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【番外編①】シエナとクリスマス

 本編の途中ですが、番外編としてシエナの過去話を挟みます。

 本来は本編の中で過去話として何度かに分けてやるつもりでしたが、丁度季節ネタとしても良かったので、急遽挟み込んでの番外編としました。


 今年も残すところあとわずかとなりますが、皆さん良いお年を過ごされてください。



 メリークリスマス♪

 シエナが宿を建て、経営を開始してから初めて迎える冬。当時11歳であるシエナはカレンダーとにらめっこをしていた。


「う~ん…1か月が40日ってややこしいなぁ…えっと、今までの季節の移り変わりから考えると、この世界の新年は日本でいうところの…2月あたま…ちょうど節分の日あたりなのかな?」

 体感で感じた季節の移り変わりなどを参考に、シエナは日本だとどの日付にあたるのかを計算していた。


「と、言う事は…来月の始めか今月末辺りが丁度クリスマスなのかな?」

 この世界の新年と、日本での日付が正確にわからない為、シエナはカレンダーの8月39日にあたる部分に×印をつけた。

 月末のその日をクリスマスイブと定めたのである。

 もっと正確に季節を計算すれば、正しい日付もわかるだろうが、どうせ地球の事を知ってる人なんて誰もいないのだから、その辺は適当なのである。


 日本では8月といえば夏真っ盛りであるが、この世界の8月は真逆の冬である。

 1か月が40日なので、わずか9か月しかないのでしょうがない。

 シエナは8月39日をクリスマスイブ、8月40日をクリスマスと決定し、宿屋シエナ内の従業員達とクリスマスパーティーを開こうかと考えていた。


 当時の宿屋シエナの従業員は、エルク、セリーヌ、シャルロット、ガストンの4人であった。

 これに従業員ではないアンリエット、アルバが加わっていて、親友のディータとディータの両親も誘うつもりで、自分を含めた10人でのそこそこな規模なパーティーである。


 この時の宿屋シエナは、建てられてからまだ1年も経っていない為、宿の利用客も食堂に食べにくる者もそこまでいなかった。

 特に、食堂は見た事もない料理ばかりがメニューに載っているので、お金を払ってまで新しい料理を食べてみようとするチャレンジャーはそんなにいない。まだ、シエナが料理教室を開いていない時なので、新しい料理は浸透していなかった。

 なので、従業員は少なくても問題なく、それなりに暇をしているのであった。



「と、言う訳でこの日の宿の営業終了後に、ささやかながらクリスマスパーティーを開きたいと思います」

 シエナは従業員全員が共有部屋に集まった時に、「重要な話があります」と言ってパーティーを開く旨を伝えた。


「その、クリスマスってのは一体何なのでしょうか?」

 シャルロットが当然の疑問を口にする。

 この当時のシャルロットは、同性愛者とも少女嗜好ともバレていない為、それを隠すように大人しい淑女を演じている。


「はい、クリスマスは…皆でパーティーをして盛り上がったり、恋人と一緒にロマンチックな夜を過ごす。そんな日です」

 質問をされた時には、遠い世界の神様の生誕祭です。と答えようとしていたシエナであったが、そんな遠い世界の神様の事を話されても皆が困るだけだし、その神様の誕生日を祝う意味など何もないだろうと考えなおし、とりあえず楽しそうにパーティーをする事だけを伝えた。


「へぇ、恋人とロマンチックな夜を過ごすって素敵だね」

 14歳にしてすでに巨乳に成長しているセリーヌは、未だできた事のない恋人を妄想して自分の想像するロマンチックな想いに耽る。


 それからシエナは、パーティーをする時に出される料理がどんなものかを説明したり、飾りつけの話をしていった。

 場所は人数も多くないので共有部屋でやる事を決定し、最後にシエナはアルバの方を向いてメインの話を切り出す。


「アルちゃん、サンタクロースって知ってる?」

 シエナの質問にアルバは首をふるふると振って「知らない」と答える。

「毎年クリスマスの夜になると、赤と白の服を着たおじいさんが、1年間を良い子に過ごしていた子供達のところにやってきて、寝ている子供のそばにプレゼントを置いていってくれるのです」

