竹林
アッシュ達が宿屋シエナへとやってきたのはそれから半刻程の時間が経過したあとだった。
ナルガ達のグループは宿屋シエナへと宿泊する事に決め、今は夕食の時間になるまで部屋で休んでいる。
元々宿泊する予定ではあったが、あれだけ美味であったクレープが後押しとなって食事の方にも期待が高まり、すぐに宿泊する事を決定したのだった。
ナルガだけは渋々といった態度を取っていたが、内心では夕食を物凄く楽しみにしていた。
アッシュ達も、すぐにシエナが準備していた客室へと案内される。
客室のテーブルには、シエナが用意していたクレープが置かれていて、2人は喜んでクレープに舌鼓をうった。
「急ぐ旅ではないですので、明日は昼頃に出発をします。旅の準備も私が全部用意しますので、それまでごゆっくりくつろがれてくださいね」
お茶と氷の入った陶器のピッチャーをアッシュ達の宿泊する客室に置いて、シエナは退室する。
アッシュとレイラは準備する物の話し合いをシエナとしようと思っていたのだが、その出鼻を挫かれてしまい、目をぱちぱちと合わせ、その後苦笑した。
「まあ、せっかくだからお言葉に甘えさせてもらおうか」
「そうね。う~ん…っ!大浴場の営業、早く始まらないかなぁ」
アッシュとレイラは防具を外して身軽な恰好になると、ベッドに腰かけてくつろぎだす。
その後、夕食は何にしようかとメニューを開いて談笑をするのであった。
その日の夕食時、先に入浴を済ませて少し遅めに食堂へと向かったアッシュ達の目に飛び込んできたのは、やたらと盛り上がっているテーブルであった。
そのテーブルでは、4人の冒険者達が酒を飲みながら料理に舌鼓をうち、今日は給仕を休んで冒険者達の相手をしているミリアと談笑をしていた。
「ギルドからはちょっと遠いけど、ここは良い宿だな。部屋は広いし風呂だってあるし、料理も美味いし何より女の子が可愛い!!」
「も~やだ~、褒めすぎですよ~」
出来上がってる冒険者達の口はよく回っていた。
「あ、アッシュ様にレイラ様。いらっしゃいませ」
給仕の手伝いをしていたシエナは、アッシュ達の姿を確認して席へと案内をする。
「なんだか、あそこはやけに盛り上がってるな」
「はい。護衛依頼を終えた冒険者さん達が、しばらくの間骨休みをするので羽目を外しているみたいです」
シエナの説明を聞いたアッシュは、椅子に座りながら「あぁ、それなら確かに盛り上がりそうだな」と納得を示す。
アッシュとレイラは、シエナに予め決めていた注文を伝え料理が来るまで冒険者達の会話に耳を傾ける。
聞こえてくる内容は、当日まで行っていた護衛依頼に関する話題であったが、1人だけやたらとシエナに関しての愚痴を言っている人物が含まれていた。
「おいおい、ナルガ。いい加減機嫌直せって」
美味しい料理にうまい酒を飲み、上機嫌となっている冒険者達は、同じ仲間であるナルガにも気分良く飲んでもらいたい為に機嫌を取ろうとする。
(そりゃわかってるよ!俺だって!直接戦ってるところは見てねぇけど、あのガキが凄い冒険者なくらい!)
