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シエナの本性(その1)①

前話の後書きにも書いていた通り、今回の話には残酷な描写やグロテスクな表現があります。(私自身がそういうのが苦手なので、控えめにはしていますが)

また、次の話にも残酷な描写、グロテスクな表現がありますので、読まれる際には注意してください。







 シエナは、蜥蜴の岩場を抜けて安全そうな水場に近いところに荷を降ろし、大蜥蜴の肉で唐揚げとステーキを作り、ヴィッツから持ってきた白いパンに挟んで夕食を食べた。

 暗くなっても周囲を明るく照らす魔法があるので、このまま出発しても良かったのだが、特に急いで帰る必要がない為、シエナは安全の為にもそこで野営をする事にする。


 次の日の早朝、朝食を食べ終わったシエナは身支度を整えるとテミンへと向けて出発をする。


「蜥蜴肉美味しかったなぁ。また今度獲りに来ようっと」

 美味しい物を食べてご機嫌なシエナの足取りは軽い。

 それに留守にしていたのは自分であるが、久しぶりに家族のように思っている仲間と会えるのである。

 嬉しくないわけがなかった。


 シエナは口笛を吹きながら少し整備された程度の街道をリアカーを引いてゆっくりと歩く。

 森を抜け、小さな平原を抜け、そしてまた森を歩く…。

 たまに襲い掛かってくるゴブリンやコボルトなどを少し面倒くさそうに討伐し、せっかくなので討伐証明部位だけを剥ぎ取っておく。

「そういえば、テミンの冒険者ギルドに最近は全然行ってなかったなぁ」

 最後に行ったのはいつだっただろうかとシエナは首を傾げる。


「まあ、この証明部位を持っていきますし、気にしないでいっか」

 どうせ近日中にでも行くだろうとシエナは思い出すのをやめる。



 それからもうしばらく歩いている時であった…。

(何か…さっきから妙な視線を感じますね…)

 十数分前程から、シエナは何かからの視線を感じていた。

 振り返ったり何かが潜んでそうな茂みに対して目を凝らしてみるが、特に変わった事はない。

 最初の内は気のせいかと考えたが、獲物を見定めるようなねっとりとした視線を何度も感じるのはどう考えてもおかしかった。


(…獣や魔物…ではなさそうですね)

 モンスターであればとっくに襲い掛かられているだろうから、知恵のある獣か魔物の可能性もあった。

 しかし、それにしては感じる感覚は獣や魔物とは違うとシエナは考える。

 逃げ出すべきかどうか、それを考えていると、その視線の主達がシエナの前に姿を現した。


「へへへ…お嬢ちゃん。死にたくなかったらその荷物と金目の物を全部寄越しな」

 シエナは前後を挟まれる形で、如何にも盗賊ですと言わんばかりの男8人に囲まれる。

 洗濯していなさそうな薄汚れた服に何十日も水浴びすらしていなさそうなボサボサの髪、整える事などしたこともなさそうな髭。

 シエナはあまりの不潔さに生理的嫌悪を覚えるが、それ以上にそれらが盗賊と知った瞬間に激しい怒りが込み上げてくる。


「盗賊…ですか。…すぅ~…はぁ~…」

 額に血管が浮き出るのを感じながら、シエナは何とか落ち着こうと深呼吸をする。

 盗賊達はそんなシエナの様子を下卑(げび)た笑いをしながら窺う。


「ひひ…。安心しな、金目の物と荷物さえ置いていけば命は盗らねぇからよ」

 少しボロボロになったナイフや剣をちらつかせながら、盗賊達は少しずつシエナに近寄る。

 何度も深呼吸を繰り返し、少しだけ落ち着いてきたシエナは、盗賊達に対してそれ以上近寄るな、という意味合いも込めて手で制止するジェスチャーを取る。


「今ここで退くのであれば、見逃してあげます。でも、それ以上近寄るのであれば…一人残らず殺します」

 そう言って、シエナはリアカーを置いて魔剣ルフランに手をかけ、十センチ程鞘から引き抜く。


「おぉっと、怖い怖い。ひひひ…」

 盗賊の男達はゲラゲラと笑う。

 抵抗によって持っている剣を振り回されれば誰かは怪我をするかもしれない。しかし、こんな小さな少女に大の大人を殺せるだけの実力はないと全員が思っているのであった。


「…昔、私は盗賊に酷い目に遭わされました。なので盗賊は大っ嫌いなのです。そして今、お前達を皆殺しにしたい衝動に駆られています。まだ私が理性を保っている内に退け…でなければ…ぶっ殺す!!」

