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シエナ vs ルクス

「それじゃあ、ルールを説明しますね」

 シエナは、1つの部屋に集まった、ルクス、ティレル、ケイト、テスタ、フリート、バルバロッサ、ベアトリーチェに自作したトランプを見せた。

 部屋の中には他にも執事が1名とメイドが2名待機しているが、ドア付近の壁に立って、まるでいないモノのような空気を醸し出していた。


 今回、シエナはトランプで遊ぶ中でも最も遊ばれていると思われるゲーム『ポーカー』を皆に教える事とした。

 今までトランプのようなカードゲームは存在していなかった為、まずはカードの絵柄からの説明となり、それが少しだけ大変であるが、ベアトリーチェ以外はすんなりと覚える事ができた。


 数字カードは、この大陸で使われている数字が書かれているのでこれはベアトリーチェもすぐ覚える事ができた。

 問題は、A、J、Q、Kのカードである。

 一応、それぞれのカードの横に括弧で数字も書いているが、そもそも何故Aなどというこの世界で使われていない文字が書かれているのかが理解できていない。

 そして、スペード、クラブ、ハート、ダイヤの意味が更によくわからなかったらしく難しそうに顔を傾げていた。


「まあ、ベアトリーチェちゃんも、今後ゲームをしていけばおいおい覚えて行くでしょう」

 シエナがそう言うと、ベアトリーチェはキッとシエナを睨んでフリートの陰に隠れた。

(あら、嫌われちゃってるのかな?…心当たりがいくつかあるなぁ…)

 初対面でバルバロッサに対して生意気な口も叩いていたし、つい先ほども稽古で叩きのめしたばかりである。それを妹のベアトリーチェが見て、どう思うか。

 嫌いとかまでにはいかなかったとしても、「この人は苦手」くらいにはなるだろう。


(まあ、今後少しずつ仲良くなっていきますか。手始めにこのトランプで少しでも打ち解けられたら良いんだけど)

 シエナはそう思いながら、トランプの絵柄についての説明を再開する。


「それで、今回は1枚しか使いませんが、このカードがジョーカーと言うカードです。用途はゲームによってかなり変わるカードでして、今から遊ぶポーカーではどんなカードとしても使えるオールマイティカードだとでも思ってください」

 そう言って、シエナは可愛いピエロの絵柄が描かれたカードを2枚、皆に見えるようにテーブルに置いた。


「なんで今回は1枚だけなんだ?」

「今からのルール説明でも話しますが、ジョーカーが2枚あるとゲームバランスが崩れるからです」


「では、今から遊びますポーカーというゲームの説明をします」

 ルクスの質問にシエナは簡単に答えると、ルール説明を開始した。



 今回、シエナが説明したポーカーは、手札が5枚のチェンジは1回のみの通常のポーカーである。


・全ての役においての大前提。

 数字が大きい程強い。ただし、基本的に一番強いのはKではなくAである。

 また、マークの強さはスペード、ハート、ダイヤ、クラブの順に強いものである。


 これらは一番強い役を揃えた者が複数人いた場合に限り、勝敗の決め手となるものであり、基本的には役の強さで競い合うとシエナは説明をする。

 併せて、同じ役でもジョーカーが含まれていた場合に限り、どれだけ他が強い数字やマークであっても、ジョーカーが含まれている時点で負けとなる事を説明した。


・ノーペア。

 5枚全ての数字やマークがバラバラの何も役がない状態。


・ワンペア。

 同じ数字のカード2枚が1組だけある役。

 もしくは、数字はバラバラだけどジョーカーが1枚含まれている状態。


・ツーペア。

 同じ数字のカードが2枚ずつ2組ある役。


・スリーオブアカインド。

 同じ数字のカードが3枚ある役。

 もしくは、同じ数字のカード2枚にジョーカーが1枚ある状態。一見するとツーペアにもできそうであるが、スリーオブアカインドの方が強い役の為、ツーペアには適用されない。