 シエナの言葉にアルバは驚いて「今までそんなの来た事ないよ!」と言う。


「うん、サンタさんは、自分の存在を知っていて、尚且つ自分の存在を信じてくれる純粋な心を持った子供のところにしかやってきてくれないの。でも、今年はアルちゃんはそのサンタさんの存在を知ったから、あとはクリスマスまでの間、良い子にしてたら絶対プレゼントを持って来てくれるよ」

 シエナは優しく微笑んでアルバの頭を撫でながら説明をする。

 その説明を聞いたアルバの目はキラキラと輝いている。


「あと、サンタさんは寝ている子供の夢の力を少しだけ分けてもらって初めて存在を現す事ができるの。だから、クリスマスの夜にサンタさんにお礼を言おうと夜更かししてる子のところにはやってきてくれないの。だからパーティーが終わったら早く寝ようね」

 付け加えるようにシエナはアルバに説明をすると、アルバは大きく「うん」と頷いた。


「じゃあ、シエナ姉のところには毎年来てたんだね!羨ましいなぁ」

 アルバの台詞に、シエナは少しだけ悲しそうな顔をする。

「いえ、サンタさんは良い子のところにやってきますが、その子の親が悪い人だと来てくれないのです。私の両親は悪い人だったので、私のところにはサンタさんは来てくれませんでした…。でも、アルちゃんは優しいお父さんとお母さんがいるので、絶対に来てくれるよ」

 シエナの悲しそうな表情に、エルクとアンリエットは少しだけ胸が痛くなる。

 シエナに雇われる少し前に、シエナから直接過去の話を聞いたエルクとアンリエットは、シエナが生まれてから受けてきた虐待と、これまでのその過酷な環境に涙したのであった。


 シエナは更に付け加えるように、欲しいプレゼントをクリスマス前に言っておくと、サンタさんがそれを聞き入れてくれて持ってきてくれる。と説明をした。

 サンタさんはいつでも子供達を見守っているが、子供達がどんなプレゼントが欲しいのかは把握できない為、何度か口に出して言ってもらわないとわからないのである。



 それから数日の間、アルバは非常に良い子に過ごしていた。

 母のアンリエットを困らせないようにし、掃除をしているシャルロットの手伝いをし、父であるエルクの仕事の邪魔をしないように気を付け、セリーヌと一緒に来てくれたお客様をお出迎えする。

 料理はできないが、ガストンの為に皿を並べたり片づけたりは手伝う。

 皆、そんなアルバの行動に表情を緩ませていた。


「シエナさん、少しよろしいですか?」

 エルクはシエナの手の空いた隙を見つけて話しかけた。

「はい、なんでしょうか?」


 エルクは、クリスマスについての質問をもう少しだけ詳しくシエナに訊ねた。特に、サンタクロースについてはもっと詳しく聞きたかったようである。

 シエナはどうしようかと迷ったが、アルバの耳に入らないように細心の注意を払い、エルクに真実を話す。アルバの寝ている部屋には、エルクもアンリエットもいるので、どちらにせよ協力してもらわないといけなかったからである。


「なるほど、サンタクロースの正体は子供の両親…。今回は、シエナさんがそのサンタクロースの代わりを務め、アルバにプレゼントを渡そうと思ってたのですね」

 エルクも、サンタの存在を信じて良い子にしているアルバの為にも、協力を惜しまなかった。

 更に詳しくサンタクロースの話を聞きだし、エルクは気になっていた点を確認すると、シエナにありがとう、とお礼を言って仕事に戻った。

 シエナも、協力者が得られたと喜び、仕事に戻る。



「アンリエット、少し良いか?」

 その日の夜、アルバが寝た後でエルクはアンリエットを誘って受付裏の倉庫へ向かった。

「寒いところでごめんな」

「いえ、それでシエナさんから聞きだせましたか?」

 エルクは「ああ」と、力強く頷くと、アンリエットと共に誰にも聞かれないように内緒話を始めるのであった。




 そしてやってきたクリスマスイブ。

 宿屋シエナでは、宿の営業が終了した後に共有部屋でささやかなパーティーが開かれた。

 ディータは出席していたが、ディータの両親は流石に来ることはできなかった。

 