 深呼吸をして落ち着いたはずのシエナは、酷い目に遭わされた当時の事を少し思い出して怒りが込み上げてくる。

 その為、交渉の意味合いも含めてなるべく丁寧な言葉で喋ろうとしていたにも関わらず、少しずつ乱暴な言葉が口から漏れ始めていた。


「ぶっ殺すだってよ!面白れぇ!やれるもんならやってみろってんだ!」

 盗賊達は更に笑う。

「お嬢ちゃん、剣に手をかけてはいるが、全部抜いてないと脅しにもならないぞ。俺達が一斉に襲い掛かっても剣を抜いてないとすぐに反撃できねぇんだからな」

 盗賊の一人がシエナを馬鹿にするようにしてアドバイスをする。こんな小さな少女が人を斬れるわけがないとタカをくくっているのもあるが、この盗賊はシエナがこういった経験があまりないのだと舐めてかかっているのであった。

 更に、シエナが昔酷い目に遭わされた、と言っていた点から、おそらく前にも同業に襲われて身ぐるみ剥がされたのだろう。と、シエナをひ弱なカモだと断定する。


 通常、武器だけに限らないが戦闘において構えとはかなり重要な事である。

 空手であっても剣術であっても、構えが出来ていないと咄嗟の反撃すらできない。

 盗賊達は、シエナが剣を鞘から抜く事をせずに手をかけているだけの隙だらけの構えに「これは誰も怪我をせずに楽勝に叩きのめせるな」と舌なめずりをする。


「でも、まあこうして俺らに反抗的な態度を取ってるんだ。ヴィシュクスじゃ奴隷制度はないが…そうだな、グバンにでも奴隷として売っぱらっちまおうか」

 一人がそう言うと、その場にいる全員が賛成する。

「それが良い。このガキがもうちょっとだけ成長してたらお楽しみもできたんだがなぁ」

「売った金でどっかの町で娼婦でも買えば良いだろ」

「それもそうか」

 盗賊達はシエナを捕らえて奴隷として売ろうと目論む。


 丁度その時であった…。


「お前等!!何をやっている!」


 シエナの後方から大きな声が聞こえてくる。

 一瞬だけシエナは通りかかった冒険者かと思い振り向いてみたが、すぐにそうでないと悟る。


 後ろからやってきたのは、世紀末に悪魔の化身を手懐けそうな感じの強面の男であった。

「いつも言ってるだろうが、てめぇら…っ!獲物を前に舌なめずりをするのは三流のする事だって!」

 どこぞの軍曹のような事を言って、強面の男が盗賊達を怒鳴りつける。

(こいつが、この盗賊団の頭ですね…)

 しかしシエナは盗賊の頭よりもその傍らに立っている男を特に警戒していた。

 頭目の男と一緒に現れた男は、魔晶石のついた杖を持っていた。それだけでこの男が魔法を使う事が理解できる。


 どれだけの魔法の実力を持っているかは定かではないが、頭目と一緒に行動をしているという事はそれなりの実力はあるはずである。

 ならば一番警戒しないといけないのは魔法使いの男なのであった。


「ったく…相手が武器を抜いてないなら、舐めてかかってないでさっさと片付けろ!」

 頭目の怒鳴り声に、盗賊の子分たちは少しだけ委縮してしまったが、目を見合わせてこくりと頷くと、三方向から同時にまるで「ヒャッハー!」と言わんばかりにシエナに飛びかかった。

(そうですか…、退く気がないなら仕方ないですねぇ)

 一瞬だけ相手が退いてくれなかった事を残念がったシエナであったが、それと同時に嬉しさで心を躍らせる。

 あまりにも嬉しかった為、シエナの口角はニヤリと不気味な程大きく吊り上がる。


「お、お前達!止まれっ!!」

 とてつもなく嫌な予感がした頭目は、シエナに飛びかかった3人に制止をかける。


 ピタリと飛びかかった3人の動きは止まる。

(…あいつ…いつの間に剣を抜いたんだ…!?)