・ストレート。

 5枚の数字が順に並んでいる役。

 J、Q、K、A、2はストレートではない。

 ストレートに限りAは弱く、単純に数字の大きい方が強い。

 ジョーカーはどの数字にも置き換える事ができるので、A、2、ジョーカー、4、5でもストレートにする事が可能。


・フラッシュ。

 5枚のカードが全て同じマークの役。

 4枚が同じマークで1枚がジョーカーでも適用可能。


・フルハウス。

 同じ数字のカードが3枚と同じ数字のカードが2枚の組み合わせの役。

 同じ数字のカード2枚が2組と、ジョーカーが1枚でも適用可能。


・フォーオブアカインド。

 同じ数字のカードが4枚ある役。

 もしくは同じ数字のカードが3枚とジョーカーが1枚。一見するとフルハウスにも見えるが、わざわざフォーオブアカインドを捨ててフルハウスにする人はいないだろう。

 それをする人は、きっと麻雀で四暗刻(スーアンコウ)ができあがっているのに関わらずタンヤオと言い張って損をするだろう。


・ストレートフラッシュ。

 5枚の数字が順に並んでいて、更にマークが同じの役。

 どれかがジョーカーであっても適用可能。


・ロイヤルストレートフラッシュ。

 10、J、Q、K、Aのストレートで、更にマークが同じ役。

 ジョーカーによるロイヤルストレートフラッシュの適用は不可。その場合はストレートフラッシュとなる。


・ファイブオブアカインド。

 同じ数字のカードが4枚とジョーカーが1枚の役。



「…と、以上の11種類の役がこのポーカーにおける役で、強さの順は紹介した順から弱く、最後の方ほど強くなっています」

 シエナは、役の例を描いた紙を皆に見せながら説明をしていた。


 ちなみに、通常であれば、スリーカード、フォーカード、ファイブカードと呼ぶ役に関しては、シエナが○○オブアカインドと呼ぶ方が気に入ってる為に、そう説明している。


「なんだか小難しいですわね」

「ベアト、理解できたか?」

 テスタが少し小難しそうな表情をし、フリートがベアトにどれくらい理解できたかを確認する。


「よくわかんない!」

「ボクも、説明されただけではなんとも…」

 ベアトリーチェもバルバロッサも、シエナの説明と例が描かれている紙だけではあまり理解できていないようだった。


「じゃあ、練習で遊んでみましょう」

 習うより慣れろ、と言う事で、シエナはカードをオープンにした状態で遊んでみる事にした。



 テスタとフリートとティレルは観戦をし、シエナは説明をしながらのディーラーを務めた。

 実際に遊んでみるのはルクス、ケイト、バルバロッサ、ベアトリーチャの4人となった。


「今、皆にこうやって最初の5枚のカードを配りました。普通なら、配られたカードは手に持つなどして、自分にしか見えないようにします」

 今回は遊びの練習として、全員の手札が最初からオープンにされている状態であった。


「カードをチェンジする前ですが、すでにルクスさんとバルバロッサ君は役が出来上がってますね。何て役かわかりますか?」

「俺のはスリーオブアカインドってやつだな」

「ボクのはワンペア、だね」

 役が描かれている表を見ながら、ルクスとバルバロッサは答える。


「そうです。そして、ケイトさんとベアトリーチェちゃんは何も役がないノーペアですね。このままではどう転んでも負けてしまいます」

 シエナの説明を皆が黙って聞きに入り、シエナは説明を続けた。


「そこで自分の手札から、いらないカードを捨てて、同じ枚数のカードを補充します。ベアトリーチェちゃんの手札を見ると、数字はバラバラですけど、ハートが4枚にクラブが1枚ですね。狙うとすればどの役を狙い、捨てるカードの枚数と種類をどのように選びますか?」

「えっと…ハートが5枚になればフラッシュって役ができるから…このクラブの4を捨てれば良いのかな?」

 シエナの質問に、ベアトリーチェは表を見ながら答える。


「ほとんどの人はそうしますね。私もそうします。中にはヤケクソになって全部チェンジする人とかもいますけどね。それで、捨てる時にはどのカードが捨てられたか見られないように裏返しにして捨ててください」

「こう?」

「うん、そうです。そしたら、私が捨てられたカードの代わりのカードを渡して補充をします」

 シエナは自分の手に持っていた山札の上からカードを1枚取ってベアトリーチェに渡す。


「あ、ハートが5枚揃った!」

 ベアトリーチェは顔をパッと明るくする。

「おめでとうございます。これでベアトリーチェちゃんはハートのフラッシュの完成です」

 ちなみに、シエナは喜ばせようと思って八百長をしたとかそういった事はしていなく、普通に山札の一番上からカードを手渡しただけであるので、これは純粋にベアトリーチェの運である。