 シエナとガストンが作ったオードブル料理がテーブルに載せられ、真ん中には七面鳥の代わりに、鶏っぽい鳥のローストチキンが置かれていた。

 オードブルの隣には、この世界で初めてシエナが焼いたケーキが置かれている。

 シエナが少し残念に思っているのが、イチゴの代わりがなかった事である。


 日本ではハウス栽培されているので、寒い時期でもイチゴがあるのだが、ハウス栽培など存在しないこの世界では、この季節にイチゴなんてないのである。

 代わりにみかんのように甘い柑橘系のフルーツを使い、シエナはそれでケーキをでっち上げた。

 せめて何かフルーツは間に使いたかったのである。


 部屋の中は、綿と星型に切った紙でクリスマスっぽく飾りつけられていた。

 クリスマスツリーは用意できなかったが、クリスマスツリー型に切り取った大きな紙も吊り下げられている。

 いずれ、魔晶石を利用してイルミネーションを作ってみようともシエナは考えている。



「それでは、皆さん今日もお疲れさまでした。これよりささやかですがクリスマスパーティーを開始します!乾杯!」

「かんぱ~い!」

 ワインやジュースが注がれたグラスで乾杯をすると、皆はそれぞれの料理に舌鼓を打つ。


 珍しい味付けで珍しい形の料理は、宿屋シエナで働き始めたばかりのセリーヌとシャルロットにとってはどれも新鮮であった。

 ガストンも、シエナから教わりながら料理を作ったが、誰も考えた事のない食材の組み合わせや味付け、工夫に驚くばかりである。


 ディータも、シエナの隣でそれぞれの料理の説明を聞きながら、全ての料理を少しずつ味見していく。

「これ、美味しいね。今度作り方教えてよ」

「うん、いいよ」

 シエナはディータと雑談をしながら、様々な料理を食べ、幸せそうな顔をする。


(でも、せめてエビフライは食べたかったなぁ…)

 しかしシエナは、このオードブルに海鮮系が全然ない事に少し不満を持っていた。

 冷凍する技術も、冷凍保存したまま運ぶ技術もないこの世界では、海に近い地域でない限り海産物が食べれないのはしょうがないと諦めているが、それでも食べたい物は食べたいのである。


 実はテミンから1日半から2日ほどの距離の場所に、港町であるヴィッツという町があり、そこでは新鮮な海の幸が沢山捕れるのであるが、シエナはその町の存在をまだ知らない。

 シエナが港町ヴィッツの存在を知るのは、この時からおよそ2年後となるのであった。




 それからしばらくの間、皆でワイワイと楽しく食事をしながらパーティーを続け、アルバが「サンタさん来てくれるかなぁ」と、そわそわし始めたところでケーキを食べ、そのケーキの美味しさに皆が驚いてから、パーティーはお開きとなった。


「後片付けは私がします。皆さんはどうぞ休んでください」

 シエナが皆にそう言うと、エルクとシャルロットが手伝うと申し出た。

 シエナは、ありがとうと言ったが、「でも、1人で片づけたい気分なので」と言って2人の申し出を断る。


(あ、エルクさん。アルちゃんが寝静まったら教えてくださいね)

 エルクとシャルロットが部屋から出ていこうとしたところで、シエナは小声でエルクに話しかける。

 エルクはシエナの目を見て、こくりと頷くと共有部屋から出ていくのであった。


 ディータは、帰りが遅くなってしまうので、今日は従業員用に空いている部屋でのお泊りである。

 シャルロットが少しだけ本性を現し、「寒かったり独りで眠れなかったらいつでもお姉さんのところに来て良いからね」と、ディータに言っていたが、まだ本性を知らない皆は優しいお姉さんだなぁ、と感心するだけであった。



