれるのであれば、任せてみようと思っていたのだ」

 シャルロットはおそるおそる顔を上げる。

 そこには、シャルロットに期待を寄せるカイエンの真剣な表情が浮かんでいた。


「君の働きは私もこの目でしっかりと見ていた。他の使用人達にも聞いてみたが、とても優秀な人材だと褒めていたよ」

 そんな評価をされているとは夢にも思わず、シャルロットは目を丸くさせて顔を赤くする。


「引き受けてはくれまいか?私は、私の判断が正しかったと信じたい」

「………かしこまりました。カイエン様のお子様を、立派に育てあげてみせると約束致します」


 シャルロットは深く頭を下げ、カイエンの頼みを聞き入れる。

 そして、この数日後にシフォンが誕生した。




 シャルロットは、日々館の清掃活動にシフォンの世話、そして、将来シフォンに教育を施す為に自身も勉強をする。

 目まぐるしい毎日であった。

 それでも音を上げる事はせず、シャルロットはシフォンを大事に大事に育てあげていく。



 シャルロット自体も立派な淑女に成長を遂げ、日本でいう思春期に差し掛かった時だった。

 いつものようにシャルロットにべったりなシフォンに、シャルロットは胸のときめきを感じてしまう。


 最初はその時感じた胸のときめきが何なのかが判断できなかった。

 しかし、次第にそれが恋心だと自覚をしていき、その時のシフォンの姿が特に自分好みであると感じてしまったのである。


 ただの使用人である自分が、仕える主人に、それも同性相手に恋をするなどあってはならぬとシャルロットは自分を戒める。

 しかし、戒めたところでシフォンを見るとその胸の高鳴りが抑えきれずにいるのを感じてしまうのであった。



 傍目から見てもおかしなところは特になかった。

 少しシフォンがシャルロットに甘えすぎているくらいだと感じられる程度であり、カイエンも大事な娘が立派に育ってくれた事をシャルロットに感謝していた。


 しかし、シャルロットだけは、その心中が穏やかではなかった。

 恋が愛に変わろうとするのを抑えることができない。

 シフォンの湯浴みの手伝いをする時に、その四肢を眺めるのを止める事ができない。

 嫌われても良い、むちゃくちゃに触りたい。

 そんな衝動に襲われ始めていた。


 その衝動を何とか我慢し、さらに月日は流れていく。

 約束の10年はすでに過ぎていた。


 シャルロットには他の使用人達同様に給金が支払われ始めていた。

 カイエンも「よく10年間、私やシフォンに尽くしてくれた。もう、いつでも辞める事はできるが、できる事ならこれからもこの館で働いてくれ」と、シャルロットを強く引き留めていた。



 シャルロットとしても、愛するシフォンの傍を離れたくなかった。

 しかし、同時に心配に思う事が2つ浮かびあがる。


(シフォンお嬢様は、あまり他の方達と交流を持とうとしない…これでは、将来私なしでは生きていけないのではないでしょうか…?)

(そして私は、その成長したお嬢様を、愛していけるのでしょうか…?)


 この当時は、まだぎりぎりシフォンの姿はシャルロットの好みの範疇に収まっていた。

 しかし、これからもっと成長を遂げると、大好きだったあの時の姿からかけ離れた、全く自分好みではない姿へと成長してしまう可能性が非常に高いと、シャルロットは不安に感じる。


(いえ、私のお嬢様に対する愛は、お嬢様がどんな姿になったとしても変わらない。むしろ、今まで以上に愛していけるはずです)

 頭を振り、シャルロットはその不安を吹き飛ばそうとしていた。



 それから数日が過ぎた頃、シャルロットはシフォンと共にテミンの街を歩いていた。

「わぁ、見てシャロ!あれってなんだろ?」

 シャルロットが一緒じゃない限り、決して外出しようとしないシフォンは、外で見る物は全て新鮮なものだった。

 はしゃぐシフォンに、優しい笑顔を見せるシャルロット。

 そんな時、シャルロットは見てはいけないものを見てしまった。


 自分好みの小さく可愛らしい女の子達が、広場で遊んでいるのを見てしまった。

 そして、その直後にシフォンを見て、シャルロットは絶望をしてしまう。

 シフォンの事を、以前よりもあまり愛せるとは思えなくなってしまっていたのだった。


 もちろん、愛する主人だとは理解している。

 だが、胸の高鳴りはあまり感じられなくなっていて、むしろ、広場で遊んでいた子供達の方に高鳴りを感じてしまっていたのだった。



 これ以上、自分はシフォンお嬢様と一緒にいてはいけない。

 シフォンが自立をする為の、人見知りを治す為には自分がいてはいけない。

 せめて、まだ愛せる姿でいるシフォンを綺麗な記憶として残したままでいたい。


 そう思ったシャルロットは、その日、カイエンにメイドを辞する事を告げた。


 流石に理由の一つは明かさなかったが、シフォンが自分に対する依存度の高さを危険視している事を告げ、カイエンを納得させてシャルロットはカイエン邸を後にする。

 せめて、綺麗な思い出のままで、と思いながら…。




 そうしてメイドを辞めた直後、これからどうしようかと思い悩んでいたシャルロットの目に、今度新しくオープンするという宿屋で働かないかとチラシを配る少女の姿が映った。

 その少女の姿は、シャルロットのドストライクの好みの姿であった。


 性癖を隠し、シャルロットは少女へ近づき、そのまま少女の建てたという宿屋で働き始める。

 その少女こそがシエナであり、シャルロットの現在の職場というわけであった。


 しばらくは自分が少女趣味の同性愛者だという事は、誰にもバレる事なく隠せていたが、ある時シエナが『紐パンツ』なるものを作りだし、それを穿き始めた事によって事態は変わってしまった。

