占い
茫然とした表情で立ち尽くすシエナは、どこか哀愁が漂っていた。
「…シエナにも驚きだが、ルク…ルシウス様はもっと上を行ってたな」
少し静まり返った空気の中、ティレルが素直な感想を口にする。
「うぅ…さすがにこれは勝ったと思ったのに…。ルクスさんの演技に騙されました。手札交換後の一瞬だけ見せた渋い表情は手札が良くないと思わせるブラフだったのですね」
シエナはそれがあったからこそ完全に勝ちを確信していたのだった。
「え?俺、そんな表情見せてたか?」
ルクスはきょとんとした表情を見せる。
「本当に一瞬ですが、『うへぇ、マジかよ』って感じの表情をしてましたよ」
同じくルクスの表情の変化を見逃してなかったバルバロッサが、その時のルクスの心境を理解したような言い方をする。
「あぁ…もしかしたらしてたかもなぁ」
「でも、ロイヤルストレートフラッシュでなんであんな表情を?」
普通ならば凄く嬉しそうな表情になるはずであり、渋い顔になるわけがない。
バルバロッサの質問にルクスは少しだけ気まずそうにシエナの方を見る。
そして、同じく理由を知りたがっているようなシエナの表情を見て、観念したかのようにため息をついた。
「正直に話すよ…本当はシエナに勝ちを譲ろうとしてたんだ」
ルクスの言葉に、ティレルはルクスとシエナの捨て札をめくる。
「…捨てたカードは…スペードの9…?」
ティレルの呟きに、全員が驚きの表情を見せる。
「って事は、配られた時点でストレートフラッシュが完成していて、あえてそれを崩したって事ですか!?」
「実はそうなんだ。それで負けた後にでも『ロイヤルストレートフラッシュ狙ったけど、ダメだったわ~』って笑いながら言って、シエナを勝たせようと思ってたんだけどな…」
勝ちを譲ろうと役を捨てた結果、逆に更に強い役になってしまったのならそれは渋い表情もしてしまうだろう。
「って、ちょっと待ってください!ルクスさんはそれでスペードのAが来たんですよね?…私は1枚目にジョーカーで、2枚目がクラブの2だったから…これ、私が先に交換してたら…」
元々シエナは配られた時点でAが3枚揃っていた。そして交換した結果、ジョーカーを引き入れたのでよしよしと思っていたのだが…実は先に交換をしていれば、Aとジョーカーを引き入れてのファイブオブアカインドだったのである。
「く、悔しい~…」
シエナは本気で悔しがった。
ファイブオブアカインドを作りそこなったのもそうだが、ルクスが本気で勝負せずに手を抜いていた事実に悔しさを隠せなかった。
しかし、手を抜いたにも関わらずに逆に更に強い役へと昇華させたルクスは、勝つべくして勝ったと言わざるを得ないだろう。
「でも、わざわざ勝負を降りられる雰囲気を作っていたのに、なんで降りなかったのですか?」
わざと負けようとしていたのならば、それをすれば済むだけであると感じたフリートがルクスにそう質問をする。
「そうしようかと思ったんだけど、万が一降りた後に手札がどんなのだったかと確認されて、実はロイヤルストレートフラッシュでした。じゃ、それはそれで気まずいだろ?それならもう開いてしまおうと思って」
流石にロイヤルストレートフラッシュが出来てるのに、勝負を降りるのは相手を馬鹿にしすぎている為、皆はすぐに納得をした。
「でも、もしロイヤルストレートフラッシュが完成しなかったとしても、捨て札を確認されたら同じ事じゃないか?」
「さすがにノーペアとフォーオブアカインドだったら捨て札なんて確認しないだろ」
それもそうか、とティレルは納得する。
「…まぁ、シエナ。さっきはあんな事言ってしまったけど、罰ゲームは無しで良いからな」
少しはシエナと混浴したい気持ちはあるが、ルクスもシエナが嫌がる事を無理矢理したいとは思ってないので、罰ゲームはない事にしようとする。
「…いえ、私から持ち掛けた勝負で、私が負けたのですから…約束は反故にしてはいけません。絶対に守ります」
「ん、わかった」
シエナがそう言うならもう止めないよ、と言わんばかりに、ルクスは返事をする。
「まあ、今度で良いからな」
そう言って、ルクスはシエナの頭をぽんぽんと撫でるのであった。
「結果が『近い』『未来』『永劫』『安泰』『継続』と、なりました。これはもうそのまま、近い未来に安泰が訪れてそれが永劫に続く、と言うことでしょうね」
カードが何枚か並べられて、捲ってある5枚のカードの絵柄に込められた意味をシエナは語る。
「良い結果だな。そうなるように頑張らないと」
フリートはその結果に満足そうに頷く。
ポーカーの後はシエナによるトランプ占いが開始された。
最初はフリートの言っていた通りのヴィッツの今後の未来を占ったもので、結果はかなり良いものだと言える。
「面白い占い方法ですね。個人も占えるのですか?」
テスタは興味津々と言った感じでシエナに質問をする。
「はい、もちろん可能ですよ」
そう言って、シエナは「占いますか?」とテスタに聞くと、テスタは「是非」と答えた。
「じゃあ、カードをシャッフルします。良いと思ったところで止めてください」
シエナが10回ほどシャッフルしたところでテスタはストップをかける。
「カードを好きな位置で2つに分けてください」
テスタは真ん中辺りに指を入れ、カードを2束に分ける。