ナルガは内心ではシエナの事を認めているが、それを直接認めるのが悔しいのと恥ずかしさで悪態を吐いているだけである。
「お待たせしました~」
そんなナルガの心境とは全く関係なく、シエナはアッシュ達の注文の料理をテーブルへと運ぶ。
「良いのかい?あそこの冒険者、シエナの事悪く言ってるけど…」
アッシュはナルガの方を指差しながら小声でシエナに注意を促す。
「大丈夫ですよ。彼も本気で言ってる訳ではなさそうですし、むしろ私の事を心配してくれてるような気もしますし」
そう言って、シエナはにこやかに笑う。
「まあ、シエナがそう言うなら別に良いけど…」
アッシュとレイラからすれば複雑な心境でもある。
お気に入りの宿で、お気に入りの娘の愚痴を言われてるのを聞くのはあまり気分のよくない話ではある。
「…まあ、いいや。それで、明日向かう竹林ってどのくらいの位置にあるんだい?」
アッシュ達は竹林の位置を知らないので、シエナに質問をする。
「私が知ってる竹林は、テミンから北東に向かって8日程ですね。ラークウェイスって町のすぐ近くです」
一度行った事のあるシエナは、記憶を辿って近くにあった町の名前を答える。
「げ…結構遠いんだな…」
アッシュとレイラは、竹林が意外と遠い位置に存在する事を知って若干後悔をする。
そんな中であった。
「おいおい、なんでまたそんな遠いとこに行こうとしてんだよ。ただ竹が欲しいだけならもっと近ぇ位置に竹林あるじゃねぇか…」
聞き耳を立てていたナルガは、酔いながらもシエナ達の会話へと割り込む。
アッシュはそんなナルガの態度にムッと眉間に皺を寄せるが、ナルガから有益な情報が引き出せそうな事実に、落ち着こうと深呼吸をする。
「え!?もっと近い位置に竹林あるんですか!?どこです!?どこです!?」
シエナはナルガの言葉に食いついて、ぐいっと顔を近づける。
「顔近ぇよ!…こっから王都の方に向かって…ハーピーの岩山が遠目に見える平原を北に向かった先のダンジョンを周りこんだ川の向こうにある…。大体3日もかからないくらいの位置だ」
元々向かおうとしていた竹林よりも半分以上も近い位置にあるという情報に、シエナは喜ぶ。
「わぁ!教えてくれてありがとうございます!」
「…だけど、そこの竹林にはその辺の魔物やモンスターよりも凶暴な猛獣が住みついてるんだ。安全に竹を採りたいんなら、ラークウェイスに向かった方が良いかもな」
ナルガは酒を煽りながらそっぽを向いて答える。
(う~ん…さっきシエナが言ってた通り、悪態は吐いてるけど確かに心配をしてる節があるな…)
ナルガの態度に、冷静になったアッシュはそう分析をする。
「でも、近い位置にあるのは魅力的です!アッシュ様、レイラ様、そっちの竹林に変更してもよろしいでしょうか?」
「…まあ、構わないぞ」
「私も問題ないわ」
「って、危険な猛獣がいるって忠告したばっかだろうが…。っち…おい、クソガキ!」
「はい?」
「…クソガキで返事するなよな…。まあいい…」
悪態を吐いているはずなのに、それを気にしないシエナの態度にナルガは調子を狂わされるが、一度咳払いをして真剣な表情をする。
「俺も連れてけ。道案内をしてやる」
「え?よろしいのですか?」
シエナとしては、ある程度の場所を教えてもらったとはいえ知らない場所であるので、道案内をしてくれる申し出は非常に助かる事である。
「教えてしまった手前、道に迷って帰ってこなくなったり、竹林の猛獣に襲われて大怪我して帰ってこられた日にゃ、目覚めが悪ぃ。だったらついてった方が安心できるもんだ」
その言葉に、シエナは「わぁ、ありがとうございます!」と満開の笑顔を見せる。
こうして、竹林への冒険は、シエナ、アッシュ、レイラ、ナルガの4人で行く事に決定したのだった。
それから1日半後…。
「ふぃ~…あっついですねぇ…」
手を団扇のようにしてパタパタと扇ぎながらシエナは呟く。
季節は真夏であり、シエナ達が現在進んでいる場所は日光を遮る物が何もない広い平原なので、シエナ達は直射日光をモロに浴びながら進んでいる。
「あまりその言葉を口にするな…余計に暑くなる…」
シエナの呟きに、ナルガは悪態を吐く。
そんなシエナ達の様子に、アッシュとレイラは苦笑をしていた。
即席のパーティーである4人だが、ナルガがシエナに対して悪態を吐く以外は息の合った連携を見せており、ゴブリンの群れやオークの群れに襲われた際に、危なげなく討伐ができていた。
少し珍しい事に、この4人は全員が魔法が使えるパーティーであった。
シエナは当然ながら、ナルガもスライム討伐の緊急クエストに召集されるほどの優秀な魔法使いである。