 シャルロットは、宿屋シエナでも主に清掃活動を中心として仕事をしていた。

 当然、洗濯もその中に含まれる。


 ある時、シャルロットは洗濯中にシエナの穿いていた紐パンを手に取ってしまった。

 そして、衝動を抑えることができずに、その紐パンを思い切り顔に当て、匂いを嗅ぐ。

 それを、毎日繰り返していた。


 ある時、その行動を新人として入ってきたミリアに見られてしまう。

 そして、シャルロットの性癖は暴かれてしまった。


 それからは、逆にシャルロットは開き直ることにした。

 毎日のように、欲望のままにシエナやミリア、たまにリアラにセクハラ行為を行い、同期であるセリーヌに悩みを打ち明ける。

 そうしている内に、少女趣味の同性愛者という性癖は決して治まることはなかったが、前よりも軟化していった。


 ストライクゾーンが広がっていた。

 欲望のままにセクハラ行為を行う事によって「これはこれで有りだ」と思うようになってしまい、多少成長をしていても問題ないようになってしまっていた。

 ある意味、逆に大問題である。



 今なら、もしかするとシフォンお嬢様に会っても大丈夫かもしれない。でも、会うのが少し怖い。

 そう思っていた矢先に、シエナからシフォンの現状を聞いてしまった。


 会う怖さよりも、心配の方が勝ったシャルロットは、意を決してシフォンに会いにきた。

 そして、現在に至るのである。



-----



「シフォンお嬢様」

 シャルロットは優しくシフォンに声をかける。

 シフォンは、甘えるようにしてその声に耳を傾けた。


「私は、今の職場を辞めるつもりはありません。これからも、できるだけ長く働きたいと思っています」

 真の目的はシエナであるが、それと同様に、宿屋シエナで働くのが楽しいのである。


 シャルロットのその言葉を聞き、シフォンはいやいやと首を振る。

「やだ!戻ってきて!」

 そして、我儘である自分の願望をそのまま口にする。


「シフォンお嬢様、聞いてください」

 もう一度、シャルロットはシフォンに優しく語り掛ける。

「私は、いつでもここに遊びに来ます。毎日、という訳にはまいりませんが、私が休みの日には会いに来ましょう」

 シフォンは押し黙ってしまう。


「…シフォンお嬢様も、私のところへ遊びに来てはくださいませんか?」

「…え?」


「そもそも、私が辞めた理由は、シフォンお嬢様が人見知りが激しい性格で、私がいないと何もできずにいたからですよ!もっとしっかりしてくれてたら、私も辞めずに済みましたのに」

 半分本当だが、半分嘘である。


 シフォンはそんなシャルロットの言葉に「うぅ…だってぇ…」と頭を抱える。


「良い機会です。私に会いたいのでしたら、私抜きで、私に会いに来てください」

 若干意味不明な言動であるが、シャルロットはこうして自分を理由にシフォンが外に出るようになればと考えたのである。

 そして、宿屋シエナであれば、その人見知りを治す手助けができるのではないかとも考えた。


「ふむ、悪くないな。私も今度、宿屋シエナの大浴場を見に行こうかとは思っていたのだ」

 シャルロットがメイドとして戻ってくる気はないと理解したカイエンは、シャルロットと同様にそれを利用して、逆にシフォンの人見知りや引きこもりを治そうかと考えた。


 もしもまたシャルロットがメイドとして戻ってきた場合、表情は戻ってくるだろうが、引きこもりは治らないとも思っていたのだ。

 そろそろ、シフォンにも館の外の事を知ってもらわなければならない時期である。

 カイエンは、シャルロットの提案に乗る事にした。


「…その宿屋に行けば、シャロに会えるの?」

「勿論ですよ。美味しいお菓子を用意して待ってます」

 お菓子を用意するのは主にシエナである。


 シフォンは考えた。二年以上も会えなかった大好きなシャロは、使用人としては戻ってこないけど、これからいつでも会う約束をしてくれた。

 もしも、ここで我儘を言って、二度と会えないようになってしまったら、それこそ本末転倒だと。


「…わかった。私、シャロに会いに行くために、その宿屋に遊びに行く!だから、シャロもこの館に遊びに来てよね!」

「はい、勿論です!」

「絶対だからね!!」



 こうして、シャルロットは、シフォンの笑顔を取り戻す事に成功した。

 そもそも、シャルロットの方に問題がありすぎたのではあるが、シャルロットはその事実を棚にぶん投げる。


 それからは、宿屋シエナには二番街区区長の娘のシフォンがちょくちょく遊びに来る姿が見られたそうな。

シエナの更新サボって、新作を書いていました。

(現在進行形でまだ執筆中)


新作小説のタイトルは『転生はできなかったけど転生はしました』です。

https://ncode.syosetu.com/n9153fs/


大体40話前後の短い話になる予定で、1話辺りが大体3000~4000文字なので、さくさくと読む事ができると思います。

是非、読んでいってください。



この新作が終わるまでは、またシエナの更新がちょっと止まりそうですけど(汗

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