「楽しかった~。ふふ、これからはもう独りじゃないんだ…」

 シエナはこの世界でようやく幸せが掴めそうな事に安堵し、余韻を感じるように後片付けを始めた。

 片付け自体はそんなに長い時間はかからず、意外にもすぐに片付けは終わった。


 シエナは自室に戻ると、用意していたサンタクロースの衣装に着替え、服の中に飾りつけで使っていた綿を詰めていく。少しでもサンタの体型に近づける為の詰め物である。

 口周りに着ける髭の形に作っておいた綿を手に持って、アルバの為に用意していた綺麗にラッピングされたプレゼントを準備すると、シエナはベッドに腰かけてエルクかアンリエットがやってくるのを待つのであった。




 アルバは早く寝ようと努力していた。

 しかし、興奮からか中々寝付ける事ができず、目を閉じてしばらくすると起き上がり、「サンタさん来た?」と、周りをキョロキョロする。

 そんな息子の様子に、エルクとアンリエットは微笑みながら苦笑する。


「まだ来てないよ。アルバがきちんと寝ないから夢の力を分けてもらえないんじゃないかな?」

 シエナが言っていたサンタの出現方法をエルクは説明する。

 アルバも、それは理解しているがどうにも寝付けないのである。


 それからアンリエットが子守歌を歌い、アルバが完全に眠りにつくまで1時間は掛かってしまった。

 アルバが寝息をたてて眠ったのを確認すると、エルクとアンリエットは安堵のため息をつく。

 暗い部屋の中で一緒に子守歌を聴いていたエルクはアルバよりも先に眠くなっていたし、アンリエットもアルバの呼吸に合わせて子守歌を歌っていた為、非常に眠かったのであった。


(シエナさんを呼んできますね)

 アンリエットはヒソヒソ声でエルクに告げると、アルバを起こさないように立ち上がってシエナを呼びに向かう。


 シエナの部屋をコンコンとノックをして、アンリエットはシエナの返事を待つ。

 しかし、少し待っても何も返事が返ってこない。

 もう一度ノックをしてみて、何も反応がないのを確認すると、アンリエットはそっとシエナの部屋のドアを開けた。


 シエナは、ベッドに腰かけた体制のまま、涎を垂らして眠りについていた。


「し、シエナさん…起きてください…」

 アンリエットは、少しだけ起こすのを躊躇ったが、アルバのそばにプレゼントを置く事を楽しみにしていたシエナの顔を思い出し、起こす事にした。


「…ふぇ…?」

 シエナはだらしなく開かれた口から、これまただらしない声を出して眠そうな目を開き、辺りをキョロキョロと見渡した。

「あ…寝ちゃってました…すいません」

 そして、自分の状況を思い出し、アンリエットに謝罪する。


「いえ、こちらこそ遅くなってごめんなさい。アルバが中々寝付けなくて…」

 アンリエットも、呼びに来るのが遅くなったことを詫びる。

 シエナは大丈夫です。と一言だけ言ってから口元に髭を装着し、プレゼントを持つと立ち上がって部屋を出た。


 共有部屋の扉もそっと開けて同じようにそっと閉めると、すぐ横にある部屋からドアを少し開けたエルクが顔を覗かせていた。

(大丈夫です。熟睡しています)

 ヒソヒソ声でエルクがシエナに告げ、シエナはコクリと頷いてからそっとエルク達の部屋へと入る。


 スースーと寝息を点てているアルバを見て、思わず口元が緩んでしまい、撫でたくなった衝動を抑えながら、シエナはアルバの傍にそっとプレゼントを置いていく。

(メリークリスマス)

 心の中でアルバにそう言うと、シエナはミッションコンプリートです!と言わんばかりのドヤ顔でエルク達の部屋を出て行った。



 シエナは自室に戻り、口元を手で隠しながら欠伸をすると、そのままベッドに倒れ込んで眠りにつきたい衝動を抑えながら服を着替え始めた。

 余程の事がない限りは誰もシエナの部屋には勝手に入ってこないのだが、念の為である。


 もし、次の日にシエナより先にアルバが起きて、プレゼントが置いてある喜びを報告しようとシエナの部屋に入ってきたら言い訳のしようがなくなってしまう。

 それを防ぐ為にも、すぐに眠りたいのを堪えて着替えるしかないのであった。


(おやすみなさい)