「ケイトさんも同じように、現在のノーペアから一番作りやすそうな役を考えてカードをチェンジしてみてください」

「う~ん…、じゃあストレートが狙えそうだからこの2枚を捨ててみるわ」

 ケイトは手札の3、4、6、9、Jの中から9とJを捨てる。

 これで5は確実に引き入れたうえで、2か7のカードが来ればストレートの完成であるとケイトは考える。


「はい、どうぞ」

 シエナは山札から2枚カードを取ってケイトに手渡す。

「あら、3のワンペアはできたけど、ストレートは無理だったわ」

 結果は、3、3、4、6、Jのワンペアであった。捨てたJはスペードであったが、新たに引き入れたJはダイヤであった。

 捨てたカードとは別のマークのカードが戻ってくる事はポーカーでよくあることである。


「俺達はどうすれば良いんだ?」

「交換する必要のない手札であればチェンジなしで良いですが、もっと上の役を目指せられるなら自分が不必要だと思うカードを捨てれば良いのです」

「なるほど」


 ルクスは揃っている3枚のカードを残し、2枚のカードを捨てる。

 しかし新たに配られたカードは何も役に立たないカードであり、結局スリーオブアカインドのままであった。


「そう簡単にはこのフルハウスってやつやフォーオブアカインドってのはできないんだな」

「そうですね。ロイヤルストレートフラッシュに比べれば作りやすい役ではありますがそれでもやはり難しい役です。でも、フルハウスはそこそこ作りやすい役で、通常であればフルハウスができあがった時点でほぼ勝ちはもらったも同然ですね、それくらいフルハウスより強い役は作りにくい役です」

 シエナの説明に、ルクスは再度「なるほど」と納得をする。


「じゃあ、ボクはこのワンペアを残して、残り3枚のカードを捨てれば良いのか?」

「勝負に出るならそうですね。今回は手札をオープンにして、皆の結果を見ているのでそうしないとほぼ負けは確定ですが、あえてこのAを残して2枚のカードを捨てるという手もあります」

「なんでだ?」

「交換されたカードの内、片方がAであればそれでツーペアの完成ですし、更にもう1枚がすでに完成してるワンペアと同じ数字であればフルハウスの完成だからです」

 シエナの説明に少しだけバルバロッサは首を傾げる。


「さっきのケイトさんみたいに、マーク違いで同じ数字が返ってくる事はよくある事です。まあ、どれも結果論になるんですけどね。これが皆の手札が見えてない状態であれば、Aを残しておいてそれがペアになれば勝率はグンと上がったりするんですよ。基本的にはツーペアかスリーカードの対決になるので」

 ワンペアすら揃わない事はポーカーでは当たり前であるので、シエナは「まあ、実際に何度か遊んでみたらわかりますよ」と補足する。


 結局バルバロッサは3枚の手札を交換し、結局Aも引かないままワンペアのまま終わった。

「と、言う事で、今の勝負の役に順位を付けると、ケイトさん、バルバロッサ君、ルクスさん、ベアトリーチェちゃんの順となり、ベアトリーチェちゃんが勝者となるのです」

「なんとなくわかってきた」

 一度遊んでみた事により、バルバロッサは遊び方をほとんど理解した。

 ベアトリーチェも、とりあえず絵柄の事はおいておき、なんとなくで遊び方を理解してきたのであった。


「なるほど、これにジョーカーという何にでも化ける事ができるカードが加われば、役の強さが上げられるという事か。確かに、あまり多く入っていたらバランスが崩れそうだな」

 ルクスはすぐにジョーカーの使い方も理解して、独り言を言いながら納得をしている。


「へえ、面白い遊びだな。似たようなカードで占い師が占ってるのは見た事あったが、遊びに使うカードというのは初めて見た」

 フリートの言葉に、シエナは「この世界にもタロットカードのような物があるのかな?」と思いながら、「このトランプでも簡単な占いをする事はできますよ。後で占いましょうか?」と答えた。


 フリートはシエナの申し出に「では後でヴィッツの未来でも占ってもらおうか」と冗談混じりに笑ったが、シエナは真面目な顔つきで「いいですよ」と答えた。

(占えるんかい)