アッシュとレイラは、故郷の村が火を祀る風習のある村であった為、火に関してのイメージ力が強く、火の魔法だけが使える魔法使いなのであった。
「でも、確かに暑いよね。どこか木陰で休憩ができたら良いんだけど…」
レイラはそう呟いて辺りを見渡すが、見えるのは一面の平原である。
「う~ん…今日は独りじゃないから、とっておきの魔法使っちゃおうかな」
「とっておきの魔法だと?」
普段の冒険のほとんどが独りであるシエナは、魔力温存の為に使用を控えている魔法がある。
しかし、この場にいる全員が魔法を使える事と、独りではない事もあってその魔法を使用する事を決める。
シエナの呟きに反応していたナルガは、シエナの言うとっておきの魔法がどんなものか興味を示していた。
シエナは精神を集中し、使いたい魔法を具体的にイメージする。
そして、イメージが固まると同時に手を上にかざしてイメージを魔力に乗せて放出した。
その瞬間、シエナを中心に半径3メートル程の空間にはひんやりとした冷気が漂い始めた。
「え?涼しい…?」
先ほどまでは照り付ける太陽の熱で流れ出る汗も止められないほど暑かったにも関わらず、急に涼しくなった事にレイラが目を見開いて呟く。
「どうです?私の周囲を涼しくする魔法を使ってみたのですが」
「な、なんだこの魔法は!?こんな魔法は見た事ないぞ!?」
実力のある魔法使いであるナルガは、シエナの使用した魔法に驚き戸惑っていた。
「うわ、丁度この辺から先はさっきまでと同じ暑さだ…」
アッシュはシエナから丁度3メートル離れた場所から腕だけを出し、涼しい空間と暑い空間の境を楽しんでいた。
「こんな魔法があるならなんで今まで使わなかったんだ?」
その涼しさに、今まで冷却魔法の使用を躊躇っていたシエナにナルガが質問をする。
「それはナルガさんも知っての通り、私の魔力はあまり多くないからですよ。私の魔力ではこの魔法を維持するのに2時間くらい持てば良い方ですからね」
シエナの答えに、ナルガは「あ~…確かにお前魔力少ねぇもんな…」と呟く。
効率の良い魔力の使い方のおかげでシエナは低燃費で魔法が使用できているが、それでも魔力の少ないシエナにとっては、冒険に出かけている以上、魔力の消費は抑えたいところなのである。
魔力がなければ、身体強化魔法も使えない。そうなると、シエナは見た目通りの非力な少女なのである。
「でも、まあ今は頼れる仲間が3人もいますからね。いざという時にはよろしくお願いします」
その言葉にアッシュとレイラは「任せとけ!」と頼もしい反応を見せるが、ナルガはフンッと鼻で笑っていた。
「で、この魔法はどうやって使うんだ?俺にも使えそうか?」
「イメージ力さえあれば誰でも使えると思いますが…」
シエナがどういったイメージでこの魔法を使用しているかを質問し、同じように使えるかどうかをナルガは試しながら先へと進む。
ちなみに、今回は暑さ対策の為に空間を冷やしているが、冬のように寒い季節に空間を暖める事も可能である事もシエナは説明していた。
「そろそろやめておいた方が良いですよ。慣れない魔法を使おうとしてるせいで魔力の消耗がかなり激しいみたいですし」
しばらく進んだところで、シエナはナルガの残魔力がかなり減ってる事を忠告をする。
「む?…もう少しで何かコツを掴めそうだったのだが…まあ、魔力は温存しないといけねぇからな」
シエナの忠告を素直に聞き入れ、ナルガは魔法の使用を中止する。
そんなナルガの様子にシエナはにっこりと微笑むと、リアカーに載せている荷物から木のコップと、クーラーボックスから少し白く濁った液体の入った瓶を取り出した。
「はい、どうぞ」
シエナはその液体をコップに注ぐとナルガに手渡す。
ナルガは「悪ぃな」と言いながらそれを受け取り、ごくごくと中身を飲み干す。
「ぷっは。やっぱこれうめぇな!」
一息に飲み干したナルガの様子に微笑みながら、シエナはアッシュとレイラにもその飲み物を手渡す。
その液体は、水に塩やレモン汁や蜂蜜などを溶かし込んで作ったスポーツドリンクのような物であった。
この猛暑の中、ただの水だけで水分補給をしようとすると、自発的脱水を引き起こす事もあって熱中症になってしまう可能性を高めてしまうと考えたシエナは、身体に必要な成分を含んだ飲料を用意したのである。
1日前にこのスポーツドリンクを初めて見たナルガは、「こんな濁った水なんて飲めるわけねぇだろうが!」と悪態を吐いたものであったが、一口飲めばその味の虜となっていたのである。