分けられた上側にあったカードをシエナは1回だけくるりと反転させ、分けたカードに再度重ねる。
「もう一度シャッフルします。良いと思ったところで止めてください」
同じように10回ほどシャッフルしたところでテスタはストップをかけた。
そしてシエナは先ほど同様にカードを好きな位置で2つに分けさせる。
同じように真ん中らへんで分けられたカードの下側をシエナは5列に並べていく。
そして、5列に並べられたカードの上に2枚ずつ重ねるように並べ、準備が整う。
「では、結果を見ていきましょう。『困難』『実行』『思案』『相談』『達成』…ですね。これは…困難な事を実行して、思案しながらも相談をする事によって達成できる、という感じかな?」
カードを捲って先ほどのように結果を読み上げる。
あくまでも、並べられたカードの絵柄による意味を読み取り、それっぽい感じにしているだけなので、実際には違う結果の時もあるが、それを気にし始めたらキリがないので、シエナは結果を読み取って言葉にする時には自分のインスピレーションで語る事にしていた。
「なるほど。更に要約すると、相談できる人を見つけて困難に立ち向かえって事で良いのかしら?」
テスタの言葉に、シエナは「そういう捉え方も良いですね」と感心する。
「次、俺も占ってくれよ」
ルクスが少しだけそわそわとした様子でシエナに占いをしてほしそうにしていた。
シエナが周りを見ると、その場にいる全員が占いをしてもらいたそうにしていて、ルクスは我先にと声をかけたのである。
「良いですよ。皆さんも後で占いますからね」
シエナが笑顔で皆にそう言うと、部屋の空気はより一層そわそわとした雰囲気へと変貌を遂げる。
そして、ルクスの占いの結果が出る…。
「えっと、『未来』『運命』『選択』『失敗』『死』…と、出ました…。ちょっと、いや、かなり不吉ですね…。これは…将来、運命の選択に迫られて、それを失敗すると死ぬって事なの、かな…?」
シエナも自信なさげに答える。
シエナがルクスをちらりと見ると、ルクスは少し落ち込んでいるような表情であった。
さすがにここまで不吉な結果が出るとは思ってもいなかったのである。
「う、占いはあくまでも気休めですし、本人次第でどうとでも変わります!良い未来になるように精一杯頑張りましょう!」
シエナは焦りながらもルクスにフォローを入れる。
他の皆も、ルクスであるなら良い結果が出ると思っていたので一緒に落ち込んでいるような表情をしていた。
それから他の皆を占ったところ、全員が良い占い結果が出てしまい、ルクスはますます落ち込んでしまう。
「お、俺だけなんで嫌な結果が…」
「さっきも言った通り、占いは気休めです!むしろ、悪い結果が出た時には気を引き締めなおす事が出来て、逆に良い結果を残す事ができる可能性を高める事ができるので用心するのが良いですよ」
そもそもシエナはかなり自分流のオリジナルが含まれたこの占いが当たるとは思っていないので、あまり深刻に考えてほしくはないと思っていた。
良い結果が出た人は、良い事が起きれば「占いが当たった!」と喜び、多少の悪い事が起きても特に気にならなくなる。
逆に悪い結果が出た人は、ほんの少しの悪い出来事が起きただけで「占い当たってしまったなぁ…」と落ち込みやすくなり、良い事が起きてもそれに気が付かない事が多くなる。
占いは捉え方次第なのである。
「…まあ、用心はするよ。どれくらい先の未来なのかはわからないけど、運命の選択に駆られる場面なんてそうないだろうしな」
ルクスはシエナの言葉に気持ちを入れ替える。
悪い事が起きそうであり、それが自信の死に繋がる可能性があるならば用心するに越した事はないだろう。
「さて、そろそろ時間も遅くなってきましたし、そろそろ寝ましょうか」
そう言ってシエナがトランプを片づけようとすると、全員が「え?」と首を傾げた。
「まだ、最後にシエナが占ってないでしょ?皆占ってるんだから、シエナも占わないと」
皆が疑問の声を挙げたのでシエナは一体何事かと思ったが、その言葉を聞いて「あぁ、確かに」とすぐに納得をした。
占い自体はすぐにできるので、シエナはぱぱっと自分の事を占いだす。
「結果は、『未来』『死』『運命』『回避』『不可』……って、これはひどい!!」
言葉を繋げるならば、将来、シエナには回避不能の死の運命が迫っているという結果であった。
「何か、俺よりもひどい結果の人がいて、少しだけ安心したよ」
ルクスはルクスで、自分以外にも悪い結果が出た人がいた事に安堵する。それも自分よりも酷そうな結果であるから尚更である。
「それはそれで酷いですよ~…」
シエナは頬を膨らませてルクスに抗議する。
「まあまあ、占いは気休めなんだろ?」
だいぶ心に余裕が出来たのか、ルクスは意地悪するように笑いながら言う。
「まあ、人間いつかは死ぬのですから、私は今を精一杯生きますよ」
しかし、一体どんな死の運命が待ち受けているのか…。
シエナはそれが少しだけ恐ろしくなり、逆さになっている黒のジョーカーのカードを見るのであった。
「これが赤の逆さジョーカーだったなら、『結婚』だったんですけどねぇ…」
それはそれで回避不可の結婚って一体なんなんだよ、と皆は心の中でツッコミをいれるのであった。