 子供を除く、その場にいる全員が心の中でそうツッコミを入れるのであった。



「じゃあ、実際にポーカーで遊んでいきましょうか」

 シエナは山札をシャッフルして、ルクス達に1枚ずつカードを配っていく。

 5枚全部配られたところでそれぞれが手札を確認すると、ルクスだけが「お!」と少し嬉しそうに声を出した。


「ルクスさん。交換前からの手札が良いのはわかりますけど、顔と声に出てますよ」

「あぁ、つい」

「今は遊びでやってますけど、これにチップを用意して賭け事をするのが本来のポーカーの遊び方です。相手の手札が良さそうだったら皆が勝負を降りてしまい、せっかく大勝ちできそうな手札なのに、勝負にすら出る事ができずにショボい勝ちしかできない時があるので、無表情で悟られないようにする『ポーカーフェイス』というものをしないと、ポーカーでは勝てませんよ」


 チップを使用した遊び方はまた今度説明します。と、シエナは言ったが、今この場にいるメンバー自体が賭け事自体があまりよくわかってなかった為に頭の上に「?」を浮かべていた。


「まあ、ギャンブルはしないに越した事はないです」

 ちょっとした遊び程度の賭け事はまだしも、本気のギャンブルは身の破滅を呼び寄せてしまうので、シエナは皆がギャンブルにハマってしまわないように気を付ける事にするのであった。




 それから何度か遊んだところでメンバーを入れ替えながら皆でポーカーを楽しむ。

 その様子は、ドア付近で待機していた使用人達も「面白そうだなぁ…」とついつい覗き込んでしまうほど、楽しそうな光景であった。


「と、言いますか…ルシウス様、少し強すぎじゃありませんか?」

 テスタが少しだけ不満そうに頬を膨らませてルクスに文句を言う。

「そうだな。ノーペアは滅多にないし、配られた手札の時点ですでに役が出来上がってる事が多いな」

 ルクスは運がやたら強いのか、参戦した内の半分近くは勝負で勝っていた。


 たまにノーペアであったりしたが、最低でもツーペアを完成させている事が多く、誰かがフルハウスを作ったと思ったら、フォーオブアカインドを繰り出してくる事はしょっちゅうであった。


「シエナ。実はこっそりとルシウス様に良いカードばかり渡してたりしないでしょうね?」

「そんな不正しませんよ。と、言うか不正ができるような技術はもってません」

 テスタは冗談で言ったのだったが、シエナが真面目に返してきてしまった為に「あ、はい」としか答える事ができなかった。


「俺がカードを配るから、シエナもそろそろ遊びに加わってみたらどうだ?皆ももう遊び方はすっかり理解したみたいだし」

 ティレルがそう申し出ると、シエナは嬉しそうに「良いんですか?ありがとうございます」と笑った。


 皆の喉がゴクリと鳴る。

 そもそもこういったカードで遊ぶ娯楽など存在していなかったのに、それを広めようとしたシエナ。

 つい先ほどまで遊び方を全く知らなかった皆にとっては、シエナは「この遊びを極めてる、いわばプロだ」と言うイメージが強くあり、ルクス以上に強い役ばかりであがると想像しているのであった。



「…う~…またノーペアです…」

 しかし、実際に遊んでみるとシエナはまるっきり弱かった。

 シエナが参戦してから既に8回ほど遊んでいるのだが、シエナはその8回全てがノーペアで終了している。


「シエナ…弱すぎじゃないか?」

「う、うるさいです!そもそも運の良さに差がありすぎるんですよ!」


 ルクスは王族、それも第一王子として産まれ、シエナは奴隷よりかは上であるが、身分はほとんど最底辺である農民の産まれである。

 出生による身分の時点からかなりの差があり、この場にいるほとんどの人間が貴族であったり貴族や王族に仕える家元の出だったりするので、ただの平民であるシエナの運などたかが知れているのであった。