「それにこのクーラーボックスって道具のおかげでキンキンに冷えてるから、余計に美味しいよね」
レイラはこくこくと少しずつドリンクを飲みながら素直な感想を口にする。
「こんな道具まで持ってるなんて、シエナは相変わらず凄いな。風呂場のドライヤーにも驚かされたけど」
アッシュも宿屋シエナに置かれていた道具を思い出しながらドリンクを口にする。
その後も、シエナ達は他愛ない雑談をしながら竹林へと進むのだった。
平原を抜け、森に差し掛かって陽射しを遮る事ができたのでシエナは冷却魔法を解く。
瞬間に暑くなってしまったので、アッシュ達は皆少し残念そうにしていた。
前方からいくつものグループの冒険者達とすれ違う事が増えてきた事に、レイラが疑問に首を傾げる。
「あぁ、この先にダンジョンがあるからな。テミンからも王都からもそれなりに近い位置にあるからそのダンジョンに向かう冒険者達も少なくねぇんだ」
ナルガの答えに、アッシュは「なるほど、俺達もランク3になったら挑んでみような」とレイラと相談をする。
「この先のダンジョンを迂回して、しばらく進むとそれなりに大きな川にぶつかるんだが…」
そこでナルガはシエナの引いているリアカーを見る。
「今更だが、その荷物は流石に持っていけねぇんじゃねぇのか?」
ナルガは川の深さは腰ほどまである川で、渡る為の橋などはないと語る。
「とりあえず、行ってから決めましょう」
ナルガで腰の深さなら、シエナなら胸の位置まで沈んでしまう事になる。
が、今更すぎる事なので、シエナは何も考えずにとりあえず向かう事にする。
多くの冒険者達が出入りしている山にある大きな洞窟の出入り口を迂回し、先へと進むと幅が20メートル程ある川へとぶつかった。
なるべく幅が狭そうなところを選び、シエナ達は川を渡る事を決意する。
「しょうがねぇ。全員で抱えて渡るか…」
ナルガが頭を搔きながらリアカーの下に手を伸ばそうとするが、シエナはそれを一人でひょいと持ち上げた。
「大丈夫ですよ。見た所私一人でも持って渡れそうです」
それなりに重量があるはずなのに、それを軽々と持ち上げるシエナに、ナルガ達は目を丸くして驚いていた。
もちろん、シエナは身体強化魔法と重量軽減魔法を併用して持ち上げているので、シエナが特別力持ちというわけではないのだが、身体強化魔法も重量軽減魔法も知らないナルガ達からすれば、そのシエナの行動は驚くべき事柄なのであった。
丁度水も引いていたのか、シエナでも腰の位置までしか川の深さはなく、一行は危なげなく対岸へと渡る事に成功をする。
陽が暮れてきていたので、シエナ達はその川の近くで野営をする事を決定する。
その日の夕食として、シエナはカレーを調理した。
最初にカレーを見た時に、やはりナルガが見た目からして食べるのを拒否していたが、一口食べてしまえばルクス達のように食べる手を止められなくなっていたのは想像に容易いだろう。
また、カレーを食べ終わった後に川から水棲の魔物が襲い掛かってきて、その魔物を見た時にシエナが「あれは河童じゃないですか!?」と仕切りに興奮をしていたが、そもそも河童が何なのか知らないナルガ達にとってはどうでもいい事であった。
「あ、笹が生えてますね」
次の日になり、森をしばらく進んでいると所々に笹が生えている場所へ到着をした。
「ここのは細いしあまり良くない竹だ。もう少し進めば完全に木がなくなって竹のみが自生してる竹林がある。そっちの竹は立派だぞ。竹を取るならそっちの方が良いと思うぜ」
そのアドバイスにシエナは「(竹と笹は別物ですけどね…)了解でっす!」と心に思った事は隠して敬礼をして鼻歌を歌い始める。
「おいおい…この先の竹林には凶暴な猛獣がいるんだからな…しっかりと警戒しろ…よ…?」
その瞬間、ナルガだけでなくその場にいる全員が一斉に同じ方向に顔を向けて警戒態勢をとった。
その点では、全員優秀な冒険者といえるだろう。
ただ1人だけすぐに皆とは違う行動を取り始めた。
「あ、あれは!パンダだぁ~!!」
武器である刀-ルフラン-に手を伸ばしていたにも関わらず、シエナは視線の先にいた動物の姿を見て歓喜の声を挙げる。
そこにいたのは、白と黒で色分けされた愛らしい姿の生き物、熊猫の姿があった。
パンダはシエナ達から倒木を挟んだ30メートルほど離れた場所で、笹を食べていた。
その愛らしい姿に、シエナは「カメラがあれば写真に収めるのに…っ!」と悔しそうな表情を浮かべる。が、そんなシエナにナルガは静かに怒鳴り声を挙げる。
「訳わからん事言ってないで、今すぐここを離れるぞ!オオクロシログマはその辺のモンスターよりも凶暴な猛獣なんだからな!」