 つい一瞬前まではシエナの剣はまだ鞘に収まったままであった。

 それは全ての人間が確認していた事である。


 しかし、盗賊達にはいつ剣を抜いたかもわからない程の早さで、シエナは魔剣ルフランを振りぬいていた。

 そのまま突っ込んでいたら、誰か1人は大怪我を負っていただろうと、頭目はきちんと指示に従って止まった子分を内心で褒める。


「いつ剣を抜いたかはわからなかったが、惜しかったな。おい、こうなったら遠距離から攻撃だ!殺しても構わん!」

 頭目は確実な安全を選んで子分に指示を出す。

 後方で待機していた盗賊達が投げナイフや弓矢を準備し始めたところで、シエナは大きな声で不気味に笑う。


「アッハハハハハ!これ!これですよ!…良い!実に良い!」

 急に大きな笑い声を挙げた少女を見て、頭目は訝しむ。


「何がおかしい…?」

「…いえ、ずっと昔から物足りないって思ってたんですよ。…猛獣であったり、モンスターであったり魔物であったり…斬っても斬っても物足りないって思ってたんですよ…」

 シエナはブンとルフランを振って鞘に収める。

「やっぱり…人を斬るのが…一番楽しいですよね~」

 そう言いながら、シエナは不気味な笑顔を出して頭目の方を振り向く。

 そのあまりにも(おぞ)ましい笑顔に、頭目は思わず身震いをする。


(な、なんだコイツ…イカれてやがるのか!?)

「ぉ、おい!お前達、早く後ろへ下がれ!」

 シエナに飛びかかって制止をした3人がいつまで経ってもその場を離れようとしていなかった為、頭目は指示を飛ばす。

 しかし、3人の子分は脂汗を滲ませてその場から動こうとしなかった。


「…無駄ですよ。この3人はもう、死んでいますから…」

 シエナはそう言って再度大きな声を挙げて笑う。


「は?何を言っている…?」

「お、おかしら…足が…足が動かねぇ…」

 シエナが死んだと言った3人は、今も口をパクパクと動かし、何とか体を動かそうとしていた。

「ふふふ…なら、手伝ってあげますよ…」

 シエナはゆっくりと1人に近づき、そしてそっと指で盗賊の体を押した。


 次の瞬間、シエナに押された男の体は、上半身だけがぐらりと揺れて地面に落ち、上半身を失った下半身だけがそのままの姿勢で立っていた。

「ぎゃあああぁぁぁあぁぁぁーーー!!」

 体が真っ二つになった男は悲鳴を挙げ、そして下半身と繋がっていたはずの場所から血を噴き出して死に絶えた。


「なっ…!?」

 盗賊達は驚く。

 軽く指で押しただけで上半身と下半身があんなに綺麗に分かれるなんておかしい。と。

「まさか…さっき斬ったって言うのか!?」

「その通りです。…ふふ、残りの2人もあと少ししたら体が斬られていたという事実を理解して、痛みにのたうちまわって死にますよ」


 シエナが行ったのは、皆大好き『居合い切り』である。

 普通であればシエナのような小柄な体型では難しい技ではあるが、魔法によって身体強化がされたシエナにとっては難しい事はなかった。

 構えなどに関しては前世での見様見真似であるが、それも特には問題はない。

 居合い切りという技を知らない者にとっては、剣を鞘から抜かない隙だらけの構えに見えただろう。事実、盗賊達にはそう見えていたのだから。


 そして、目にも止まらない程の超高速の居合い切りにより、3人の盗賊は斬られていたという事を体が理解していなかったのであった。

 