「…わかりました。私の本気を見せてあげましょう!ルクスさん、私と勝負しましょう!」

「うん?」

 ルクスは突然のシエナの勝負の持ち掛けに首を傾げる。


「次の勝負で負けた方は何か罰ゲームが与えられます!罰ゲームの内容は勝者が決める!どうですか?」

「なるほど、面白い。受けて立つ」

 ルクスはシエナの言ってる意味を理解してニヤリと笑った。


「…ふ、私は追いつめられると本気を出すタイプです。勝負を受けた事を後悔させてやりますよ!」

 前髪をサッとかきあげて、シエナは不敵に笑う。

「その言葉、そっくり返してやる」

 ルクスも「逆に俺に勝負を挑んだ事を後悔させてやる」と言わんばかりに笑った。



 それまで4人で遊んでいたポーカーであったが、シエナとルクスの勝負により、2人でのポーカーとなった。

 ディーラーはティレルが務め、皆はシエナとルクスの手札が見えないように横から観戦をする形となる。


「じゃあ、配るぞ…」

 ティレルがカードをシャッフルし、交互にシエナとルクスにカードを配る。

 手元に伏せられたカードが5枚配られ、2人は自分に配られた手札を見た。


「ふひ」

 瞬間、シエナが気味の悪い笑顔と笑い声を浮かべる。

「…シエナ?ポーカーフェイスはどうした?」

「失礼。ですが、時にはこうやってあたかも良い手札が配られたフリをする…いわばブラフも必要なのですよ」

 そう言って、シエナはポーカーフェイスを作ろうとする…が、その表情はやはり少しにやついていた。


「どっちから先に交換する?」

「どちらでも構いません。…そうですね、交換する手札が少ない方から交換しましょう」

「俺は1枚交換だ」

 ルクスがそう宣言すると、シエナはピクリと少しだけ反応をした。


「では、私は2枚交換なので、先にルクスさんからどうぞ」

 ルクスは手札から1枚カードを出し、ティレルから1枚カードを受け取る。

 そして交換したカードを手札に加えて一瞬だけ渋い顔をした。


 ルクスのその一瞬の表情をシエナは見逃していなかった。

 そして宣言通りに2枚のカードを交換し、その2枚のカードを見る。


「うふふ…」

 もはやポーカーフェイスなど微塵の欠片もなく、シエナは気味悪く笑った。


「よっぽど良い手札が揃ったんだな」

「なんの事かなぁ?」

「そうだ。今ここでシエナが勝負を降りればシエナへの罰ゲームは無しにしてあげるよ。良い提案だとは思わないか?」

「それは良い提案ですね。ルクスさんが降りてくれれば私もルクスさんへの罰ゲームは無しにして差し上げますよ?」

 2人は不敵に笑い合う。


「手札を見せる前に、お互いが今考えてる罰ゲームを発表しないか?」

「良いですよ。じゃあ、私は…どこか美味しい店に連れていってもらって、私がお腹いっぱいになるまで奢ってもらいましょうか」

「俺を破産させる気か!!」

 実際には破産などしないが、ルクスはツッコミを入れる。


「破産したくなかったら、降りれば良いんですよ」

「…なるほどね。…じゃあ、俺は…シエナと混浴でもして、ついでに背中でも流してもらおうかな?」

「…えっち…」

 シエナは頬を赤く染め、それを隠すようにトランプで顔を隠した。


「そうなりたくなかったら、シエナが降りれば良いんだよ」

 今度はルクスがシエナに言葉で反撃をする。

 しかし、シエナは不敵に笑うだけである。



 急に周囲が静まり返り、時折誰かが唾を飲み込む音だけがやたらと耳に残った。


「…では、私から手札を見せます。Aとジョーカーのフォーオブアカインドです!」

 開かれたシエナの手札は、スペードを除くAが3枚と、ジョーカーが1枚、そして2のクラブだった。


 思わずテスタ達も「おぉ!」と声を上げ、ルクスは心底驚いた表情をし、その後すぐに少しだけ困った表情をした。

「今更降りたいって言っても遅いですからね!」

 シエナは勝ち誇った表情をしていた。


「さぁ、ルクスさんの手札を見せてください!」

「…わかった」

 ルクスは少しだけ諦めたような表情をしながら、手に持っていたトランプをパサリとテーブルに置く。


「悪いな。ロイヤルストレートフラッシュだ」

 そこにはスペードのマークで揃った、10、J、Q、K、Aのカードが置かれていた。


「……………………ぇ?」

 シエナはポカンとし、テーブルに置かれたルクスの手札を見る。


「シエナとの混浴ゲットだぜ」

 少しだけ恥ずかしそうに、ルクスは勝ちを宣言するのであった。

ポーカーでロイヤルストレートフラッシュが来る確率は約65万分の1です。

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