 着替え終わったシエナは、服をクローゼットにしまい込むと、文字通りベッドに倒れるように眠りについた。

 この時、シエナの部屋にはアンリエットがまだいたのだが、シエナはその存在に気づいていない程眠かったのである。

 アンリエットは、シエナがふらふらと着替えて一気に眠ったのを確認すると、苦笑をしながらシエナを布団の中に正しく寝かせ、部屋を出ていった。




 次の日の朝、アルバは目を開けるとバッと飛び起きて自分の周囲を見渡した。

「プレゼントが置いてある!サンタさん来てくれたんだ!」

 そして自分のベッドの横に置かれている綺麗に包装された箱を見つけて、アルバが声に出して喜ぶと、エルクとアンリエットもその声に目を覚ました。


「おはよう…お、本当にサンタさん来てくれたんだ」

 エルクは良かったな、と言ってアルバの頭を撫でる。

 アルバは「うん!」と頷くと、シエナに報告をする為にプレゼントを持って部屋を出ていった。


「あ、おい!走るんじゃない」

 エルクがアルバに注意するが、すでにアルバは部屋の外で聞いていない。

 アンリエットは「あらあら」と嬉しそうに微笑む。



「シエナ姉!おはよ!サンタさん来てくれたよ!」

 アルバはシエナの部屋をノックせずに開けると、まだ寝ているシエナに向かって報告をする。

 シエナはその声に驚いて飛び起きた。


「あ…アルちゃんおはよ…。もう、レディーが寝ている部屋に勝手に入ってきちゃダメだよ」

 シエナは微笑みながらアルバに注意をして、ベッドから出ようとした。


「あれ?…見て!シエナ姉にもサンタさんからプレゼントが届いてる!」

 アルバが、シエナの部屋の机の上に置かれている綺麗に包装された箱を見つけ、箱を指差した。

 シエナは「え!?」と驚いて机の上に置かれている箱を見る。


 そこには、自分がアルバに用意していたのとは全く別物の包装用紙に包まれたプレゼントが置かれていた。


 アルバがプレゼントを開ける為に部屋を出て行くのを見送って、シエナは自分の部屋の机の上に置かれているプレゼントを眺める。

 シエナが「なんで?」と思いながらプレゼントに近づいた時、ふと部屋のドアの方を見ると、そこには笑顔のエルクとアンリエットが立っているのが見えた。


(あ…)

 シエナはすぐに理解した。

 自分が寝た後に、おそらくエルクかアンリエットのどちらかが、シエナへプレゼントを置いて行ったのだろう。


「シエナ…君は僕たちの大切な娘だよ」

 その言葉を聞いたシエナは、2人とプレゼントを交互に見た後、ポロポロと涙を溢した。

「ぐす、嬉しい…です。ありがとうございます…」

 シエナは泣きながら2人にお礼を言う。


 2人はシエナの頭をよしよしと撫でながら、守るようにしてそっとシエナに抱きついた。

 これからは自分達がシエナの両親になろう。

 シエナが困っている時には助け、シエナが悪い事をした時には叱れる存在に、そう思って微笑む。


(ああ…プレゼントだけじゃなく、お父さんもお母さんも手に入っちゃった…嬉しいな…)

 シエナは嬉し涙を流しながら、エルクとアンリエットに抱き返すのであった。



「プレゼント、開けても…良い?」

 子供らしく、お願い事をするように両親となった2人に訊ねると、2人は嬉しそうに微笑んだ。

 プレゼントは毛皮で作られたフード付きのケープであった。

 シエナの欲しい物がわからなかった為、冒険へ出かける事のあるシエナの為に2人が一生懸命考えて買ってきた物である。


 シエナは嬉しそうにケープを抱いた後、2人に見せる為に実際に着けて見せた。

「どう?似合う?」

 シエナはくるくると回りながら、子供っぽく質問をする。

 エルク達が似合うよ、と笑顔で答えると、シエナは嬉しそうにフードを被って、今日という1日を感謝するのであった。

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