声は抑えてはいるが、それでも必死さは伝わってくる。
そんなナルガの必死さと、ナルガの言ったパンダの名称にシエナは驚いていた。
「そんなに慌てるような動物なんですか?と、言うか、オオクロシログマってこれまた安直なネーミングですねぇ…」
シエナは日本の動物園で見たパンダの記憶しかないので、特に焦りは抱いていない。
そして、パンダに対するそのネーミングに苦笑をするしかなかった。
「あそこにいるのは単体だが、オオクロシログマは基本は群れで行動する生き物だ。そしてその動きはあの体型からは考えられない程すばしっこくて、力もオークの頭を一撃で粉砕できる凶暴な肉食獣だぞ」
そのナルガの返答に、シエナは「うわ、それは怖いですね…」と、地球とこの世界ではパンダの見た目は似ていても、その生態にかなりの差がある事に驚く。
世界が違うので、その進化もまた別の進化を遂げているのであった。
そして、ナルガの忠告通りに全員がその場から離れようとしたその時だった…。
パンダがシエナ達に気付いてしまった。
瞬間、ゾクリと背筋が凍るような感覚に、アッシュとレイラ、そしてナルガは襲われる。
パンダは倒木を飛び越え、涎を垂らしながらシエナ達の方へと駆け出してきた。
「な、なんですか!?笹食ってる場合じゃなくなったんですか!?」
「馬鹿言ってんじぇねぇ!!皆、戦闘準備だ!こうなったら迎え討つぞ!」
このまま逃げようとしても、すぐに追いつかれて背後から攻撃されてしまうだけである。
それならば開き直って正面から迎え討つ方がまだ背後から襲われるよりも軽傷で済む可能性があると判断して、ナルガは号令をかける。
もちろん、本来ならば見つからずに逃げるのが一番なのであったが、致し方ない判断という事である。
「うぅ~…パンダを殺しちゃうのは気が退けますけど…この世は弱肉強食、私の好物は焼肉定食です!覚悟!!」
妙な事を口走りながら、シエナはナルガ達よりも1つ先に足を踏み出し、パンダの脳天目掛けて魔力で切れ味をコーティングしたルフランを振り下ろす。
普通であれば、パンダもその愚直な攻撃を見切って避けるなりなんなりしていただろう。
だがシエナの攻撃は、身体強化をしてその素早さも何もかもが跳ね上がっている。
結果、パンダはシエナの攻撃を見切れず、ただ頭からシエナの攻撃に突っ込み、そして真っ二つに両断されるのであった。
「………は?」
ナルガ達はその一瞬の出来事に目を丸くする。
何がどうなれば、巨体な生物の体を縦に真っ二つにできるのか。
そして、ナルガは思い出す。
シエナが倒した盗賊団の中に縦に真っ二つにされた死体があった事を…。
オオクロシログマ=パンダを討伐したシエナは、すぐにできる限りの血抜きをして解体作業に取り掛かった。
「パンダ肉ってちょっと興味あったんですよねぇ~どんな味や食感なんだろ?」
肉食とナルガが言っていたので、少し硬かったり臭そうなイメージはあるが、笹も食べていた点から多少は臭いも抑えられていそうであるとシエナは考える。
(と、言うか、地球のパンダは居場所を追われて食べる物がなくて仕方なく笹食べてたはずですけど、この世界のパンダはなんで笹食べてたんだろう?)
色々と疑問に思う事はあったが、シエナは「ま、いっか」と鼻歌混じりにパンダ肉を解体し、そしてパンダの尻尾の色を見て「このパンダ、尻尾が黒い!偽物です!」と叫ぶのであった。
解体が終わった後は、当初の目的である竹林へとシエナ達は移動する。
パンダの他に、トラなどといった猛獣も生息しているとナルガが説明していたので、一行は警戒態勢を取りつつ移動していたが、特にそういった猛獣の類とは最初のパンダ以降は遭遇する事はなかった。
「竹林に到着です!」
木が全く生えていなく、周囲は見渡す限り竹しか生えていなかった。
「いやはや、中々立派な竹ですね。さて、では早速ですけど伐採し…
…ました!!」
ました工法で竹を伐採する工程を全カットしたシエナ。
「突然どうしたんだ?」
もちろん、アッシュ達にとっては突然シエナが「ました!!」と叫んだだけの奇行である。
「いえ、なんでもないです。ちょっとメタってただけです」
更にアッシュ達にとって訳の分からない事を口走るシエナであったが、もはやシエナの扱いに少し慣れてきていた一行はその発言をスルーしたのであった。
こうして、シエナは目的である竹をリアカー一杯に載せて帰路へと着く。
帰り際にシエナがトラを発見し、気付かれる前に奇襲をかけて討伐。
討伐後にシエナが「トラトラトラ!」と叫んでいたが、やはりアッシュ達には理解できないのであった。