 1人はすでに死亡した。

 そして、残る2人もすでに自分達が斬られているという事を意識してしまった。

 意識さえしなければ、もう少しだけ生きていられただろう…。


 1人が悲鳴を挙げ、もう1人は静かに息絶えた。

 ほぼ同時に上半身と下半身が分かれ、血しぶきをあげる。


 中心に立っていたシエナは、返り血を浴びる事となったが、喜々としてその返り血を浴びている。

「アハハハハ!アッハァ!」

 うっとりとした恍惚の表情を浮かべたかと思えば狂ったかのように笑いだす。

 周囲の盗賊達はシエナに恐怖を抱き始めていた。


「は、早く殺せ!!」

 頭目の合図で残った盗賊達は一斉にナイフを投擲、弓から矢を放つ。

 その瞬間、上から下への強風が巻き起こり、ナイフと矢はシエナに届く事なく地面に落ちる。

「ふふふ、無駄ですよ」

 シエナは風魔法を使って、遠距離からの攻撃を防いでいた。


 シエナはルフランを抜き、魔力を込めるとその場から動かずに盗賊の1人を目がけて振り下ろす。

 五メートルは離れていたハズの盗賊は、見えない刃によって縦に真っ二つに割れた。

「遠距離攻撃ってのは、こうやるんですよ」

 シエナは魔力を刃の形にして、それをそのまま伸ばしたのである。


 ルクスやある程度魔法が使えるようになった者であれば魔力の刃は視えていた。

 しかし、今この場でシエナの魔力の刃が視えていたのは、魔晶石の杖を持った男だけである。

 視えるからと言って、咄嗟にどの方向に避けろと指示を出しても間に合わない。

 むしろ、余計な情報を与えるとかえって混乱を招いてしまう。

 結果、魔力の刃が視えていた男は何も口出しができずにいるのであった。


 次にシエナは、自分を挟むようにして少し離れた位置でナイフを投げるタイミングを待っていた盗賊2人に向けて手の平を向ける。

 何事かと盗賊は身構えたが、シエナの手には何も持たれておらず、ただ手の平を向けられただけだと安心して、再度ナイフを投げる隙を窺う。

 それはこの2人にとっての人生最大の失敗であった。


 この時、素早く動いているか当てずっぽうでもナイフを投げていれば、もしかすると結果は少し変わっていたかもしれない。


「う…?なんだ?さみぃ…」

「ぁ…あちぃ…一体どうしたんだ?」

 ほぼ同時に、2人に異変が起き始める。


 1人は、真夏だと言うのにガタガタと震えだし、唇を真っ青にする。

 1人は、顔どころか全身を真っ赤にしてその場にへたり込む。


「ど、どうしたんだ!?」

 仲間の盗賊がそれぞれに近寄ってその体に手をかける。

 次の瞬間、寒さに震えていた男の肩は、触られた根元からポッキリと折れる。


「あ、アッチィィィッ!!」

 逆に、暑いと言っていた男を触った盗賊は、触れたところが火傷を負ってしまった。


 寒さに震えていた男は、いつの間にか全身が凍り付いていた。

 すでに息はなく、その右肩だけが無残にも捥げていた。


 暑いと言っていた男は虚ろな目をしていた。

 あまりの暑さにもはや意識が飛ぶ寸前である。しかし、意識を失うその前にあまりの高熱に死に至る。

 それでもシエナは男の体温を上げ続けるのをやめない。

 血液は沸騰し、全身が酷い水ぶくれ状態となり、茹でられた状態となった眼球は色を失って白くなって膨れ上がり、そして眼球はそのあまりの高温に破裂した。


「な、なんだ!?一体何が起こってやがる!?」

 頭目はその異変に狼狽えてしまう。

 シエナは、得意の熱魔法で2人に攻撃の実験をしたのだった。

 直接体温を上げたり下げたりすると、一体どうなるのか。

 それが知りたかったのである。


 最初に3人を居合い切り、次に1人を魔力の刃で一刀両断、そして2人を熱魔法で。

 これで残る盗賊は、4人となった。

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